第11話 カイト、商業の街ルトベルクに行く②
皆んなテントの設営が終わったみたいで、焚き火の準備を始めている。
俺とローランドさんも薪を探しに森に入る。
結構、落ちているもんだな。
レクスとグランも手伝ってくれて、薪を拾ってはアイテムボックスに入れていくと、ローランドさんが薪を抱えて此方にやって来た。
「カイト君、薪は見つかりませんでしたか?」
「全部、収納に入ってますから」
「収納ですか、本当に羨ましい事です」
俺とローランドさんは野営地に戻り焚き火を始める。
ローランドさんは火を付けるマジックアイテムを持っていた。20cmの細い筒だ。
俺は焚き火の横で屋台を出して夕食を作る事にした。
ローランドさんを始め、他の面々も口をポカーンと開けて驚いている。
「レクス、キューブブイヨンを出してくれないか」
「良いよ、カイトくん!」
商業ギルドで買っておいたインディカ米を、鍋に入れて軽く洗い、水とサフランとキューブブイヨンを入れて炊く。
別の鍋には、葉野菜とキューブブイヨンを入れた玉子スープを作る。
オーク肉が大量に有るので、一口大にカットして塩コショウをまぶし、鉄板の上で転がしながら焼いていく。
スライスした玉ねぎとピーマンを、肉と一緒に炒めて、炊けたインディカ米と、角切りトマトも加えて少し炒めたら鉄板を弱火にしておく。パエリアもどきの完成だ。
鍋にラードを入れて溶かし、アイテムボックスからポテトを出して揚げて、塩を振って器に盛った。
取皿、スープカップ、スプーンを用意して、ローランドさんに声をかける。
「ローランドさんも一緒に食べませんか?皆さんも良かったらどうぞ」
「カイト君はこんな料理も出来るのですね。有り難く頂戴します」
「フライドポテトも有りますよ」
竜の咆哮のメンバーと、他の4人の商人さんもやって来たので、木製のトレイにスープカップ、取皿、スプーンを乗せてから渡し、自由に取って貰った。
「「「美味い!」」」
「何これ?このお米の料理、凄く美味しいわ!お米ってサラダの材料じゃなかったの?」
「スープも美味しいですね」
「おい、このポテトを食ってみろ凄く美味いぞ」
「えっ、何これ、これがじゃがいも?信じられないわ!200年生きて、こんなに美味しいご飯は初めてだわ!」
「カイト君、フライドポテトの手が止まらないです!こんなに美味しかったんですね」
ピックさん200年ですか……
「今夜の見張りは俺達3人に任せてくれ」
「良いんですか?俺も見張りなら出来ますよ」
「ワイバーンに、美味い夕食にと世話になりっぱなしは良くないからな。今夜はゆっくり寝てくれ」
「わかりました。そう言う事でしたらお言葉に甘えて今夜は休ませて貰います」
「カイト君、朝までゆっくりと休むと良いわ。おやすみ」
「皆さん、おやすみなさい」
新月のテントの中に入ると明かりが灯った。
戸棚の中に入っていたティーパックで、取り敢えず紅茶を入れてソファーに座って飲む。
なんか、落ち着かない……
何でベッドがツインのダブル?最初はシングルだったよね?何処の高級ホテルだよ!
「レクス、風呂のお湯はどうなってる?」
「何時でも入れるよ、カイトくん!」
「それじゃあ入って来るか」
脱衣所には竹で編んだ籠が置いてあった。何個置いてあるんだ?
服を脱いで摺りガラスの嵌まった引き戸を開ける。
何だこれは、何処の温泉宿だよ……
常にお湯がチョロチョロと湯船に流れ落ちている。
頭と身体を洗って湯船に浸かる。
広いな……檜風呂なんて初めてだ。
竹籠の中に脱いだ服が綺麗になってる……身体の疲れは取れたが、精神が………
トイレに行って寝るとするか。
うん、トイレは少し広いが、これくらいのトイレなら、よく有るサイズだから許容範囲だな。
ベッドに入る。寝心地が良い。
「おやすみ、レクス、グラン、ダイフク」
「おやすみ、カイトくん!」
「おう、ゆっくり休め」
(おやすみカイト)
ZZZZZZZZ……
「ぐっすり眠れたな」
「おはよう、カイトくん!ベッドには安眠と回復が付与されているから!」
洗面台で顔を洗い、テントの外に出ると、外に居るのは見張り番のピックさんだけだった。
「おはようございます、ピックさん。おかげさまでぐっすりと、眠れました」
「そう、それは良かったわ。昨日はごちそうさま。美味しかったわよ」
「いいえ、どういたしまして。お口に合ったようで何よりです。それでは失礼します」
俺は少し離れた所に移動して、剣術の型を一通り練習した。
「カイト君、素晴らしかったわ。まるで、踊りを踊っているみたいで、目が離せなかったわよ」
「ずっと見てたんですか?俺なんて、まだまだですから、こうやって練習しているんです。なんか恥ずかしいですね」
「偉いわね。あいつ等にも見せてやりたかったわ」
「アハハ、勘弁して下さい」
ピックさんの雰囲気が変わったな。
目玉焼きと薄く切ったパンを鉄板で焼いて、簡単に朝食を済ませて出発した。
レクス、グラン、ダイフクは幌の上で景色を堪能している。
時々、グランの笑い声が聞こえたり、レクスの鼻歌が聞こえて来た。
ローランドさんから聞いたところ、途中にデオの村が有るらしい。
そこで1時間程、村人相手に商いをして、夕方には商業の街ルトベルクに到着する予定らしい。
「ローランドさん、この辺りには盗賊って多いのですか?」
「ええ、残念な事に、幾つかの盗賊団が蔓延っていますね」
「なるほど、それじゃあ、彼奴等も、その内のひとつですね。レクス、グラン、竜の咆哮の皆を呼んで来てくれ」
「了解だよ、カイトくん!」
「おう、行って来るぜワッハッハー」
「ローランドさんは馬車をゆっくりと進めて下さい」
「わかりました。カイト君はどうしてそんなに落ち着いて居られるのですか?」
「盗賊は素人の集まりですからね。どんなに人数が居ても慌てる事は無いですよ」
「そんな事を言えるのはお前だけだ。カイト」
竜の咆哮のメンバーが集まって来た。
「バランさん、ホイルさん、ピックさん、来てくれて有り難うございます」
「カイト、盗賊は見えないが隠れているのか?」
「あれを隠れていると言うなら、そうでしょう。気配が駄々漏れですけどね」
「どうやらカイト君はかなりの場数を踏んでいるみたいですね」
「カイト君、気配で何人くらい居るかわかるかしら?」
「50人から60人ですね」
「そんなに居るのか。俺達は何をしたら良い?」
「馬車には一切、手出し出来ないようにしますから、遠慮なく戦って下さい。但し、出来るだけ殺さないように、気絶させるか足を狙って下さい」
「ああ、任せてくれ」
「ローランドさんは、この先の道幅が広くなっている所に、ローランドさんの馬車を先頭にして、残りは横に2台並べて、出来るだけ5台で固まっていてください」
(カイト、僕はどうするの?)
幌の上に居るダイフクが聞いてきた。
「ダイフクはそこに居てくれ。取り敢えず待機だ」
(うん、わかったよ)
「レクスはスタン、グランは足を打て」
「そしてお前は……」
俺は後ろを振り向き、長い赤毛を後ろで1本の三つ編みにして前髪パッツン、目の色は黒で、八重歯が可愛い、茶色の貫頭衣を着た40cm位の女の子の人形に向かって言った。
「殺さない程度に暴れろ」
赤毛の人形はニッコリ笑った。
「任せな、ぶん殴ってやるぜ!」
馬車が所定の位置に止まった。
セルジュ、馬車をシールドで覆うイメージは出来たんだが、どうだ?
(完璧なイメージです。問題有りません)
「今から結界で馬車を囲みます。ローランドさん達はこの中から出ないで下さいね」
「わかりました、カイト君。皆さんも良いですか」
4人の商人達は頷いた。
「行きますよ……シールド!」
馬車を半円で覆うように、青みがかった半透明のシールドが出来た。
「無詠唱で!?もう良いわ、もう何も言わない」
「グラン、試して見てくれ」
「おう、行くぞ!」
ドゴンッ!!
グランのハンマーが当たった場所から波紋が広がり衝撃を逃がす。
竜の咆哮のメンバーと商人さん達は、驚いた顔でシールドを見ている。
「盗賊が痺れを切らして待っている。行くぞ!」
森の中から数十人の盗賊が怒声を上げながら飛び出して来た。
「おうおう!向こうは4人しか居ねぇぞ!ギャハハハッ楽勝だぜ」
「女は殺すんじゃぁねぇぞ!」
「ガキは死んでろ!うひゃひゃひゃ」
「お前、笑い方が気持ち悪いぞっ!」
俺は、先頭にいる盗賊に、手刀で首元を打った。
盗賊の攻撃を躱しながら、周囲の盗賊を全て気絶させた。
「次はそっちだよ!エイッ!」
「アババババ!?う、うひょへひゃい?」
レクスは両手に電気を纏い、盗賊の武器を器用に避けながら腕を振って、スタンをかけていた。
辺りには、痺れて動けない盗賊が転がっている。
「何なんだ、この人形はよ!」
「回るんじゃねぇよ!じっとしてろや、痛!膝が、膝がぁー」
「ワッハッハッハ、それそれ、当たると痛いぞ」
「ぎゃー足が、足が折れた。痛い、痛い」
グランは得意の高速回転ハンマーで、盗賊を一切寄せ付けず、足を砕いている。
彼奴等の所は賑やかだな。
「ほら次、掛かって来い!」
「ブギャ!」
「ゴフッ」
「この、ちょこまかとっぐあぁ」
赤毛人形は楽しそうだ。あれは武闘神っぽいな。
手足が、赤い闘気?で覆われてるんだけど……あっ!闘気?を飛ばした?
ドゴン!!
「ぐあぁ……」
「ワッハッハッ、やるじゃないか、エルよ。どれワシもいっちょう行くぞ!そこのお前ら、避けるなよっと!」
えっ!グランのハンマーが光った?
っと思うと、ソフトボールくらいのゴツゴツの岩を6個飛ばした!?
「遠距離攻撃も出来るんかい!!」
「っていうか、エル!?」
「「「ボギャッ」」」
6人の盗賊の頭に6個の岩が命中して盗賊は気を失う。
「ワッハッハッー、なんだ、やってみたら出来るもんだな!」
「初めてやったんかい!!」
「じゃあ私もやってみるよ!」
レクスなら出来るだろうな。
両手の指を広げると、指の間にビー玉くらいの電気の玉が出来た。
両手だから8個有る。
レクスが腕を振って投げると、追尾弾のように8個が別々の軌道を描きながら8人の盗賊に命中してスタンさせた。
「エッヘン、ざっとこんなもんだよ!」
そうだろうな……俺にも出来そうだな。
(出来ます。全ての属性で出来ます)
そうかセルジュ、でも今は良い。
(はい、マスター)
そう言えば、竜の咆哮はどうしてるんだ?
「ホイル、そっちに行ったぞ!」
読んで頂いた方有り難うございます。
赤毛の人形エルが仲間になりました。