第107話 カイトの王都滞在編〜ギルドマスターは料理上手!?
ミウラさんが冒険者ギルドに連絡を入れると、ギルドマスターは商業ギルドと王城に、直ちに早馬を走らせた。
それから、此方の状況を何度かギルドマスターとやり取りをして、必要と思われる物資を積んだ冒険者ギルドと商業ギルド、そして王城の騎士団の馬車が、早朝に此方に向けて出発したそうだ。
「それでミウラさん、到着は何時くらいになりそうなんだ?」
「はい、ギルドマスターからの連絡では、遅くても日が沈む前には到着出来るそうです」
「そうか、思ったより早いな。それならララさん、俺達は昼食と夕食まで提供すれば、後は任せても良さそうですね。俺も手伝いますよ」
「分かりました、カイト様。昼食の豚汁は出来たのですが、おむすびは今からですので手伝って頂けると助かります」
昨夜の事だから人員は兎も角、水や食料等はもう少し時間が掛かると思っていたが、驚く程の手際の良さだ。
昼食だが、おむすびと豚汁の簡単な物だ。しかし、おむすびを二百個近く作るとなれば大変な作業で、塩むすび、おかかむすび、出汁を取った後の昆布を佃煮にした昆布むすびの三種類を、皆で手分けをして作る事にした。
そして俺達がおむすびを作り始めて少しすると、一頭の馬がチューロ村の広場に駆け込んで来た。
「想像はしていたが、これ程とは……まったく酷いものだ」
馬に乗ってやって来たのは、冒険者ギルドのギルドマスターを務めるセリアさんだ。
ギルドマスターが来た事に気が付いたミウラさんが駆け寄って、馬の手綱を手に取る。
「ギルドマスター!」
「ん?ミウラか。お前の報告通り酷いものだな。私は、今此処に向かっている物資で足りるかどうかを確認する為にひと足早く来たのだが、これは少し追加を頼む必要があるようだ。ミウラ、ギルドに追加を要請してくれ」
「はい、ギルドマスター」
「内訳は、そうだな……テントが………………」
俺達が村人達に配る昼食の準備を再開すると、追加物資の要請が済んだのだろう、ギルドマスターが此方にやって来た。
「やあカイト。どうしてお前達が此処に居るのか疑問だが、そのお陰で犠牲者が出ずに済んだようだな。取り敢えず礼を言っておく……ありがとう。さて、私も手伝おう。こう見えても料理には自信があるのだ」
三角に握られたおむすびが、種類毎にバットの上に並べられていく。
「懐かしいわね。上手く三角に出来るまで、カイトに随分としごかれたのを思い出すわ……」
「ああ……忘れたくても忘れられない思い出だな。あの時はカイトが鬼教官よりも鬼だったからなぁ……」
「うが……」
「そう言えばヨシュアは最後まで合格点を貰えなかったのよね……」
「だからヨシュアさんは見ているだけなんだ」
ビショップ達三人の目が遥か遠くを見ている。
確かに地球にいた頃、ビショップとシェリーとヨシュアにおむすびの握り方を教えたが、あの地獄の鬼教官よりも鬼だったとは酷い言い草だな。
「カイトって変な所でこだわるからね。あはははは!」
「サトミ、俺はそこまで厳しくした覚えは無いぞ……って、おい!誰だ?このボールのような物体を作った奴は!」
「私だが、何か問題でも?」
野球ボールのようなおむすびを作ったのはギルドマスターだった。
「ああ、大ありだ。此方を見てみろ、綺麗に統一された三角形が……おい、キョウヤ。何故大きさがバラバラなんだ?」
「いや〜、僕は料理が苦手でね、三角には何とかかんとか出来るけど、大きさを揃えるのが難しくて……済まないねカイト君」
「いいかキョウヤ、手に取ったご飯の重さを覚えるんだ!感覚を研ぎ澄ませろ!そうだ、その大きさだ。集中しろ!左手に全ての意識を集めるんだ!良いぞ、その調子だ!出来るじゃないか!頼むぞキョウヤ」
「うう……つ、疲れる……」
「ねえ、ミウラちゃん……私達は豚汁の担当で良かったわね」
「しっ!聞こえますよアマンダさん」
「ん?聞こえているぞ」
「ひぃぃっ」
アマンダさんは何に怯えているんだ?それにしても、俺は優しく丁寧に教えているのに、ビショップ達は兎も角、ララさんやメロディーちゃんまで遠い目をしているのは何故だ?腑に落ちん……
だが、まあキョウヤはこれで良いとして、問題なのが……
「このボールだが……」
俺はボールを手に取り、三角に形を整える。
「ギルドマスター、手をこのような形にして、力を入れ過ぎないよう三辺が同一の長さになるように、手の中で転がすんだ」
「なんだ、そうすれば良いのか?簡単じゃないか」
ギルドマスターはご飯を手に取り俺の手元を見ながらおむすびを作る。
そして、手の中で数回転がした後、得意げに俺に差し出して来た。
「どうだ!会心の出来だろう?」
「何だこれは?これでは二等辺三角形じゃないか」
「何だ?その、にとうへん何とかというのは?」
受け取ったおむすびを見ると、一辺が短い細長い三角形になっていた。
面倒なのでギルドマスターの問をスルーして、俺はそれを口に運ぶ……
「―――――――かたっ!何でこんなに固くなるんだ?」
「えっ?固いのカイト、私も食べてみる……はむっ……ん〜……ん〜、パキン!ポリッ!ポリッ!ポリッ!あはははは!あはははは!何これ?お煎餅?これはこれで美味しいけど、どうしてこうなるの?不思議だね。あはははは!」
何故だ?ありえない……だが、サトミが言うように確かに美味い。
これに醤油を付けて焼けば、あるいは……
「良し分かった。ギルドマスターはこのように平べったく作ってくれ。ララさんは此処を頼みます」
「はい、カイト様。お任せ下さい」
俺は七輪をアイテムボックスから出して、ギルドマスターが作った平らなおむすびをじっくりと焼く。
そして仕上げに刷毛で醤油をペタペタと塗り、少し炙れば香ばしい匂いが辺りに漂う。
「パリッ、ポリッ、うん、普通に美味しいよ、カイト」
「ポリッポリッポリッ……これが私が作ったおむすびか……」
「いや、これは最早おむすびでは無くて煎餅だ。ギルドマスター」
村人達と一緒に、おむすびと豚汁の昼食を食べ終えた俺達は、緑茶とギルマス製の醤油せんべいを食べながら休憩をしている。
―――――――ゴゴゴゴゴザワザワザワザワ
「きゃっ!!」
「うわっ!?」
大地が唸りをあげて、森の木々がざわめく。遠くからウルフやオーク等のモンスターの鳴き声も微かに聞こえて来た。
「また揺れたね、カイト」
「今のは震度ニくらいかな?」
「そんなもんだろうな、キョウヤ」
最初の壊滅的な大揺れから、震度一から震度ニくらいの微震が何度かあった。
俺とサトミとキョウヤ以外は、少し揺れただけでも慌てたり、怯えたりしていたが、それを見るとこの辺りでは地震が起こる事は極めて珍しいのだろう。
「何故お前達は大地が揺れても平気な顔をしているのだ?」
ギルドマスターが青い顔をして俺達に聞いてきた。
「俺とサトミとキョウヤは、地震が多い地域に住んでいたから慣れているんだ。だからと言って慣れすぎるのも危険だから、いざという時は落ち着いて行動しないとな。サトミ、キョウヤ」
「お前達なら何があっても大丈夫な気がするのは私だけか?」
村人の数は四十人余りで、王城の騎士団、ギルド職員、応援の冒険者が何人来るか分からないので、出来る限り多くの夕食を用意する事にした。
俺達の仕事はここまでで、倒壊した家の瓦礫の撤去や、仮設住宅?テント?その他日用品等は後から来る連中にお任せだ。
ポケット農村で収穫された米をララさんとメロディーちゃんに炊いてもらい、俺は人が一人入れるくらいの寸胴鍋に、一口大に切った一角牛の肉を焼いて入れる。
アイテムボックスの中の、ダンジョンでレクス達が大量に、それはそれは大量にドロップした一角牛の肉を大放出だ。
玉ねぎのスライスも飴色になるまで炒めて寸胴鍋に入れると、人参とじゃが芋も炒める。
寸胴鍋に水を入れて、一角牛の肉が柔らかくなったら、炒めた人参とじゃが芋を加えて火が通るまで煮込み、神界ルートで購入したカレールーを溶かして更に煮込む。
「カレーだね、カイト君。久しぶりだな」
「あはははは!キョウヤ君、よだれが出てるよ!ねえカイト、甘口だよね?」
「ああ、甘口だから安心しろサトミ」
当然の如く村人達はカレー初心者であり、子供も居るので甘口カレーだ。
仕上げにおろしにんにくと、口当たりを柔らかくする為に牛乳を加えて火を止める。
「ララさん、救援が来たら焦げないようにかき混ぜながら火を入れてもらえますか?」
「畏まりましたカイト様。それにしても、空腹でも無いのに食欲を唆る良い香りですね」
「これ程スパイスをふんだんに使った料理を惜しげもなく出すとは……流石Aランク冒険者だな」
俺をAランクにしたのはあんたでしょうが……
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