第114話 カイトの王都滞在編〜此処だけで良くない!?
「な、なんと、ミシェル神父、これは……」
「カイト殿、私達の為にまさか此処までして頂けるとは……」
朝早く、新月の館の住人全員で、門から数歩の所に新しく出来た道を通り、レクスとグラン、そしてミニダラボッチが建てた教会の前に来ている。
教会と言っても簡素な造りで、礼拝堂と幾つかの小部屋があるだけだ。
「いえ、街の教会よりも小さいですけどね。それとミシェル神父達は新月の館から通う事になりますけど」
「いやいや、とんでも無いです。祈りの場があるだけで私達は幸せなのですから。それにカイト殿に付いて修行をするのが目的ですから、通いの方が此方も都合が良いです」
新月の館から歩いて五分程度の所に新しく建てた教会は、中央に鐘を吊るした尖塔があり、尖塔から下は丸みを帯びた造りになっている。
アーチ型の扉を潜ると、扉の上にあるステンドグラスの丸い窓の光が、赤、青、黄、緑のカラフルな模様を石畳の床に投げ掛けていた。
そして隅の方には、例の賽銭箱がちゃっかり設置してあった。
「うわー、綺麗ですね」
「これからは毎日でもお祈りに来られますね」
メロディーちゃんとララさんも教会が出来て嬉しそうだ。
元日本人の転生組はと言うと、物珍しそうに視線を彷徨わせ、観光気分でいるみたいだ。
エントランスホールの先、両開きの扉を押し開けると、中央に赤い絨毯が祭壇まで敷かれて、その両脇には長椅子が並べられている。
壁際にはこの世界の神々の像が等間隔で並び、高い位置にあるステンドグラスの窓から光が差し込んでいた。
「カイト殿、素晴らしい教会です」
「そう言ってもらえると此方も嬉しいですね」
小部屋の一つは大聖堂を手本にして、治療室にしてある。
その治療室と扉続きで、神父達の控え室も用意した。
「こ、これはスケルトン!?いや、精巧な作り物のようですね。見て下さいファビアン神父、とても良く出来ていますよ」
「ミ、ミシェル神父……」
「どうしたのですか、ファビアン神父?顔色が悪いですよ」
ミシェル神父は、骨格標本を関心したように頭から爪先までじっくりと観察しながらファビアン神父を呼ぶが、ファビアン神父は人体模型を見て顔が青褪めていた。
「ななな、何ですかこれは!?」
「キャッ!!」
「ひぃぃぃいい」
アマンダさんとミウラさん、ミシェル神父とマールさん、それにララさんやメロディーちゃんもファビアン神父が指差した人体模型を見て後退る。
「わあ、懐かしいね」
「そうだね、僕達の学校では夜な夜な廊下を走っていたよ。あはははは」
「キョウヤ、ララさん達が怯えているだろ」
「ああ、そうだったねカイト君。此処では洒落にならないよね。済みません皆さん、今のは冗談ですよ。これも精巧に出来た模型ですから安心して下さい」
「こ、これが作り物……ですか?」
「ええ、ミシェル神父。これが人の体内を表した模型で、例えばこれが胃で、これが肝臓。これらはこの様に取り外す事も出来ますから、治癒魔法を使う際のイメージに役立つのではないかと思いますよ」
「はあ……なる程……しかし、何ともおどろおどろしいですね。夜に一人でこの部屋に入るのは勇気が要りそうです」
「あはははは、直ぐに慣れますから大丈夫ですよ」
「それはカイトだけだと思うよ。私だって夜に一人で来たく無いよ」
サトミの言葉に、アマンダさん、ミウラさん、キョウヤ、ミシェル神父、ファビアン神父、ララさん、メロディーちゃん、マールさん、そしてフェルナンさんまで、何度も首を縦に振っている。
「私、カイトさんのやる事に慣れたと思っていたけれど、やっぱりまだまだだわ」
「ミウラちゃん、私もだから大丈夫ですよ。あはは」
アマンダさんとミウラさんが遠い目をして何か言っているけど、まあ何時もの事だ。
教会の中を一通り見た俺達は、出口にある賽銭箱に金貨を十枚入れて新月の館に戻った。
「「行ってきま〜す」」
「行ってらっしゃいませ、アマンダ様、ミウラ様」
新月の館に帰って来て直ぐに、アマンダさんは商業ギルド、ミウラさんは冒険者ギルドに行った。
「俺達もそろそろ行くぞ。ダンジョンの続きだ」
地下三階の草原にコンセの転移で移動した俺達は、サービスステージの探索を再開した。
「此処は前と同じ場所のようですね」
「そうですよマールさん。また最初のスライムから始めるのは面倒ですからね」
「………何だか凄く簡単そうに言ってますけど、普通はこんな事は有り得ません。だいたい転移魔法が使える人だって、そう滅多に居ませんからね」
「そうなんですか、マールさん?」
「もう!カイトは普通じゃ無いんだから、マールさんも考え過ぎると頭がおかしくなっちゃうよ」
「えっ!?サトミ……普通じゃ無い?俺が?」
「そうですね。確かにカイト殿は普通とはかけ離れていますね」
「はっ?ミシェル神父まで何を言っているんですか?」
何故俺がこんなに言われなくてはいけないんだ?
「ある意味変態だよね。あはははは」
「おい、サトミ!誰が変態……キョウヤ、何故笑う?お前だけには笑われたく無いわ!!」
まったく、俺なんかよりもダンジョンコアに転生したキョウヤの方が変態だろが……。
ワオウゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――
「あっ、カイト君!ウルフの遠吠えだよ」
「キョウヤ……話を逸した……」
「来たよカイト君!ウルフの群れだ!」
「はぁ、まったく……行くぞ、殲滅だ」
俺は大人だから、即座に切り替えて新月の刀を抜き、ウルフの群れに向かって駆け出した。
『ぷっ、変態』
ガクッ――――――
「おい、セルジュ。今それを言うか?」
『何も言ってない。マスタの空耳。ほら、ウルフ来た。ガンバレマスタ』
何が空耳だよ、ったく……。
襲ってくるウルフを倒し、更に進んでオークの群れを倒し、そして三体のゴーレムを倒し、しつこいコボルトの大群を倒しながら進んで行くと、一面に色とりどりのパンジーに似た花が咲き乱れた場所に来た。
「ほう、この花は……」
ミシェル神父がそう口にしながら一輪の小さな花を摘み取る。
「カイト殿、この花は薬の素材に使われていたパンジーですね」
「パンジーなんだ……」
花弁の形が少し違うようだが、ぱっと見パンジーだから昔の転生者が名付けたのかもしれない。
「ミシェル神父、使われていたと言う事は今は使われていないと?」
「この花の抽出液は治療効果が高い為に採取し安い場所の花は取り尽くされ、今では滅多に市場に出る事はありませんからね」
「と言う事は、この花だけでもこのダンジョンは有益って事になりますね」
俺はパンジーを適当に摘んで、アイテムボックスの中に入れる。
ギルドに提出して調べてもらおう。
パンジーの咲き乱れた場所を通り過ぎると、これみよがしに扉があった。
だだっ広い草原に扉だけが置いてある。
まるで、青い猫のロボットのそれのようだ。
此処まで来て扉があったら潜らない選択は無い。
取手に手を掛けて押し開ける。
「あれ?元に戻ったね、カイト」
扉を潜り抜けると、そこには地下三階の入り口があった。
地下三階は、モンスターを倒すと小袋に入った銅貨や銀貨をドロップする。
一匹当たりは大した金額では無いが、一日此処に詰めるとそれなりの稼ぎにはなるだろう。
更に最奥には希少な薬の素材でもあるパンジーが咲き乱れ、どれだけの額で取引されるかは分からないが、ギルドに卸すとその辺の薬草よりも高値が付く事が予想される。
「黒いモンスターにさえ気を付ければ、難易度の高いモンスターも居ないし、新人冒険者の訓練にも使えそうだな」
「そうですね。私達神官でも戦う事が出来ましたから、冒険者の方なら楽に攻略出来そうですね」
「ねえカイト、このダンジョン、もう此処だけで良くない!?」
「俺もそう思うが、ギルドからの依頼を受けているからな。一応下まで降りてみるぞ。黒いモンスターの存在も気になるしな」
そんな事を話しながら地下三階の扉を潜り外に出た。
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