第109話 カイトの王都滞在編〜黒いスライム!?
――――――――翌日の早朝。
森の木にロープを結び、取り敢えず穴の中に見える一番近い岩の出っ張りに降りて来た。
岩の出っ張りは、岩棚のようになっていて、そこから壁に沿って螺旋状に階段が下へと続いている。
そして、俺達の目の前には簡素な扉があった。
「うん、ダンジョンで間違いないな。しかし、いきなり扉なんだな……入るぞ」
此処に居るのは、俺とサトミとキョウヤに、レクス、グラン、エル、マックニャン、そして……
「私達は、カイト殿に付いて修行をしなくてはなりませんから、御一緒させて頂きます」
「しかし、未知のダンジョンで危険があるかもしれませんよ」
「ミシェル神父とファビアン神父は私がお守り致します。その為に司教様は私を護衛に付けたのですから」
「そうですか……マールさんがそう言うのであれば良いでしょう」
そのようなやり取りの後に、ミシェル神父、ファビアン神父、聖騎士マールさんが、俺達と一緒に竪穴式ダンジョンの扉の前に立っている。
ビショップ、シェリー、ヨシュアはと言うと、ヴォルフ教官の居る訓練施設に行っている。
何でも今日は、ヴォルフ教官の娘の六歳の誕生日で、ビショップ達はバースデーパーティーの準備をするそうだ。
閑話休題、簡素な扉を開き中に入ると、野球場程の広さの草原に、無数の黒い球体が蠢いていた。
「あれはスライムですよね?」
「ええ、ミシェル神父。それよりも………エル、もしかしたらこのダンジョンは……」
「ああ、穴に降りて来た時から感じていたが、間違いなくデビルモンスターの種がダンジョンコアに影響を与えているぜ」
「キョウヤ君、ダンジョンコアってモンスターなのかな?」
「そうだね、サトミさん。大きく分類すればモンスターになるのかもしれないね。あっ!どうやら僕達に気付いたようだよ」
俺達の話し声か気配に気が付いたのだろう、一番近くでぷるぷるしていた黒いスライムが突進して来た。
それを皮切りに、点在していた黒いスライムが連鎖的に襲いかかって来る。
「ギルドの依頼を受けている事だし戦うぞ!」
俺の言葉で一斉に散らばり、向かって来る黒いスライムを迎撃する。
色が黒くても所詮スライムなので、サクサクと倒して粒子になって消えていく。
後に残ったのは黒い魔石で、コンセが全て回収済みだ。
「うぅぅぅ……どうして私は……」
「ん?どうかしましたかマールさん?」
「あっ、いいえ、何でもありません、カイト殿」
「それなら良いのですが、見て下さい粒子が集まっていますよ」
今まで見た事が無い程の大量の粒子が一箇所に集まって、徐々に二階建ての家くらいの巨大な黒いスライムに変わっていった。
そのスライムの頭?背?には皮膜の付いた小さな翼がぷるぷると振るえているが、見た感じがゼリー状の翼なので飛ぶ事は出来ないのだろうと思う。
「多分、こいつがこの部屋のボスだろうな。どんな特性があるか、軽く攻撃をしながら見てみるぞ。ミシェル神父、ファビアン神父、先ずは二人で攻撃魔法を撃ってみてくれますか?」
「わかりましたカイト殿。神よ、我に聖なる光の矢をお与え下さい……神の御加護があらん事を……ホーリーアロー!」
「神よ、我に聖なる光の礫をお与え下さい……神の御加護と共に……ホーリーバレット!!」
ミシェル神父がホーリーアローを放つと同時に、ファビアン神父もホーリーバレットを放った。
「なあレクス、あれは魔法の詠唱なのか?」
「う〜ん……違うと思うの!」
「それなら、レクスが聖なる矢や礫を与えているのか?」
「私は何もしてないの!!」
と言う事は、無詠唱で、更に自らの魔力で創り出した矢や礫の魔法を放っている事になるのか?
でもまあ、魔法の詠唱はイメージを固める補助的な物だそうだから、聖職者の二人には似合っているのかもしれないな。
これでもし、神は加護も何も与えていないって言ったら、魔法が使えなくなるかもしれないから、言わないでおこう。
「せめて、加護を与えてやっても良いんじゃ無いか?」
「うん、そうだね!カイトくんが言うのなら良いの……魔法神の加護っ!」
レクスが、手の平をミシェル神父とファビアン神父に向けて魔法神の加護を与えたみたいだけど、見た感じ何も起こらず、変わったように思えなかった。
「何も変わったように見えなかったが、加護を与えたのか?」
「うん!こんなものは本来地味なの!でも、魔法の威力と発動のスピードが格段にアップするの!!」
ネット小説なんかでは、ステータス表示に〜神の加護って表示されるけど、俺のマップにはステータス表示の機能は無いからわからないな。
「駄目ですね。私達の魔法では、核を貫く事は出来そうもありません」
「そもそも、真っ黒で何処に核があるのかわからないですしね。しかも、ミシェル神父と私の魔法は吸収されたみたいです」
確かに、ミシェル神父とファビアン神父の魔法を吸収して、少し大きくなったような気がしないでもないが、気のせいなのかもしれない。
「カイトくん!スライムが攻撃して来るの!!」
「――――――っ、触手かっ!?」
巨大スライムの一部が細長く伸びて、鞭のようにしなり、横薙ぎに叩きつけて来た。
俺は新月の刀で、叩きつけて来た触手のような鞭を切り飛ばし、更に接近して、球体の三分の一を切断するが、直ぐに切り飛ばした部分が吸い寄せられるように本体に吸収された。
「切っても無駄って事か……厄介だな。―――――っと!!」
今度は触手を二本にして振り回して来たが、その二本共を切り飛ばし、直ぐに後ろに下がり距離を取った。
「どうするのカイト?」
「そうだなサトミ……触手には触手で対抗だ。行けるかサトミ?」
「私のは触手じゃ無くて蔓だよ?それに、普通の冒険者は触手なんか無いからね」
確かにそうだ……冒険者には触手も蔓も無いんだった。
ダンジョンを攻略する冒険者が倒せるかどうかを検証する為にも、こうやって戦っているのだからサトミは使えないな。
こうして話している間も、スライムは触手の鞭を増やして振り回しているが、俺が新月の刀で、マールさんが聖騎士の剣で切り飛ばし、グランがハンマーで、エルが拳で爆散させている。
「ねえカイト君、スライムは水分が多いから凍らせたらどうかな?」
「良し、キョウヤの意見を採用だ!」
俺は、アイテムボックスから新月のナイフを出して魔力を送った。
イメージするのは絶対零度の氷の領域。
魔力を込めた新月のナイフは眩い位に青白く発光している。
俺は、黒くて巨大なスライムに新月のナイフを軽く投げて突き刺した。
「アブソリュートゼロ……」
ピシッピシピシピシピシピシピシ
魔力が放出され、氷の領域の中心のスライムが触手を伸ばしたまま一気に凍りついた。
「す、凄い魔力ですね……ファビアン神父」
「ええ、一瞬で凍り付きましたよ……信じられない威力です」
「何だか簡単に折れそうですよ」
マールさんが手を伸ばしてスライムの触手を触ろうとしている。
「触るなっ!!それに少しでも触れたら一瞬で凍るぞ」
「ヒッ!!」
マールさんは慌てて伸ばした手を引っ込めた。
バローのダンジョンで、凍り付いたゴブリンの肩を触ったゴブリンジェネラルが、一瞬で凍り付いた事があったので、無闇に触れるのは危険過ぎる。
俺は鞘に魔力を送って、新月のナイフを戻し、アイテムボックスに仕舞う。
「ねえカイト、まだ粒子にならないね。もしかしたらまだ生きているのかな?」
「そうだな……スライム自体がゼリー状の身体で、どうして生きているのかわからない謎生物だからな。凍らせた事で仮死状態になっているのかもしれないな。ミシェル神父、スライムにホーリーアローを」
「はい、カイト殿。神よ、我に聖なる光の矢をお与え下さい……神の御加護があらん事を……ホーリーアロー!」
ミシェル神父が放ったホーリーアローは、先程は白く光る短めの矢だったのが、レクスの加護で銀色に輝きながら、長く尾を引き空気を切り裂く勢いで、凍ったスライムを貫いた。
「なっ!?ななな、なんという威力だ!?カイト殿の元で数日修行をしただけなのに……私の魔法が此処まで強力な物になるとは……」
「ミシェル神父!素晴らしい魔法でした。流石ミシェル神父です」
ピキッ、ピキピキッ、ピキピキピキッ!
ミシェル神父のホーリーアローに貫かれたスライムの身体に罅が走った。
「神よ、我に聖なる光の礫をお与え下さい……神の御加護と共に……ホーリーバレット!」
罅だらけのスライムに、ファビアン神父がホーリーバレットを放った。
ホーリーバレットも先程とは違い、白かった色が銀色に輝き、大きさもスピードもアップしている。
ドガンッ!ガラガラガラガラ―――――――
見事命中したホーリーバレットによって、凍り付いた巨大な黒いスライムは粉々に砕け散った。
そして、罅が入った核が落下して二つに割れると、巨大なスライムは粒子になり消えていった。
「ワッハッハッハッハ!あれを見ろ」
「取りに行くぜグラン!」
「あっ!待ってなの!!」
「全く、賑やかだニャン……」
グラン、エル、レクスが担いで来た宝箱の中身は、黒いローブと金貨が入っていた。
「金貨は良いとして、このローブは……グラン、わかるか?」
「これは闇属性の深淵のローブだな。魔法無効の効果があるぞ。尤も、これを着たら本人も魔法が使えなくなるがな。ワッハッハッハッハ!」
俺達は入ってきた簡素な扉を開き階段を降りて行く。
深淵のローブか……アイテムボックス行きだな。
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