第123話 カイトの王都滞在編〜妖精郷!?
妖精郷と聞いて目をキラキラと輝かせているミント……とサトミ。
「サトミ、お前まで何だ?そのキラキラとした目は……」
「だってカイト!妖精郷だよ!妖精郷!」
あっ、これは大聖堂の時と同じだ。
「妖精郷と言ったが、今はまだ何も無いただの森だぞ。ミントがそこを気に入ったら花の種を蒔いて、妖精が増えたら妖精郷になるんだからな。それでも行ってみたいのか?」
「うん、行ってみたい!」
「そうか、それならそうだな、明日の朝食後にでも行ってみるか?」
「「ヤッター!!」」
朝食の後、サトミとミントを連れて滝の森を抜けた先にある湿地帯にまでやって来た。
「此処から見える山脈の向こう側に広大な森があるんだが、この湿地帯はこれに乗って行くぞ……ゴーレム変形!ホバークラフト!」
俺が新月の腕輪に魔力を送り、ホバークラフトのイメージを思い浮かべると、周囲から粒子が集まって来て黒いホバークラフトが目の前に現れた。
「あっ!ホバーなんとかだよね?私、これに乗るのは初めてだよ」
「ホバークラフトな」
ホバークラフトは一般的では無いから乗った事が無い人の方が圧倒的に多いと思う。
「うわっ!速い速い!あははははは!」
「いやぁぁぁぁ!ちょっ、ちょっとカイト!速すぎ!助けてぇぇぇぇ」
湿地帯の上を滑るように走るホバークラフトにサトミは上機嫌ではしゃいでいる。
テーマパークのアトラクションのノリだな。
一方、ミントはサトミの服の襟を掴んで風に身体をなびかせている。
手を離したら後ろに飛んで行きそうだ。
俺は飛ばされてしまいそうなミントを手の中に入れて、申し訳程度に付いているウインドシールドの内側に座らせた。
「あ、ありがとうカイト。此処なら大丈夫」
「ああ、だが飛ばされたとしてもお前自身飛べるんだから、それ程怖がらなくても良いんじゃないか?」
「飛べるとか関係なしに、この速さで振り落とされたらと思うと凄く怖いんだよ!!」
そう言えば、走っている車のフロントガラスに必死にしがみついていた虫を何度か見たことがあったが、あれと同じ事なのかな?
「フッ……なるほどな……」
「な、何がおかしいのよ!?」
「いや、なんでもない。気にするな」
虫と一緒にされたと分かると、面倒くさい事になるかもしれないから言わない方が良いだろう。
それに車のフロントガラスって言ってもサトミなら兎も角、ミントには分からないだろうしな。
「気にするなって言われても……まあ良いわ。それにあのままだったら後ろで回っている物に巻き込まれていただろうから助かったわ」
「後ろ?」
ホバークラフトの後部で二基のプロペラが勢い良く回っているのを、ミントは身震いしながら見ている。
確かに、あそこで手を離していたらプロペラに吸い込まれてミンチにになっていたかもしれないな。
まあ、その前に俺がキャッチしていただろうけど、それはそれとして安全の為にはカバーを付けた方が良いだろう。
カバーがあれば、そこに張り付くだけでミンチになる事は無いだろうからな。
「ねえ、カイト。この湿地帯にも魚が居るみたいだね」
サトミが水面に向かって指を指している所を見ると、確かに何かが泳いでいた。
良く見ると、他にも小さな魚や虫等も居て、それ等を餌にする鳥も少なからず居るようだ。
「そう言えば、森の小動物もそうだが、漁村で捕れる魚やこの湿地帯の生き物は何処から来ているんだ?」
「えっ?海に魚が居るのは普通じゃない?森の動物もそうだよね?」
「普通ならそうなんだが、ポケットの世界はまだ出来て間も無いんだ」
「ああ、そうゆう事ね。細かい事は気にしない方が良いと思うよ」
まあ確かに今更な気がするよな……
レクスかダイダラボッチか知らないけど、生き物込みで造ったと思った方が良いか……
「うん、サトミが言う事も尤もだな。そろそろ湿地帯が終わって草原になるけど、このまま山の麓まで行くぞ」
湿地帯が終わり、草原の上も快調に走るホバークラフトに乗って、山の麓に辿り着いた。
「楽しかったねカイト。帰りも乗るんでしょ?」
「ああ、勿論ホバークラフトに乗って帰るぞ。ミントも良いよな?」
「ええ、最初は死ぬかと思ったけど、あそこだったら乗り心地抜群だったわ」
ウインドシールドの内側なら風も来ないし前もよく見えるから、ミントもそれなりに楽しかったようだ。
それからは、木々の密集した山を駆け上り、深い谷川を飛び越え、更に高い山を駆け上って行った。
「ゴメン、カイト」
「いや、気にするな」
「うん、ありがとう」
高い山の上には万年雪が積もっていて、寒さに弱いサトミの動きが悪くなっていたので俺がおぶって走っている。とは言っても、その辺の冒険者が見たら“えっ?どこが?”と言いたくなるだろう。
俺の場合は新月のコートで何時も快適温度で過ごせているけど、サトミは基本的に薄着だからな。
新月のコートをサトミが着れるのならば問題は無かったのだが、新月シリーズはこの世界の神、細かく言えばレクス達のグループが転生させた者にしか使える事が出来ないから仕方が無い。
余談だが、レクス達とは別のグループが転生させたビショップ達の流星シリーズを、俺が使う事は出来ないそうだ。
「それにしても前から思っていたんだけど、カイトって何?」
「はぁ? 何って何がだ?」
「いえね、サトミがドリアードなのは知っていたけど、カイトって見た目は人間だけど中身は何て言うか……その……」
「あ? 俺は見た目も中身も人間だぞ?」
「それ、絶対に違うよね!?」
レクスが造った身体だからな……分類的には人間の筈なんだけど……人造人間? いや神造人間……? う~ん、でもどちらも人間って付くから人間だよな。
「まあ、取り敢えず人間だ」
「ええっ!? 何それ? 取り敢えずって何?」
「ミントちゃん、カイトの中身はおじさんだよ」
「おい、こらサトミ!! 誰がおじさんだ!?」
俺はまだ十五歳なんだが……設定上は……
「ふ〜ん、おじさんね……」
「俺は十五歳だぞ。ミント」
「ふ〜ん……まあ良いわ。別に興味無いから」
「なら聞くなよ!!」
万年雪の山を越えて、霧の立ち込める広大な森を眼下に見下ろす切り立った崖の上に着くと、そこで休憩をする事になり、地面が平らな場所を探して新月の屋台をアイテムボックスから出した。
「カイト、私カレーが食べたいな」
「オーケー、カレーだな。それじゃあカツカレーにしよう」
俺は、アイテムボックスからオーク肉を出して、手頃な大きさにカットして筋切りをした肉に塩コショウで味付けをして、小麦粉、卵、パン粉を付けて油で揚げる。
アイテムボックスの中には、既に炊いたご飯と、カレーが鍋ごと入っている。
それらは取り出すだけで良いので、カツを揚げている間に農村産の野菜で簡単なサラダを作り、皆で作ったらっきょうも出しておく。
「はむっ……うんうん美味しいね」
「この前私は食べなかったけど、凄く美味しい!」
「芋虫はカレーなんか食べないからな」
「うん、そうだね。あの時は凄い匂いのする物を皆んなが美味しそうに食べているのを見て信じられなかったのだけれど……芋虫の時と今では匂いも味も感じ方が違うんだね」
ミントのカツカレーは、小さくカットした肉を叩いて薄くして、パン粉も細かくしたカツを別に作って、小皿に盛り付けてある。
ミントの大きさからすると、その小皿でも大きめサイズなのだが、ご飯粒やオークカツ、それとじゃがいもや人参等の野菜を爪楊枝で刺して器用に食べている。
「今では葉っぱなんか食べたく無いわ」
「えっ!? ミントちゃん? 葉っぱ美味しいよ?」
サトミが指先から葉っぱ付の蔓を伸ばしてミントの顔の前で揺らしているが……
「私はもう葉っぱは卒業したのよ!」
その葉っぱをミントは手で払い除けた。
「が~ん……ミントちゃん……」
「サトミ、子供は成長するもんだ。そこは成長を喜ぶところだぞ」
「あっ! そっか! ミントちゃん大きくなったんだね」
「いや小さいぞ」
「ちょっとカイト! そのツッコミいる!?」
妖精だから小さいのは当たり前だが、俺を子供扱いした意趣返しだ。
「あっ!カイト」
「ああサトミ、分かってる。あれは……」
俺達がカツカレーを食べながら喋っていると、目の前で空間が渦を巻くように歪み始めた。
読んで頂きありがとうございました。