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ギア・クロノス  作者: 有角弾正
7/7

7話 限界破裂!

     7話 限界破裂!




 恋の手のスマホが鳴る。

画面が教える相手は、恋の母さんだ。


 「お母さんゴメン!ちょっと電話出来ない所に行ってて、」


 俺と紗綾は、明らかにただ事ではない、その通話が終わるのを、ひたすら待つしかなかった。



 紗綾「ねぇ、お兄ちゃん。恋ちゃんの家、何があったのかな?

道場に泥棒でも入ったかな?」


 俺はパトカーのランプに呆然としながら


 「は?あぁ、そりゃないだろ。

泥棒だって、空手道場に忍び込んで、下手打ちゃどうなるかぐらい、分かんだろ?」



 紗綾「あ、そっか」



 通話が終わった。



 恋が血の気の退いた顔で

「翔ゴメン、私、病院行くね!」



 「はっ?!病院?

どうした?一体、なにがあったんだ?!」




 タクシーの中で聞いたが、今朝、恋の母さんは、家の母さんと、いつもの様に出掛けたらしい。


 あちこち回り、夕方に帰宅、道場に戻ると稽古場で恋の父さん、岩城を初め、門下生等が倒れており、皆、全身血塗れ!


 その数18名。


 恋の母さんは、直ぐに救急車を要請。

搬送された全員が、瀕死の重傷か、心肺停止状態らしく、幾つかの病院に分けられて、全員が、未だ緊急手術の途中であるらしい。


 何があったのか話せる程度の軽症の者もなく、集中治療室前にて待つという。



 俺達の母さんもそこに居ると聞き、恋に付いて病院に向かう。




 集中治療室の前には、恋の母さん、家の母さん、刑事が待っていた。


 恋が恋の母さんに飛び付く。


 「お母さんゴメン!!」

もう泣いている。



 恋の母さん「恋、良かった。あなたは無事だったのね。


 まぁ翔君、紗綾ちゃんも来たのね。


 電話で話した通り、どうやら何者かが当家に侵入し、狼藉をはたらいたようです。

あなたにその手が及んでいないか、少し心配はしましたが、暴挙は道場内のみだったようですわね。


 恋、泣くのは止めなさい、まだ誰一人死んではいないのですよ!」

恋の母さんは異様な程、落ち着き払っていた。



 家の母さんは青い顔で座っている。



 母さん達は警察の取り調べがまだあるらし。

俺達も幾つか質問されたが、先に家に戻っていろと言われた。


 勿論、何があったのかと、色々と聞きたかったが、詳しいことは、必要なら後日話す、と刑事に言われた。



 紗綾は、恋ちゃんと居る!と言い張ったので、そのままにし、俺は父さんと電話が繋がらないので、帰って父さんの連絡、帰宅待ちの伝達係、ということで、ひとまず帰ることとなった。


 先程までの、美しい砂夢とのやりとり、高揚した楽しい気分などは、それこそ跡形もなく吹き飛んでいた。



 しかし……。


 あの総合格闘技の、超は付かないにしろ、かなりのメジャークラス、名古屋ドーム決戦、その連続覇者の岩城を含めた、空手道の猛者共が、残らず瀕死の重傷とか、何だよソレ?


 あんな熊みたいな奴等が……。


 犯人は一体何人組だ?銃器でも使ったのか?



 頭の整理が付かず、身近な所に落とされた超暴力の爆弾に現実味を感じられず、俺は肩を落としながら家路についた。



 ん?

電気が、点いている。



 父さん、いるのか?



 だが、帰っているなら、何で電話に出ないんだろう?


 

 「ただいまー」



 あ、居た。



 「あぁ、父さん、どうしたの?

母さん何度も電話したらしいよ?


 あぁっ、あのさ!」


 45歳の美男子は、いつもの指定席、居間のソファーに掛けている。

部屋着じゃないな……。



 「翔か。フフ……このペテン師め。」



         ?



 俺は父さんの言葉の意味が分からず「えっ?何?どうしたの?」



 父さんはそれを無視して

「翔よ、格闘家とは、あれは随分と丈夫に出来ているものだな?」



 俺「えっ?何の事?かくとうか?


 あぁそうだ!今、恋の道場が大変なことになってるんだよ!」



 父さんは頷き

「あぁ、分かってる。」



 俺は何か心臓に冷たい物を感じながら「えっ?何?分かってるって?

知ってるの?それ、どういう事?父さん電話出ないから、母さんが……。」



 父さん「あぁ、そうだ。奴等、死んだか?」



 えっ?何だって?

死んだかだって?この人、何言ってんの?


 てゆうか、電話も出てないのに、何で皆が大変なこと、知ってる風なの?



 父さん「フフ……。それはな、俺がやったからさ。

困るんだよ、この秘密を知る者が居ては。

フハハハ。」


 な、何と残忍な笑みだろう。


 俺は父さんが何を言っているか理解できず、よく知っている家族なのに、なぜだか他人を見ている気がした。



 「お前の、え?とか、は?とか聞きたくない。

俺が説明する、黙って聞け。


 俺は、この間の晩、お前が何かの能力を発現したと見た。

お前は、これを人を固める能力、と言っていたが、違うな。


 うん、その顔は理解した様だな。

あの晩、俺は単なる勘などではなく、確信した。


 お前に俺達を固めてみせろ、と言ったが、能力の発動が分からん、とお前は言い、白々とこの部屋を出て行こうとした。


 その時のお前は、そこのそう、ドアの前で、一瞬で、正に目にも止まらぬ速さで脚の位置を変えた。

少なくとも、俺にはそう見えた。


 気のせいか?と思いもしたが、直後のお前の顔、声で判断した、こいつは嘘をついてる人間の反応だと。」



 何ぃい?!!

やっぱりバレていたのか?!


 クソッ!

やっぱ、この人スゲー!!

というより、俺の擬装工作に、細やかさが欠けていたせいか?!



 「で、少し気功について調べ直した。


 俺の最初の見立て通り、お前の腹のチャクラである、タンデンから真田さんの気が入り、更に頸の後ろのチャクラが木の杭によって刺激され、恐らく未発達であった、お前の体内の気の通り道である、気脈経路が強制的に押し拡げられ、気が極めて効率的に頭部に抜けた。


 これにより、お前の身体には、理想的な気のバイパスが確立された訳だ。


 それで、専門的な知識もなく、修練も重ねていないお前ではあるが、強制拡張された気脈経路は、日常で発生する、お前の微弱な気ですら、超効率的に全身に巡らせられるようになる。


 その結果、運動性能は飛躍的に向上、また、気の脳内伝達物質化により、時が止まっている、と錯覚するほどの超スピードが可能になった訳だ。」



 何て人だ!


 父さんの説明はハッキリ言って、よく分からなかったが、完全にこの能力について理解しているっていうのか?!



 「じゃあ……。と、父さん。

正か……やっぱり恋の父さん達をやったのは……。」



 「俺だ。何回言わせる?

今日の午前、真田さんに頼んで気功を浴びせてもらったよ。


 最初は断られたが、お前を15メートルも吹っ飛ばした事を聞きたがっている人間の心当たりがある、と脅したら、流石に二つ返事で承諾してくれたよ。


 で、仕上げに、気を当てられた直後、気脈造りの為に持参した、このマイナスドライバーを首の後ろに突き立てれば完成だ。


 思った通り、俺はお前と同じ超スピードを手に入れることが出来た。


 翔、俺はこの能力で世界の、いや地球の王になる!と、いきたいところだが。

問題がある。」



 俺は喉を鳴らし

「そ、その能力の取得方法を知っている者、そして、そのきっかけになる気功を、本物の気を練り、発せられる人間が居てもらうと困る、って訳だね?」


 でもそんなこと、そんなことで人を殺そうとするのか?



 父さん「うん。やはり、お前はバカじゃないな。そこのところが問題なのだが。


 そうだ。だから殺そうとした。


 だが、これがいざやってみると、奴等体育会系、無抵抗とはいえ、無駄に頑強。


 マイナスドライバー一本では中々に死なないものでな、仕舞いにはこっちが疲れて来て、な……。


 まぁ先々を考え、これはこれで、人の殺し方の練習にはなるか?と切り替えた。

幸い、18人か?頭数は揃っている。


 フフフ……そこで、先ずは一番大きな奴の……」



 「やめて!!もう良いよ!!父さん酷い!酷過ぎるよ!!何でそこまで出来るんだよ!


 いくら能力の発動方法を知ったかもしれないからって……。


 ハッ?!!」



 父さん「そうだ。排除せねばならない者はまだ残っている、お前の能力発現に立ち合った道場近所の者達、真田さんの奥さん、その娘、そして……。」



 俺「母さん、俺。さ、紗綾?!バカな!!俺達家族だよ?!!」



 父さん「翔、支配者は二人要らん。


 名画は何故、ダイヤモンドや金より高い?」



 俺「バカな!!な、何でそこまで徹底してやれんだよ?!!あんたおかしいよ!!!」



 父さん「俺が、おかしい???


 フン、この能力を得ながら、支配者になろうとせん、お前の方がおかしいと思うが。


 ま、俺がおかしいかどうかは、ゆっくりとこの先、玉座で考えるさ。


 ではいくぞ、愚かしからぬ、我が息子よ。」



 俺は危険を察知し、能力を発動!!


 に、逃げるしかない!!


 うわあっ!!父さん!本当に止まらない!!


 

     こ、こいつは本物だ!!!



 俺は玄関へ逃げる!!


 今、父さんの手にナイフが見えた!!

本気の本気だ!!殺される!!



 父さんの哄笑が聞こえる。



 「翔!諦めろ!俺はお前と違い、ジムでトレーニングを欠かしていない。


 能力は同じでも、身体能力が上なら、お前には死しか残されてはいないのだ。」



 わ、笑ってやがる!


 どこの世界に、楽しんで息子を殺す親父がいるよ?



 ダメだ!この人ヤバすぎる!!



 俺は恐い!!



 こ、こ、こ、これだ!これなんだ!

これが暴力だ!!


 来たよ!俺を縮こまらせ!動けなくする、これが暴力だ!!



 しかもこいつは、その暴力の王様、殺意だ!!


 あぁ、足が!思うように動かない!!歯が打ち出した!!



 死ぬのはイヤだ!


 だけど、父さんと闘うなんて出来ない!!



 「父さん止めてよ!!こんなの絶対に間違ってる!俺は息子だよ?!」

俺は外に飛び出し、必死に殺人機械に喚いた。


 

 父さん「下らん事を言うな!息子も、娘も妻も、幾らでも作れば良かろう!


 ただ、俺にとっての家族は、俺の玉座を脅かさない者が良い!それだけの事だ!」



 この人、ダメだ!完全に狂ってる!!


 うわぁっ!!ガンガン迫ってくる!!


 あぁ!どうすれば良いんだ!?



 俺なんて、この能力を使って、少しだけ面白可笑しく生きて行ければいーなぁ、とか思っていただけなのに!!



 この人は、こんなのは人間じゃない!!


 

 もう恐怖で動けない!!

俺は遂に足がもつれ出し、膝をつき、手をついた。



 その時だ。



 脳裡に恋の顔が、夏の風にかき回される、金に近い茶色い髪が、そして笑顔が、頭の中に写真を入れられたみたいにハッキリ見えた。



    う、うおぁあーーーー!!!



 だ、だ、だ、駄目だー!!


 俺がこの人に、この暴力という物に負けたら、次は間違いなく恋の番だ!!



 紗綾の番だ!!


 母さんの番だ!!


 それに、この人に支配される人達の番だ!!



 回しちゃいけない!!回しちゃいけない!


 この殺意を!この死を回しちゃいけない!!




     

     そう思ったとき……。


  俺の頭の中に、熱い血が湧いた。






 駄目だ!!

絶対に赦されないことだけど!!



 これはもう、父さんを殺すしか、ない!



 父さんは地球の王になる為に、これからも人が殺す、殺し続ける。


 この人には説得、話し合いといった平和的交渉は通用しないだろう。


 そもそも、そんな常識や倫理観のある人は、軽い実験気分で18人も殺害しようとしたりはしない。


 

      誰も止められない!


       俺以外には!!



 そう思ったとき、急に見知った近所の景色が、とてもクリアに見えた。


 この辺りは、二丁目だったな……。



 俺は立ち上がり、ズボンの膝を払い、ゆっくりと父さんの方を向く。



 心は悲しみで満ちていた。


 何て事だ。

この能力は、人を殺すためにあるのだろうか?



 なぜかは今も分からない。

この時、俺の身体から、一切の震えが消えた。


 

 父さんまで、五メートル。



 流石に賢い。距離を取られた。



 父さんの顔をした殺意

「フン。そうきたか。


 俺は人事課で多種多様な人間の眼を見てきた。だから分かる。


 今のお前の眼は危険だ。


 物を壊し、者を活かす者の眼だ。

使えない、支配の効かない者の眼だ。」


 言ってる意味はよく分からんが、警戒させてしまったらしい。



 筋力や心肺能力は、鍛えている父さんが上だ。

さて、どうやって勝つ?



 

      考えろ!翔!



 




     ある!! あるぞ!!


 父さんより俺が勝っている物!


       それは!



 俺は父さんにかかって行かず、クルリと背を向け、商店街に走り出した。



 わずかに遅れ、暴力の塊が追ってくる。



 「フン、その先は交番か?

それからどうする?


 警官から拳銃でも奪う気か?


 バカめ。

拳銃の弾丸と、俺達と、どちらが早いと思っている?」



 俺は構わず走った。



 「だが、或いは。俺達、能力を持つものが放つ弾丸は、通常の弾丸の速度を超えるかも知れんな?」



 うわっ!!服が焦げ臭い!もう超スピードは限界か?!父さんの身体からも煙が沸いている。


 

 頑張って走ってはみたが、遂に父さんの指が俺の襟首に掛かった!



 くっ!引き倒される。



 「翔よ。もう、終わりだ。


 これか?空気摩擦による、人体発火。

こいつがお前の狙いか?


 つまらん!俺の血を引いていながら、こんな相討ち覚悟が、この程度の策が、お前の最期のカードなのか?


 フフフ……。

お前は、この俺の脅威ではなかったのかも知れん、な?


 ガッ!!ウガ!」



      バシャッ!!



 コップをひっくり返したように、俺の顔に鮮血が落ちてきた。


 父さんの鼻と口からだ!



 俺達が発火する前に何とかなった!!



    

 俺が父さんに勝っている物。

それは、若さ!


 父さんが、いくら超若く見られるとしても、どうしようもなく45歳!


 それに対して、俺は22歳だ!


 個人差はあるだろうが、どんなに若く見えようとも、血管、内蔵は歳を食う!



 なるほど、父さんはジムに通っているかも知れない。


 だが、運動すればするほど、身体にはダメージが蓄積する、とか。

運動によって決して寿命が伸びる訳ではないとか、何処かで読んだ気がする。


 そりゃあそうだ。


 人間が運動で若返る、としたら、マラソン選手やボディビルダーは、寿命100歳越えがザラでなきゃおかしいからな。



 俺達二人の能力はスゴい!


 防犯カメラにも捕らえられない!

自動車のエンジンの中の、ガソリンの燃焼スピードも敵わない!

本当にスゴい!


 しかし、その反面、たとえ気をエネルギーに、体を超スピード化させているとしても、身体を超酷使している事に間違いはない!


 俺が能力を得て、最初に道場で、何故心臓が、頭が痛くなったか?


 心臓、脳に共通するのは膨大な量の血管。


 それらが超スピード化による超負荷により、過去の、いや、これから先、どんな人類も体験することもないであろう程に膨張。


 俺の若い血管でも、良い事など、何一つないだろう!

むしろ、考えもなく、あんなに能力で遊んで、今まで死んでいないのが不思議なくらいだ。


 実際、初めは能力が維持できないほどに苦しかった。気絶さえした。



 さて、これが高齢になるとどうだ?!


 それが、これだ!




 父さんは鼻、口、耳、目の端からパタパタと血液を滴らせながら俺を睨み下ろす。


 赤い目からは、無限の無念さが伝わってくる。



 俺は、父さんが若く見せるために、ジムで筋肉を付け、顔にはファンデーションを塗っているのを知っている。



 美しく、聡明な自慢の父さん。



 あぁ、父さんと二人でマジシャンになったり、家族仲良く、面白可笑しく生きて行けたかも知れないね。



 冷酷な父さんの血潮が、温かい。



 俺が居なければ地球の王になれたのにね。


 まぁ、年齢的に、能力に頼るやり方は無理だったかも知れないけど。



 さ、さようなら……。



 くっ!俺の身体にも限界が来たようだ。


 猛烈な激痛が頭、心臓に来た。



 でも、まだだ!

父さんが完全に絶命するまで、み、見届けなけれ、ば!



 朦朧とする中、父さんが覆い被さって来たのを感じた。


 

 も、う、良いか、な?

息をするのも激痛、だ……。


 俺の意思を無視し、目玉が勝手に上を向き、真っ暗な闇が降りてきた。







 数日後の病院。



 真田道場の人達は誰一人、死んではいなかった。

父さんが人を殺すのに、もっと長けていたなら、危なかっただろうな。


 何らかの後遺症は残るが、全員生きているようだ。

だが、中には深刻な状態の人も居るようだ。




 父さんは、死んだ。



 死因は、ジョギング中の多発性血管破裂。

極めて稀な、特例中の特例らしく、特別な解剖に回されたようだ。



 今の俺は、といえば。

悲しいのか、寂しいのか分からなくなっている。



 父さんは恐ろしい男、いや、生き物だった。


 他人に害をなす事も、それが明確に自分の利になるならば、それを行動に移すのに、一瞬の躊躇もしない。

悪といえば、これほどの悪はないだろう。


 


 だが、もう死んだ。

もう、あの毎夜の家族団欒はないのだ。



 母さんは、父さんの死は事故だと信じ、(父さんが能力を手に入れ、地球の王になろうとしたことは話していない)俺達兄妹には計り知れない、深い悲しみの中にいる。


 明るい紗綾も、しおれた。



 俺はあの夜、父さんとジョギングしていて、同じく倒れていた、という事になっている。



 

 繰り返すが、父さんは死んだ。

俺が、紛れもなく、この俺が殺したのだ。



 だが、父さんが生き続けていたなら、間違いなく、数えきれない程の人が殺されただろう。



 それを思えば、俺のした事は、単なる親殺し、という事とは異なる意味があるのだろうか?

本当に、そう思って良いのだろうか?




 苦悩の末、父親を殺害したという、一生の十字架を背負う俺の気も知らず、隣で俺への見舞の品のフルーツ盛り、それを勝手にかつ、旺盛に食べる女がいる。



 

 「それさ、俺のだから。」


 「あ、起きてたの?」

バナナをそっと元に戻す。



 「起きてたよ。もうそれ、バナナしかないから食べて良いよ。


 そんなことよりさ、なぁ恋。

お前が、もし、人がだれでも驚くような、スゴい能力を手に入れたらどうする?」


 恋「なぁにそれ。

え?それって、超能力とかの事?


 えー?そうだなー……。うーん……。


 あ、黙ってる。」



 「え?黙ってる?」



 恋「うん、そんなの何が起きるか分かんないじゃない?だから、恐いから黙ってるな。」



 「そうだなー。やっぱり、それが良いのかもな。」



 恋「起きて、いきなり話したと思ったら、それ?

翔は変なヤツだねー、やっぱり。


 あーそうそう!私も今度、コンビニバイトすることにしたから!宜しくね!先輩!


 あー、でも、翔マジシャンやるのか。」



 「あー?うん……。まだ、分かんないけど。多分やんない。身体に悪いからさ。」



 恋「えー?もったいなよ!あんなスゴい手品出来るのにー!」



 「恋は、空手続けるの?」



 恋「うん、館長達を闇討ちした奴等を、今度は返り討ちにしてやるよ!


 気功だって今、鍛えてるの!

ちょっと翔、私の気功波、浴びてみてくれる?


 ハァアアアァ……。」



 俺は目を剥き

「うわっ!よせ!止めろ!

もう気功は沢山だよ!!」



 恋「アハハハ!冗談よ冗談!

まだ気なんて全然練れないの!


 大体ねー、気功なんて、そんなに恐い物じゃないんだからね?」



 「……。イヤイヤ、死ぬほど、恐いモノですよー。」



 恋「?」


 空手姫は首をかしげ、最後のバナナを美味そうに食べた。

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