第120話 カイトの王都滞在編〜王都の冒険者の実力
「クックックックックックッ……あの二人は戦争でも始めるつもりですかねえ」
クレマンは水晶球のようなオーブを覗き込みながら何やらご満悦の様である。
そのオーブに映し出された映像は、ソルトとシュガーが配下に治めたオーク達であった。
オークの集落では、部隊を編成したオーク達が戦闘訓練や、武器の手入れを行い、また別の部隊ではゴブリンの集落を襲撃して、溜め込んでいた武器や食料を奪い、そして上位種が居たら捕縛して連れ帰り、更にはコボルトの集落でも同じように襲撃を繰り返していたのであった。
そして、オーガの集落にも襲撃をしたオーク達であったのだが、オーガの集落では手痛いしっぺ返しを受けて這々の体で退散するのであった。
オークとオーガでは格が違いすぎたと言ったところなのであろう。
或いはソルトかシュガーがその場に居たら、また違った結果になったに違いない。
その頃、ソルトとシュガーは数匹のホーンウルフを第三の目で従えて王都に向かっていたのであった。
「クレマン、此処で何をしているんだい?」
「ベランジュール様……? クックックッ」
「その笑い……やはり何か企んでいるみたいだね?」
ベランジュールも馬鹿ではない。
以前から、クレマンが一人で何やら企んでいるという事は薄々気が付いていたのであるが、バフォメットとベルゼブブの気配に気付き、それが確信となって密かに探っていたのであった。
そして今度は三つ目の種族を使い、今居る世界に送り出した事までベランジュールは把握しているのである。
「どうやら、ここいらが潮時ということですかねえ……クックックックックックッ!―――――――フンッ!」
ピキーン!パキッ、パキパキパキ――――
「なっ!?何をするんだい?ク、クレマン!此処から出しなさい!」
クレマンは、見つかったのなら仕方が無いと、ベランジュールが油断している今の内に、速攻で結界内に閉じ込めたのである。
元々この世界に来た時に、ベランジュールが帰るとか、他の世界に行くとか言い出す前に、遅かれ早かれ対ベランジュール用に用意した結界に閉じ込めるつもりでいたので、クレマンからしてみれば何ら計画に支障は無かったのである。
「クッ……こんな結界くらい……!?壊れない……?」
「クックックックックックッ……まだ駆け出しの運命神の貴方には、その結界を壊す事は出来ませんよ。貴方を閉じ込める為だけに特別に設えた私の最高傑作の一つですからねえ。クックックッ……」
「クレマン、あんたは何をしようとしているんだい?」
「クックックッ……良いでしょう。私と貴方の仲ですからねえ、教えてあげますよ。クックックッ……創造神の居ないこの世界を私の物にするのですよ」
「馬鹿かい!?そんな事が出来る筈が無いじゃないかい。例え創造神が居なくても他の神々が居るんだから、下級神のあんたに……」
「黙らっしゃい!!人間どもの信仰を私にだけ集めればこの世界は私の物になり、そうなれば必然的に私は上級神として君臨出来るのです。クックックッ……」
「そんな簡単に……」
ベランジュールはそんな事が簡単に出来る訳が無いと思っていたのだが、他者を洗脳出来る三つ目の種族が既に送り込まれている事を思い出し、もしかしたらクレマンの野望が現実の物にになるのではと思い唇を噛むのであった。
「今日はまあまあの収穫だったな!」
「ああ、今夜は呑むぞ!お前らも付き合えよ」
「勿論だとも、リーダー。わしが呑まない訳がないじゃろが!ガハハハハ」
三人の冒険者パーティが森から出て、王都へ続く広大な草原を軽やかな足取りで歩いている。
話している内容から察するに、実力のあるパーティなのだろう。その証拠に肩からマジックバッグを掛けている者も見受けられる。
マジックバッグと言えば中々に高価なもので、低ランクの冒険者や、割と高ランクの冒険者でも、稼ぐ度に酒や女に使っているような計画性の無い者には手にする事が難しい代物である。
そのような理由からこの三人組の冒険者はそれなりに腕が立ち、計画的に採取なり討伐なりを行っているのだろう。
そして、今回の仕事では酒が呑めるくらいの十分な収穫があったのだろう事は簡単に想像出来るのであった。
「おーい!お前ら、そろそろ日が暮れるぞ!適当な所で切り上げろよ!」
「――――――!?あっ、はいっ!分かりました。ありがとうございますっ!」
「えっ?もうそんな時間なの?」
三人組の冒険者パーティが王都に向けて草原を歩いていると、若い男女の冒険者が薬草採取をしているところに行き当たったので、日が暮れる前に門の中に入れるように声をかけてやる。
薬草採取の仕事をしていると、ずっと下ばかりを見て移動しているので時間の経過が分かりにくい。
ましてや、そこそこ薬草がある場所だと採取に熱中してしまい、それこそ時間が経つのを忘れて……といったことも珍しくは無いのである。
王都前の広大な草原、それも森を抜けて直ぐの辺りであると、王都の門まではそれなりの距離がある為、歩いて帰ろうとしたならば門に辿り着くまでに辺りは暗くなっているだろう。
その為、そろそろ日が暮れると聞いた若い冒険者二人は急いで帰り支度を始めるのであった。
グルルルルルルルルル―――――
ガウッ!ガウッガウッ!!
若い二人の冒険者が三人組の冒険者パーティに駆け足で追い付いた時である。
五匹のホーンウルフが左右と後方から扇状に襲い掛かって来たのであった。
「何っ!?ホーンウルフだと!?」
「おいっ!お前ら、走れ!!」
「はっ、はいっ!!お気を付けて」
「ガハハハハ!追加の酒が来たぞ。わしは左を貰うからな」
「それなら俺は右だ!」
「俺が正面だな。行くぞ!!」
三人組の冒険者パーティのリーダーらしき男が、ロングソードを抜きながら若い二人の冒険者に走って逃げるように言うと、他の二人も武器を手に取りホーンウルフに向かって行くのであった。
「ふんぬぁぁぁぁぁああああ!!」
左から襲い来るホーンウルフを迎え撃つのは、バトルアックスを頭上で振り回す髭もじゃのドワーフだ。
「ギャイン」
「ガハハハハ!いっちょ上がりぃぃぃ」
振り回したバトルアックスの遠心力とドワーフの膂力が合わさって、飛び掛かって来たホーンウルフの首を一撃で叩き斬ったのであった。
「フンッ!もう一発だ!」
「ギャン!?グ……グル……」
右側から来たホーンウルフの相手は弓使いのエルフで、金髪のロングヘアを揺らしながら素早く弓に矢をつがえ、自身の頭上よりも高く飛び掛かって来たホーンウルフの胸元に走りながら矢を射った直後、淀みの無い所作で二本目の矢をつがいながら後ろ向きに飛んで、ホーンウルフの着地地点を避けると同時に放った矢が眉間に突き刺さる。
「うおりゃぁぁぁぁぁあああ!!」
激昂と共にホーンウルフの首元にロングソードを突き刺したのは、正面から来るホーンウルフに向かって走って行った人間のパーティリーダーである。
「ふんっ!!」
突き刺したロングソードを抜きざまに後ろから襲ってきたホーンウルフに斬りつける。
それと同時にホーンウルフの背中に二本の矢が間髪を入れずに突き刺さり、ホーンウルフは息絶えた。
そしてもう一匹のホーンウルフは、ドワーフのバトルアックスによって倒れたのであった。
「ふ~ん、まあまあと言ったところだし」
「ふむ、そうだな。もしあれが平均だとすれば、もっとオークの数を増やした方が良さそうだ。所詮はオークだからな」
「なら、さっさとやるし」
「まあ、そう慌てるな。時間はたっぷりとあるからな。私達はこのまま街に入って適当に安い武器でも見繕ってやろう」
ソルトとシュガーは森の出口付近の木の枝に座り、洗脳して連れて来たホーンウルフと冒険者の戦いを見ていたのであった。
その結果、ソルトはオークの軍団の数を増やす事に決めたようである。
それ程強くは無いモンスターでも圧倒的な数が揃えばそれは力となり、勝てないまでも相手を疲弊させる事なら問題無く出来るだろう。
即ち、ソルトとシュガーの目的は人間達の心と身体を疲弊させる事で殺す事では無いのだから、オーク軍は勝つ必要は無いのである。
それこそ、侵攻と撤退を何日も何日も繰り返すだけで目的は達せられるであろう。
ホーンウルフと戦った冒険者から暫く遅れて王都の正門に着いたソルトとシュガーは、門番に第三の目で暗示を掛け、何喰わぬ顔ですんなりと王都の町並みに溶け込んでいったのである。
「おいっ、シュガー、何をやっている?」
「ソルト……串焼き肉が美味しそうだし……」
「はぁ、全く……一本だけだぞ」
「ヘイ!まいどあり!」
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