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男爵領の農奴ジェームス

山間から昇る光の塊が若い緑の絨毯を照らす。


絨毯の中で動く影は案山子のように揺れているがそれは間違うことなく人である。


ただし一般的な人に比べると線は細く、また目に生気は無い。


何故なら彼らにとっての生のほとんどはこの農作業に費やさなくてはならず、生きることに許可が必要で、誰かの持ち物であるという存在。


特に食事も許可制であるがゆえに日に食べられる食事は一日に一度しか許されてはいない。


また結婚することも子供を作ることも許可制であり、時に義務でもある。


自分達の想い通りに結婚できることは稀であり、むしろ持ち主から選ばれた農奴同士が結婚することが一般的である。


さらに生まれた子供もまた農奴であるがゆえに持ち主の物であるため、女は見目が良く生まれた者は売り払われることも多く、男は戦争がひとたび起これば徴兵されいく。


もちろんそのような過酷な環境ゆえに成人前に死んでしまう者もまた多い。


それがこのガーランド帝国東方領ダンデンビッツ男爵領の農奴の状況だ。


そしてそんな農奴の一人として生まれたのがジェンドとカシームスが子である俺、ジェームスである。


俺が三歳になるまで得られた情報はその程度だ。


一歳までは自我が怪しく栄養が足りてないゆえか寝ていることがほとんどだし、二歳はよちよち歩いて出歩くわけにもいかず父と母であるジェンドとカシームスの背に縛られていた。


三歳になってようやく一人で立って動くことができるようになった俺は物置小屋と大差無い家の周りで動くことを許された。


「しかし何ともまあ、難儀な世界と身分に生まれたもんだよな」


一人そうごちるも現実は変わらない。


農奴は持ち主であるダンデンビッツ男爵に生命活動が維持できるギリギリのラインを保証されていることになっている。


この世界でこのような劣悪な環境が保障に繋がっているかというと世界のほとんどは魔物と呼ばれる存在に支配されているからだ。


帝国領内であれど魔物がごく普通に闊歩しているし、一たび人里をでれば十分以内に魔物に遭遇するような世界だ。


太陽が昇る方向にある山にはこの農場からでも見えるくらい大きな影が動いているのが見えることもあるのだから魔物の脅威は語る以上に凄まじい物だ。


簡単に魔物の大群に襲われて昨日まで存在していた村が消えてなくなるなんてよくある話である。


ゆえに人間という種族は魔物の脅威に対抗するために支配領域を強固な上下関係を身分で縛り、統率を強めた。


そしてその支配された領域は同じ人間にとって宝石と同じ価値があるがゆえに同じ帝国内の貴族同士で戦争が起こることも多々あれば、国同士の戦争で領土の奪い合いがあることもある。


まあ、そんな争っている国も一夜にして魔物に滅ぼされることもざらにあるのでどれだけこの世界が世紀末であるか理解してもらえただろうか。


言うなればよくあるファンタジー物の物語の人類が発達する黎明期のような時代といった方が分かりやすいかもしれない。


製鉄技術はあるが電気など無いし化学の化の字など遠い未来の話であるし、錬金術の錬の文字も生まれたかどうかも怪しい、そんな時代に俺は生まれた。


「普通なら自らに起こった悲劇に人生に失望するところだな」


しかし、俺には他の誰にも無いような能力と言える物が一つと特異能力と呼ばれる力を一つ持って生まれることができた。


その誰にも無いような能力は三歳児にしてはおかしいこの思考能力の元となった前世の記憶である。


俺は生まれた瞬間からか思考が安定しだしてからかは分からないが脳の領域の一部に前世の記憶があることに早々に気付いた。


その記憶のお蔭で自分が随分と酷い環境に新たに生を受けたことに気付けたし、自身の特異能力にも気が付くことができた。


その特異能力とは魔法である。


前世で魔法という存在が無かったのでこの世界で気付けば人にオーラのような物が纏わりついているのに気付いた。


最初からそれを魔法を使うためのエネルギーだと思っても居なかったが男爵からの使いによって生まれてからある程度生きる能力を身に付けた五歳になれば魔法の才能を調べられることが毎年新年の日がある月に行われていたのでそれで知ることが出来たのだ。


「そのお蔭でこの世界でも生きていけそうなんだよな」


そのオーラを意図的に集めると様々なことができるのだ。


筋力を一時的に強めて力を強くしたり、走る速度が早くなったり、怪我が治るのが早くなったりする。


この世界の人間は誰しもこのオーラを持っていて潜在的に操る力は持っているようだが俺みたいに見えることはそう無いようだ。


そのオーラが見えることが魔法使いの資質であり、そのオーラを体外から切り離すときに事象を明確にイメージすると魔法が発動する。


例えば火が燃えたり、水と土が動いたり、風を吹かせたり、枯れかけた植物が元気なったりなどなどできるのだ。


魔法使いの多くはそれらの一つを極める物であり、それらを属性と呼ぶ。


その属性を操る魔法使いを例えば火を操る魔法使いのことを火の魔法使いと呼ぶわけだ。


「ただどうやらその属性や現象に関する理解や影響をイメージできれば誰でもどんな魔法でも使える臭いんだよな」


その属性を極めた魔法使いに弟子入りすることでその属性に対する理解を深めるだとかそんな感じだ。


なのでこの世界の魔法は前世からの記憶をもつ俺との相性はいいと言える。


どうしたらその現象が起こるかなんて小学生だって習うことであって科学の実験は中学生だってするのだ。


さらに高校まで行ってさらに大学まで行っていた俺の化学的な知識はこの世界に置いてどれほど魔法に影響が起きるかなんて計り知れないものだ。


「まあ、この世界の物理現象や科学的な結果が違うこともあるだろうし、魔法なんて物があるんだからそれすらも超越するかのような物だって存在する可能性があるよな」


思い込みによって生命の危機、なんてことがあったらこの世界では死に直結するようなものだ。


化学が発達してないってことは医学や薬学だって発達していないってことなのだから。


「そのためにも簡単に死なないように自分を守れる力が必要だよな」


農奴という存在として生まれてしまったがゆえに俺の体は一般人と比べて病気や汚い環境に慣れてきた遺伝子を持つ体で死ににくい代わりに栄養不足で背が低く手足も細いので近接戦闘には向いていないだろう。


ゆえに俺ジェームスはこの世界で魔法使いになることを決めるのであった。

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