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小鬼達の恐怖

視点が切り替わります。

***


「グルァ……」


草原の中にある茂みの一つに岩場のある地帯がある。


そこは凸凹と影や浅い洞窟のある場所でもありなおかつ草原の草も生えるところで住処にするには丁度いい場所であった。


ゆえにそこは少なからず知能を持つ生命体であるゴブリンが縄張りにしている地帯である。


「グゥゥ……」


そこに一際体の大きなゴブリンがいた。


そのゴブリンは図体のわりに暗いところが好きであり、体を縮めるようにして息を潜めて岩場の影に隠れており、そのゴブリンが臆病な性格であることを示していた。


そしてそのゴブリンは今、悩みを抱えていた。


最近自分の群れのゴブリンの数が減っているという悩みだ。


その悩みの原因は既に判明しており、どうやら近場の人間の村の周辺に行ったゴブリンが居なくなっていることから人間が力をつけてゴブリンを狩っていることはいくらゴブリンの知能でも想像するに難く無かった。


臆病な性格ゆえにそのゴブリンは自ら狩りには参加せず、自分の群れの者達に狩りをさせていたのだがこうも数を減らされてしまうと群れ自体の存亡の危機を考え始めなければいけなくなってきたのだ。


怖い、戦いたくない、ずっと穴の中で群れの者達が運んでくる食事を食べてのんびりと過ごしたい。


そんな想いをゴブリンは抱えていたが今日もやはりゴブリンの数は減っていた。


それも日に日に減る数が増えていたのだ。


ゴブリンの胸の内は焦燥感に溢れていた。


そんなときであった。


「ギイイイイィイイッ!」


耳障りな奇声を発しながらゴブリンが数匹慌てて岩場へと駆けつけてきた。


そしてそのゴブリン達はしきりに体の大きなゴブリンを動かそうと手足を引っ張って来たので何事かと思って体の大きなゴブリンは立ち上がってゴブリン達が指さす方を見た。


そこには武装した人間の集団がいた。


木の箱の乗り物を囲うように前後に楕円を描くようにしてそれらは人間達が使う土の道をゆっくりと歩いている。


それだけではない。


街道近くの魔物をその武装した人間達が猛烈な勢いで狩りつくしていたのだ。


そこにはもちろん群れのゴブリンも多く含まれていた。


「グヒィィイイッ!」


体の大きなゴブリンはとてつもない恐怖を抱いた。


その武装した集団に自身すらも滅ぼされてしまうのではないかと。


しかしその武装した集団は大きなゴブリンに気付くことなく人間達の住む村の方へと入って行った。


「グヒィ……ヒィッ……」


しかし体の大きなゴブリンの恐怖は僅かにも減っていなかった。


ただでさえ力をつけていた人間の村に武装した人間が追加されたのだ。


群れの全滅までもはや一刻の猶予も残されていないと判断した体の大きなゴブリンは直ぐに判断を下した。


「グオオオオッ!!」


周辺の草が吹き飛びそうなほどの大きな咆哮を上げる。


その声を聞きつけた群れのゴブリン達は何事かと大きなゴブリン達の下へと集まった。


その数はゆうに三千をも越える数であった。


恐怖、怯え。


その中に浮かぶ怒りと決意を見たゴブリン達は体の大きなゴブリンが指差す方を見る。


そこには人間の村があった。


ゴブリン達は理解する。


攻撃する目標は人間の村であると。


ゴブリン達は歓喜した。


今まではこの体の大きなゴブリンによってあまり村に近づくことを禁止されていたからだ。


それは体の大きなゴブリンが人間を恐れてこうした戦いになることを嫌がったからである。


どうしても血気盛んなものや性欲の強いゴブリン達が誘惑に負けて村に近づくこともあったが基本的に近づくことができなかった。


もともとゴブリンは好戦的な魔物でありながら人間の女を攫っては彼らの子供を孕ませ、さらには人間を食べる習慣すら持つ危険な魔物だ。


ゆえに彼らは歓喜した。


本当の狩りが解禁されたのだ。


凄まじい歓声を上げながら我先にと一目散へと村へと走る。


そこにある草やその他の魔物達など関係ない。


目指すは人間の村。


そこには食料にもなる野菜や穀物、何より群れの個体数を増やすという群れの維持に必要な人間も住んでいる。


もはや彼らは止まらなかった。


そして体の大きなゴブリンも止まらなかった。


「グオオオオッ!」


叫びながら恐怖心を抑え込むと本能が求めるままに村へと走り出す。


小柄な他のゴブリン達に比べ如何せん動きが遅いが草原の大地を踏むと大きく凹むことからその力強さは他のゴブリンと比べ物にならないものを有していた。


周囲に軽い地響きを起こし、それを受けたゴブリン達は少し体をよろめかせながらもそれを起こしたのが自分たちの群れの主だと分かると先ほどよりも狂喜して村へと駆け出す。


こうしてダンデンビッツ男爵領の農奴村落にかつてないほどの危機が訪れようとしていた。


それは新年の迎える月の日。


未だ寒さの残る農奴村落唯一の祭りともいえる領主の代官が村へと訪れ、生まれた農奴の子供の適性を検査する日。


そしてジェームスが四歳を迎えた年の日の事であった。


***

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