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第108話 カイトの王都滞在編〜カレーのおにいちゃん!?

 チューロ村の人々の視線がカレーが入った寸胴鍋に注がれる中、5台の馬車が村に入って来た。


「セリア殿、酷いものですな。殆どの家が倒壊しているではないですか」


 俺達が来た時には何軒か無事な家もあったが、その後続いた微震で殆どが倒壊している。


「ああ、そこに居るAランク冒険者のカイト達が居なかったら、多数の死者が出る大惨事になっていただろうな」

「そうでしたか。これだけの惨事があったというのに、犠牲者は少なかったのですな?」

「いや、ゼロだ」

「は?」

「一人の死者も出ていないし、治癒魔法で怪我人も既に癒やされている」

「まさかっ!!あっ、いや……この惨状を目の当たりにすると俄には信じ難いですが……なる程、村人の表情を見るとそうなのでしょう」


 村人達はカレーの寸胴鍋に視線を固定して期待感に目を輝かせている。


「そうだな。普通なら、住む家も何もかもが崩れてしまって、悲壮感に打ちひしがれているというのに、あの村人達の表情はどうだ?これから出される食事を、まるで子犬のようにワクワクしながら待っているではないか。自分たちが災難に遭った当事者だという事を忘れているかのようにだ。これも犠牲者が無かった故なのだろう」

「食事と言えば、此処に来た時から刺激的なスパイスの香りで、腹の虫が鳴りっぱなしなのですよ。ワッハッハッハッハ」

「フフフ……あいつの事だ、お前達の分も用意していると思うぞ」

「おお、それならば有り難いが」

「紹介しよう。カイト!此方に来てくれ!」


 俺が煎餅を焼いていると、ギルドマスターのセリアさんに呼ばれた。

 話は聞こえていたけど、別に紹介なんか要らないと思うが、呼ばれたからには行かなければな……

 ララさんはカレーを混ぜているし、メロディーちゃんとマークは食器を用意している。


「アマンダさん、此方に来て代わってくれ」

「えっ!?私ですか?」

「そうだ。このように両面がきつね色になったら、刷毛で醤油を塗って軽く炙れば良いだけだ」

「はいっ!お任せ下さい」



 ギルドマスターと話していたのは、王城の第4騎士団のドルトン団長だった。


「ご苦労だったなカイト。後は我々に任せてくれ。ああそれと、なんだ……」

「夕食なら皆さんの分もありますよ」

「おお、そうか!済まんな。ワッハッハッハッハ!おーい!!晩飯は此処に居るカイトが用意してくれているぞー!ちゃっちゃとテントをおっ建てろ!!」

「「「「オオーッ!!」」」」


 チューロ村に来た早々、移動の疲れを見せていた騎士や冒険者達が、だらだらとテントの設営をしていたが、ドルトン団長の一言で、俄然やる気をだしてテントの設営のスピードがアップした。

 



「お父さん、お母さん、ちょっと辛いけど、とっても美味しいね」

「ああ、美味いなぁ……家は潰れたが、こんなに美味い飯が食えたんだ。これから頑張って建て直す気力も湧いて来るってもんだな」

「どれどれ……うわっ!?うっまぁぁぁい!!」

「何だ、この料理は?こんなにスパイスを使った料理は初めてだぜ!!」

「この一皿でいったい幾らになるんだ……?」

「我々貴族の出でもこんなにスパイスを使った料理は食べた事が無いぞ」

「ハッハッハ!お前の家は男爵家だからな!」

「ならば、子爵家のお前ならあると言うのか?」

「ハッハッハ!無い!更に言うなら、こんなに美味い料理は始めてだ」

「だと思ったぞ。ワッハッハッハッハ!」

「ハッハッハッハッハー!」


 村人達が此方に皿を持ってやって来た。


「まだまだ沢山あるから、好きなだけお代りをしても良いぞ」

「ああ、ありがとう。朝から美味い飯を食ったお陰で、暗い気持ちも吹っ飛んじまったぜ」

「お礼が遅くなったけど、助けてくれてありがとうね」

「カレーのおにいちゃん、ありがとう!!」


 カレーのおにいちゃん?まあ、子供の言った事だし……文句を言って泣かれるのも面倒だ。

 それは兎も角、村人達が明るく元気になってくれて良かった。

 騎士や冒険者達はワイワイガヤガヤと賑やかだが、概ねカレーは好評のようだし、美味いと言って食べてくれると、作った甲斐があるというものだ。


 そして、うちの身内はと言うと……


「美味しいです!美味しいです!はぐっ……もぐもぐ………はぁ……美味しくてスプーンが止まりません」

「本当に美味しいですね、はむっ……もぐもぐ……アマンダさん。私、毎日カレーでもいいわ」

「ミウラちゃん!そう、それです!一日一食はカレーにしてもらいましょう!そしてもう一食はオムライス……はぁ……なんて幸せなのでしょう……」


 いや、毎日とか絶対に作らないからな……


「私達は修行に来ているのに……もぐもぐ……こんなに贅沢な料理を……もぐもぐ……食べても良いのでしょうか」

「ミシェル神父、もぐもぐ……口にいっぱい頬張って、もぐもぐ……言うセリフですか?もぐもぐ……ごっくん!はぅ……美味しいです……私は騎士ですから、出された料理はどんな料理でも美味しく食べるのが努めですからね!これも仕事の内です……はむっ……」

「もぐもぐ……もぐもぐ……ミシェル神父、見聞を広げるのも私達の修行なのです。よって、カイト殿の美味しい料理を食べるのも、私達の修行になると思いますよ」

「おお、その通りです!ファビアン神父!!さあ、喋ってないでしっかりと修行をしましょう!!」


 神父ズと聖騎士マールさんの謎理論を聞きながら、俺はカレーに一味唐辛子を振りかける。

 甘口カレーの時には、唐辛子や胡椒で辛味を加えるのが俺のやり方だ。


「カイト、俺にも唐辛子をくれないか?」

「私も少し貰うわね」

「ああ、ビショップ、シェリー。遠慮なく使ってくれ」

「ウガウガ」

「そうか、ヨシュアは生クリームだったな」


 ビショップとシェリーに一味唐辛子を渡して、ヨシュアにはカレーの上に生クリームを回し掛けてやった。


「ウガー♪♪」

「ねえ、カイト。私はマヨネーズを貰えるかな?」

「サトミちゃん、カレーにマヨネーズを掛けるの?」

「うん、まろやかになって凄く美味しいんだよ、シェリーさん」


 俺はそれならばと、テーブルの上に、一味唐辛子、胡椒、生クリーム、マヨネーズ、削ったチーズ、ウスターソースを出して並べる。

 そのテーブルの横では、キョウヤが目を閉じてゆっくりと味わいながらカレーを食べていた。


「キョウヤ、良かったら好きな物を掛けて食べてくれ。量は十分あるから、お代りをしても良いぞ」

「うん、ありがとうカイト君。はぁ……母親の作ってくれたカレーを思い出すよ。味は雲泥の差でカイト君のカレーの方が美味しいけどね。あはははは」

「いや、母親の料理は何にも勝るものだ。俺なんかの趣味の料理と比べるな。おふくろの味か……俺にはその経験が無いから羨ましいよ」


 物心付いた頃には、既に孤児院で養われていたからな。

 俺にとってのおふくろの味は、副院長先生の料理だろう。



「カイト様、今度カレーの作り方を教えて頂けますか?」

「良いですよララさん。基本のレシピを書いておきますね」

「有り難う御座います、カイト様」

 

 これで、カレールーを新月の館に常備しておけば、ララさんが定期的に作ってくれるだろう。

 待てよ……神界ルートで料理本を購入するのはどうだ?

 いや、読めないから駄目だよな……

 





「かなり大きな穴だな」


 エルが見た、森の中の穴の前に俺達は立っている。

 前と言うより、縁と言った方が言葉的には適切なのかもしれない。

 穴の縁から下を覗き見るが、霞がかっていて見ただけでは深さを知る事ができない。

 石を落としてみても、吸い込まれるように消えて、底に当たる音も聞こえて来なかった。


「カイト君、この穴はダンジョンだよ。うん、間違いないね」

「キョウヤが言うのなら間違いなくダンジョンなんだろう。しかし、竪穴のダンジョンか……チューロ村の地震は、このダンジョンが出来たのが原因かもしれないな」

「カイト、本当にダンジョンなのか?お前の仲間を信じない訳では無いが、見ただけで何故分かる?」


 ギルドマスターのセリアさんが言う事も尤もなのだが、キョウヤはダンジョンコアに転生した変わり者だ。

 ダンジョンコアがこの穴はダンジョンだと言えば、信じない理由は無い。


「ギルドマスター、キョウヤは誰よりもダンジョンに詳しい専門家だ。彼が間違いなくダンジョンだと言えば、此処はダンジョンだ」

「そうか、お前がそこまで彼を信用しているなら、私も彼を信じよう……此処がダンジョンなら、一般の冒険者が入る前にある程度の調査が必要か……カイト、冒険者ギルドからお前達に調査の依頼を出そう。受けてくれるか?」

「どちらにしても調べるつもりだったから構わないぞ」

「これが優良ダンジョンなら、チューロ村は発展するだろう。頼むぞカイト」


 そんな訳で、俺達はギルドからの指名依頼を受けて、竪穴式ダンジョンに入る事になった。



読んで頂きありがとうございました。

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