その騎士の名はドンキホーテ
「無事か、サンチョ。」
スフィアと城を巨大な槍で吹っ飛ばし、不適に微笑む初老の騎士。
「全く。すぐに迷子になるのは悪い癖だぞ。しかし我が剣の腕を磨くための強敵を見つけ出したことは褒めてやろうではないか。」
彼は……ドンキドンキホーテ13世様!
しかし何かがおかしい気がします。
「ドンキホーテ様、ど、どうなさったのですか!ボケが治られたのですか!?」
「ぼけだと?なんの話をしておるのだ。ほら、危ないぞ。お前は下がっておれ。」
そう言って私に背を向けたドンキホーテ様。
いつものように訳のわからない言動をしないドンキホーテ様に私は少し戸惑いながらも、大人しく従い後ろに下がりました。
「今まで、すまなかったな。」
「え?」
私の耳に聞き間違いかもしれませんが、微かに、そんな声が聞こえた……ような気がしました。
当のドンキホーテ様は何事もなかったかのような、堂々とした佇まいでスフィアと対峙しています。
スフィアはペッと血を吐くとドンキホーテ様を睨みました。
「何者かは知らないけど、不意打ちを当てただけでいい気にならない事だ。僕は無敵なんだ。殺される前に尻尾を巻いて逃げたほうがいいんじゃないかい?」
そんなスフィアの言葉をドンキホーテ様は笑い飛ばしました。
「はっはっは!笑わせおるわ!このドンキホーテ、旅の目的は我が思い姫に捧げる剣の腕を磨くため!決して正義のヒーローなどではないが、あいにく悪を見過ごすような道理は持ち合わせておらん!!」
この感じ……思い出しました。これは昔のドンキホーテ様と一緒なんです。彼の思い姫。ドルネシア姫が死ぬ前のあの頃と。
「戯言を……!後悔しても遅いよ!」
スフィアはそう叫ぶと強烈な魔法を放ちました。
それをかわすドンキホーテ様。しかし、それでもやはり魔法はドンキホーテ様に命中します。
「む?」
そうだ、ドンキドンキホーテ様はスフィアの能力を知らないんだ!
「ドンキドンキホーテ様!あいつの魔法は強力です!あの!えっと!うまく言葉で言えないんですけど!!」
「みなまで言わんでもわかっておるわサンチョ!それに案ずるな。どんな小細工をされようとも我輩の敗北は、万に一つもあり得ん!!」
「ごちゃごちゃ、うるさいよ!!」
スフィアは次々と魔法を放ちます。そして、その全てがドンキホーテ様に命中します。やはり、命中する可能性が1%でもあればそれが必然となってしまうようです……!
こ、このままではやはりまずいかもしれません!
「ど、ドンキドンにゃわぁぁ!?」
ドンキホーテ様に声をかけようとした瞬間、生ぬるい感触が頬を撫でました。咄嗟にそちらを見るとそこに居たのは
「ロシナンテ……」
やせ馬ながら長旅をドンキホーテ様と超えてきた私達のもう一人の仲間、ロシナンテです。
「バフッ」
彼は「何も心配することなどない。あの方はドンキドンキホーテ様じゃぜ」とでも言いたげな顔で笑った……気がしました。
まぁ、ロシナンテは普通に喋れないので完全に私の妄想なんですけど、それでも、そうですよね。
私が信じなきゃ、誰があの人を信じるんだ。
「ふふふ、僕に逆らうからそんな目に合うのさ!大人しく退かなかった自分の愚かさをあの世で嘆くがいいよ!」
その時、ドンキホーテ様が動きました。
「むー。うっとーしいわぁぁっっ!!!!」
そう叫び槍をブンッ!と振りました。刹那、その斬撃で魔法は消し飛び、スフィアを爆発が襲いました。
「な、んだとぉぉ!?」
おーー!!
槍を振っただけで大爆発が起きるドンキホーテ様は相変わらずですが、驚くべきはその攻撃があっさりと当たったということ。
避けられる可能性が少しでもあれば確実に回避できるはずの彼にこんなに簡単に攻撃が当たったという事は……ドンキホーテ様の攻撃は彼には絶対に避けられない、ということ!?
「どんどん行くぞ!」
「ちぃっ」
男はドンキホーテ様が槍を振る直前に今度は地面の砂を投げました。
「小賢しいわっ!!!」
再び大爆発が起きます。しかし、今度は男には当たっていませんでした。
「これで、ギリかよ……!」
砂で目くらましを試み、避けられる可能性を僅かにでも上げたというのでしょうか。
しかし、そんな小細工がいつまでも通じる相手ではありません。
「うりゃぁぁぁぁぁ!!!」
ドンキホーテ様の雄叫びとともに、再び大爆発が彼を襲います。
「くそっ!かわしきれないなら、先に貴様を殺せばいいだけ!」
スフィアは地を蹴り、剣を構えドンキホーテ様に斬りかかりました。
「刻んであげるよ!」
スフィアの剣がドンキホーテ様を斬りつけます。
しかし。
「む?剣での勝負がお望みかな?」
ドンキホーテ様はその剣をあっさり止めました。
そして「むぅぅぅぅん!!!」と槍を振り回しました。
その槍はスフィアの体にめり込みそして大爆発を起こしました。
「なぁぁぁぁ!?」
スフィアは瓦礫の中に吹き飛びました。
し、死んだんじゃないでしょうか……
一瞬心配しましたがどうやら杞憂だったようで、意外に元気にスフィアは瓦礫の中から飛び出ました。
「意味がわからない……なんだ貴様は……勝てる可能性が0だと?攻撃は効かないが向こうの攻撃は避けられないだと……?そんなことが、そんな事があってたまるかぁぁぁぁぁぁ!!!僕は、僕の魔法は完成されてるんだ最強なんだ!!!」
しかし、どうやら精神はボロボロの様子。
終わりですね、逆上した今スフィアに勝ち目は無い。
いつも通り、ドンキホーテ様の圧勝でしたね。
「なんでこんなことに、僕はただ自分の研究をしたいだけだったのに、なんでこんなことに……」
フラフラとスフィアがおぼつかない足取りでこちらに近づいてきました。
「これもそれもどれも全部!お前達のせいだ!お前達だけでも、殺してやる!!!」
っ!!
キッ!と顔を上げたスフィアが魔法を構えました!
狙いは……私とドルネシア様っ!!!
「さ、サンチョ!逃げて!」
「や、やめろぉぉ!!」
私は咄嗟にスフィアと同じように手を構えました。
魔法を撃とうと考えていたわけではありません、しかし
「何だと!?」
「ほぉ」
「でた!?」
私の手からはスフィアと同じ光の光線が出ていました!
「そんなバカな事が!」
「行け、サンチョ!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
私の全力を込めます、だから、最後くらいカッコつけさせてくださいよぉぉぉ!!!
「吹っ飛べぇぇーーー!!!」
……
……気が付くと見えたのは見えたのは青空でした。
綺麗な空だなぁ。
次に見えたのは髭面のジジイでした。
「生きているようだな、サンチョ」
「ドンキドンキホーテ様!」
「姫をお守りする姿、立派であったぞ。」
「ドンキドンキホーテ様……」
その次に見えたのはドルネシア様でした。
「サンチョ!良かった……。ありがとうサンチョ、助けに来てくれて。そしてありがとうサンチョ、助けてくれて。」
「ドルネシア様……」
そして最後に見えたのは……
「ふはは!やりましたねぇサンチョさん!」
「す、スニフ司祭長!?」
「お久しぶりです。なんとか姫をお救いする事が出来たようですね、他人事ながら私も大変嬉しく思っておりますよ!えぇ!!」
「今までどこにいたんですか……」
「ふっふっふ。少しばかり所用がございまして、ね?」
相変わらず掴めない人だ。しかし確かにこの人がいなくても私は姫をお救いできなかったでしょう。
「ありが」
「スタァァップ!!!それ以上は不必要ですよサンチョさん。私はお礼を言われるのがダーイキライですからねーえ!ふはははははは!!!」
本当に相変わらず掴めない人だ……
そんな私たちのコントをよそに、ドンキホーテ様は徐に立ち上がりドルネシア様の前に跪きました。
「遅くなってしまい、申し訳ありません姫。」
「顔を上げてくださいドンキホーテ。私は貴方のおかげであの時一命をとりとめたのです。」
「……どういう事ですか?」
「私はスフィアの軍勢が攻め入った時に死ぬはずでした。しかし、私の巨大な魔力がその命を救ってくれた。」
ドルネシア様は微笑んでドンキホーテ様と私を見ました。
「私の魔力の源、それは『愛』貴方の巨大な愛が、私を救って下さったのですよドンキホーテ。」
「ドルネシア殿」
ドンキホーテ様は再び頭を下げ、言いました。
「我輩の想い姫殿!我輩は信じておりました、貴方が我輩の事をずっと待ってくれている事を。そして、再び貴方を待たせてしまう事をお詫びさせて頂きたい!」
「また、旅に。出るのですね」
「えぇ!?せっかく会えたのにまた旅に出ちゃうんですか!?」
「そんな顔をするな。何も今生の別れではない。お互いに生きていれば、また出会える。それに我輩は、古き友との約束をまだ果たしておらんからな。だろう?サンチョ」
ドンキホーテ様はそう言って優しく笑いました。
……なんか調子狂うなぁ。
「私は……貴方の従者ですので、あなたが良いのであれば異論はありません、けど」
「ふはは、それでは行こう。ドルネシア殿。次に会う時はさらに貴方様にふさわしい立派な騎士になっていると誓いましょう。だから、また少し待っていてくれますか?」
ドルネシア様はそんなドンキホーテ様の言葉に満面の笑みで応えました。
「えぇ!!」
***
「ほら、終わりましたよスニフさん」
「ふーむ、やはりハッピーエンドは慣れませんねーえ。」
「何を仰いますか、貴方のおかげでしょう。」
「めっそうもない。私は何もしていませんよ、頑張ったのはあの二人です。」
「ふふ。『ドンキドンキホーテが迷子の末にここに辿り着く可能性はゼロではない。』」
「あ、やめなさい!」
「それと『サンチョが偶然魔法を撃てる可能性はゼロではない』ですか?」
「あーあー聞こえませーん」
「最後の1つは『ドンキドンキホーテのボケが治る可能性はゼロではない』でしょうか」
「私は帰ります!スフィアの事も捕らえた以上ここに用はありませんので。」
スニフはそういうと、すぐに魔法を唱え始めました。
「ふふ。素直じゃありませんね。でもスニフさん、貴方の力が無ければ彼らもスフィアには勝てなかったでしょう。ありがとうございました」
「ふん、解読したばかりのモノマネ魔法でしたので三回が限度でしたから、やはり三回の奇跡程度で勝てたのはあの人たちの力なんですよ。あと私はありがとうが大嫌いなんですよ、二度と言わないように!それでは、またお会いしましょう、フハハハハ!」
ほーんと、素直じゃないですねあの人は。
「サンチョー!早く行くぞ、我輩の宿敵を倒すために!さぁ続くぞなぁぁぁぁぁぁ!」
「ちょちょちょ、ドンキドンキホーテ様!そっちは逆ですぅぅぅぅ!!!」
城の外から二人の声が聞こえてきました。
ふふふ、相変わらず楽しそうな二人ですこと。
「それじゃあ私も帰ろうかな。」
あの二人がまた迎えにきてくれる事を待ちながら、ね。