第119話 カイトの王都滞在編〜新月のブーツ!?
「儂もそろそろ死期が近くなったのでな、とは言ってもまだ数百年は死ぬ事は無いが、終の住処としてこの地にダンジョンコアを持って来て、この様にダンジョンを作り、この中で余生を過ごそうと思ってな……」
「は? 全く傍迷惑な事をしてくれたな。お陰でこの近くのチューロ村では、ダンジョンが出来た時の影響で地震が起きて家が倒壊する程の災害があったんだぞ」
「何と!? それは気がつかなかったわい」
「まあ、誰も死んでなかったから良かったが……それで、何故ダンジョンなんだ?」
最下層に降りる前に、マールさんがお腹が空いたと言っていたのを思い出した俺は、アイテムボックスからララさんのお手製弁当を取り出し、皆の前に置いた。勿論、悪魔っぽい奴の前にもだ。
いつもララさんは余分に持たせてくれるので助かっている。
「おお、済まんな。頂こう……ほう、美味いなこれは……では、何故ダンジョンなのかだが……」
俺達は弁当を食べながら悪魔っぽい奴の話を聞いた。
悪魔っぽい奴が言うには、人間の役に立つ物をドロップすれば、人が集まり、中には最下層までやって来る者もいるだろうとの事だ。
そして、その様な者達に茶を振る舞い、色々と話が出来たら退屈する事も無く余生を過ごせるのではないかと考えたそうだ。
そして、茶葉を持参して来た者は大歓迎だと巫山戯た事を抜かしやがった。
「はぁ……だいたいの事は理解した。まあ、チューロ村は今回の事で被害を受けたが、ダンジョンが出来た事で間違いなく発展するだろう。但し、お前が人間に危害を加えないのならな」
「儂は戦闘向きでは無いのでな、態々この最下層までやって来る実力のある人間と戦って死期を早めるつもりなど無いわい。逆に友好的ではない奴等が来たら、儂は姿を隠してこのオーガが相手をするだけだしな。強いぞ、このオーガは」
俺とオーガは向かい合って戦闘態勢を取っている。勿論、双方素手でだ。
「いつでも良いぞ」
「ウガーッ!」
オーガの右ストレートを左手で受け流し、そのままオーガの懐に入り腹に右肘を突き刺す。
本来なら鳩尾に入れると効果的なのだが、身長差の関係で俺の肘は鳩尾にまで届かなかったので仕方が無い。
それでもオーガが前屈みになったので、腕を真上に突き出して顎に掌底を叩き込んだ。
「うお!?」
「フンガァァァ!!」
掌底が顎に決まったのにも関わらず、倒れないように踏ん張ったオーガは、長い腕で俺を抱え込んだ。
「タフだなおい!それに中々の力だ」
オーガは俺を振り回し、勢いを付けて投げ飛ばしたが、空中で体勢を整えた俺は、なんとか足から着地した。
これがもし相撲だったら負けたのは俺の方だろう。
オーガの馬鹿力で結構な距離を投げられたのだから俺の場外負けだ。
「今度は此方から行くぞ」
「ウガッ!」
オーガの返事と共に、投げ飛ばされた場所から一瞬でオーガの目の前まで迫り、そこから更に後ろに回り込む。
オーガの後ろに回り込んだ事で俺を見失ったのだろう、オーガは左右をキョロキョロと見ていた。
「此方だ」
オーガが振り向きかけた時、両手の拳を使い“膝カックン”――――俺とオーガでは膝の高さが違うから通常の“膝カックン”をするのには無理があった為に両手の拳を使ったのだ――――で、オーガの腰を落とさせて、そのまま抱え込み後ろに投げ飛ばした。
言ってみれば、バックドロップだ。
そして直ぐにオーガとの距離を取り拳を構えると、頭を振りながらゆっくりと立ち上がったオーガがニヤリと笑い礼をした。
この世界のオーガは武闘派で己の力と技を高める為に日々修行をしているという。
自分より強い相手には尊敬の念を表し、弱い相手には稽古を付けてやったりもするそうだ。
人間に勝負は挑むが、決して敵対はしない、モンスターとしては珍しい種族で、オーガをテイムしている冒険者も少なくは無いと聞いたことがある。
ビショップが表向きにテイムしているヨシュアは、それとはまた別なのだが、オーガと正面切って勝つ事の出来る冒険者であればテイムも可能だそうだ。
満足そうな笑みを浮かべて礼をするオーガを見て、俺も構えを解いて礼を返した。
すると、オーガは一つ頷き粒子になって消えて、その場には宝箱がドロップされていた。
「分かってはいたが、ここまでの強者だったとは。儂など小指一つで倒されそうだわい。クハハハハハ!」
俺から見たら、この悪魔っぽい爺さんもそれなりに強そうだが、小指一つで倒せるかというのは、かなり大変そうだがやってやれない事も無さそうなので、肯定も否定もせずに軽く微笑むだけにした。
「カイトくん! 宝箱なの!!」
レクスとエルが宝箱を抱えて走って来て、俺の足元に置いて早く開けろと目を輝かせている。
俺が宝箱を開けると、中には低品質から高品質のポーションの詰合せと、銀色の縁取りがしてあり、金色の糸で何かの紋様が刺繍されている黒いショートブーツが入っていた。
『やっぱりなの!!』
『ワッハッハッハッハ!懐かしい物が出てきたな』
『レクス、グラン……って事は?』
『新月のブーツだぜ。カイト』
『ああ、こいつはエルに頼まれて作った物だ。ワッハッハッハッハ』
此処には悪魔っぽい奴が居るからか、念話を使いレクス、グラン、エルがこのブーツは新月のブーツだと教えてくれた。
「新月のブーツ……何故こんな新しく出来たダンジョンで新月シリーズがドロップするんだ?」
「やはり知っているようだな。お主が着ているそのコートから、このブーツと同じ気配がしたのでな、試しに宝箱に入れてみたのだ」
「何故お前がこれを持っていたんだ?」
「儂が若い頃に意気投合して、一緒に旅をした友が遺して逝った物だが、その後、終ぞ履く事が出来る者が居なくてな、ずっと儂が持っていたのだよ」
エルが俺に新月のブーツを差し出して来たので履いてみた。
最初はかなり大きめのサイズだったのだが、足を入れると一瞬光を放ち丁度良いサイズになった。
「おお……やはり思った通り履く事が出来たか……レッカよ、やっと……やっとお主から託された最後の仕事を成す事が出来たぞ……褒めてくれるか?」
悪魔っぽい爺さんは涙を流して天を見上げている。
そして涙を拭い、新月のブーツの説明を始めた。
曰く、新月のブーツに魔力を流すと、思いのままに軽くなったり重くなったりするそうだ。
「レッカはこのブーツで空を歩いたり、自分よりも何倍も大きなモンスターを踏み潰していたのを良く覚えているわい」
「なるほど、重力操作が付与されているんだな」
俺は階段を上がるように空中を歩き、そして少し離れた所まで空中を走った後、一気に重力を加えてみた。
――――――ドゴォォォォォォォン!
すると、落下の衝撃で大きな音が響き、土埃が舞い、そして地面には大きなクレーターが出来ていた。
「うわぁ……人間メテオだね」
「人間? カイト君って人間だったの? サトミさん……」
「そうですか、やっぱりカイト殿は人外でしたか」
「それなら、今までの事も納得ですねミシェル神父」
「カイト殿は人外……うん、うん」
俺が皆の所に戻ると、そんな事を話していた。
「キョウヤ、俺は人間だからな!それにミシェル神父もファビアン神父も俺を人外扱いしないでもらえますか? マールさんもうん、うんって納得しないで下さい!」
皆はクレーターを見て“人間? 何処が?”って口ずさんでいるが、あのクレーターは新月のブーツの力だからな。
「クハハハハハ!儂とレッカの若い頃を思い出すわい。レッカも仲間に散々人外と言われて拗ねていたものだ、クハハハハハ」
それを聞いて、レッカに親近感を覚えた俺は、心の中で手を合わすのだった。
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