成長する三歳児
「あら?ジェームス、その野草はどうしたの?」
帰ってくると家にはもう母であるカシームスがいた。
夕飯の準備のために母親の方が先に帰って来て作るのはよくあることなのでその時間に合わせて俺は帰って来たのだ。
ズボンの中には魔石が五つ入っており、ゴブリンから奪った布でくるんである。
ちなみにゴブリンの布はとてつもない異臭がしたので水溜りである程度洗ったらすりつぶしたベリーと匂いのいい草をすりつぶした物で臭い消しをしてようやく使用可能レベルの臭さになった。
「村の柵の直ぐ外に生えてたから拾ってきたの!」
子供の演技をしながら野草を母に渡すと困ったような顔をしながらも土臭い頭を撫でてくれた。
ちなみに俺の母親の髪の色は茶色であり、父は黒で、何故か俺は黄土色のような金髪だ。
髪色のことを聞くと確実に地雷であろうことは間違いなく、家族の雰囲気が深海のような闇となるに違いない。
母のカシームスも父のジェンドも明らかにオーラが見えたりだとかオーラを動かしたりだという魔法の才能が無いからな……。
「あまり村の外に出てはいけませんよ。外には魔物がいるのですからね」
そう言って諭す母ではあるが手に持った野草を大事そうに抱えているのでやはり食料は貴重なのだ。
今度は臭い消しに使ってしまったベリーも持って帰ることにしよう。
俺に料理何てできないし、ましてやコンロや良く切れる包丁すら無いのだからこの世界で炊事をこなすのはとてつもない労力が必要なのだ。
なのでここは食料を母に渡すのが一番手っ取り早く、より美味しい食事にありつけるというものである。
「さて……持って帰った魔石はこの玩具箱の中に隠すとして……」
まあ、玩具箱と言っても使い古したボロボロの箱をお隣さんにもらっただけの物なので穴も開いていればささくれだってあるので誰も触りたいとは思わないだろう。
物置小屋のような家で個人の物はこれだけしか許されないほどのスペースしかない。
ゴブリンから奪った武器モドキの方は村の外の茂みの中に隠してあるのでいずれ大量に溜まった魔石も隠し場所を見つけておかないといけないかな。
まあ、自分の箱の中を覗きながらもぞもぞしているなんていかにも三歳児らしいのでカモフラージュにもなるだろう。
道中で綺麗な石でも見つけてついでに混ぜておけば魔力が分からない母と父には魔石も魔石であることがばれない可能性が高いのでそうするとしよう。
綺麗な石集めて喜ぶ三歳児は不審では無いだろう。
「しかしまあ、明日からは大量に魔石を集めないとな」
どうやら魔石にも特徴があるようで獣の魔石と虫の魔石はファイアボールの威力が低かったのだ。
しかも魔力の内容量もゴブリンより低いという残念な代物だ。
それでも獣の魔物も虫の魔物もゴブリンも一撃で倒せるので問題は無いが魔物がそれだけとは限らないのでより魔力のあるゴブリンの魔石を溜めるのは間違いでは無いはずだ。
まあ、魔法と魔石に相性があるのならそれもおいおい研究する必要があるが初めからそれをやっていたら村の外で一人で魔物と戦っているというリスクもあるのでまずは魔法と戦闘に慣れることが先決であろう。
「帰ったぞ」
「お帰りなさいあなた。今日は野草粥ですよ」
父のジェンドも帰って来たので我が家も夕飯の始まりだ。
野草の出どころを聞かれ父にも余り村の外に行かないように言われたがいつもの仏頂面が崩れるくらい喜んでいる顔を見ればそれが建前であることなど三歳児でもわかるというものだ。
こうして俺は村の外で魔物を狩りつつ魔石を集め、食料を確保しつつ三歳という一年を過ごした。
またゴブリンは個体によって持っている武器や装備が違ったためどれも確保して村の外に隠してある。
どれもとてつもない異臭がし、金属は例外なく錆びていたが農奴の立場からすれば物を選んでいる場合では無いのだ。
形のよさげな刃物を見つけては目の粗い石で錆びを落として目の細かい石で刃を研いで魔法で加熱した後獣の油で錆止めをすると魔物の解体が非常に楽になった。
この時点で俺はファイアボールを卒業して石の槍で魔物の頭を貫いて倒す方法に切り替えた。
そうすれば魔物の肉体が残りやすいので獣の魔物であれば肉も皮も残るし虫の魔物も魔石以外の全部が燃え尽きたりしないのだ。
威力はどうやらファイアボールの方が上だが石の槍に切り替えたお蔭か使い続けたのもあり魔法の命中精度が上がって狙った通りの場所に当たりやすくなったのは成長であろう。
そして日々魔法を使い続けていると体内の魔力の量が徐々に増えていることに気付いた。
大体日に魔法の使用回数×0.01分増えているようなのだ。
これは魔石を使って発動した魔法分も含まれており、しかしながら魔物を倒せるくらいの魔法を発動しないと上昇しないことも分かった。
なので他の肉体を少し強化するために魔力を使ったり、水を出して物を洗ったり、暑くて涼しくするために冷たい風を吹かせたりしたりする程度の魔法では実感するほどの上昇は見込めなかった。
また魔石を使った場合上昇はするものの自身の魔力を使って魔法を放つ場合と比べてだいぶ少ないことも判明した。
そうして俺は四歳になるまでにファイアボール換算で三百前後の魔力の増加に成功した。
魔石も使うことも考えたら三千発分の魔力になるので凄まじい成長であることは間違い無いのだが自分がこれほどまでに成長したといことは世界中の魔法使いはとてつもない強さになるのではないかと気付いたとき、俺の中でうぬぼれは消えた。
もっともっと強くならねば、そう決意し更なる成長を求めて日々を過ごして居たら俺の転換期とも言っていい運命の日がとうとう訪れたのだ。