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第112話 カイトの王都滞在編〜岩トカゲからの救出!



 私は娘のジャニーヌを連れてルクレールからアニエスに向かっている。


「お母様、今はどの辺りですか?」

「まだ半分も来ていませんよ、ジャニーヌ」

「フフフ、そう言えば先程も聞きましたね」

「早く帰りたいのは私も同じですからね、ヨハンには近道をするように言っておきましたよ」


 最愛の娘ジャニーヌは、五年前の落馬の事故で目が見えなくなったのだけど、幸いの事にルクレールでなら、目が不自由でも教育が受けられる事を知り入学した。

 そして、教師陣やクラスメートにも恵まれ、毎日学校に通うことで日に日に笑顔を取り戻して来た事は、親として嬉しいばかりだ。


 今回、長期休暇で一時帰宅の際は多くのお友達が見送りに来てくれて、思わず涙が溢れてしまった。


 目が見えなくなってから活発だったジャニーヌは塞ぎ込んでしまい、家から一歩も外へ出ない日々が続き、口数も少なくなっていたのが、今では見違える程だ。


「早くお父様に会いたいです」

「そうね、今のあなたを見たら、きっと吃驚するでしょうね」

「えっ、それ程かしら?」


 ヒヒヒィィィィィィン


「――――――キャッ!?」


 突然、馬の嘶きが聞こえたと思ったら、馬車が後ろに引っ張られるように滑り落ちて行った。


「くっ……お、奥様、お嬢様!?」


 御者をしていたヨハンが馬車の扉を開けて、私達の無事を確認する。


「私達は大丈夫です。ヨハン、あなたに怪我は無い!?それと、馬は無事かしら?」

「奥様、私は大丈夫です。馬の方も……幸い怪我は無いようです」


 いったい何があったのかしら?


「申し訳御座いません奥様。急に道が崩れてしまい、私にはどうする事も出来ませんでした」

「いいえ、あなたの責任ではありません。近道を通るように言ったのは私です。こんな事になるのならヨハンの言ったように街道を通れば良かったですね」

「お母様、何があったのですか?」


 目の見えないこの子を不安にさせる訳にはいかないけど、状況はちゃんと伝えなくては……


「ジャニーヌ、山道が崩れて馬車ごと谷に滑り落ちたの。でも、馬も馬車も無事だから元の道に戻れさえすれば……」

「奥様、モンスターです!あれは……岩トカゲですね。しかも数が多いです……」

「ヨハン、道に戻れますか?」

「馬の脚も車輪も砂に埋まっていて、直ぐには動かせそうにありません……私が岩トカゲを食い止めますから、奥様とお嬢様は馬車の中に居て下さい」


 ヨハンは食い止めると言っているけど、一人であんなに沢山のモンスターを食い止められる訳が無いわ。


「ヨハン!あなたも馬車の中に入るのよ!どう見ても百匹以上は居るわ。あなた一人では無理です」

「ですが奥様、馬を守らなくてはなりません」

「ヨハン……」


 ヨハンは剣を抜いて岩トカゲに向かって振り下ろす。

 だけど、岩トカゲの鱗は硬いらしくヨハンの剣は弾かれてしまった。


 次に、岩トカゲの牙を躱したヨハンは、目に剣を突き刺し仕留める事が出来たけど、とてもじゃ無いけど百匹以上の岩トカゲを倒すのは無理に決まっている。


「――――――ヨハン!お願い!馬車に戻って!」

「くっ……お嬢様……扉と窓をしっかりと閉めていて下さい」

「お母様、ヨハンは此方に来ていますか?」

「ジャニーヌ……ヨハンは私達を守る為に戦っているわ……」

「そ……そんな……ああ……神様……どうかヨハンを……ヨハンを御守り下さい」


 神に祈るジャニーヌを抱きしめながら、私も心の中で神に助けを求めた。

 だけど、ヨハンは岩トカゲの攻撃を躱しながら数匹倒すが、とうとう囲まれてしまった。

 他の岩トカゲもヨハンに群がり、残りも私達の馬車に近付いて来る。


「ジャニーヌ、いざとなったら馬車を捨てて逃げるわよ」


 私はジャニーヌの手を握って、ヨハンはもう駄目かもしれないと思いつつ、一縷の望みを残し岩トカゲに囲まれているヨハンを見る。


「ヨハンッ!!あぁ……もう駄目だわ……」

「お母様!?ヨハンはどうなったの!?」


 ヨハンは何処からか延びて来ている、緑色の葉っぱが付いた蔓に巻き付かれて持ち上げられている。

 きっと、新手のモンスターが現れたのだわ……


 ジャニーヌには、見たままを伝えると約束しているので、ありのままに伝えていると、レイピアを持った猫?いいえ、猫人の人形が岩トカゲの硬い鱗を貫いているのが目に入った。


「えっ!?今のは何?」

「お母様?」


 そして、赤毛の可愛らしい人形が岩トカゲを殴り飛ばし、禿げた髭もじゃの人形が大きなハンマーを振り回している。


 私は、まぼろしでも見ているのかと思い、一度目をつむり、再び開けてみると、不思議な文様の入った目も口も無い怪しい仮面を付けた何者かが此方を見ていた。


「――――ヒイッ!!私達を食べても美味しくありません!!どうか、どうかこの子だけは許して下さい」

「はぁ?何だよそれ……」

「あはははは!怯えられてるよ、カイト。あはははは!あはははは!」

「笑うなサトミ!キョウヤも何だ?その顔は……?ったく……まあ、ともあれ間に合ったみたいだな。サトミ、その人を此処に降ろしてくれ」


 先程見た蔓が、サトミと呼ばれた銀色の仮面に白いマントを付けた、緑色の髪の女性の肩から延びていて、その先にはヨハンが巻き付かれていた。


「ミシェル神父とファビアン神父は怪我人の治療をお願いします」

「「分かりました、カイト殿」」

「サトミとキョウヤは馬車を頼む」

「うん、わかった!」

「OK、カイト君」


 金色の仮面に黒いマントを付けた神官服の二人が、ヨハンに治癒魔法を掛けている。

 もしかして、彼らは私達を助けてくれるのでしょうか?


「俺達も行くぞ、レクス!」

「はいなの!トカゲにはトカゲだよ!……サラマンダーなの!!」


 腰まである金髪の、メイド服を着た綺麗な人形が魔法で炎のトカゲを出した。

 あのような魔法は始めて見るわ……


「マールさんは神父達の護衛を!!」

「了解です!!」


 怪しい仮面の人物が指示を出しながら、珍しい剣で岩トカゲの首を一振りで切断している。




 軽々と岩トカゲを倒していく人形達。

 大きな花を咲かせ、木のモンスターを従えて、数本の棘蔓を操るサトミと呼ばれた女性。

 金色のマスク、黒いマント、黒髪のキョウヤと呼ばれた男性は、手を翳すだけで巨大な竜のような凶暴そうなモンスターを出して岩トカゲを圧倒。

 ヨハンと私達の怪我を神聖魔法で癒してくれる神官服を着た二人に、その二人を守る銀色の仮面、白いマント、白い騎士服を着た青い髪の女性。


 そして、踊るようにあの硬い岩トカゲを両断している怪しい仮面――――――




 僅か数分で百匹以上の岩トカゲを全て倒した彼等が、此方にやって来る。

 私は、ジャニーヌを守るように前に出て、意を決して誰何した。


「私は新月仮面だ。モンスターは全て倒したし、怪我の方も良いみたいだな」


 新月仮面……?もしかして名前を伏せている……?でも、先程から仲間の人が名前で呼んでいたし……確か、カイトって……


「カイトさん、私達は助けて頂けた……のですよね?」

「ええ、安心して下さい……食べたりしませんから」


 新月仮面は!?名前で呼んだら普通に応えていたけど、良いの?新月仮面じゃなくても良いの!?


 私が疑問に思っていると、新月仮面……いや、カイトさんの目の前に半透明の板状の物が突然出て来て、それを通してカイトさんは私達を見ている。


「うん、うん、ヨハンさんでしたっけ?しっかりと治ってますね。……うん、そして貴女も異常無しです。ミシェル神父もファビアン神父も流石ですね」


 彼は最初に、気を失い馬車の座席に寝かされているヨハンを見て頷き、次に私を見て異常無しと頷いた。


「あれ?頭でも打ったのか……?取り敢えずヒールを掛けておこう……」


 最後にジャニーヌを見た時、何か独り言のように呟いたカイトさんが、ジャニーヌに治癒魔法を掛けた。


「うん?消えないな……それなら――――――アルティメットヒール……どうだ……?良し、光点が消えたぞ」


 新月仮面……いいえ、カイトさんが何故ジャニーヌに治癒魔法を掛けているのか私には理解が出来ない。

 何故なら、ジャニーヌは擦り傷程度しか怪我は無かったのだが、その怪我も神父様が癒して下さっている。


「えっ!?目が……お母様、目が……」

「さてと、行き先は王都ですか?」

「ジャニーヌ……?え、ええ私達は王都に帰る途中です」


 私はカイトさんの質問に答えながらジャニーヌを見ていると、何だか様子がおかしい……キョロキョロと辺りを見回しているような仕草をしている。


「この山道での野営は危険ですから門の前まで送りましょう」


 そう言って彼は私達が乗っている馬車から離れて行ったので、私はジャニーヌに意識を向けた。


「ジャニーヌ、先程からどうしたの?」

「お母様、目が見えるのです!お人形達も新月仮面様もハッキリとみえます」

「えっ?見えるの?嘘……もしかしてあの治癒魔法で……?」


 私は吃驚して、馬車の外に居る新月……いえ、カイトさんを見る。


「はあ!?此処は?どうなっているの!?」


 馬車の外を見ると、遠くに行列の出来ている見慣れた王都の外門が見えた。


「人通りのない場所を選んだら、門から少し離れた場所になりましたが問題無いでしょう。ヨハンさんも、もう直ぐ目覚めそうですしね」


 私が混乱していると、こちらの事も考えずに一人で喋っている。


「此処は?どうやって……?」

「俺達はダンジョンの攻略の途中でしたので、これで失礼します」

「ダンジョン……?えっ!?き、消えたわ」


 意味の分からない言葉を最後に残し、彼等は忽然と消えていった。


「お母様、消えましたね……」

「ええ、消えたわね……」

「新月仮面様……またお会い出来ますでしょうか……?」


 これは公爵である夫に報告すべき事案だけど、果たして信じてくれるかしら……




読んで頂きありがとうございました。

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