一章 4『妹の名』
「お兄ちゃんお客さん?」
と可愛らしい声が聞こえると同時に、小屋の奥から少女が出て此方にやって来た。
お兄ちゃんって言ってる点からエリシャの妹なのだろう。エリシャに似てとても可愛い、そして童顔に似合わぬ双丘がうかがえる。
しかし言っておこう。女性の価値は胸では決まらない。大かろうが小さかろうが可愛いが一番、可愛いは正義なのだ。
他にエリシャと違う点としてあげるならば、青髪の色が少し明るいところだろう。
「でお兄ちゃんその人誰」
「カイトだよ。今日から僕たちの仲間だよ、此処に住むんだ。なんたって金も帰る家もないらしいからね。」
カイトは驚愕した。エリシャ『僕たちの仲間だ・貧民街に住む』と、とんでもない事を言ってくれたのだ。おまけに俺が「えっいつの間に住むこ……」とエリシャの発言を遮ろうとしたのに、無視してそのまま続けていた。『僕たちの仲間』なんて言ったら一生貧民街に住み続けるみたいに聞こえてしまうではないか。
確かにカイトは協力者の確保をしたいと考えていたものの、異世界にやって来たというのに冒険などもなく貧民街で朽ち果てるのは御免だ。
そう考えつつカイトはエリシャと妹の顔を見ると、笑顔で此方を見つめ『よろしく』と言っていた。
カイトがエリシャと妹を見て「守りたいこの笑顔」と思ってしまったのはふと思ってしまったのは内緒だ。正直こんなにも可愛いエリシャ達が悪いのだ。決してカイトが異常な訳ではない、誰だって同じ反応をするであろう。
とそんなこんなでカイトは貧民街に住む事に決まってしまった。
「ところで君の妹の名前を聞いてもいいか」
妹の名前が分からないのは問題だ。これから一緒に暮らしていく仲間の名前を知らないのは失礼極まりなく、また名前を早く知っておく事に越したことはない。
「紹介していなかったね、この子はティオだよ。是非仲間して欲しい」
「勿論だとも。其れにしてもエリシャに似てティオも可愛いな」
「頼むよカイト、僕のことは可愛いって言わないでくれないかな」
なんだかテンプレになりつつあるやり取りをし、これから何処かへ向かうのだろうか、カイトとティオはエリシャの後ろをついて行った。
「なぁ今何処に向かっているんだ」
「貧民街に住むなら挨拶しておいて欲しい相手だよ。この街のボス的な立場さ」
「そうそう私達の面倒をよく見てくれて優しいだよね」
エリシャの言い方でとても怖い相手かと思っていたものの、意外と優しい相手かも知れないと思い、カイトは少しだけだが安堵した。
この街を統括する人間に目をつけられるのは嫌だ非常に嫌だ。とはいえエリシャ達の紹介があるのだから、その危険性はかなり低いのであろうというのはなんとなく分かる。
しかし偉い立場の人間と会うというのはどうしても緊張し、悪い展開を考えてしまうものだ。
「あぁ分かった。確かに此れから住むんだししっかりと挨拶しておかないとな」
「そういう事だよ、カイト兄」
いつの間にかティオから兄と慕われる様になってしまった。カイトは『そんな慕われる様な事があったのか』と考えつつ、エリシャ達と共にそのボスと呼ばれる人の元へ向かうのだった。
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貧民街に存在する建物としては少々立派な建物に近づいて来るとエリシャが口を開いきこう言った。
「さぁカイト着いたよ。此処がこの街の中心ヴィレンの館だよ。本当は館って程大きくはないんだけど、この街にある建物にしては大きいから皆んなこう呼ぶんだ」
「確かに歩いてきた道沿いにあった家に比べたら大きいな」
そう言うとティオが間髪入れずにエリシャの情報に付け足していた。
「大きいからこの街の皆んなが良く集まるんだよ」
思い返してみるとこの館に来るときにもこうやってすかさず付け足していた様な……やはりティオに慕われているのか好かれているのか、カイトは少しばかりそのことが気掛かりになった。其処迄慕われ好かれても対応に困る。この世界に来る前、カイトは普段から結衣や彩奈に振り回されっぱなしで、いつも言われるがまま対応を行っていた。故にティオに対してもどう対応していくべきなのか、「今後頭を悩ませる原因にしかならないな」と少しばかり放心状態になっていた。
因みに『ヴィレンの館』と呼ばれる建物は、木材が中心で組み合わされた見た感じ二階建てのまるで西武劇に出てくるかの様だ。そして何より貧民街の建物にしては立派だ。
しかしエリシャはその建物の前に立って一向に入ろうとしない。この街の中心の建前だし何かしら理由があるのだろうか。不思議に思い問うのだった。
「エリシャどうした入らないのか」
「そうだね。少し待っていてくれないかな」
そう言うとエリシャは扉に近づきノックをした。
すると扉の奥から「この街に住むなら」と問い掛けがあった。
部外者を簡単には通さない。この街としての意志の表れだろうか、扉を開けるには『合言葉』が必要らしい。
問い掛けの後エリシャは「夢と希望を持て」そう答えると、扉は開き其処には大男が佇んでいた。
うぅぅ…このままではエリシャがヒロイン(?)になってしまう気がする。
よしヒロインを一章2に追加しておこう。