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第127話 夜の王都アニエス



「あんなに沢山のオークを相手に、僕は戦えるんだろうか……皆の足を引っ張るんじゃ……」

「はっはっはっはー! ステイが相変わらず気の弱い事を言ってやがるぜ」


 冒険者ギルドの食堂の一画で、四人の冒険者がサンドイッチやサラダで軽く食事をしている。

 ステイと呼ばれた気の弱い男性は、先のAランク昇格試験で見事Aランクに昇格した気弱三番である。


「バーン、笑うのは失礼ですよ。皆が皆、あなたのように強気な性格をしている訳では無いのですから」

「でもよレイニー、ステイだってAランクなんだぜ! 槍の腕前も誰もが認めてるのに、何でこんなに毎回毎回怖気づいてんだ?」


 サラダのフォークを振り回しているバーンもステイと同じくAランクに昇格した冒険者で、その性格は何時も強気な熱血漢である。

 そのバーンを窘めていたのは、マジックアイテムを使った無詠唱魔法に定評がある、無表情な女性Aランク冒険者のレイニーだ。


「おっさんもニコニコ笑ってないで、ステイにしっかりするように言ってくれよ」

「お、おっさん……? 我輩は……」

「おっさんだろ? 何処からどう見ても」

「失礼であるぞ。我輩にもキドニーという立派な名があるというのに……全く、カイトもだが、お主も年上は敬うものであるぞ」

「はっはっはっはっは! そう言えばカイトはおっさんの事を微笑み四番って呼んでいたよな」

「そう言うお主は熱血一番であったな。わっはっはっは!」

「私は無表情二番……」



 夜の王都アニエス――――


 平常時ならば酒場や食堂を中心に、それなりの人々で賑わっているのだが、オーク軍の襲来によって、住民達は点在する避難場所で、不安な夜を肩を寄せ合い過ごしている。


「あなた……私達はどうなるのかしら……?」

「なぁに、心配するこたぁないさ。此処に居れば騎士様が守って下さる」

「本当? お父さん……」

「ああ本当だペニー。騎士様は強い御方だからな、オークなんかにゃ負けねぇよ」

「ハッハッハッハッ! そうだ、オークが来ても我々に任せておけば良い」


 支給されたパンとスープで慎ましやかな食事を済ませた人々は、目立つ明かりを消して、早めに毛布に包まり就寝するのであった。



 そして、ビショップ、シェリー、ヨシュアの三人はオークを視認出来るぎりぎりの位置を、先頭から最後尾まで、今回の黒幕であろう人物を探しながら移動している。


「それらしい奴は見当たらないな」

「そうね。それにしても多いわね。まだ最後尾にたどり着けないなんて、いったい何匹集まっているのかしら……」

「さあな……とにかく先に進もう。最後尾に黒幕が居れば良いが、もし居ないとなると探し出すのに手間が掛かりそうだ」


「うがぁ……」

 

 木から木に飛び移り、時にはテレポートで移動しながらオーク軍の最後尾に着いたビショップ、シェリー、ヨシュアの表情は落胆の色を浮かべている。


「まさかあのオークキングが黒幕では無いよな」

「ええ、ビショップ。それは考え難いわ」


 オーク軍の最後尾には輿に乗ってふんぞり返っているオークキングがいて、その両側には二匹のオークジェネラルが側近のように立っていた。


「と言う事は、やっぱり街の中に紛れ込んでいると思った方が良いだろう」

「本当、厄介な事になったわね」

「シェリー、ヨシュア、街に戻るぞ」

「ええ、その方が良さそうね」

「うがぁ」


 ビショップ達三人は、最後にオークキングを一瞥し、転移を使ってミスターPの拠点に戻って行った。



「そうか、このエリアにも怪しい人物は居なかったのだな? あと帰って来ていないのは三班と五班か……」


 ミスターPの拠点では、テーブルに王都の地図を広げたヴォルフ教官の元に、見回りに出ていたメンバーが次々に帰って来て報告をしていた。


「ヴォルフ教官」

「ああ、ビショップ。森の方はどうだった?」

「駄目だ。それらしい奴は居なかった。恐らくだが、街に紛れ込んでいるんじゃないかと思う」

「まいったな……此方も六班に分けて捜索しているんだが、未だに見つかっていない」

「だいたい、容姿も風貌も人数さえも分かっていないのだから探しようが無いと思うわよ」

「ああ、確かにな。だから、怪しげな行動をしている奴を探すしか無いんだが……」


 ヴォルフ教官は、住民等が避難場所に避難しているので、街なかをうろついている奴が居れば目立つのではないかと考えていたのだが、どうやら当てが外れたようである。


「ヴォルフ教官、避難場所に紛れ込んでいる可能性は無いか?」

「俺もその可能性を考えてみたのだが、もしそうだとすると、俺たちが調べるには限界があるぞ」


 ヴォルフ教官の言うように、王都の街の住民を一人ひとり調べるとなると、かなりの時間と労力が必要になるだろう。

 ましてや、他所から来た行商人や旅芸人等も、それなりの人数が毎日王都に入って来ているのだから、ミスターPの組織だけで短時間で調べるのは不可能に近い。


「そうか……それなら、明日の朝になったら陛下に相談してみよう」


 ミスターPの組織だけで避難場所を調べる事は不可能に近いのだが、これが各避難場所を担当にしている騎士や兵士であれば調べる事も不可能では無いだろう。


「ああ、頼むぞビショップ。俺達は俺達で引き続き街を巡回する事にしよう」

「ねえビショップ? その黒幕って本当に居るのかしら?」

「あのオークキングが特異種で、人間並みに知能が高いのなら別だが、そうで無いならオークキングを操っている黒幕が居るはずだ。例え黒幕が居なかったとしても、居ると仮定して動いた方が良いと思う。俺達にはまだ何も分かっていないのだからな」





 翌日もオーク軍は動きを見せず、森の手前で威嚇の声を上げている。

 深夜の襲撃に備えていた騎士や兵士、そして冒険者達の顔には疲労の色が伺えた。


「なあ、何故隊長は此方から攻めて行かないんだ?」

「馬鹿かお前? 奴らは森の手前に陣を張っているからだろ? 森の中に入られると俺達は圧倒的に不利になるからな。しかも、森の中に居るのはオークだけとは限らないしな。だから隊長は、草原の真ん中で迎え撃つつもりなんだろう」

「なるほど……しかし、この状況は精神的に参るな……ひょっとしてそれが奴らの狙いなのか……?」

「はんっ! オークがそこまで考えていると思うかお前ら? おおかた彼処で怖気付いて動けないだけだろう。ガッハッハッハッハ! もっと気楽に構えておかないと最後まで保たんぞ」

「は、はい! そうですね先輩。ありがとうございます」


 何時までも攻めて来ないオークに不気味な物を感じた騎士は、先輩騎士の言葉によって、少し気持ちが軽くなったようである。



「――――――――いずれお前達の前に偉大な神であるクレマン神が顕現なされるであろう。その時からお前達の信仰心はクレマン神に捧げるのだ。この暗示はお前達の胸の奥深くに封印し、次にクレマン神の恩名を耳にした時、その封印が解き放たれるであろう」


 住民達が集められた避難場所で、三つ目の種族であるソルトとシュガーが第三の目を使い、オークの襲来に不安を抱える住民や、避難場所を守る騎士や兵士に暗示を掛ける。

 暗示を掛けられた者は意識が朦朧としていたが、暫くするとソルトとシュガーに暗示を掛けられた事など無かったかのように、住民達は今までと同じように不安な胸の内を隣に居る者と話し合い、ある者は横になって眠り、騎士や兵士は避難場所の周りの警備に戻るのであった。


「この街はこれで良いだろう」

「やっと終わったし。はあ……疲れた疲れた」


 避難場所から出たソルトとシュガーは、街から出る人気の無い大通りを歩いている。


「せっかく暗示を掛けたのだから、オークに殺されないように頑張ってもらわないとね。フフフ……」

「此処の騎士や兵士、それに冒険者も練度が高いから、あれしきのオークに負ける事は無いだろう。ふむ……そうだな。あのオークキングだけは連れて行こう。何かの役には立つだろう」


 裏路地から大通りに向かっていたミスターPの組織の捜索班は、街から出ようとしている二人の姿を発見した。


「おい、奴らは見ない顔だな」

「ああ、冒険者かもしれないが一応確認しておこう」

「そうだな。――――おい、そこの二人! 少し話を……」


 ソルトは頭の鉢巻を外し、第三の目を開くとこう言った――――


「――――此処には誰も居ない。お前達は何も見ていない」




読んで頂きありがとうございました。

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