目覚めにおはようはなく
ぼんやりと、まぶたの裏から光を感じる。朝だ。しかしさわやかな目覚めとはいかない。頭痛がする。ガンガンと、痛みが頭蓋骨に響きまくっているような感覚だ。吐き気もうっすらとある。これは完璧に風邪だ。こんな体調の日には、家で寝ているのが1番だろう。……何かを考えようとするだけでも苦しい、このままベッドで2度寝を─────
いや待て。背中に感じるのはベッドの反発ではなく、冷たい床だ。寝ぼけてベッドから落ちた……とも思えない。そもそも自室にはカーペットが敷いてある。しかし昨夜の記憶が正しければ、自分はしっかり自室のベッドで寝たはずだ。とすればここはどこなのか。昨日の行動におかしな所はなかった。
つまりこれは、夢だ。まどろみの中の、変な夢なのだ。2度寝すれば、次はベッドで目覚めるに違いない。しかし、頭がきしむような頭痛のせいでなかなか眠れそうにない。それに、だんだん人のざわめきが聞こえてくるような……
そういえば、まだ周りを確認していない。床の上で寝ているなんて、一体どんな夢なのか。僕は、上体を起こしながら薄目で周りを見回した。
周りには、人、人、人。そう広くない室内に、数十人が立っていた。そして、起き上がった僕を見るなり─────
「ああ!転移者様がお目覚めになられた!」
「これで全員目覚めたのか!」
「やっと……やっとこの国が救われますのね……!」
……僕が起きた途端、何やら大騒ぎし始めた。抱き合って喜んでいる人達や、祈りながら涙を流している人もいた。内容はともかく、夢にしては変にリアリティがある。
僕は目の前の事に呆気にとられて、ぼんやりと突っ立っていた。
「転移者様!さあさこちらに!」
「我らがお守りいたします!」
知らない人に、されるがまま手を引かれ、その周りを鎧を着た……有り体に言えば騎士のような人達に囲まれながら移動している。移動中に気づいたことだが───目覚めた時は人がたくさんいたせいで気づかなかった───この建物の内装はなかなか豪華だ。床と壁は大理石のようなもので作られており、所々に精巧な石像が、上には豪華なシャンデリアが……といった具合に。まるで王族の住む宮殿のようだ。自分の夢にしては細かい所まで作りこまれている。
そんな呑気な事を考えている内に、どうやら目的地についたようだ。ずっと握られていた手が解かれる。
「奥で国王様がお待ちです。他の転移者様もいらっしゃいます、どうぞお入りください……あなた達は入口の警護を」
「はっ!」
連れてこられたのは、どこからどう見ても普通の木の扉の前。国王がいそうとは思えないが、ここで逃げ出すわけにもいけないし、さっきから何回か聞こえている転移者……という言葉も気になる。相変わらずリアルな夢だが、夢なら夢なりにとことん楽しみたい。
僕はドアノブをひねり、扉をゆっくりと開けた。




