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第124話 カイトの王都滞在編〜妖精の森


 目の前の渦を巻くように歪み始めた空間は次第に大きくなり、中から数十匹の蝙蝠が飛んで来て集まり、マツリが姿を現した。


「来ましたわ♪」

「マツリちゃん!?」

「何で呼んでも無いのに来れるんだ? マツリ」


 マツリは俺の召喚魔法で呼び出す事は出来るけど、マツリの方からは来る事は出来なかった筈なのに何故だ?


「ワッハッハッハッハッハッハ!!」

「うおっ!? びっくりした!!」


 マツリが勝手に来た事で考えを巡らせていると、アイテムボックスの中からいきなりグランが出て来るもんだから心臓が止まるかと思ったぞ……


「グラン……いきなり出て来て驚かすなよな」

「ワッハッハッハッハー! 驚いたか? それは良かった」

「良くないわっ!!」

「それよりもマツリよ、成功したようだな」

「はい♪グラン様。ありがとうございますですわ」

「どういう事だ?」

「どうもこうもありませんわ。カイト様が何時まで経っても呼んで下さらないので、グラン様にお願いして此方から来られる様にして頂いたのですわ」


 マツリは両手を腰にやって胸を張りながらドヤ顔で説明を始めた。

 相変わらずたゆん、たゆんしているが、サトミが俺をジト目で見ているから目線は空に向けている。


「ねえカイト、マツリちゃんの事を忘れていたんでしょ?」

「サトミお姉様もそう思いますわよね!? ですから私はグラン様にお願いして、このお人形に新機能を付けて頂いたのですわ♪」


 マツリは炎の槍の石突部分に付いているモアイ像を俺に突き付けて、嬉しそうにたゆん……いや、嬉しそうに目を細めている。


「別に忘れていた訳ではないぞ。マツリにも向こうでの生活があるから、此方の都合だけで呼ぶのもなんだし……だがまあ、マツリの方から来られる様になったのなら、これからは何時でも来ても良いぞ」


 相変わらずサトミのジト目が突き刺さっているが、これで何とか誤魔化せるだろう……


「マツリもカツカレー食べるか?」

「さっきからスパイシーな香りで空いていなかったお腹が空いて来ましたわ」

「ちょっと待ってろ、今作るからな。グランはどうする?」

「ワッハッハッハッハ! 決まっている、頂こう」


 グランとマツリのカツカレーを作るついでに俺とサトミのお代わりも作る。すると、ミントまでお代わりを欲してきたので小皿で同じように作ってやった。

 いったい、その小さな身体の何処に入るのか甚だ疑問だ。


「美味しいですわ♪美味しいですわ♪」

「これは何時食べても美味いな。ワッハッハッハッハー!!」

「う〜っ……もうお腹いっぱい……」

「ミントちゃん食べすぎだよ。あははははは」



 カレーを食べ終わった俺とサトミとミントは眼下に広がる広大な森を見下ろしている。

 今の森にはほとんど霧は出ておらず、所々に薄っすらと残っているといった感じだ。

 もしかしたら、時間帯とか気温や湿度によって霧が出たり晴れたりするのかもしれない。


「ミント、森まで降りてみるか?」

「うん、森の中も見てみたい」

「そうか。なら、サトミは一緒に来るとして、グランとマツリはどうする?」


 グランは、時々だが忙しそうにしていて姿を見せない時もあるし、マツリは自分の世界での用事が何かしらあるかもしれないから、一応聞いてみた。


「ワシも行くぞ。ワッハッハッハッハ!カイトはドールマスターだからな。人形がいないと落ち着かないだろう? ワッハッハッハッハッハ!!」

「いや、そんな事は…………」

「落ち着かないだろう!? ワッハッハッハッハー!!」

「あ、ああ……ソウダナ……グラン……」


 何だ? グランの奴……行きたいのなら行きたいと素直に言えば良いじゃないか……


「私も行きますわ♪ 何をしに行くか分かりませんけど、カイト様の事だから面白そうですわ♪」

「いや、俺の事じゃ無くて、ミントの事なんだがな。それに面白い物なんて無いと思うぞ」


 何で、俺が絡むと面白そうって発想が出てくるんだ?


「マツリちゃんと冒険するのは久し振りだね」

「はいですわ、サトミお姉様♪ワクワクですわ♪♪」


 いや、冒険か? 森の中を歩くだけなのに冒険になるのか?


 俺はサトミの言う冒険に疑問を持ちながら森の全貌を見渡す。


「まあ、なんだ……此処は普通の森のようだし、ポケットの中の森だから期待し過ぎるのもどうかと思うぞ」

「ねえ、カイト! そんな事より早く行こう」

「そうだなミント。屋台を片付けるから少し待ってろ」



 使った皿やスプーンを新月の屋台の棚に仕舞う。

 棚の中に仕舞うと汚れた皿も勝手に綺麗になるのでとても便利だ。

 皿を仕舞い終わると、アイテムボックスに新月の屋台を片付ける。


 ん? もしかして汚れた皿は後でグランが洗うのか? 或いは下級神とか……? いや、無いな。


「カイト、何時でも良いよ」

「おう」


 立つ鳥跡を濁さずで、休憩していた周辺を片付け終わると、サトミから準備が出来たとの声が掛かった。とは言っても、皆それぞれ準備が必要だとは思えないのだが……



 俺達は、切り立った崖の上に横並びで立ち、森を見下ろす。

 こうやって下を見ると、かなりの高さがある。


「私から行くわよ」


 そう言って妖精であるミントが崖の上から飛び立った。


「ミントちゃんは普通に飛べるから良いよね。じゃあ次は私が行くね」


 サトミがそう言って全身を葉っぱに変えて、風に舞いながら森に向かって行った。


「サトミ、お前も大概だがな……」

「私も行きますわ! サトミお姉様、待って下さいですわ〜」


 マツリはいつもの様に数十匹の蝙蝠になってサトミの後を追って行った。


「グランはどうする? 俺が持っててやろうか?」

「森に思いっきり投げてくれ。自由落下だ。ワッハッハッハッハッハ!!」

「そ、そうか……なら行くぞ――――――ふんっ!!」


 グランにどうするか聞いてみると、投げてくれと言いながら俺に手を伸ばして来たので、遠慮なくぶん投げてやった。


「うおぉぉぉぉぉおおおお――――――!! ワッハッハッハッハッハァァァァ」


 案外楽しそうだな……あれか? スカイダイビング気分なのか?


 そして俺は、新月のブーツに魔力を送り、空中を森に向かって駆け降りて行った。

 途中、グランは地面に“ぽすん”と落ちて、何事も無かったかの様に笑っていた。

 余程楽しかったのだろう。


「カイト様が空を走っていましたわ!!」

「カイトはどんどん人間離れしていくよね。あははははは」

「おい、サトミ! 言っとくがな、このブーツがあるからだぞ!!」


 森の中からは、モンスターでは無い、普通の動物達の気配を感じ取る事が出来た。

 耳をすませば、鳥の鳴き声も聞こえて来る。


「で、どうだミント?」

「そうね、森の中に入ってみないと分からないわ」


 ミントの言う事も尤もなので、俺達は森の中に入って行った。

 森の中は、清涼な空気に土や木の匂いが混ざり合い、日々の疲れた心と体が癒やされるようだ。


「なかなか良い所じゃない?」

「気に入ったか、ミント?」

「欲を言えば陽当りの良い開けた場所も欲しいわね」


 確かに鬱蒼と繁った森の中では、木漏れ日はあるが陽当りが良いとは言えない。

 尤も、身体の小さな妖精だから木漏れ日だけでも十分な気もしないでもないが、思いっきり飛び回れる場所もあった方が良いのは確かだろう。


「それなら木を切って広場でも作るか?」

「良いの?」

「ああ、グランも居るし、それくらい直ぐに出来るしな」

「ワッハッハッハッハッハ! おう、ワシに任せろ」


 そう言ってグランは口を大きく開けて斧を取り出し、木を切り始めた。

 俺も新月の刀で木を切り、そう言えば前にもグランと木を切った事があったなと思い出しながら、切った木を邪魔にならない様にアイテムボックスに入れていった。


「凄いですわっ! あっと言う間に広場が出来ましたわ!」


 ある程度の木を切って広場が出来ると、マツリの言葉に気を良くしたグランが口の中からミニダラボッチを出した。


「ワッハッハッハッハッハ! どうだ? 凄いだろう? 後はこいつにやってもらおう」


 ミニダラボッチは、切り株を引き抜いて地面を整えながら広場をぐるぐる回っている。

 地面が平らにならされた後もぐるぐると回っているものだから、何をしているのかと首を傾げて見ていると、ミニダラボッチが歩いた後にはやがて、青々とした草が生え、小さな色とりどりの花が咲き始めた。


「カイト、気に入ったわ。此処に妖精郷を作るわね」



 俺のマップのコマンドに“妖精の森”が追加された瞬間だった。


 


読んで頂きありがとうございました。

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