一章11 『脅されました?』
結局申し出を断ることが出来なかったカイトは、オリヴィアと行動することになった。
現在はオリヴィアの希望により、お洒落なカフェに移動することとなっている。
カイトはお金がないから辞めて欲しいと建前上お願いしたものの、「なんですか。私がお願いしたのです。料金は全て持ちますよ」と一蹴された。本音を言えば、『異世界のカフェに行ける機会を逃してなるものか!』と思ったから意外にも嬉しい申し出だ。
カイトらが進んでいる大通りには店なども多く活気に溢れている。パラソルが置かれた店舗も多い。二人は通りの一角にあるカフェに入店した。
カイトはパラソルの席に着きたかったものの、オリヴィアが断固として拒否した。仕方なく奥の席に着席した。
「貴方は何を飲まれますか」とメニューを差し出しながら言った。当然メニューを受け取るのだが……カイトは言葉は分かるのに文字を読めないのだ。またもや意図せずピンチが訪れてしまった。避ける為にメニューを見るふりをしつつをコーヒー選択した。「えっ……」という声が聞こえオリヴィアの方を見ると目を点にして驚いていた。
「コーヒーなんて最近新大陸で発見された高級品ですわよ……きちんと其れをご覧になりまして?」
どうやらカイトはやらかしてしまった様である。コーヒーならば問題が無いと思っていたのに、カイトに再びピンチが訪れた。それよりも何故ヴィレンがコーヒーを所有していたのか、益々気になり、言い訳を考える暇もなかったカイトに冷たい声が浴びせられた。
「まさかですけど文字がお読めにならなくて?」
其れは一番避けたかった言葉だ。異世界から来たと知られれば何をされるかはわからない。寛容に受け入れてくれるのか、はたまた極刑にされるのか。其れを避けるためにはやはり隠すしか無いという結論にカイトは至った。ただ行き当たりばったりの言い訳しか出来なさそうである。
「いやぁ……恥ずかしながら文字が分からなくて」
「非常に珍しいお方ですね。文字も読めずあれだけの体内魔力がありながら魔法もろくに使えないとは」
「そうなんだよ。文字も読めないし、魔法も……」
この少女今なんと言ったのだろう。魔法が使えない……何故そのことを知っているのだろう。普通自律組合の事を見ていたのならば魔法が使えると思うものでは無いのだろうか。
「あら今何故魔法が使えない事を知っているのかと考えていませんか」
汗がカイトの顔中を滴っている。カイトの脳内は高速でこのピンチを回避するためのアイディアを考えている。当然身の丈に合わない行為をしているため今にもショウトしそうだ。
「あらあら忘れてしまったのですね。私が怪我をした貴方を治して差し上げたのに」
カイトの頭には一瞬『?』が浮かんだものの、その事がいつの事なのかは直ぐに分かった。スマホを取り戻す為に貧民街へ向かっていたカイトがぶつかった相手だったのである。
(なんだこの少女魔法が使えなかった俺のことを不思議に思っていたのか)
「また失礼なことを考えていませんか」
そしてこの少女は勘が冴えることを忘れていた。今更に不興を買うのは悪手だ。本当に扱いにくい。(もういやだ、早く帰りたい日本に帰りたい)と少し涙目になっていた。
「そんなに怯える必要はなくってよ。オリヴィア私の名前はオリヴィアよ。貴方に何があって出来ないのかは聞かないから、そんなに怯えたりしないで」
「はぁ……聞かれないのは嬉しい申し出だけど」
聞かないと言ってくれるのは本当に嬉しい。そっと息を吐き安心をしていると、「私が名乗ったのに貴方は名乗らないのですか」と横槍が入った。
緊張から少しばかり解放され、人が安心をしているのにも関わらず横槍を入れてくるのはやめて欲しい限りだ。
(あらあら慌てて本当に可愛い。私の使用人にしてしまいたい)
「えっとオリヴィアさん。俺はニシナ・カイトだ。ニシナが家名だからカイトとでも呼んで欲しい」
「さん付けをする必要はなくってよ」
「いやオリヴィアさん。さん付けは普通か……」
「オリヴィア」
「あのオリヴィアさ……」
「オ・リ・ヴ・ィ・ア」
「オリヴィア……」
「素晴らしいですね」
オリヴィアの髪先が風もないのに揺れているのは気のせいだろう。
オリヴィアとカイトは結局紅茶とケーキを注文し会話をしていた。とはいえ一方的に聞かれているだけなのだが。
会話も落ち着きカップの紅茶が残り少なくなった頃、カイトは一応ヴィレンのことを聞いてみることにした。
「なぁオリヴィアはヴィレンについてなにか知ってるか」
オリヴィアは残りの紅茶を飲み切るとゆっくりと話し出した。
「ヴィレンについて知らない人間はほぼいないわ。元近衛騎士団副長であり、一度崩れかけた自律組合の長となって建て直しに尽力した事で有名よ。でも数年前突然辞職したらしいわ。理由に関する噂は多いのだけどね」
オリヴィアから聞いた限り、どうやら辞職した理由は公にはされていない様だ。ヴィレンに直接聞くのも良いが教えてはくれない気がする。
「では帰りましょうか」と言いオリヴィアは二枚の銀貨を取り出した。カイトも紅茶を飲み干し、「今日はありがと」と言い残し立ち去ろうとした……のだがカイトは絶賛脅されていた。
「お待ちになりなさい。『いつかこの借りは返すぜ』とどっかの誰かさんは言っていたわね」
カイトの額からは汗が滴り落ちている。
「いやぁそろそろ帰らない……」
「まさか帰るのですか。借りを返すことなく」
言葉に少しばかりのトゲがある。(もういやだ。帰らせてください)の言葉が脳内を駆けずり回り、プライドなんて捨てて、土下座をしてでも帰ろうとしていた。
「私を貴方の住まいに連れて帰りなさい」
冗談でもない。何故に脅してくる人間を連れ帰る必要があるのか。キッパリと拒否をしておいた。
「私が魔法と文字を教えて差し上げる……と言われても断りますか?」
自分でもよく分かる。素晴らしい程の手のひら返しだったと思う。
オリヴィアを無視して、しれっと立ち去ろうとしていたのにも関わらず、カイトは既にオリヴィアの手を引いていた。
(これで俺もやっと魔法使いに……異世界最高!)
早く魔法を教えて貰う為、「よし、一緒に帰ろう」そう話しかけ帰宅を急いだ。
次回か次々回には『未来視』を登場させたいなと。




