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第118 カイトの王都滞在編〜最下層へ


 俺達は、ダンジョンの地下五階の大熊、地下六階の大蛇、地下七階の大蜥蜴を攻略――――――攻略と言っても、どれも扉を開くと直ぐにボス部屋で、それぞれ二十匹程の普通サイズのモンスターを倒し切ると、最後に巨大な個体が現れるといったパターンの部屋だった。

 ドロップ品はと言えば、魔石や爪や牙等もあったが、小瓶に入った毒や肝といった薬の素材が多かった。

 特に黒いモンスターからは、薬の素材がドロップする確率が高いようだ。


「どうやらこのダンジョンは薬の素材に特化したダンジョンのようですね。ミシェル神父」

「そうですね。中には熊の肝の様に高額な素材もありますし、中々に優良なダンジョンなのではないかと思いますよ」

「となれば、この次の最下層ではどんな素材がドロップするか楽しみですね」


 ファビアン神父が少年のように目をキラキラさせながら、階段から下を覗き込んで次のドロップ品が楽しみだと言っている。

 俺はつい、後ろから背中を押して驚かせたい衝動を抑えながらファビアン神父に同意する。


「そうですね、ファビアン神父。どうします?少し休憩してから降りますか?それともこのまま一気に行きますか?」

「そうですね……今は昼過ぎってところですか……こんな所で昼食もなんですから降りた所で休憩をするか、終わってからゆっくりと食べるか、ですね」

「うぅ……私はお腹が空きまし……はっ!?い、いいえ何でもありませんっ!!」


 ファビアン神父の言うように、薄暗くて、蝙蝠が飛んでいる様な階段で食事なんて……しようと思えば出来るけど、出来ればこの様な場所では食べたくはない。

 転生前は虫が沢山飛んでいる沼地や、ジャングルで蜘蛛の巣を掻き分け歩きながらの食事も珍しくは無かったが、今はそれほど切羽詰っている訳でも無いのでファビアン神父の意見に賛成だ。


 それに、階段を降りた所は最下層という事もあって、もしかしたら階段を降りた所、若しくは扉の向こうでならゆっくりと食事が出来るかもしれないし、無理ならボスを倒した後に外に出て、太陽の下で食べた方が遥かに良いだろうと思う。

 マールさんがお腹が空いたと言っていたが、その事に思い至ったのだろう、慌てて訂正をしていたから、ファビアン神父が言うように、取り敢えず階段を降りた方が良いだろう。

 



 穴の壁に沿って出来ている螺旋状の階段を降りて最下層に辿り着くと、そこは、ゴツゴツとした岩が散らばっている薄暗い場所だった。


「きゃっ!!ミ、ミシェル神父、虫、虫がいっぱい居ますよ〜」

「あはははは、大丈夫ですよマール殿。あっ、でもムカデには気を付けてくださいね」

「ぴっ!?頭、頭、あたまぁぁぁああ!!」

「ん?どうしたの、マールさん?」

「サ、サトミ殿〜!!あた、頭で何かがモゾモゾ――――ッ、と、取ってくりゃしゃひぃぃぃぃぃいいい!!」


 マールさんが一人で騒いでいるから何事かと見てみれば、マールさんの頭の上で蜘蛛が髪の毛を掻き分けながら歩いていた。

 恐らく糸を伝って頭の上に降りたのだろう。


「サトミ、うるさいから取ってやってくれないか?」

「うん、わかった!」


 サトミは右手の人差し指を蔓に変えてマールさんの頭の上に伸ばし、蜘蛛を掬い取った。


「この子は普通の何処にでもいる蜘蛛だね。見てマールさん、かわいいよ」

「ひぃぃぃぃぃいいい!!」

「あはははは!そんなに恐がらなくてもパイちゃんは何もしないよ」


 サトミがマールさんの目の前に蜘蛛を差し出すと、マールさんは引きつった顔でファビアン神父の後ろに隠れてしまった。


「サ、サ、サトミ殿は平気なのですか!?って言うかパイちゃん?」

「うん、私はドリアードだからね。それと、この子はスパイダーだからパイちゃんだよ。あはははは!ほらパイちゃん、こっちの指にジャンプ!!今度は糸だよ。あはははは」


 サトミは何やら楽しそうに蜘蛛(パイちゃん?)と遊び始めた。

 俺を含めた全員がそんなサトミを何とも言えない目で見ている。


「パイちゃん、私の御主人様はカイトだからね。カイトの言う事もちゃんと聞くんだよ」


 蜘蛛(パイちゃん?)はサトミの言葉にスチャっと前足を上げると、俺に向かってジャンプして来た。


「――――っと」


 俺が手で蜘蛛(パイちゃん?)を受け止めると、スチャっと前足を上げて挨拶?をして、サトミの頭の上にジャンプした。


「なあレクス、ドリアードって凄いな……普通の虫をテイムしたぞ……」

「サトミちゃんだからだと思うの……」

「まさか、あれがモンスターになるって事はないよな?」

「サトミはカイトの魔力で繋がっているからな、例えモンスターになっても私は驚かないぜ」

「ワッハッハッハッハ!エルの言う通りだ!ならワシはあの蜘蛛に何かマジックアイテムを作ってやろう」

「グランさんは気が早すぎるニャン……」

「カイト君、そんな顔をしなくても今更だと思うよ。あはははは」

「キョウヤ……はぁ、それもそうだな。さてと、気を取り直して行くぞ!此処が最後だ」


 俺の言葉で、全員の顔が引き締まり、気合十分といった感じだ。

 緊張感漂う俺達の目の前にあるのは、何やら飾り彫りされた重厚な扉だ。


「良いか、開けるぞ」


 俺は扉の取手に手を掛けて押し開けた。

 ギギギと軋み音を立てながら、ゆっくりと開く扉の隙間から光が漏れて来た。


「クハハハハハ、お主等が記念すべき第一号であるな」


 喋るモンスター?と訝しみながら、辺りを見回すが、声の主の姿は何処にも見当たらなかった。


「カイト君、ダンジョンで喋るモンスターは居ない事も無いけど、かなり珍しいと思うよ。或いは外部から入って来たのかもしれないね」


 キョウヤが言うのならそうなのかもしれない。マツリの例もあるから外部から入って来た可能性の方が高い様な気がする。


「エル、昏い感情は感じるか?」

「いや、似ているがデビルモンスターの種とは別のものだぜ。此処まで来れば分かるけど、ダンジョンコアにもデビルモンスターの種の影響は無いみたいだぜ」


 だと言うことは、この声の主がこのダンジョンに入って来た事で、黒いモンスターが現れたのかもしれない。


「どうした、何時までそんなところにつっ立っているのだ?遠慮する事は無い、入って来るが良い」

「確かに何時までも此処でこうしている訳にもいかないよな。遠慮は要らないらしいから行くぞ」


 俺達は十分な警戒をしながら部屋の中に入る。

 足場は砂で固められていて、壁面はむき出しの岩が凸凹に埋まっている。

 そして俺達の対面は、大きなゴツゴツとした黒っぽい岩山があった。


「うん……?」

「気付いたかカイトよ」

「ああグラン、今の違和感は何だ?」

「結界ニャン」

「なる程……それで、あそこで寛いでいる奴が声の主って事か」


 岩山に向かって歩いていると、急に“ゾワリ”とした感覚を覚えると同時に、お茶を飲みながら寛いでいる悪魔っぽい奴が俺達の目の前に現れた。

 椅子に座ってお茶を飲んでいる悪魔っぽい奴の後ろにはオーガが控えており、大きなテーブルには俺達の人数分のお茶が用意されていた。


「ほれ、何時までも立っていないで座りたまえ」


 悪魔っぽい奴の対面に俺が座ると、サトミを始め残りの面々も用意されたカップの前に座った。

 俺はカップを手に取り悪魔っぽい奴を無言で見る。


「毒等は入っていないから安心して飲むが良い」

「ああ、なら頂こう」


 悪魔っぽい奴が笑顔で肯くその笑顔が恐いんだが、俺は肯き返してカップに口を付けた。


「うっ……」

「カイト!?」

「美味い!!」

「ズコーッ」

「いやサトミ“ズコーッ”は無いだろ?」

「クハハハハハ!愉快な奴等よの。ん?その蜘蛛は……」

「えっ?パイちゃんの事かな?」

「なる程、お主はドリアードであるか。その蜘蛛に名まで付けているとはの……」


 どうやらサトミの頭に居る蜘蛛はこの悪魔っぽい奴の蜘蛛だったらしく、前足を上げて挨拶をする程に人懐っこかった事に納得した。

 蜘蛛はサトミの頭から離れ、悪魔っぽい奴の肩にジャンプする。


「あっ、パイちゃん……」

「すまんの、ドリアードの嬢ちゃん。此奴は儂の友達なのだ。ところでお主、茶の葉を持っていれば少し分けて貰えぬか?」


 悪魔っぽい奴は俺に茶の葉を少し分けろと言って来た。

 茶葉なら少しどころか大量にアイテムボックスに入っているから別に分けても構わないのだが、その前にこの状況を説明して貰おう。

 俺の予想では、後ろに控えているオーガが、この部屋のボスではないかと思うのだが、何がどうなってこうなっているのか分からない。


「ああ、茶の葉なら持っているが、その前にこの状況の説明をしてくれないか?」

「良かろう。では最初から話してやるとしよう」


 俺達は、オーガが入れてくれたお替りのお茶を飲みながら、悪魔っぽい奴の話を聞くのだった。


今回も読んで頂きありがとうございました!

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