端書、その五 異邦人の春に洛陽を
「宇宙人はいるが、その存在に気づいていない」
物理学者 エンリコ・フェルミ
「1986年アラスカ上空で日航機から目撃されたUFO、1989~90年にベルギー上空で何度も目撃された三角形型UFO、1976年イラン・テヘラン上空で目撃されたUFOについては、UFOの実在を認めるしか説明のしようがない」
理論物理学者 ミチオ・カク
「今後の地球での生活は、食糧不足や環境破壊によって困難になるだろう。このような状況に陥ると、私たちは地球以外に住むことができる惑星を探そうとする。しかし同じような考えを持っている宇宙人も存在しているのだ。なので、もし彷徨っている宇宙人が私たちと出会ってしまえば、私たちは宇宙人に侵略されてしまうだろう」
理論物理学者 スティーブン・ホーキング
「宇宙人は何千年も前から地球を訪れており、我々の科学技術の進歩は宇宙人の恩恵によるものだ。UFOは頭上を飛んでいる飛行機と同じくらいリアルだ」
元カナダ国防大臣 ポール・ヘリヤー
「日本の上空に、UFOはウヨウヨいます」
軍事評論家、元幹部自衛官 佐藤守
「銀河には三段階の知的レベルがあって、私たち地球はまだ一番下にある。現在、高い文明のエイリアンたちが地球に飛来して我々の観察をしている。彼らが地球を侵略すれば、地球文明は崩壊し、五千年前の状態に戻るだろう。そうなれば、彼らは新たな“アダムとイブ”を送り込み、私たちは再び最初から文明をやり直すことになる。地球文明は、そのようなことを過去四、五回は繰り返してきたのだ」
第2代ポーランド共和国大統領 レフ・ヴァウェンサ
「エリザベス女王は人間ではない、変幻自在なレプティリアンだ。目の前でエリザベス女王の顔が変化するシーンをみた。彼女には気をつけろ」
第4代ロシア連邦大統領 ウラジーミル・プーチン
「アメリカ政府は1940年代から今に至るまで宇宙人の存在を隠蔽している」
アポロ14号の宇宙飛行士 エドガー・ミッチェル
「エイリアンはいますかって? えぇいますよ。私は毎日鏡でその顔を見ています。我々は自分たちが誰か別の者だと思っていますが、我々は外界からやってきた異星人なんですよ。生存を賭けて地球に降り立ち繁殖したんです。私はその説を信じていますね。もし私のことを信じられないなら、古代シュメールの書物を手に取ってみてください」
アポロ15号の宇宙飛行士 アル・ワーデン
「『エリア51』を調べたが、エイリアンはいなかったよ」
第42代アメリカ合衆国大統領 ビル・クリントン
「確かに、私はこの件に関する簡単な会議にも出ました。彼らはUFOを見たのだと言うけれど、私が信じるかといえば、まあ、特に信じないね」
第45代アメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプ
「地球のマントルの中に、人類よりも知能の高い種族が存在している」
元アメリカ国家安全保障局 (NSA) 、元中央情報局 (CIA) 局員 エドワード・スノーデン
「もし、超知的生命体がいるのなら、彼らはもう地球人を観察していると思う。しかし、人類はそれに気づくほど賢くはないのだ」
テスラCEO イーロン・マスク
☆
’三六年〇四月一八日(約束の日まで、あと二〇七日)
岸壁に泊まったプレジャーボートが、波に揺られて時折ぎしぎしと音を立てている。
人からの餌を求めて、カモメとハトの群れが混在する港……とはいっても、そこは神威川河口から少し上ったウォーターフロントであった。
夕陽が落ち往くのを眺め、異国の旅人然とした男たちが三人。四隅に天之四霊を象ったブロンズ像が立ち並んだ、神威川をまたいで中心街へと繋がる鶴舞橋の袂――観光客相手のフィッシャーマンズワーフが隣接する護岸の縁に“彼ら”は佇んでいた。
「これは見事!」
肩までかかる長いブロンドの髪をかきわけながら、一番長身の若い男が海に沈み行く落陽を眺めて一人感慨に酔いしれている。
「もう、つまんないよ……寒いし、早く終わらせて帰りたいんだけど?」
深く被ったニット帽をさらに押さえつけながら、中でも一番背が低い少年が呟く。
「ジュエル君、キミはもう少し情緒を味わうといった品性を持たなくてはいけません。見てご覧なさい、この素晴らしき景色を! まさに、これこそ“地球の美”というものではありませんか!」
「別に、僕たちは観光に来たわけじゃないし……」
ブロンドの長髪に『ジュエル』と呼ばれた少年は、説教じみた彼の言葉に少し膨れっ面になった。
「ねえ、ハヤト。まだかかりそう?」
仕方なく、もう一人の日系に近い風貌の男子に声を掛ける。
「うーん……ジュエル、もう少しスタンと遊んでいてくれないかい? 目標の捕捉に、少々手間取りそうなんだ」
(生体反応は生きている……ということは、やはり時間かな? “人の想い”を繋ぎ留めておくには、一年は少し“長過ぎた”ということか)
その彼は、先ほどからタブレット型の端末を手にしてひたすら操作に集中していた。『ハヤト』と呼んだ青年にそう言われて、ジュエルは渋々『スタン』と呼ばれた長髪ブロンドの方へと再び赴く。
「ねえ、スタン。ソフトクリーム食べたくならない? あそこの『ペティジョイ』って店のが、“超うまい!”ってネットに書いてあったんだよね!」
「ジュエル君、キミは先ほど私に『寒い』と言っていませんでしたか?」
「……ああ、そうね」
「ジュエル君、私の記憶が確かならば、キミは私にこうも言ったのですよ。『我々は、観光に来たわけではない』と」
「……もういいよ」
ジュエルはすべてを諦めた。
「あのね、ジュエル君。神威市は、“亜瑠坐瑠の亜瑠坐瑠による亜瑠坐瑠の為の亜瑠坐瑠の街”なのです。さしずめ『結界都市』……と、いえば理解できるでしょうか?
たとえば、『グレイ』に代表されるリゲリアンやレティキュリアンはもとより、昆虫型のインセクトイドらには決して侵入することのできない“彼らだけの聖域”。しかし、それ以外の者……我々ノルディックやレプトイドのように、一見“人の姿”をした者には、その効果は無に等しい――そのことは、ハヤトが身をもって証明してくれました。
でもね……そんな我々とて、この地に一歩踏み入れたた途端、『異邦人』と判断されてしまう。ただこうして立っているだけでも、非常に目立つ存在なのですよ」
スタンは七十年代の映画俳優ばりに係船柱に足をかけ、マドロススタイルで夕陽に煌めく水面を見つめながら語った。
「わかってるよ、スタン……彼らからしたら、僕らは『ガイジン』ってことだろ?」
「この辺りにはロシア人や外国人観光客も多いからね。入り込むには多少手間取るけど、一旦入ってしまえば、表向きはそれほど気を使うこともなかったさ……」
タブレット端末を操作しながら、ハヤトは二人の会話に割って入る。
「よし、目標を捕捉した。まあ、あまり“派手に動かない”……それに越したことはないけどね?」
三人は向かい合うと、これからの段取りを確認し合った。
「――では、当初の予定通りに。私はそこの植物園で、人目につかぬよう『空間転移の元座標』を作成し、簡易的な『門扉』を開いておきます」
そう言うとスタンは、早速持っていたキャリーバッグを開き始めた。
「転移先は、八百メートルほど沖合いに停泊中の貨物船『ヴォストーク号』でよろしいですね?」
「ああ、OKだ。僕らと目標が共に転移した後、それで横須賀まで行く手筈になっている。厚木から米軍機に乗り換えたら、日本とはしばらくオサラバかな?」
ハヤトはタブレットを片手に説明に加わる。
「では、ジュエル君は――」
「僕は、目標の護衛も兼ねてハヤトと一緒に行くよ。スタンとここに残っていても、つまらないだけだし」
「実に率直な意見をありがとう。いいでしょう、ただし時間厳守でお願いします。座標作成に三十分、門扉の空間維持に一時間……これから一時間半がタイムリミットです。皆さん、くれぐれもそのことをお忘れなく」
「乗ってきたボートは、このまま置いていくの?」
「もちろん、ここに放置しておきます。我々が使用した証拠などどこにもありませんが、無事に脱出が叶った場合はリモートで爆破します。
まあ、不測の事態にでもなれば話は別ですが、その場合は陽動にも使えることでしょう。
あと、この街ではスマートフォンの使用はできません。何度もいいますが、ウォーキートーキーでの連絡は密に願いますよ」
「じゃあ、そういうことで……そろそろいこうか?」
互いの顔を見やると三人は向かい合い、それぞれの右腕の二の腕を掴み合って三角形を形作る。
「「「グット・ラックを!」」」
「遥夏に会うのも一年ぶりか……」
そう呟くと、ハヤトは夕暮れ時の繁華街へ向かって、ゆったりと歩を進めていった。




