一章 3『和解』
唐突に襲われ、カイトは勢いよく倒れた。
「痛え…… クッソいきなり何しやがる」
と言いつつ、カイトは馬乗りしてきた相手の顔を恐る恐る見ようとした。
視界の端で顔を確認すると、其処には長い青髪の美少女がいた。
本能的に「うわっ可愛い」と呟くと、「僕は男だ」と聞こえた。
しかし僕っ子も十分可愛いと前々から思っていたカイトは「僕っ子も良いよね、いやぁ可愛いな」
スマホと取り戻すという目的すら忘れ、目の前にいる美少女(?)に目を向けていた。
「いや、だから僕はオ・ト・コ男だから、僕のことは可愛いとか言わないでくれないか」
「うんうん、僕っ子最高、いやぁ男だなんて信じ……ん? 男だって⁉︎」
明らかに目の前にいるのは美少女(?)だ。
結衣や彩奈と比べても十分対抗出来る程可愛い。実際にカイトはスマホを盗んだのは少女だと思っていた程だ。
故にスマホを盗んだ美少女(?)が男だったという事実に、カイトは自分の目が信じられなくなった。
「嘘は言わなくても大丈夫だぞ……」
「いや男だから、てか人の家の前で何をしてるの」
声もなんだか女性ぽっい。しかしこの事を言えばまた訂正されそうなので、此処はスルーして本題に入ったのだった。
「今回来たのは他でもない。スマホを返して欲しいんだ」
「スマホってなんのことだ?」
意外にも話は聞いてくれる様で、カイトはほんの少しだが安心をし、惚ける美少年に対してしっかりと追及をした。
「いや、昼前に広場で俺からスマホを盗んだだろ」
「ん〜なんのことかな、分かりかねるよ」
「うぅはぐらかして……薄くて長方形の物を広場で盗んだだろ」
「あぁ、もしかして此れのことかな。良いよ返すさ、丸い所や出っ張りを触ってもイマイチよく分からなかったし」
なんだか一度はぐらかされたものの、案外素直に返してくれて此れは此れで拍子抜けというものだ。
とはいっても早く取り戻せる事に代わりないならこの方が良い。
スマホを取り戻し安堵し早速スマホを操作していると、美少年が声を掛けてきた。
「おい、お目当てを取り戻したらもう無視かよ。普通はそうだろうけど、無視は寂しいなぁ」
という声も聞けえぬ程カイトはやっと取り戻した熱中していた。
基本的に暇ならばスマホを触り続けるカイトにとっては、異世界に来てスマホと離れ離れになっていたのは精神的にもかなり堪えていた。
美少年は「ねぇ……無視しないでよ」と言いながら肩をツンツンと突いている
この様な行動をしてくると、本当に男なのか益々怪しくなるというものだ。
ついつい意地悪したくなってしまう。
しかしやり過ぎるのは禁物だ。異世界で生きてく上で、やっと協力してくれる可能性のある人間に出会ったのだからだ。
「ん?どうしたの。そうだ名前なんていうの」
そう声を掛けると返事がない。やはり拗ねてしまった様だ。本当に男なのだろうか、拗ねている姿がとても可愛い。
「ごめん、無視して悪かった」
反応をしてくれない……とはいえムッとした表情が非常に可愛い。
ずっと見ていたいと思いつつも、その気持ちを抑え何度も謝った。
するとやっと反応をしてくれた。
「そうだね、僕の名前はエリシャだよ。てか君の名前も教えてくれるよね」
「もっ勿論だとも」
自分の名前を教えるのを忘れていたなんて口が裂けても言えないな、と思っていたのは内緒だ。
「俺はニシナ・カイトだ。ファミリーネームっていうのがニシナの方だからカイトって呼んでくれ」
「ニシナ・カイトか……珍しい名前だね。どこ出身なのかなニシナ君」
「俺の住んでた国は日本っていう極東にある島国だ」
「日本か……聞いた事がないな。そもそも東に島国なんてなかった筈だけど」
エリシャは手を顎にやりながら考える様な仕草をしながら言った。
やはりカイトが異世界に来た事は事実だった様だ。
「やっぱりそうか……いや日本は気にしなくても大丈夫だ。忘れてくれ」
「う〜ん気になるけど、忘れることにするよ。
でもそろそろ家に帰った方がいいんじゃないかな、暗くなると帰りにくくないかい」
「そのだな……金無し、身寄り無し、帰る家がないんだ」
カイトは自分の置かれた状況を少し恥ずかしむ様に教えると、エリシャはもの凄く驚いた様子で此方を見ていた。何かしらエリシャの地雷を踏んだのだろうかとても不安になる。
「そんなに驚く事か?」
そう言ってみてからふと思う。普通に考えて金無し、身寄り無し、帰る家無しというのは驚いて当然だということに……
そんな事を考えているときに驚きの提案を受けた。いや貧民街であるという事を考慮すれば、然程驚く提案ではないかも知れない。
「ん〜じゃあ此処に住む?金無し、家無しなら貧民街に住むのが良いと思うけど」
「えっ良いのか⁉︎ 勿論そうさせて貰うよ」
エリシャに余り乗り気ではないと見破られ此処で見放されるのは厄介だ。
正直なところ王侯貴族やなんらかの組織のお世話になるのが楽な所だが、そういった事が起きそうにない以上貧民街に住むのは決して悪手とは言えないだろう。
そういった事を考慮しながらカイトは少しばかり食い気味に返事をしたのであった。
「じゃあ今日は家に泊まると良いよ。狭いけどもう一人くらい余裕さ」
エリシャが今迄見た中で最も良い笑顔でそう言った後小屋の中から、
「お兄ちゃんお客さん?」
と可愛らしい声が聞こえた。
正直に言ってサブタイトルとか適当なんですよね。
なんたって良いサブタイトルが思い浮かないのです。