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エコラリア  作者: 楓海
1/2

屍體編

 リスカ表現あります。

屍體(したい)を拾った……………』


 旺迦(おうか)は浜辺で屍軆を拾った。


 若く美しい屍體に旺迦は魅せられ、自分のものにしたいと思った。


 旺迦は屍體を背負って歩く。


 身長が明らかに旺迦よりも高く、屍體の足は引き摺られ片方だけ履いていた靴も脱げてしまった。


 旺迦は気にもせず肩から垂れる屍體の顔を見ては、胸を躍らせた。


 屍體は重く、旺迦は息を切らせる。


 別荘に運びリビングで旺迦は屍體と共に床に寝転がった。


 起き上がって屍體の濡れた服を慎重に脱がせ、均整のとれた美しい身体に、旺迦は見()れた。


 屍體の胸に後ろから腕を回して持ち上げ、バスルームまで引き摺って運んだ。


 浴槽にお湯を入れている間も、自分の服を脱ぎながら旺迦は屍體から目が離せなかった。


『綺麗な屍體(にんぎょう)には歌を歌ってあげる』


 旺迦は屍體と浴槽に入るとラヴィアンローズを歌い始めた。


  ♪Des yeus qui font baisser les mens

   Un rir qui se perd sur sa bouche

   Voila le portrait rans retouche

   De l´homme auquel l´appartiens

   Quard il me prend dans ses bras

   Qu´il me parle tout bas  

   Je vois la vie en rose……………………………………



 そして歌いながら、柔らかなスポンジで丁寧に屍體を洗う。


 低い歌声がいつまでもバスルームを満たしていた。


 タオルで身体を拭き、旺迦はまた屍體を引き摺って寝室に運びベッドに寝かせた。


 海が見える窓を開け放ち、屍體を抱くようにベッドに横たわった。


『一緒に眠ってあげる………………』


 心地好い潮風が肌を(かす)め、レースのカーテンをはためかせた。


 穏やかな午前が風とともに流れ、旺迦は久し振りに満たされた眠りに堕ちる。


 昼を知らせるオルゴールが鳴り響き、旺迦は目を覚ました。


 旺迦は屍體の美しい横顔に見惚れ微笑んだ。


 暫くの間、屍體とベッドの上でごろごろとして時を過ごした。


 ベッドに座り込んで、横たわる屍體を見詰め、旺迦は魅力的な彫刻に触れるように屍體の滑らかな肌を撫でた。


 腕を撫でた。


 次は腹を指先でなぞり、太腿に触れた。


 旺迦は服を着るとクローゼットを(あさ)り、屍體に合うシャツとズボンを探しだし屍體に着せ、リビングまでまた引き摺って運び、ソファーに座らせた。


 書斎に行き、書棚からサルトルの「部屋」を抜き取った。


『時には、本も読んであげなきゃ…………………』


 書斎に置いてある引き出しが半分引き出され、旺迦はそれに目を留める。


 引き出しの中に何故かコルトガバメントが入っている。


 黒光りする光沢に目を奪われ、旺迦は暫しそれに見入った。


 本を片手にリビングに戻り、ソファーに頭を垂れ座る屍體の前に立って屍體を見詰めた。


 口の端を上げクスッと笑うと旺迦は屍體の顎に人差し指を添え、屍體の顔を上に向かせる。


 旺迦は身体を折り、屍體に口付けた。


『キスもしてあげる………………………』


 口唇で屍體の口唇を(もてあそ)んだ。


 舌で屍體の上口唇に触れた時、下口唇に激痛が走った。


 旺迦は飛び退いた。


 旺迦の口唇の端から血が(したた)る。


 旺迦はクスッと笑うと手の甲で口唇を拭った。


「屍體ごっこは、もうお終い? 」


 屍體は屍體を止めた。


 美しい生きた屍體は口を手の甲で拭きながら言った。


「ずっと考えてただけさ

 これから、どうしようかって…………………」


 玄関の呼び鈴が鳴った。


 屍體は慌てて物陰に隠れる。


 旺迦は玄関のドアを開いた。


 ガタイのいい男二人が鋭い目つきで、ドアを開くと奥を(うかが)うような素振りをした。


 片方の男がバッジを見せる。


「警察です

 少し伺いたい事があります」


 一枚の写真を懐から取り出し旺迦に見せた。


「この男を見掛けませんでしたか?

 一緒に写っている女性を殺害して逃走しています」


 旺迦は写真を見詰めた。


 写真には屍體が女性と笑って写っていた。


 旺迦は答えた。


「さあ……………………………

 ここは祖父の別荘で、夏休みなので一週間前から居ますけど、そんな男は知りません」


 刑事は言った。


「そうですか 

 何か、お気付きな事がありましたら連絡下さい」


 警察は帰って行った。


 旺迦はドアを閉めて鍵をかけた。


 旺迦がリビングに戻ると屍體は言った。


「どうして? 」


 旺迦は屍體を見ずに答えた。


「別に………………

 興味無いし…………………」


 屍體は言った。


「オレは興味あるな

 何度も切り刻んだ、その手首」


 旺迦は目を伏せた。


 ベランダに立ち、外を眺めた。


 陽が随分傾いていた。


 旺迦は屍體を振り返り答えた。


「自分の肉体が嫌いなんだ………………………

 医者の話じゃボクは鬱病らしい 

 世の中ってさ

 余計な事を教えてくれる人間が居る」


 旺迦は屍體から視線を外して言った。


「ボクはレイプで生まれた

 母を凌辱した男の血が流れてる」


 屍體は小さく身体を震わせたが無表情だった。


 手首の傷痕を見ながら旺迦は続けた。


「母を愛してる

 だから、自分が許せない

 だけど、自分を抹殺する勇気も無いんだ」


 旺迦は再び屍體を見て言った。


「あんた、人殺しだろ

 ボクもついでに殺してよ」


 屍體は眉をしかめた。


「キミが死ぬ必要は無いだろ

 お母さんがそれを望んで無い事はキミも解るだろ」


 旺迦は顔を歪めた。


「解ってるよ」


 旺迦は顔の半分を手で覆った。


「でも、苦しい……………………」


 身体を震わせ、旺迦は両手で髪を掻きむしった。


 眉間に皺を寄せ、口唇を歪ませた。


「苦しくて

 泣きわめく事さえできない………………………」


 屍體は無表情で旺迦を見詰めていた。


 指が頭にめり込みそうなほど旺迦は手に力を籠めた。


 身体の震えは激しくなって行く。


 苦悩に満ちた旺迦の顔は次第に険しくなって行った。


 屍體は旺迦の肩に手を置いた。


「彼女は末期癌だった

 醜く痩せ衰え、痛みに苦しみ死を待つより、彼女はオレに殺される事を哀願した」


 旺迦は俯いた。


「オレにキミは殺せない

 だけど……………………………………

 一緒に死んであげる事はできる…………………」


 窓から差し込む光に、旺迦と屍體の影が室内に一つになって伸びていた。






 読んで下さり有り難うございます。

 今回また、暗ーい作品です。

 旺迦がシャンソン歌うシーンがありますが、若い男の子がフランス語でシャンソン歌ってたらステキだなあ、なんて思いました。

 四千字弱の短い作品なのですが、打ち込みする関係で二話に分けました。

 お付き合い戴ければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 名前はどこか中華風ですが、映像がゴシック調に感じられたところが、すごく面白く感じました。 自分の体を流れる気持ち悪い相手の血、というのは、彼にとっても辛いでしょうね…。何とか救われたらいいな…
2023/12/31 21:57 退会済み
管理
[一言] こういった退廃的な美しさの平等はお上手です。
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