第110話 カイトの王都滞在編〜扉の中の戦い!?
「カイト、また扉だよ」
階段を降りて次の岩棚に到着すると、此処にも簡素な扉があった。
その扉を開ける前から、中から剣戟の音が聞こえて来る。
「ああ、サトミ……っていうか、誰かもう既に戦っているみたいだぞ」
「うん、音が聞こえるね」
「でもカイト君、おかしくないかい?此処には僕達が一番最初に入った筈だよ」
「それもそうだが、実際に誰かが戦っている音がするからな……扉を開けて確かめてみるとするか」
俺は扉の取手を掴み、少しだけ開けて中を覗いてみた。
「カイトが固まっているぜ」
「エルよ、どういう事だ?」
「カイトくん、どうしたの!?」
「何だか気になるニャン」
レクスとグランとエルが俺の足の間から頭を突っ込み扉の中を覗き込んだ。
マックニャンは頭の上に乗っかっている。
「あれ?レクスちゃん達も固まっちゃったね」
「中では物凄い戦いが繰り広げられているのかな?」
「ねえ、カイト!どうしたの!?カイト!?カ、イ、ト!!」
サトミが俺の背中を叩きながら呼んだ事で、俺は我を取り戻した。
「レクス、グラン、エル、マックニャン、一旦扉を閉めるぞ」
静かに扉を閉めた俺は、此方を見ている皆んなの方に向き直った。
「それでカイト君、中では誰が戦っていたんだい?」
「……ゴブリンだ、キョウヤ……」
「ゴブリンが居たんだねカイト。それで、ゴブリンと戦っていたのは?」
「ゴブリンだ、サトミ」
「ゴブリンとゴブリンが戦っていたのですか?
「ええ、ミシェル神父……」
「ゴブリンとゴブリンが?仲間割れですか?」
マールさんが不思議そうに、首を傾げながら聞いてきた。
「いや、違うと思いますよ……」
「もうっ!まどろっこしいから開けちゃうよ!!」
「あっ!?サト……」
サトミが、止める間もなく勢いよく扉を開けた。
大きな音をたてて開けたものだから、中で戦っていたゴブリンが此方を見て動きを止めている。
そして、扉を開けたサトミと、その後ろで見ていたキョウヤ、ミシェル神父、ファビアン神父、マールさんが、口をポカンと開けて固まっている。
たっぷり三十秒間、ゴブリン達とサトミ達がお見合いをした後、ゆっくりとサトミが扉を閉めた。
「天使がいたね……」
「悪魔もだね。あはははは」
そうだ、サトミとキョウヤが言うように、天使のゴブリンと悪魔のゴブリンが戦っていた。
いや、あれはもう戦争と言っても良いかもしれないな。
天使のゴブリンの身体は緑色だが、背中に白い天使の羽根があり、白くて細長い角が生えている。
そして更に、白い貫頭衣を着ている。
一方、悪魔のゴブリンは、緑色の上半身、黒い下半身、手足の爪は黒くて長く、捻れた黒い角に、被膜がある黒い翼、細くて先が鏃のような尻尾がある。
そしてこちらは、腰布一枚だけだ。
「私はあのようなゴブリンは始めて見ました」
「安心して下さい。俺達も始めてですから、ミシェル神父」
「新種のゴブリンですか?」
「このダンジョンの中だけだと思いますよ。マールさん」
「キョウヤ殿はダンジョンに詳しいのですよね?」
「まあ、僕はダンジョンコ……」
「んっ、んんんん!キョウヤ、この場合はどうしたら良いと思う?」
キョウヤの奴、うっかりダンジョンコアって言いそうになったな。
「あはははは!そうだねカイト君、この場合は四通りの攻略方法があるけど、全部試してみるのも面白いかもしれないね。まあ、ゴブリンの出方次第だけどね」
キョウヤの言う一つ目の方法は、スルーして階段を降りるという方法だったが、俺達は調査の依頼を受けているからスルーは無しだ。
「此処を突破したら大将だ!!」
「わかったカイト。もう少しだねゴブリンエンジェル達、頑張ろー!」
「「「キョキョキョ!!」」」
二つ目はゴブリンエンジェルに加勢して、ゴブリンデビルを倒すというものだ。
剣と盾を持つゴブリンエンジェルと、弓を引くゴブリンエンジェル、魔法を使うゴブリンエンジェルと共に、俺達は敵陣営に切り込み、ゴブリンデビルの大将を追い詰めた。
俺は、側近の最後のゴブリンデビルを斬りながらサトミに指示を出す。
「大将が怯んだぞ!今だサトミ!」
「うんっ!エナジードレイン!」
サトミのエナジードレインで、他のゴブリンよりも大きなゴブリンデビルの大将は呆気なく倒れて、黒い大きな魔石を残し、粒子になって消えていった。
ゴブリンエンジェルにも多少の犠牲が出たが、俺達の圧勝だ。
ゴブリンデビルの黒い魔石はコンセが全て回収済みだが、ゴブリンエンジェルは粒子になって消えただけで、何もドロップしなかった。
「キョキョキョォォォォ!!」
「「「キョキョキョォォォォ」」」
「キョッ!キョッ!キョッ!」
ゴブリンエンジェル側の勝利で、大喜びのゴブリンエンジェル達が歓喜の叫びを上げながら、粒子になって消えていった。
「キョォォォォォォォォオオオオオ」
そして、最後に残ったゴブリンエンジェルの大将が、雄叫びを上げながら粒子になって消えていく。
「カイト、剣だよ。私達が加勢して勝てたから、そのお礼なのかな?」
「そうかもしれないな」
「ほう……こんな浅い階層で聖剣とはな。ワッハッハッハッハ」
「聖剣なのか、グラン?」
「ああ、ランク的には低いが、これは紛れもなく妖精が創り出した聖剣だ」
「そう言えばカイト君、昔の話だけど、ゴブリンは妖精だという説もあったんだよ」
「昔はゴブリンも妖精だったの!」
「今では、ただの低ランクモンスターだがな。だが、妖精界には数は少なくなっているが、昔からの妖精のゴブリンは今も存在しているぜ」
キョウヤの話しに乗って、レクスとエルがサラッと凄いことを言っているような気がする。
「ゴブリンだけではなく、多くのモンスターは妖精がもとになっているニャン」
マックニャンまで……ミシェル神父達が口をポカンと開けて見ているだろうが……
そんな事を話しながら、入って来た扉から外に出て、暫くそこで待っていると、再び剣戟の音が聞こえて来た。
「やっぱり思った通りだったねカイト君」
「そうだな、準備は良いか?行くぞ!」
そして俺達はまた扉を開けて中へと入って行く。
「助太刀するぞ」
「ギョ!?……ギョギョ!!」
俺達は真っ直ぐゴブリンエンジェルを倒しながら、ゴブリンデビルの陣営に向かって走り、剣を持った指揮官らしきゴブリンデビルに告げて、次々とゴブリンエンジェルを倒していった。
そう、三つ目の攻略法は、ゴブリンデビルに加勢してゴブリンエンジェルを倒す事だ。
俺達の誰もが得意な大技を出すまでもなく、難なくゴブリンエンジェルと戦っている。
「此処から大将を狙えるな」
戦いの最中、最奥の大将まで直線で狙える隙間が出来ていた。
レーザーサイトの赤い光点に導かれ、最速で放てる雷属性のサンダーショットが、隙間を抜けてゴブリンエンジェルの大将の眉間を貫く。
「ギョギョギョォォォォォ」
「ギョギョギョォォォォォ」
大将が倒れて粒子になって消えると、残ったゴブリンエンジェル達も次々と粒子になって消えていった。
それを見たゴブリンデビル達は、手に持った武器を高く掲げ、勝鬨の声を上げながら消えていく。
「ギョギョ」
ゴブリンデビルの大将がニヤリと笑い、そして消えていった後には、一本の剣が落ちていた。
「またお礼の剣だよ、カイト」
「今度は魔剣だったりしてな、あはは」
「うん、魔剣なの!麻痺の効果が付与されているの!」
「マジか!?レクス……こんな浅い階層で、いや、階層と言うよりも地下二階の方が良いか……とにかく地下二階で、聖剣やら魔剣やら、地下一階では、深淵のローブだったな。こんな物がポンポン出て来るダンジョンで良いのか?キョウヤ」
「ダンジョンにも色々あるからね。今回は偶々良い物がドロップしただけかもしれないよ、カイト君。ランダムでドロップ品が変わる事なんてざらにあるからね」
「なる程……キョウヤが言うのならそうなんだろう」
――――――そして、四つ目の攻略法。
「何でドラゴンが出てくるんだ?」
「あはははは!もう訳が分からないね」
「カイト君、あれは本当にドラゴンなのかい?」
俺達は、扉を開けて入ると同時に、ゴブリンエンジェルとゴブリンデビルを一気に殲滅した。
そして、大量の粒子が集まって現れたのが、二足歩行で手と尻尾が短く、醜悪なトカゲの頭に一本の角が生えた、緑色のドラゴンだった。
「確かに言われてみれば、尻尾が切れたトカゲとゴブリンが合わさったような姿だな……地竜、来てくれないか?」
俺はポケット草原で、恐らくダイフク、キナコ、ワラビと遊んでいる地竜を呼んだ。
「グワッ!」
――――――ゴォォォォォォォォォォ
ポケット草原から出てきた地竜が、いきなり現れたばかりのドラゴンにブレスを放った。
地竜の強烈なブレスをまともに浴びたドラゴンは、粒子となって消えていく。
「ちょっ!?お前、いきなり過ぎるぞ」
「フンッ!あのような紛い物は見るに耐えんからな」
「ドラゴンじゃ無かったのか?」
「我等とあのような者を一緒にするでは無い。此処はダンジョンのようだが、ダンジョンで生まれるドラゴンと我等とは全くの別物だ。あのような者よりもダイフク等と遊んでおったほうがはるかに面白いわ。グワッハハハハハハ」
「そうか、教えてくれてありがとう。遊びに戻ってくれても良いぞ」
地竜と遊んで、ダイフク達がまた強くなるんだろうな……
その後、レクス達が担いで来た宝箱には、大きな灰色の魔石と、色とりどりの宝石が入っていた。
「シェリーとヨシュアにお土産が出来たな」
宝石を加工すれば、彼らのマジックアイテムの空きスロットにと思いながら、アイテムボックスの中に仕舞った。
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