第106話 カイトの王都滞在編〜被災地チューロ村
「えいっ!!持ち上がれ〜なの!!」
レクスが何の魔法か分からないが、何らかの魔法で瓦礫を宙に浮かせ、キョウヤが怪我人を運び出す。
キョウヤの周りの狭い範囲がダンジョン化しているようで、光の粒子が荷車に繋がれた一角牛になり、キョウヤは一人ずつ丁寧に荷車に寝かせている。
「一角牛、この人達をカイト君の所まで頼むよ」
「ブモ〜」
グランは口の中に角材や板を詰め込み、全ての瓦礫を神界の工房に送る。
「何処にそれだけの瓦礫が入るのかしら……」
そしてシェリーが怪我人を転移でアマンダさんの所に送ると、元あった場所に瓦礫を戻したグランが笑う。
「ワッハッハッハッハ!ワッハッハッハッハ!シェリーよ、次に行くぞ」
不思議現象を見ていた村人達は口を開けて呆けている。
「ヨシュア、この下に三人居るぞ!」
「ウガッ」
ビショップがヨシュアに場所を支持して、ヨシュアは一気に瓦礫を持ち上げる。
「良しっ!こんなもんか。良いぞヨシュア、そのまま持っていてくれ」
三台の担架を具現化したビショップは、一人ずつ怪我人を担架に乗せて、見ていた村人達に声を掛ける。
「済まないが、これを広場に運んでくれ。ゆっくりな」
「ああ、任せてくれ。ありがとう」
「ヨシュア、もう良いぞ。次は……向こうだな」
サトミは自身の周りに大輪の花と、小さな色とりどりの花を咲かせ、トレントの枝に座っている。
「綺麗……」
フルプレートの鎧を着ていないマールさんは、聖騎士らしい白を基調にした騎士服を着ている。
襟や袖口や裾は髪の色と同じ青色で縁取られていて、ベルトやブーツは茶色の革製だ。
そのマールさんの口から出た綺麗と言う言葉に、周りに居る村人達も頷いて、花々に囲まれたサトミを見ている。
斯く言う俺もサトミの美しさに見とれていた。
「マールさん、二人居たよ」
「わかりました、サトミ殿。皆さん、運び出しますよ」
トレントから、大輪の花から、そしてサトミの腕から伸びた蔓が瓦礫に巻き付き、あっと言う間に下敷きになっていた人の姿が現れた。
マールさんと、手伝いに来た村人の男女4人が丁寧に怪我人を運び出す。
「マールさん、これを使うと良い」
「はい、有り難う御座いますビショップ殿」
その時丁度、村人と協力して怪我人を運び出しているマールさんの横を通り掛かったビショップが、担架を二台置いて次の瓦礫の山に向かって行った。
「歩ける人は此方に来て下さい!」
「この人はミシェル神父の所へ――――っ、酷いわ……急いでカイトさんの所へ運んで下さい!!」
ミウラさんが軽傷の村人に呼び掛け、アマンダさんが運ばれて来た怪我人を振り分けている。
「はい、もう大丈夫ですよ」
「あ、有り難う御座います、神官様」
「はい、次の方どうぞ。ミシェル神父、何だか以前よりも疲れにくくなっているようなのですが……」
「私も感じていましたよファビアン神父。はい、終わりましたよ……魔力量が増えたのでしょうか……何とも不思議な感じがします」
ミシェル神父とファビアン神父は慣れた様子で、怪我人を次から次に治癒魔法で癒やしている。
ん?魔力量が増えたのか?もしかしたら、農村の野菜や漁村の魚を食べたからかもしれないな。
そして俺の目の前には、頭から血を流し、折れた細い角材が背中に刺さったままの男性が、気を失い横たわっている。
「ひっく……ひっく……お父さん……」
「お願いします……お願いします、この人を助けて下さい……」
傍には母子とリックが居る事から、この男性がエンゾなのだろう。
子供と奥さんは涙を流してエンゾに縋り付いている。
子供が無事なところを見ると、エンゾが庇ったに違いない。
「コンセ、マップを展開だ」
俺はマップに人型を映し、エンゾを重ねて見る。
背中よりも、頭部の点滅のスピードが速い。
背中に刺さっている角材を抜くと、背中の傷も点滅のスピードが上がった。
他には、ほぼ全身に細かい傷や打撲もあるようだ。
俺はマップの人型を見ながら、全身完治のイメージで両手に魔力を送る。
「アルティメットヒール……」
エンゾの全身を青みがかった銀色の光が包み込み、人型の光点が、細かい傷、打撲、背中の傷、頭の傷の順に消えていった。
「うっ……」
「エンゾ!?」
「お父さん!?」
「あ……お、俺は……サラ!怪我は無いか!?」
「う、うん、私は大丈夫」
「エンゾ……あんた、酷い怪我をしていたのよ」
「ああ、そう言えば……」
エンゾは全身を触って確認をしている。
「どうだ、何処か痛む所があるか?」
「誰だお前?」
「バカ!あんたを治してくれた人だよ!!すみません、このバカが。有り難う御座いました、有り難う御座いました」
その後も次から次に怪我人が運び込まれ、俺はヒールからアルティメットヒールまで、怪我の状態に合わせて使い分け、治していった。
「カイト君、被害があったのはこの村の周辺だけだったみたいニャン」
「街道はひび割れた所があったが、通行には支障無いと思うぜ。あと、森の中に大きな穴が開いていたぜ」
「そうか、その穴が気になるな……付近に何か居たか?」
「上から見た限りでは何もいなかったぜ」
「わかった、救援が来て落ち着いたら調べてみよう。エル、マックニャンご苦労さま」
村人の救助と治療が終わって、俺達も一呼吸つく事が出来た。
村人達は広場の隅に固まって座り、ひそひそと話しながら、不安そうに俺達の動向を見ている。
その中から一人の老人が俺達の所に歩いて来た。
「わしはチューロ村の村長ですじゃ。この度は助けて頂き有り難う御座いますじゃ。このような大惨事にも拘らず、誰一人として欠けることが無かったのは、奇跡としか言いようがありませんじゃ」
「いや、全員無事で良かったです。この事はギルドに連絡を入れていますから、明日か明後日には救援物資を持って来てくれると思いますよ。今夜は不安で眠れないかもしれませんが、出来るだけ身体を休めるようにして下さい。それと、家が無事だった人もまだ倒壊の危険がありますので、家の中には絶対に入らないようにと伝えて下さい」
新月の館で早朝から、ララさんとメロディーちゃんが作った野菜とオーク肉がたっぷりと入ったスープを、村の広場に出した新月の屋台のコンロで温めている。
鉄板の上ではスライスしたパンが焼かれていて、大きなボールの中には大量のゆで卵が用意されている。
「皆さ〜ん、朝食が出来ましたよ〜。順番にお渡ししますから、一列に並んで下さ〜い」
メイド服を着たメロディーちゃんが村人達に呼び掛け、一人一人にトレーを手渡している。
そして、同じくメイド服を着たララさんが、器に熱々のスープを注ぎ、執事服のマークが、ゆで卵とパンをトレーに乗せている。
「カイト様、此処は私共にお任せ下さい」
「ありがとう、ララさん、メロディーちゃん、マーク。それじゃあ俺達は少し休ませてもらいますね」
昨夜は交代で仮眠を取ったが、ミシェル神父とファビアン神父、そしてマールさんは疲れが取れていないみたいだ。
俺達が椅子に座っていると、フェルナンさんが朝食を持って来てくれた。
「これは美味い!」
「本当ですねミシェル神父。疲れが癒やされていく感じがします」
「はふ、はふ、美味しいです。司教様に命じられて仕方なくだったのですけど、今ではミシェル神父とファビアン神父に付いて来て良かったと思います」
「あはははは!マール殿は正直ですね。私もこれ程の食事が出来るとは思ってもみませんでしたよ」
大聖堂組が絶賛しているスープは、トマトベースの具だくさんスープだ。
マカロニも入っていてボリューム満点のミネストローネ風だ。
「カイトさん、お代りを貰って来ても良いですか?」
「えっ!?アマンダさん、まだ食べるの?」
「だってミウラちゃん、こんなに美味しいんですもん」
旅を始めた当初に比べて、少しふくよかになった食いしん坊さんがお代りを要求してきた。
そして、マールさんがじっと此方を見ている。
「スープは大量に作ってありますから、皆さんがお代りをされても大丈夫で御座います。マール様もお持ち致しましょうか?」
「フェルナン殿、有り難う御座います。騎士はしっかりと食べて体力を付けねばなりませんので……宜しくお願いします」
尤もらしい事を言ってはいるが、食いしん坊キャラが一人増えた事に変わりは無い。
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