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代官の到着と異変

「来たぞ。領主様の代官様だ」


そう言って俺に土下座を促すのは父であるジェンドだ。


その姿は主である領主様サイドに絶対服従の姿勢であり、ジェンドの妻で俺の母であるカシームスもそれに倣っていたので俺も文句を言わず土下座をしながらダンデンビッツ男爵もとい領主様の代官である者達を向かい入れるために土下座をして待つ。


そこは村の入り口でもある広場で代官の到着の知らせを受けて全ての村の人間が集まっていた。


その数は大人が四十人、五歳より上の子供が十五人、五歳以下の子供が五十人ほどだ。


我が家は二世代だけでしかも子供が俺だけという村の中では一番小規模な家族であるが他のところだと三世代や四世代の家族が多く、若い子供が多い。


これは俺の父と母がもともとここの生まれでは無い農奴であるからと他が子だくさんなのは働き手を増やすためと戦闘奴隷を増やすため、そして売れるような見目のいい奴隷を増やすためだ。


今いる五歳以下の子供の二割は残念ながら死んでしまうし、跡継ぎにするための子を除いてほぼ全ての子が栄養失調であるために泣き叫ぶ元気すらないありさまだ。


しかしこれが間違いないこの世界の農奴の実態であるし、病気や流血沙汰が起こらない分他の場所で誰かの持ち物になっている農奴よりは環境がいいかもしれない。


それゆえかここの農奴たちは穏やかでもあり、現状に満足している節があり、より良い改善をする気も無くただ無気力に毎日を過ごしているが前世の記憶を持つ俺からしたらこの生活を永遠と続けることは我慢ならない。


そのチャンスがこの代官ご一行イベントなのだ。


「うむ、全員揃っているな」


武装した人間十人と馬車が到着するなり馬車から降りた人物が声をかけてきた。


年齢は四十代ほどか、少し老けた顔つきをしており苦労性を感じさせる表情をしているが生気に満ちている。


服は小奇麗であり、今の流行りなのか青染めのローブのようなものを着ていた。


靴も足袋のように足首から脛も一体になるようなブーツに装飾を施した綺麗なものを履いていることから代官の中でもかなりの人物が今回来たようであった。


また体の周囲を纏うオーラが周りと違うことから周りの人間と比べても魔力の総量が違うことが一目で確認できた。


「村に来て早速だが子供の検査をする。大人たちは我々の積み荷を館へと運び入れろ」


そう言って指示を出し、それぞれが動き出す。


そんな中五歳未満の子供達は基本的に自由であるのでその多くが大人たちの邪魔をしないように一か所に集まっていた。


代官様が来るときは大人しくしていろと口を酸っぱくして大人達に言われているのもあるがいつもは村に居ない者達がいるときは緊張してしまうものなのでこうして一か所に集まって息を潜めてことが過ぎるのを待っているのだ。


「しかし改めて見ても全員見事に太ってるな」


栄養失調の子供は総じて腹部が肥満のように膨れ上がる。


膨れない者達はそのまま死んでいくので生き強い者だけがこうして残っていく。


そしてその子供達の髪だが茶色と黒色が多く、俺のような金髪系はいない。


また俺は普段から村の周りを走りまわって運動しており、さらに村の外で拾い食いをしているため農奴の子供の中では体格も良く、魔法で水を出してある程度小奇麗にもしている。


「む?お主変わった姿をしておるな」


それゆえに目立ってしまうのか代官が俺を目ざとく見つけたようだ。


思わず心の中でガッツポーズをしたが続く言葉で凍り付いた。


「まさか村の作物を食べている訳ではあるまいな?」


その言葉を聞いた瞬間俺の周りに空間が空いた。


周りに居た子供達が機敏に俺から距離を取って代官への道を開けたのだ。


俺は慌てて代官に向かって土下座をするもこういう展開になるとは予想していなかった。


そりゃあ、他と違う体格の子供がいたら真っ先に疑うのはダンデンビッツ男爵の畑から食料を奪うことが最も容易い方法であるのは間違いないのだ。


俺は自分の迂闊さを心の中で呪いながら、どう代官に説明しようかと焦りながらも考え始めていたときであった。


「ゴブリンだ!ゴブリンの群れが現れやがった!」


武装した人間……恐らく戦闘奴隷達を指揮する立場にある役職持ちそうな金属の装備を纏った男が村の外を見ながら叫ぶ。


全員が思わずそちらを向くと村の周囲は草原であるにも関わらず遠くで砂塵が巻き上がっており、ゴブリンが地面を踏み鳴らす音が小さくもここまで届いていた。


代官は俺のことを忘れ、額に汗をにじませながら呆然としつつも言葉をもらす。


「なんという数だ……。我々が村に来る日に限って……いやもしかしたらそれが原因か。総員戦闘準備だ!農奴も農具を持って集まれ!ゴブリン達を殲滅する!」


その言葉を発した代官から魔力の動く気配がしたことから魔法使いであることが俺でも分かった。


しかし他の戦闘奴隷は僅かに動く者はおれど意識的に動かせる者はおらず、魔法使いは代官だけのようだ。


つまり代官一行を含めた村の戦力は大人子供合わせて百十六人。


対してゴブリンは地平線を埋め尽くさんがばかりにこちらに向かって来ている。


「ここで村滅亡イベントはシャレにならんだろ」


思わずそう呟く俺の手の平はべっとりとした手汗で溢れていた。

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