第113話 カイトの王都滞在編〜休日は大事!!
岩トカゲに襲われていた貴族らしい人を助けた俺達は、新月の館に帰って来た。
立て続けにチューロ村の救助とダンジョンと岩トカゲとの戦いだと、転生組は平気だが、大聖堂組は疲れを見せていたからだ。
「ミシェル神父、ファビアン神父、そしてマールさんも、明日は休みにしますから、ゆっくりと身体を休めて下さい」
夕食の席で俺がそう告げると、三人共にホッとした様子だ。
この世界の人達は、放って置くと働き過ぎるきらいがある。
俺が気を付けていないとブラックになってしまいそうだ。
休める時に休まないと、この世界では何があるかも分からないからな。
翌朝早くに俺は、レクスとグランを連れて新月の館に隣接する森の中に来ている。
「この辺りが良いんじゃ無いか?」
「ワッハッハッハッハ!そうだな、新月の館からも近いし、ここなら良さそうだ」
「そうと決まればサッサとやっちゃうの!!」
レクスがそう言いながら、魔法で体長五メートル位はありそうな、ゴツゴツとした岩の巨人を三体召喚した。
「何だこれは?岩のゴーレムかレクス?」
「これはね、小さなダイダラボッチでミニダラボッチなの!!」
「ミニ……?これでミニなのか?」
五メートルもあれば見上げる程の大きさだ。
これでミニと言うのは少々疑問が残る。
「ダイダラボッチは山のように大きいから、この大きさがミニなの!!」
「そう言えば前に見たダイダラボッチはデカかったな……まあ、それなら納得だ」
ミニダラボッチ達は、森の木を引き抜いて、驚くべき速さで整地していく。
そして十分な広さを整地し終えると、今度は新月の館まで馬車が離合出来る広さの道を作り始めた。
「相変わらず凄いパワーで丁寧な仕事だな。ワッハッハッハッハ」
「そうだなグラン、これだけのパワーがあれば戦闘でも期待出来そうだな」
俺がそう言うと、レクスとグランは首を横に振って、優しい眼差しをミニダラボッチに向けた。
「カイトくん、ダイダラボッチもミニダラボッチも凄く優しくて、例え自分が傷付けられても、生き物には絶対に手を上げないの!」
俺もミニダラボッチを見る。
すると、肩には小鳥が止まり、リスが身体を駆け上っている。
それでもミニダラボッチは邪険にはせずに、頭に乗ったリスを手のひらに乗せて、地面にそっと放していた。
「なる程な……動物達も知っているんだな」
ミニダラボッチが引き抜いた木を、レクスとグランが魔法で乾燥させ、木材に仕上げる。
そしてミニダラボッチも手伝い、建築作業に取り掛かった。
「カイトよ、そろそろ朝飯の時間じゃないか?此処は良いから、お前は帰っても良いぞ」
「そうか?それならそうさせてもらおう。俺が居ても役に立ちそうに無いしな」
今日は休日と決めたこともあって、朝食も簡単な物で済ませた後、リビングで談笑するミシェル神父とファビアン神父、そしてフェルナンさんとララさん。
アマンダさん、ミウラさん、マールさん、メロディーちゃんは、庭に咲いている花を愛でながらお茶を飲み、話しにも花を咲かせている。
サトミは横笛を手に、そして頭には芋虫のミントを乗せて森の中に入り、キョウヤはどうやら二度寝をしているようだ。
精神はバローのダンジョンに行っているのかもしれない。
そして俺は、ミニダラボッチを見て思い出し、気になった事があるので、森の小路を全速力で走り抜け、その先の滝と森を越えて眼下に湿地帯が広がる所までやって来た。
「それにしても随分と広い湿地帯だな」
レクスは何を思ってこんなに広い湿地帯を作ったんだ?
いや、作ったのはダイダラボッチか?
「どうやって向こうまで行こうか……」
俺は湿地帯まで降りて来て、遥か向こうに見える山脈までどうやって行こうかと悩んでいた。
『マスタ、新月の腕輪を使ってみる。マスタはまだ一度も使って無いから、いい機会』
「セルジュ、そうは言うが、これはゴーレムだろ?肩にでも乗って行くのか?」
『ゴーレムにも色々ある。何も人型だけがゴーレムじゃ無い。マスタのイメージでどんなゴーレムでもオチャノコサイサイ?』
「何だよオチャノコサイサイって……っていうか、言う事聞くのかよ、この高飛車ゴーレムは」
『それは分からない……でも、兎に角やってみる』
湿地帯か……速く進めて俺が乗れる物って何だ?
魚は無理があるな……トカゲ?いや、却下だ。
鳥は?そもそも飛べるのかさえ疑問だ。
俺は色々考えたが思い浮かばず、最終的に湿地帯で速く進めて俺が乗れる物と言ったら、これしか思い付かなかった。
ダメ元でイメージを固めていく。
子供の頃にプラモデルで作った事があるから、イメージ自体は簡単だ。
これで駄目ならダイフクを呼べば良い。
新月の腕輪に魔力を送り、俺は叫んだ。
「ゴーレム変形、ホバークラフト!」
すると、周囲の森から、湿地から、地面から、そして空気中から粒子が集まって来て、俺の目の前でイメージ通りの黒いホバークラフトが形作られた。
『マスタ……何故、何時も何時も想像の斜め上をいく?』
「ははは……出来るとは思わなかったがマジか!?」
『はぁ……自分でやっておいて何を言う……でもこれはダメ。何故、異世界補正が働かない??』
『セルジュ、恐らく此処がマスターの世界だからではないでしょうか』
『あっ、そゆこと?うん、なら納得』
『ですが、此処以外で異世界補正がマスターに働くかどうかを一度検証しておいた方が良いでしょう』
『うん、マスタの事だから異世界補正をゴリ押しではね退けるかもしれない。そなったら世界が崩壊する』
世界の崩壊!?マジか?だからビショップの爆弾は野菜型なのか?
っていうか、俺の事だからってどう言う意味だ……?
湿原の上を快調に走るホバークラフト。
流れ行く風が心地良い。
「セルジュ、静かだし、速いし、良い感じだな」
俺の魔力が動力源だからプロペラの風切り音しかしない。
と、言うのも、俺がイメージしたホバークラフトは所詮プラモデル。
プラモデルに付属しているモーターのパワーなんてたかが知れているので、動力はイメージしていない。
ゴーレムは俺の命令(お願い)で動くのだから、魔力でプロペラを回転させれば良い。
『うん?何が良い感じ?理解不能』
勢い良く、高速で回転するプロペラが、軽い船体を猛スピードで押し出し、程無くして対岸に到着した。
目の前には街が出来そうな規模の草原が広がり、その向こうに万年雪を頂いた高い山脈が横たわっている。
山の麓までホバークラフトで行き、そこからは木々を避けながら駆け登って行く。
連なる山々を駆け抜けて、切り立った崖の上に立つ。
眼下には霧の立ち込めた森が見渡す限り広がり、遥か遠くに豆粒のように見えるダイダラボッチが動いていた。
「良かった……」
『ん?マスタ、何が良かった?』
「いやな、もし街が出来ていて人が住んでいたらどうしようかと思っていたんだが、杞憂だったようだ」
『何だ、そんな事?でも、それは時間の問題。いずれ人が住み着き街が出来、国が出来る』
「はぁ……やっぱり、そうなるんだろうな…」
『うん、今の内に覚悟を決める』
「程々にしてくれよ……」
俺は、遥か遠くの豆粒のように見えるダイダラボッチに視線を向けて、小声で独り言ち、踵を返した。
「あ、おかえりカイト。何処に行ってたの?」
「ああ、山脈の向こうを見てきたんだ」
新月の館に帰るとサトミが森から出て来たところだった。
「ふーん」
「えっ!?それだけ!?反応薄っ」
「ねえねえカイト、そんな事よりミントちゃんが蛹になったんだよ」
そんな事ね……まあサトミには分からないだろうな……。
「蛹だよ、蛹!聞いてるカイト?」
「あ、ああ……芋虫なんだから蛹になるのは当たり前だが、何になるか楽しみだな」
「うん!もしGだったらマツリちゃんにプレゼントして、カブト虫だったらカイトにプレゼントするね」
「いや、その両方とも先ず有り得ないからな。俺は蝶か蛾だと思うぞ。それにカブト虫も要らないからな」
嬉しそうなサトミと新月の館に入ると、昼食の良い香りが漂って来た。
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