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第122話 カイトの王都滞在編〜妖精ミント

誤字報告ありがとうございました!



「何、何!?どうしたのサトミちゃん?」

「えっ?えっ?何これ?」


 サトミに飛び込んで来た物体を俺はしっかりと見た。

 ミウラさんは分からなかった様だが、レクス謹製の身体だからなのか動体視力も並外れて優れているからだ。


「妖精……?なのか……?」

「えっ!?カイトさん、妖精……ですか?」

「ああ、ミウラさん。実際には初めて見たけど、多分あれは妖精だと思うぞ」

「うん、カイト、私もそう思うよ。見て見て、凄くかわいいよ!」


 サトミが差し出した手の平の上には、ショートカットの緑色の髪、大きくて丸い黒い瞳、小さくて形の良い鼻と唇をした子供っぽい丸顔の小さな、小さな女の子がちょこんと座っている。

 そして、その背中にはトンボよりも少し幅の広い薄緑の羽があった。

 あと、素っ裸だ。


「カイトさんは見たら駄目です!サトミちゃん、何か着せて上げて!」

「えっ?アマンダさん?」


 アマンダさんが、後ろから手で俺に目隠しをしたのだが、俺の背中に当たっているのは何だ?


「カイトさん、女の子の裸をジロジロ見たら駄目ですよ」


 今更だと思うのだが、此処は逆らわない方が良いだろう。

 決して背中の柔らかい物を堪能している訳では無い。


「う~んと、着せるって言っても……じゃあ、取り敢えずこれで……」


 俺には何も見えないから、サトミが何をしているのか分からないけど、何かを妖精に着せているのだろう。

 その間、背中に何かが当たっているが気にしたら負けだ。


 色即是空……色即是空……色即是空……



「はいっ、もう良いですよカイトさん」


 そう言ってアマンダさんが俺の目から手を離した。

 そして、目を開けた俺の目に前に居るのはサトミで、その手の平の上に立っているのは間違いなく妖精で、サトミが作ったのであろう、葉っぱと細い蔓で器用に作ってあるワンピースを着ていた。


「で、その妖精はサトミの知り合いか?」

「バカじゃない?私の事を覚えてないの?」

「はぁ、俺にはお前の様な妖精の知り合いなんかいないぞ。それに人にバカって言った方がバカなんですよ〜だ!バ〜カ、バ〜カ」

「子供か!?」

「残念、私は大人です」

「声を低くして言ってもやっぱり子供じゃない!カイトのバカッ!バカイト、バカイト!バッカイト!!」

「サトミ……」


 何故か調子を狂わされた俺はサトミを呼ぶと、これもまた何故かサトミとアマンダさんとミウラさんが顔を真っ赤にして、口とお腹を押さえて震えている。


「どうしたんだお前等?何処か具合でも悪いのか?」

「ぷっ……ぷはははははははははは」

「くっ、あはははは!サトミちゃん、あっはははは!笑ったら……あは、あはっ……悪いですよ!くっくくく」

「あははははははは!アマンダさんもあはははははは……笑って……あはははは……」


 何だ?サトミも、アマンダさんも、ミウラさんも大笑いしているぞ?


「あははははは!カイト、あははははは……そ、その子はミントちゃんだよぷっ、ぷはははははははははは!」

「カ、カイトさん……あははははは……良くその子と同じレベルで……口喧嘩がぁははははは……出来ますね……く、苦しい、お腹が苦しい……あははははは!」

「アマンダさん!?」

「カ……カイトさんが……ぷっ……あのカイトさんが……あははははは、あははははは!」

「ミウラさん?」


 俺は大笑いをしている三人を前に呆気に取られているのだが、妖精の方もキョトンとして、サトミと、アマンダさんと、ミウラさんを見ていた。


 俺と妖精はお互いを見て、同時に首を傾げる。


「お、お前ミントなのか?」

「そうよ。どうして分からなかったのかな?」

「いや、だってお前……あれだ、芋虫だったろ?」

「そうだけど、何時までも芋虫な訳が無いじゃん」

「お、おう……そうか……」

「分かれば宜しい!ふんすっ!」

「……」


 三人はまだ笑っている……しかも、地面に四つん這いになって、立てない程に笑っている。


「ミント、あいつらは放っておいて中に入るか?」

「そうね。何時まで笑っているのかしら……」


 俺とミントは、サトミ達を置いて玄関に向かった。

 すると、玄関の扉が開いてララさんが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、カイト様……あの、サトミ様達はいったい……?」


「ああ、ただいま、ララさん。あの三人は気にしないでください。そのうちに収まるでしょう」

「畏まりました。カイト様がそう仰るのであれば放っておきましょう」





 新月の館のリビングに全員が揃ったところで、改めてミントの紹介をしたのだが、転生組は魔法がある異世界だから妖精が居ても“ああやっぱり居るんだな”程度にしか思わず、この世界の人達は見た事は無いけど、妖精の存在自体は知っていたらしく、それ程の騒ぎにはならなかった。

 珍しいと言えば珍しいのだけど、子供の頃に親に叱られる度に“怖い妖精に連れて行ってもらいますよ”と言うのが、この世界の親が子を叱る時の決まり文句だったそうで、幼い時に植え付けられた、妖精は怖い物、恐ろしい物といったイメージのお陰で、今でもその様に思っている大人も少なくは無いそうだ。


「実は私も妖精は怖い物だと思っていました」

「マールさんもですか?私も今の今までそう思っていましたよ」

「えっ?ミウラちゃん……あなた冒険者ギルドの職員なのに?」


 アマンダさんが以外そうにミウラさんを見ているが、俺も正直同じ気持ちだ。

 数多くのモンスターを扱う冒険者ギルドの職員がそんな事で良いのだろうか……


「だってアマンダさん、冒険者ギルドでは妖精なんか取り扱ってませんからね」


 なるほど……それならば仕方が無いのか?


「ねえミントちゃん、この世界には他にも妖精は居るのかな?」

「生まれて間もない私がそんな事知ってる訳が無いじゃん」


 サトミがナイスな質問をするが、ミントの答えはにべも無い。


「生まれて間もないにしては流暢に喋るんだな」


 俺の言葉にミシェル神父や、ファビアン神父もうんうんと肯いている。


「だって私は妖精だからね。エッヘン!」

「うん、なんかもうどうでも良くなってきた」

「ちょっとカイト!それってどう言う意味よ!?バカじゃない?」

「はあ?またバカって言ったな?」

「はいはい、喧嘩はおしまい。本当に仲が良いわね、この二人は」

「「はあ!?誰がこんな奴とっ!」」

「ほら、息がピッタリじゃない。うふふ」


 アマンダさんの仲裁で俺とミントの口喧嘩は止まったのだが、何故なんだろう? ついつい、ミントのペースに引き摺られてしまう。


「ムムム……まあ良いわ。話を戻すわよ。さっきのサトミの質問の答えの続きだけど、私が生まれたのは此処の森であって外の世界じゃないのよね。だから、この世界に私の他に妖精がいるのかどうかはわからないわ」

「ふ〜ん、そうなんだ。だとしたら、ミントちゃんはカイトのポケット森林の妖精って事になるのかな?」

「うん、そういう事になるのかな……ちょっと待って!って事は私が一番最初に生まれたから私が妖精女王!?」


 ミントは妖精女王という響きに満更では無いらしく、身体をくねくねさせながら悦に浸っている。


 ―――――――いや!ちょっと待てよ!?


「今、一番最初に生まれたとか言ったな?」

「うん?言ったけど、それがどうしたのバカイト」

「バカ……いや、それよりもだ、もしかしてだが、これからも妖精が生まれて来るのか?」


 こんなのが何匹も生まれてきたら新月の館の周りが煩くなるぞ……


「サトミが育てた花が種を作って、又新しい花が咲いたらね」

「えっ!それだったら私が育てた花からミントが生まれたんだから、私が妖精女王じゃない?」

「はっ!?そ……そうなるわね……ガックシだわ……」


 サトミが妖精女王になると聞いて嬉しそうにしている傍ら、ミントは肩を落として非常に残念がっている。


「サトミ、嬉しそうにしているのになんだが、今すぐ花を焼きに行くぞ」

「えっ!?駄目駄目駄目駄目、絶対に駄目ぇぇぇぇ!!」

「そうだよカイト、花を焼いたら妖精が生まれなくなっちゃうよ?」

「ああ、こんなのがそこいら中に飛び回っていると厄介な事この上ないからな」

「カイト、お願いだから焼くのだけは止めて……」


 ミントが涙目で訴えているが、一つの花から種が複数出来るとしたら、妖精がねずみ算式に増えてもおかしくはないだろう。

 此処では無い他の場所で増えるなら兎も角……ん?


「ミント、湿地帯の先の山脈の向こう側に広大な手付かずの森があるんだが、その森を妖精郷にするか?」

「妖精郷!!良いの……?」

「ああ、それなりに此処とは離れているからな」

「する、する!妖精郷にする!!」



読んで頂きありがとうございます。

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