サンチョ死す!?
「……着いた!」
次の日のお昼に私はようやくスニフさんの教えてくれたお城にたどり着きました。
何の御伽噺のお城かは分かりませんが、随分と立派なお城です。
ここに、少女がいる。スフィアもいることでしょう。
「お助け致しますよ、姫。」
待ち伏せなどを警戒しておりましたが、中は驚くほどに静かでした。
「……誰もいないんでしょうか。」
いや、この嫌な感じは……スフィア。
「やはり、ここですか。」
スニフさんの言う通り無駄な待ち伏せはやめたようですね。
誰も敵がいないなら好都合、ですが、念のため警戒はしながらゆっくりと玉座を目指しました。
どうせ悪役というのは城があれば玉座にいるのです。
警戒していた割には結局せこいトラップなどはなく、私はあっさり玉座の間に辿りつけました。
そして、その重い扉をゆっくり開くと……
「待っていたよ、サンチョくん」
やはりスフィアがその玉座に座っておりました。
「昨日の今日の割に傷はだいぶと癒えているようですね」
「私が回復魔法を使える可能性はゼロではないってことさ。」
「それはそれは。」
そう言ってスフィアは立ち上がりましたが、やはり流石に万全ではないようで、少しふらついていました。
「どうやらスニフはいないようだね。あの男はいつも私の考えから外れたことばかりする。それが非常に気にくわないんだ。……まぁ、君には関係ないことか。」
「無敵に思えるあなたもスニフさんだけは怖いようですね。」
「怖いのではない、嫌いなんだ。」
吐き捨てるようにいう彼からは確かにスニフさんに対する強い嫌悪感を感じました。
まぁしかし、確かに今はそんなことは関係ありませんでしたね。
「少女はどこですか。」
「私に勝てたら教えてあげる。」
「戦わなくてはいけないんですね。」
「戦わなくてすむなら私もそれが一番だとは思ってるんだけど、君とはどうも戦わなくちゃいけないらしいね。きっとそういう運命なんだ、つまり。戦わなくてすむ可能性なんて、0%なんだよ。」
「負けませんよ私は。」
私の言葉にスフィアは笑みを浮かべました。
「僕だって、そのつもりさ!!!」
そう叫んだスフィアの手から鋭い閃光が放たれました。注意深くその軌道を見極めます。
彼の攻撃は絶対に回避できるように躱さなくてはならないのですから。
「ああ、本当にやっかいです!」
ひょいひょい、と身を躱し着実に回避を続けます。
「この攻撃を確実に躱せるなんてね。僕にしちゃあ君の方がよっぽどやっかいだ!」
スフィアが今度は近づいてきました。手に持っているのは剣です。
「剣術に頼るのは久方ぶりだよ。」
「魔導師では無かったんですか!」
「僕が剣術を使える可能性は0ではないよ!」
接近戦になった分、こちらの攻撃を当てやすくはなりましたが、向こうの攻撃も回避がしにくくなって来ました。
「ちっ……!」
剣が胸元を擦りました。
このままではいずれ致命傷を負う……!
私はとっさに跳びのき距離を取りました。
「恐れたね。恐れは反応を鈍らせる。」
「何を!?」
再びスフィアの手元が光りました。あれは、魔法!
「連続魔光弾だ。今の君では」
こ、れ、はっ!
「避けられまい」
……
……ダメだなぁ私は。
私は壁を突き破り隣の部屋まで吹っ飛ばされていました。体中が痛くてうまく動きません……
ドンキホーテ様と旅するうちに多少はマシにはなりましたが、やっぱり冴えない百姓はヒーローにはなれません。主人公にはなれないんです。
『サンチョ、何を寝ておるぞな。早く次なる旅へ旅立つぞな』
……というか、私たちは一体何のために旅をしているのですか。
『そんなもの決まっておろう!我が思い姫のため剣の腕を磨くためぞな!』
ずっと思ってましたけど別にドルネシア様はそんなこと望んでは
『それにだ。』
……?
『我輩はいずれ島を手に入れる、そしてその島の統治はサンチョ、お前に任せる。そう昔に約束したぞな。』
……そんなの。出会ったばかりの頃の約束じゃないですか。あんな、口から出まかせみたいな言い方してた癖に、何でボケてんのにそんなことばっかり覚えてるんですか。
『だからサンチョ、お主はそれまでは我輩と一緒に、旅をしてもらうぞなー』
……全く、本当に調子が良いんだから。
そういえば私の方も思い出しましたよ。貴方に伝えたい事があるんです。偶然かもしれませんが、この迷子の最中、出会えたんですよ。
「サンチョ……?助けに来てくれたの?」
「ドルネシア、姫……」
貴方の思い姫の生まれ代わりの少女に……!
ぼんやりとした頭を振って立ち上がりました。隣の部屋に閉じ込められていたのは、まぎれもない私の助けに来た少女。
転生の魔法によって生まれ変わった、ドルネシア様。
「遅くなって申し訳ありません。もう、大丈夫ですので、必ずお助けしますので!」
「サンチョ!ボロボロじゃない!ダメだよ逃げなきゃ、戦っちゃダメだよ!」
「このサンチョ……ドン・キホーテ様には遠く及びませんが、それでも従者の端くれ。主人が守りたいものそれ即ち私の守りたいものなのです!主に顔を見せられないような真似は、できない!」
よろよろと立ち上がり拳を構えます。崩れた瓦礫を魔法で破壊しながらスフィアがゆっくり近付いてきます。
「これでも死なないか、本当に丈夫だね。でも、もうそろそろ流石に限界だろう?」
「人間その気になれば限界の3つや4つ、簡単に超えられるんですよ!」
「それはそれは。どうぞ勝手に超えておいてくださいな。僕は勝手に、君を殺させてもらいうからさぁ!!」
スフィアがそう言って再び手元に魔力を集めました。
今の体力で躱せる可能性はどれくらいなんでしょう、いや考えるだけ無駄ですね。100でないなら一緒なんですから。でもせめて、ドルネシア様だけは守ってみせる!
「それでは、さようならサンチョさん。ナイスファイト、でしたよ。」
「ああああああああああああ!!!」
目を瞑り叫んで両手を広げ、姫の前に立ちました。
そしてドガーーーン!!!と凄まじい爆発音が耳に鳴り響きました。
あーあ、最後くらいカッコつけたかったんですけどね。どうにも締まらないなぁ私は。
……これで終わりか。
……走馬灯的なやつは無いのでしょうか。
……というか意外と痛くないのですね。死ぬ時は一瞬ってやつでしょうか。
…………
…………長く無い?そろそろ広げた手が疲れてきました。下ろしていいかな。って手が、疲れた?
……まさか。
私は恐る恐る目を開けました。
そんな私の目に映ったのは……!!!
「どどどど!ドンキホーテ様ぁぁぁぁぁぁ!?」
「なーにを惚けておるサンチョ。すぐに迷子になりおって!貴殿は本当に、困ったやつであるなぁー。」
目の前にいたのは我が主、ドンキホーテ様でした。そして、おそらくドンキホーテ様の攻撃で半壊したのであろうお城の残骸でした。
目の前にいたのは紛れもなく私の良く知る最強の騎士、ドンキホーテ様でした。
しかし、何かが違うような、そんな気もしました。
そんなドンキホーテ様は私の方を振り返ると不敵な笑みを浮かべ、言いました。
「無事か?サンチョ。」