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初めての魔物とアイテム

「魔法使いになるためには魔法の練習をしないとな」


現在の俺は三歳児であるがゆえに親の手がかからないように遊ぶのが仕事のような物だ。


しかし五歳になる新年の日を境に俺がこのまま農作業をするのが基本の農奴として暮らすか、戦争をするための奴隷である戦闘奴隷になるかが決まってしまう。


同じ奴隷ではあるが戦闘奴隷になれば食事の回数も増えてさらに戦争で活躍すれば奴隷からの解放も約束される。


あるいはそのまま貴族様にお仕えすることだってありえるのだ。


ひとまずの身分という状況を脱出するためには戦闘奴隷を目指すというのは非常にありだろう。


それまでに戦闘能力でもある魔法を鍛え、貧相な体を出来るだけ鍛えなけばいけない。


「ついでにどこかで食料も確保しないと碌に成長できないし最悪死んじゃうからな」


男爵様の物である小麦や畑の食物を勝手に食べれば鞭打ちという厳しい罰を受けなければいけない。


しかもそれは収穫量が良くても食べてはいけないというお先真っ暗な内容なのだ。


ゆえに俺は食料の調達をこの畑以外でする必要があるのである。


「魔法の練習、さらに食料の確保。そのために行く場所はもう人里の外しかない」


ちょっと人並みの生活を送りたいがためにはこの身を危険に犯さなくてはいけないのがこの世界の真実なのだ。


俺が思う安寧の生活を送りたいという望みはこの世界では随分と崇高な願いに分類されるかもしれないけども。


それも貴族になることがあれば叶うかもしれないがその貴族でも自由に行動ができない場合がある。


例えばここはダンデンビッツ男爵領であるがその男爵というのは実は貴族では下から数えた方が早い身分なのだ。


ガーランド帝国の貴族の身分は下から騎士爵、男爵、子爵、侯爵、伯爵、公爵となりこの上に皇帝の血縁が連なる皇族となる。


騎士爵は名誉貴族のような物で一般人が功績を残すと与えられる物でよく戦争で活躍した兵士やら帝国に大金や珍しい物を献上した商人がなったりするし貴族の子供に最初に与えられる身分でもある。


そこに領地を与えられたのが男爵であり、その数は十未満の村と一つの町だ。


ゆえに領地を持つ貴族の中では一番低い身分になるので一つ一つの村の規模は小さい。


なおかつダンデンビッツ男爵が持つ村の数は三というかなり少ない数しかなく、その内の一つが俺の暮らす農奴村落のため村の規模も小さい。


なので三歳児だろうが直ぐに村の外に出ることが可能であったため、俺は一人で今村の外である平原にいる。


一応道のような街道沿いを歩いてはいるがここにも普通に魔物はいるものだ。


「平原で生きやすい生き物は小動物系の獣と虫の魔物だ。人型だとゴブリンもいるけどこの世界標準でも弱い魔物になるんだよな」


子供でも勝つことのある魔物ではあるけど襲ってくるので危険生物でもあるのだ。


一応抜き足差し足歩いて極力音を立てないようにしているがどれほど効果のあるものか。


はた目から見るだけでも三歳児がこっそり街道沿いを歩いているなんて可笑しな光景である。


「しかしまあ食料のあることあること」


街道沿いを歩いているだけで見つかるベリー系の果物に食べられる野草の数々をむしゃむしゃ食べながらさらに食料を探す。


村の中で栽培しても全部男爵様に取られてしまうので農奴のほとんどは与えられる食べて良い食事にのみにしか手をつけない。


そのような生活が当たり前になっているので村の外の食料に目を向けることなど無に等しいのだろう。


何とも悲しいものではあるのだがそのお蔭で俺はほぼほぼ手つかずの食料にありつけるのだ。


「少し持って帰って晩飯に混ぜるか」


そうすれば少しは親孝行にもなるだろうと思ったそのときだ。


「……っ!」


前方の茂みがガサリと動いた。


茂みが揺れるような大きい生物となれば十中八九魔物である。


魔物に遭遇することは分かっていたのである程度の覚悟は決めている。


実際に魔物を見つければ魔法をぶっ放すことに躊躇もしないつもりできたが如何せん命を狙ってくる生物と相対するのは初めてのことであり、ことが生死をかけた物であることを実感して体が汗ばんでくる。


ここで逃げてしまえば俺の未来は農奴のままで終わってしまう。


そんな確信めいた何かが胸の内を横切った時、そいつは茂みから現れた。


「ギヒィ」


二足歩行の子供並にこがらの体に何かの皮のような物を腰に巻いた緑色の薄汚れた肌を持つ魔物、ゴブリン。


その手には斧なのか剣なのかよくわからない錆びた金属が木に括り付けられたような物を持っている。


そいつの赤い瞳が俺の方を向き、俺の姿を確認すると下卑た笑みを浮かべた。


「ファイアボール!」


ゴブリンの笑顔を見た瞬間に悪寒が走った俺はゴブリンに手を向けると躊躇なく火の玉をぶっ放した。


この世界の魔法は魔力操作とイメージだけで魔法が使えるが緊張ゆえか、叫びながら魔力操作を行う。


オーラであり、魔法のエネルギーである魔力が体から切り離されると轟々と燃える火の玉となってゴブリンの顔目がけて一直線に飛んでいく。


「ギャッ」


自分でも驚くほどの勢いで飛び出した火の玉は燃えながらも物凄い回転をしながらゴブリンの顔に直撃し、一瞬で消し飛ばした。


なんとまあ凄まじい威力である。


これを生身の人間に向けたら同じ結果になることは間違いない。


それを成し遂げたのが僅か三歳児であるというのもまたこの世界の魔法の恐ろしさでもあり有用さの裏返しでもあった。


ビクンビクンと頭部を失って倒れているゴブリンが次第に動かなくなっていく姿を見て自分が奪った命であると共に何とも言えない悲しさが胸の内に広がる。


「同じ威力のファイアボールを放つのに五回分くらいの魔力しか俺の体に無いのが分かったのでも成果か。時機に自然回復するとはいえ心許ないが……ん?」


しかし俺はあることに気が付いてしまったのだ。


急速に魔物であるゴブリンのからだから魔力であるオーラが消えていくのに体の一点だけオーラの反応があることに。


それを確かめるために俺はゴブリンの胸を見ると小さな石が埋まっていた。


「これは……魔力が詰まった石なのか?」


魔力が詰まった石……いわゆる略すと魔石となる物を見つけた俺は好奇心に負けてゴブリンが持っていた刃物を奪うと魔石を確認する。


親指よりも少し大きなそれは若干黒ずんだ水晶みたいな物で宝石と言っても頷いてしまうものであった。


「しかしこの魔石……さっきのファイアボール一回分くらいの魔力が詰まっているぞ」


そのとき俺の脳内で一つの可能性がよぎった。


自然回復する魔力、ファイアボール一回分の魔力の詰まった魔石。


魔石の魔力を動かしてみると僅かな抵抗を感じたものの成功する。


そして先ほどと同じ魔法を倒れているゴブリンの体目がけて発動する。


自分の魔力を使うよりもわずかな抵抗を感じるファイアボールは一度発動すると先ほどと変わらずゴブリンの体を消し飛ばした。


そして俺の魔力は僅かにしか減っていない。


量で言えばファイアボールの十分の一程度だ。


「成功だな」


何とも言えない達成感を感じると共に魔物が食料並に重要な存在となった瞬間であった。

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