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夢の通り道  作者: 九条 魅世
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第1話 均衡の崩壊、世界の変容 壱

全く、小説を作るというのは難しいものですね。

まさか次話投稿に何年も掛かるとは…。


3話目は何年も掛からないと良いな。気ままに投稿します。




AM:6時29分



ハッ・・・。


 ふと、少女は目を覚ました。朝焼け頃のようで、カーテンの隙間からは、うっすらとまだ淡い日の光が差し込み、部屋の中を照らしている。普段なら目を覚まさないであろう、早い時間帯にパチリと目を覚ましたわけだが、この時そんな事よりも気になることが、彼女の身には起きていた。


 「え・・・、なんで私、手を伸ばしてるの?」


 目覚めた彼女は、まず初めに、何かを掴み取らんばかりに天井に向けられる、自身の手が目に入った。これまでの人生で起きた事のない現象に、すわ夢遊病でも罹患してしまったのかと思った彼女だが、次いで自身の顔にある違和感に気が付く。そこで、その後も所在なく伸ばしていた右手を、そっと目元に這わせ確かめると、すぐに答えは分かることになる。


 「へ?な、泣いてる・・・、なんで?」


 タラタラと、顔を伝って涙がとめどなく流れ落ちていたのだ。状況からして、恐らく余程の悲しい夢を見ていたのだろうと彼女は、現実逃避気味に考察する。だが、不思議なことに、泣きながら手を伸ばす程の内容であった筈にも関わらず、肝心の内容をとんと思い出すことが出来なかった。

 

 これまた可笑しなことである。夢というものは、確かに起床後すぐに忘れていってしまう特徴があるが、とても印象的な内容であったりすると、殊の外長く憶えていたりするものだ。

 それが、夢につられて身体も反応してしまう程であればなおのこと。そもそも、忘れやすいとはいっても起きた直後はそれなりに憶えていたりするものなのだが・・・。


 「って、そんな事はどうでもいいか。忘れちゃってるものは仕方ないし」


 そう、一頻り働かせていた思考に区切りをつけ、少し早く起きてしまった為に二度寝をしようと試みるも、思いのほかスッキリと起きてしまった為、数分寝転がっていても眠れる気配がない。


 「はあ、起きるか。」


 いつまで経っても眠気がこない為、彼女、『    』は仕方がなく起きる事にした。

 とはいうものの、さして早く起きた分勉強しようなどという気概は起きず、ただ気だるげにベッドの端に腰かけ、両の手を後ろ手につきながらぼーっとしていた。

 

 そうしていると、不意に思い出し自身の体調を、体温計を取り出して測り始める。それというのも、彼女は昨日の体育の時間、突然酷く具合が悪くなり倒れたので、大事を取り早退したのだ。

 

 その日は丁度何十年ぶりかの、金環日食が日本、それも自身の棲む地域からも観えるという、とても珍しい日だった。その上、NEWSによるとこの地域からならば、より綺麗な形で拝めるという。


 花の女子高生とはいえ、錆び付いた心を持つ彼女は、柄にもなくそれを楽しみにしていた。


 だが、いざその時なると不運にも何故か、日食が始まるにつれ体調が悪くなっていき、完成した金環を目にした途端に倒れたのだ。


 いや、正確には倒れたらしい、だ。本人に覚えは無かった。その時突然、糸が切れた様に倒れたらしく、驚き、急いで保健室に連れていってくれた友人達に、後々そう教えてもらったのである。


 ただ、茶化すように『あの時は重かった』、『重すぎだったよねぇ』、『知ってたけれど、意識を失った人があそこまで重いなんて』と、口々に言ってきたのには、流石に彼女もイラッとした。

 

 音の鳴った体温計を見て、平熱である事を確認していると、やおら太陽が自己主張を強めてくる。


 そのなんて事ない筈の日の光が、カーテンの隙間から自身の顔を照らし出す。思わず其方を向いて眼を細めた彼女だったが、今日はどうも、それがいつもより酷く眩しく感じた。


ーーーーーーーーーーーー

 思いがけぬ早起きをして暫く、朝食の時間となる。彼女にとってこの時間は、毎度の事、心の奥に鉛を仕込まれるような気の重くなるイベントだ。


 ただ朝ご飯を食べるだけ、そう言われればそこまでだが、"母親"に会わねばならない。それこそが、最大の問題点であった。


 別に思春期だから、親に反感を抱いている訳でも、やたらに悪ぶってしまっている訳でもない。

 ただ単純に、"気が付いた"時には家族の仲が冷え切っていて、居心地が頗る悪いだけだ。

 

 彼女の家は、"母親"と子、謂わゆるシングルマザーの家庭となっている。父親は、いない。

 今から数年程前の小学5年生の頃のこと、彼女は大きな事件に見舞われた。何ゆえか、家近くの公園で当時仲の良かった友達と共に、酷い血塗れの状態で見つかったのだ。


 その有様の割に傷口は浅かったそうだが、事件の影響は強かったのだろう。数週間程して目を覚ました際には、これまでの記憶を全て失っていた。


 意識を取り戻した当初、その身に起きた恐ろしい経験からか、支離滅裂とした事を話し、錯乱していた様子だったが、落ち着いたタイミングで記憶喪失が判明した。


 父親は、その時既に居なくなっていた。ある時、つい気になって"母親"に父の事を聴いた所、どうも離婚した訳でも死別した訳でも無いらしい。


 結婚指輪は外そうとせず、お仏壇にお供えする事もない。ただ、『お父さんは、いつも貴女を見守っているのよ。』とだけ言った。普段碌に表情を見せぬ、その時の"母親"の、寂しそうでありながら苦笑する様でもある横顔を、彼女は今でも覚えている。


 

 閑話休題


 手すりを摩りながら、階段を降りる。ゆったりと優雅にも見える歩みは、その実、気鬱からくる足取りの重さからきている。


 そんな彼女の心情をよそに、横合いから声が掛かった。


「朝御飯作ったから、早く来なさい。」


 酷く冷め、聞くものにヒヤリとさせる落ち着いた声色。


 瞬間、心の臓はすくみ上がり、唇からは血の気が失せる。釣られて視野が狭まり、数秒前より自身が縮こまった様にすら思えた。


 なんて事無い筈の声掛け。そう、頭では分かっているのだ。それがごく普通の、どこの家庭にでもある様な、ありきたりなものであるという事は。

 けれど、一度凝り固まった意識は、彼女にさながら"事故で旦那と子が死に、自分だけが生き残った嫁と、姑が二人で暮らしている"かの様な、えもいえぬ重苦しい感覚を与えていた。


「おはようございます。」


 それは、酷く他人行儀だった。とても血の繋がった肉親に向ける代物ではない。


 しかし、それも常日頃。相手もさして気にした様子も無い。彼女は、今日も呪文の様に感謝をし、作業の様に淡々と朝食を摂る。


 2人きりの食事。そこに会話はなく、ただただ無味乾燥な時間だけが過ぎていく。


 今日もまた、味がしなかった。


 湯気がたち、調味料もかかっている筈の料理から、何も感じなくなったのは、いつからだっただろうか。


 やがて意識も朧げなまま、身体に染みついた習慣をこなし、登校の為に家を出る。


 後ろから送られる言葉に、生返事を返しながら。

 


長くなるので1話を分けました。

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