第116 カイトの王都滞在編〜アンデット殲滅
「――――慈愛の光……ホーリーライト!」
ミシェル神父の詠唱?セリフ?によって、強烈な光がサークル状に地面から照射されて、四体のゴーストを包み込んだ。
「ヒャァァァァァァァァ……」
ホーリーライトの光の中で、ゴーストは粒子に変わりキラキラと輝きながら、立ち昇る光に誘われ天井に吸い込まれていった。
「もう大丈夫ですよ、カイト殿」
振り向いたミシェル神父の笑顔が眩しい。
「ふぅ~、どうもゴーストだけは苦手だ。ミシェル神父、ありがとうございます」
「アンデットの浄化は我々の得意とするところですからね、このくらいお安い御用ですよ。そうそう、カイト殿にはこれを差し上げましょう」
そう言ってミシェル神父は上着の内ポケットから、透明な液体が入った小さなガラスの小瓶を取り出した。
「これは……聖水?」
「ええ、良くご存知ですね。この聖水を身体に振り掛けるとアンデットは近づく事が出来なくなります」
俺はミシェル神父から聖水の小瓶を受け取り、身体に振り掛けた。
背中はサトミに頼んで振り掛けてもらった。
「ミシェル神父、ファビアン神父、此処でこの階は終わりのようですよ」
先行していたマールさんは、壁にピッタリと背中を付けて、左に曲がる通路を覗き込んでいた。
それにしても、此処で終わりとは……入り口の扉から三百メートルくらいしか進んでいないぞ。
「こ、これは……カイト殿、此処は大部屋の入口で、中には大量のアンデットが居ますけど、どうしますか?」
俺はミシェル神父に場所を替わってもらい中を覗いてみた。
中はかなりの広さがあり、スケルトン、ゾンビ、マミー、ゴースト等がひしめきあっている。
「多いな……しかもゴーストが飛び回っているし……ミシェル神父、少し数を減らしますから後は頼みますね。レクス達は神父達の反対側から倒してくれ」
俺は部屋の中に一歩踏み出し、両手に魔力を集め集中する。
――――――バチッ!!
「キャァァァァァァァァァ――――」
すると、いきなり左肩の辺りから大きな音がして悍ましい悲鳴が聞こえた。
「うおっ!?な、何だ!?」
「カイト!カイトに近付いて来たゴーストが弾かれて飛んで行ったよ」
「聖水を掛けていて良かったですね、カイト殿」
「そ、そうか……凄い効き目だな」
俺の目の前には既に直径五メートルくらいの光球が、ゆっくりと回転しながら浮かんでいる。
「――――――ヒール・サンクチュアリ」
俺の手から離れた“ヒール・サンクチュアリ”の光球は、スケルトンやゾンビを浄化しながらゆっくりと部屋の中央に進んで行き、我先にと回転している光球にアンデットが群がり、浄化されていく。
「おお……見て下さいファビアン神父、アンデットが自ら浄化されていますよ」
「何ですか、この魔法は!?こんな魔法は見た事も聞いた事もありませんよ」
部屋の中にひしめいていたアンデットは、俺達に背を向けて“ヒール・サンクチュアリ”を中心に円を描くように取り囲んでいた。
「カイト殿は、この様な魔法が使えてどうしてゴーストを恐れるのでしょうか?」
「う〜ん、多分だけど、カイトは昔から幽霊やお化けが苦手だったからだと思うよ。そういうのは克服するのは難しいからね」
「あー、なる程……分かるような気がします」
ミシェル神父、ファビアン神父、マールさん、そしてサトミが俺の事を話しているが、正直言って放っといて欲しい。
「ミシェル神父、今です」
「分かりました、修行の続きですね。行きますよ、ファビアン神父、マール殿」
「「はいっ」」
マールさんは聖剣を使い、危なげ無くアンデットを浄化。
ミシェル神父とファビアン神父は、神官に伝わると云う神聖魔法で浄化する。
「行くぜ!グラン、レクス、マック!」
「ワッハッハッハッハ!そぉれっ!」
「ヒーリングボールなの!エイッ!」
「私達もお手伝いニャン」
エルが銀色の光を纏った手足で、グランは何時もと違う白銀のハンマーを使い、レクスは一度に八個のヒーリングボールを操り、マックニャンは水晶のような輝きを放つレイピアで、それぞれアンデットを浄化している。
「凄いねカイト君、どんどんアンデットが減っていくよ」
「レクス達は言うまでもないが、ミシェル神父達は流石だよな」
「アンデットと戦う神官って、何だか絵になるよね」
ミシェル神父、ファビアン神父、マールさんと、レクス、グラン、エル、マックニャンが、“ヒール・サンクチュアリ”に群がるアンデットを全て浄化する様を、俺とサトミとキョウヤは大部屋の入口に立って見ていた。
そして、アンデットが居なくなったので、俺は“ヒール・サンクチュアリ”をキャンセルした。
全てのアンデットがドロップする訳では無いが、それでも多くの骨粉や魔石や包帯等をコンセがアイテムボックスに入れていたので、大部屋には戦いの痕跡は残っていない。
「終わりましたね……はぁ……はぁ……はぁ……」
ミシェル神父は肩を上下させて荒い息づかいをしている。
ミシェル神父の後ろに続くファビアン神父とマールさんも同様だ。
この階は殆ど大聖堂組が攻略したので無理もない。
「お疲れ様でした。この部屋を出たら、今日は終わりにしましょう」
「はぁ、はぁ……本当ですか?もう魔力も残り少なくなっているので、はぁ、はぁ……助かります」
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――――――此処は次元の狭間。
「クッククククク……確か、この辺でバフォメットとベルゼブブの反応が消えたのですよねぇ。それに、覚醒したデビルモンスターの反応もありませんねぇ。クッククククク……面倒です……はあ……面倒ですねぇ……クッククククク」
「楽しそうですな、クレマン様」
大きな玉座に座っている異界のはぐれ神クレマンの前には、浅黒い肌の二人の人物が片膝を付き、控えている。
一人は細身の男だが、その鍛えられた筋肉質の身体は無駄な贅肉が一切無く、鋭い目付きとオールバックに整えられたグレーの頭髪、ピンッと跳ね上がった細い口髭が特徴的だ。
もう一人は腰まで届く長く伸ばした赤い髪、少し厚化粧だが美しい顔立ちは、男ならば二度見、三度見するだろう。
更に豊かな胸は兎も角、細い腰と長く伸びた脚は良く鍛えられており、黒豹のようなしなやかさと強さを感じさせる。
この二人には、浅黒い肌の他に共通して、額に第三の目があった。
「ええ、ええ、バフォメットとベルゼブブは惜しい事をしましたが、先の世界であなた達を見つける事が出来ましたからからねぇ」
どうやらクレマンは、バフォメットとベルゼブブが死んだと思っているようだ。
「あなた達には期待していますよ。この世界で布教活動に勤しんでくださいねぇ」
「ははっ、必ずやクレマン様の御期待に答えて見せましょうぞ」
クレマンの言う“布教活動”――――それは、魂をすり減らし思考を低下させて、人々をクレマンの操り人形にする事である。
それには、第三の目を持つこの二人は、バフォメットやベルゼブブよりもうってつけの人材と言えるであろう。
「クッククククク……時間は幾らでもありますからねぇ、焦らず、確実な仕事を頼みますよ。ソルト、シュガー」
ソルトとシュガーと呼ばれた二人は、ゼノマイト王国の王都の前に広がる草原に来ている。
「ふーん、割と良い所じゃない?ソルトルタンディカラメルクチン」
「その長い名前で呼ぶでない、シュガマイヌレクティディサルティンクサーラ」
「そう言うあなたこそ、その長い名前で呼んでるし」
「ふん、そうであるな。折角クレマン様から呼びやすい名を頂いたのだ。これからは私がソルトで」
「私がシュガー」
とてもでは無いが覚えられそうに無い長い名を持つ二人であるが、クレマンが付けた“ソルト”と“シュガー”と言う短い名で呼び合う事にしたようだ。
クレマンにしたら、“ソルトルタンディカラメルクチン”や“シュガマイヌレクティディサルティンクサーラ”等と言う長い名前が面倒だったに違いない。
「それで、これからどうするのソルト?」
「ふむ、先ずはこの世界の人間の力量を見てみよう。モンスターを探しに行くぞ」
そう言ってソルトとシュガーは森の奥に入って行った。
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