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第12話 カイト、商業の街ルトベルクに行く③


「ホイル、そっちに行ったぞ!」


 バランさんが剣のグリップで盗賊を気絶させていた。


「行きますよっと!」

 ホイルさんは両手斧の腹でぶん殴っている。

「これで最後かしらねっ!」


 ピックさんは弓で脚を射抜いている。

 連携も取れていて、危なげなく戦っていた。


「お疲れ様です。バランさん」

「ああ、カイト、お疲れ様。っていうか、殆どお前らが倒したんだがな」



 盗賊を集めて竜の咆哮に監視を頼んだ後で、レクス達を連れて馬車まで歩いて行く。


「ところで、お前はさっきグランがエルって呼んでいたな」

「私はエルロフィーネ、武闘神だぜ。人形の時はエル。よろしくな、カイト」

「そうか、よろしく。エル」

「楽しくなりそうだ。神界は暇で退屈だぜ」


 もしかして、レクスとグランも暇潰しで来てるのか?


「ローランドさん、終わりました。今から結界を解きますね」

「思ったより早かったですね。カイト君」

「皆が頑張ってくれましたから。ローランドさん、盗賊を縛るのを手伝って貰えますか?」

「良いですよ。皆でやれば早く終わりますからね」

「グラン来てくれ、頼みがある」




 戦いよりも、ロープで盗賊を縛る方に時間が掛かった。

 盗賊は、全部で56人、これだけいると臭うな。


「レクス、こいつ等の匂い、何とかならないか?」 

「出来るよ、カイトくん!…クリーン」

「何だ?服が綺麗になっているぞ」

「お前、顔がツヤツヤだぞ。ギャハハハ」

「そう言うお前こそ何だ、髪の毛がサラサラじゃないか!」

「「「「「落ち着かねぇー」」」」」


 うん、これで臭く無くなった。


「カイト君!今のは何?こいつ等綺麗になってるわよ?」


 ピックさんが凄い勢いで迫ってくる。怖いんですけど……


「レクス」

「わかったよ、カイトくん…クリーン!」 


 竜の咆哮のメンバーと商人さんのメンバーに、レクスがクリーンの魔法をかけた。

 うん?俺にもかけたみたいだ。


 ピックさんは恍惚の表情を浮かべていて、とても機嫌が良さそうだ。


「レクス、後はこいつ等の怪我を治すぞ」

「わかったよ、カイトくん!」

「ちょっと、何でこいつ等の怪我を治すのよ?」

「何でって、歩けない奴を運ぶのは面倒くさいですからね」

「あっ、確かにそれもそうね」


 ピックさんも納得してくれたので、俺とレクスで盗賊の怪我を治した。


「ワッハッハッーカイトよ、出来たぞ。こんなもんでどうだ?」


 グランに頼んで作って貰ったのは、所謂、護送車だ。空間拡張と不壊と清潔を付与したトイレ付きの箱型の馬車だ。


「カイト、聞いてくれ」

「どうしたのですか、バランさん?」

「こいつ等のアジトに捕らえられている人が居るらしい。見張りは2人だそうだ」


 俺に聞かれても……


「今は護衛の途中ですからね。街の衛兵に伝えるのが良いのでは?」

「そうだな。本来の仕事が優先だ」

「ちょっと待って下さい」

「何でしょうか、ローランドさん?」

「その捕らえられた人は今も不安と絶望の中にいるでしょう。かつての私のように……」


 そうか、オークの集落に攫われた時の事を思い出して……


「ローランドさん……」

「だからカイト君、行程が遅れても構いませんから助けて上げて欲しいのです」

「ローランドさんは良い人ですね。他の商人さんもそれで良いのですか?」

「勿論です。私達からもお願いします。追加の報酬も出しますから」


 俺は、この人達の言葉に心を打たれた。命の軽い世界、人権が尊重されない世界で、自分達のお金を出してまで見も知らぬ他人の為に、頭を下られる優しさに。


「わかりました。助けに行きましょう。それと追加の報酬はいりませんから」

「カイトよ、こっちは準備が出来たぞ」

「そうか、グランありがとう。バランさん、盗賊達をあの馬車に入れて鍵を掛けておきましょう」

「それは良いが、全員は入らないだろう、残りはどうするんだ?」

「大丈夫です。全員入りますよ」


 俺達は盗賊達を立たせ全員馬車に入れて鍵を掛けた。


「驚いたわ、中はどうなっているのかしら」

「もう僕はカイト君のする事は気にしない事にしました」

「ああ、その通りだ。あんな規格外のやる事に、いちいち考えてたら飯も食えん」


 秘技!聞こえないふり。


「俺とレクスとダイフクで行ってきますから、竜の咆哮の皆さんは商人さん達の護衛をお願いします。グラン、エル、ここを頼むぞ」


 盗賊から聞いた方向に走って行く。


「確かアジトは洞窟だと言っていたな。コンセ、洞窟を見つけたら教えてくれ」


(マスター、マップを展開します。この先の森を抜けた所に洞窟が有ります。もう少し左に進路を修正してください)


 洞窟が見えた。気配を消して観察すると、見張りは1人みたいだ。


 2人居るらしいから、もう1人は洞窟の中だろう。


 10mの距離を一気に詰めて首に手刀を打ち込み気絶させた。


「レクス良いぞ」


 レクスがトコトコ歩いてくる。


「カイトくん!私が先に行くね!」


 レクスが薄く発光して辺りを照らしながら宙に浮かび、音もなく前に進んで行く。

 俺も足音を消して洞窟の奥までレクスのあとに続くと、誰かの息を飲む音が、続いて野太い悲鳴が聞こえた。


「ヒッ!?うわーっ」

「チッ、見つかったか」


 新月の刀に手を掛けて前に出ると、

盗賊が白目をむいて気絶していた。


「レクス、何をやったんだ?」

「私は何もしてないよ、カイトくん」

「そうなのか?まあ、良い。捕らえられた人を探すぞ。先に行ってくれ」


 俺は盗賊を縛ってから、レクスのあとを追う。すると、複数の悲鳴が聞こえて来た。


「レクス、どうした!?」


 悲鳴が聞こえて来た方を見ると男2人と、女3人が檻の中に入れられてギリギリまで後退り青い顔をして震えている。


 仕立ての良い高価そうなドレスを着た、30歳前後の金髪を後ろで纏めた、青い目の美人と、灰色の髪をショートカットにした、緑色の目の12歳くらいの女の子に、背中まで有る金髪で青い目の10歳くらいの女の子。


 女の子2人は目に涙が浮かんでいる。


 男性の方は初老でオールバックにした濃い茶色の髪、茶色の目で、髭は毎日剃っているのだろう、今は無精髭で、執事服を着ている。

 あと1人は茶色の髪で茶色の目40代で、見るからに御者だとわかるが、この人は強いぞ、元冒険者みたいだ。



 貴族だな。面倒な事にならないように接しないとな。

 後はローランドさんに、おまかせするのが良いだろう。



「カイトくん、さっきの盗賊もだけど、この人達も私を見ると悲鳴を上げるの。凄く失礼だよ、こんなに可愛い人形なのに!」


 俺は、あの夜の事を思い出して理解した。

 今は更に発光しているから、そりゃあ怖いだろうな。


「大丈夫ですよ。これは俺の人形でレクスと言います。助けに来ましたよ」




 盗賊の貯めていたお金や武器などをアイテムボックスに入れて洞窟から出る。

 外で気絶している男もロープで縛り、担いで来た男のロープと繋げた。


 少し離れた場所に馬車と木に繋がれた馬が2頭居る。


「あの馬車はあなた方の馬車ですか?」

「はい、私共の馬車で御座います。私は、アングラード伯爵家に執事としてお仕えしておりますマルセルと申します。此方の御方は伯爵夫人のアリソン様で御座います」

「この度は私達を助けて頂き有り難うございます。盗賊は、私達を捕らえて身代金を要求するつもりだったようです。貴方のお名前をお聞きしても宜しいですか?」

「これは、申し遅れまして大変失礼致しました。私はCランク冒険者のカイトと申します。慣れない敬語で大変お聞き苦しいかと存じますが、ご容赦頂ければ幸いです」

「それではカイト君、敬語はやめて普通に話しましょう」

「有り難うございます。助かります。それでは馬車が使えるかどうか見に行きましょう」


 黒塗りで、細部にまで金色の彫刻が施されている豪奢な車体は、傷ひとつ無く無事なようだ。

 馬の方も見る限り健康そうで、これなら問題なく馬車が引けるだろう。


「マルセルさん、轍をたどれば街道まで出られるでしょう。俺が先導して行きます。」

「はい、わかりました。カイトさんは馬車にお乗りにならないのですか?」

「盗賊を運ぶのと、モンスターの警戒をして行きますから。今からホワイトパイソンを召喚しますので、奥様方に驚かないよう伝えて頂けますか?」


 俺は、ポケットからダイフクを出した。


「ダイフク、召喚だ」


 馬車から距離を取り、ダイフクを召喚して盗賊のロープを咥えさせた。

 レクスはダイフクの頭の上に居る。高いところが好きなのか?


 ダイフクが居るからかモンスターの気配はするが逃げて行った。


「街道が見えて来ましたよ」



 街道に戻り、暫く進むとローランドさん達の馬車が見えて来た。


「ダイフク、有り難う。送還するぞ」


 ローランドさん達の所まで戻ると、アイテムボックスからダイフク人形を出して送還した。

 レクスとダイフクは盗賊の護送馬車の上にいるグランとエルの所に行った。


「ローランドさん、ただいま戻りました。捕らえられていたのは、あちらの方々です」

「あの馬車は、アングラード家の馬車ですね。おお、アリソン様、それとミシェル様にナディア様」

「ローランドさん、聞きましたよ。貴方のおかげで助かりました。感謝しますね」


 貴族様はローランドさんに任せて、俺はアジトで捕まえた2人の男を担いでレクス達の所に行った。


「レクス、こいつ等も頼むぞ」

「了解だよ、カイトくん!クリーン」


 盗賊を馬車に入れて考える。


 馬車をどうやって動かす?ダイフクは、力は有るけど大きすぎて物理的に無理そうだしな。

 ローランドさんの馬車に連結出来るかな?

 58人が乗ったこの馬車の重さは馬で引けるのか?


「カイトよ、この馬車は不壊、清潔、拡張、重量軽減が付与されているぞ。今でもローランドの馬車よりも軽いはずだワッハッハッ」

「今、声に出していたかエル?」

「ああ、しっかり聞こえたぜ。アハハハ」

「少しは濁せよ。まあ良い。ローランドさんに相談してみよう」



読んで頂いた方ありがとうございます。


今回の登場人物


アリソン・アングラード(アングラード伯爵夫人)

ミシェル・アングラード(アングラード家長女)

ナディア・アングラード(アングラード家次女)

マルセル(アングラード家執事)


エル(人形・武闘神エルロフィーネ)

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