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ギア・クロノス  作者: 有角弾正
2/7

2話 家族懐疑。

      2話 家族懐疑。



 その夜は特に熱が出た、とか、どこかが痛い、とかもなく、昼の事件に比べ、拍子抜けするほど何事もなかった。


 俺は二階の自室で今日の出来事を思い出し、整理してみる。



 とりあえず感心したのは、恋の親父さんの気功って本物だったんだな、ということ。


 今までは正直疑ってたし、気功なんか取り立てて興味もなかったから、深く考えた事はなかったな。


 いやー素直に、スゴいスゴい。



 それからなんだっけ?あのオールバックのニヤニヤゴリラ。

あー岩城か。ホント絵に描いたようなイヤなやつだったな。



 後は……。


 アレは夢だったのかな?みんなが固まった事とか、道場のトイレ借りたのとか。



 色々不思議な体験だったな。

どこまでが現実で、どこからが夢なのか分からない……。


 うーん。



       ま、いっか。



 背中を打ったが、精密検査では特に異常はなかった訳だし。


 でも、15メートル位飛んで、壁にぶつかり、木の杭が延髄にめり込み、それで軽い打撲のみ、ってなぁ……。


 ギャグマンガのキャラじゃねーんだしさ。



 ま、怪我なんて、ないにこしたことはねーんだけど、な……。

にしてもなぁ。


 俺は床に放った、病院でもらった湿布の入った白いビニール袋を眺める。


 

 その時、ドアが鳴った。



 「お兄ちゃん、お父さんが降りてこいってー。」

妹の紗綾(さあや)の声だった。



 「分かった。」


 俺はあれこれと考えるのを止めにし、素直に階下に向かった。




 居間にはビジュアル系ロッカー、いや、ゴルフ帰りの父さんがソファーに掛け、俺を待っていた。


 父さんは手にした携帯ゲーム機を傍らに置き、俺を見上げる。



 俺も向かいの辺りに、あぐらで座る。



 父さんは手の指を組み合わせ

「救急病棟に、行ったらしいな。」



 俺「うん、恋の親父さんに吹っ飛ばされた。」



 父さん「ああ、母さんから聞いたよ。何でも気功で飛ばされた、とか。


 飛び方からして、重傷でもおかしくないはずが、何故か軽い打撲のみ、とか。フフ……。」



 ヤバイ!父さんの目が、イキイキと輝き出した!


 父さんは45歳にして、オカルト好きの重度の中二病患者で、何よりこんな不思議な話が大の好物なのだ。



 父さん「翔、詳しく話してみろ。妙子(たえこ)、酒を頼む。ゆっくり、聞きたい。」



 来た!

あぁ、もうこうなると朝の3時コースは決定だ。

明日のバイトは昼出だが、それでも3時寝はキツい!


 だが、家では父さんは唯一神。

そして家族に信教の自由は、ない。

その指示(オラクル)は絶対なのだ。



 俺は素直に抵抗を止め、ビール片手に今日の出来事を一通り話し(ねつべん)、(ぬる)くなったグラスの最後を飲み干した。



 ちなみに、父さんはブランデー、紗綾はトマトジュース、母さんは発泡酒と、毎夜の見慣れた家族の団欒の図である。

 


 家は現代の日本の家族には珍しく、毎晩必ず四人が集まる。


 確かに、俺も紗綾も一人で過ごしたい、そんな日もある。

が、神様には逆らえない。



 「そうか。」父さんは短く言い、グラスを傾け、氷を鳴らし、母さんにお代わりを要請した。


 次いで眼を光らせ

「中々ファンタスティックな体験だったな。お前はバカじゃない、気とやらで飛んだのは本当だろう。

   

 そうだな、体育会系が苦手で、今までは武道家など距離をおいていたが、今度は俺も真田さんに、その気功術とやら、やってもらおうか。


 ま、それは良いとして。


 俺が興味を持ったのは、お前がここからは夢だったかも、と言った先の話だ。」

父さんは驚異的な若さを保った顔を俺に向ける。


 今の今、関係ない話だが、父さんはちょと異常なくらい若い。


 事実、一緒に買い物などに行くと、店の従業員や、たまたま出会った友人等から、俺の兄貴だと間違われる位だ。


 まぁそれは良い、話は続く。





 俺「えっ?何が?」



 父さん「いや、その皆が固まった、とかいう(くだり)だよ。」



 俺「う、うん。みんな固まったよ。

何か、マネキンかパントマイムみたいだった。」



 ここで母さんが入ってくる。

「固まったって。さっきから何それ?全然動かないってこと?」

こっちは、まぁ美人の範疇には入るな、という普通のおばさんだ。



 紗綾「えー?みんなって、恋ちゃんも?ウフフ、ヤッパリ夢だね!そんなのおかしー。面白いけど。」

クラスの上から3番目くらいの可愛さの少女は、クスクスしながら、立って冷蔵庫に向かった。



 「翔。」父さんだ。



 「何?」

この辺からイヤな予感しかしない。



 父さん「俺達も固めてみろ。」



 俺は「えっ?どういうこと?」

思わず聞き返した。



 父さん「俺が思うに、外部の真田さんの放つ気功の波動、というものをきっかけに、お前の体に何か新しい能力が芽生えたのかも知れん。


 俺の勘だが、皆が固まった、というのはお前の夢ではない、と思う。

そうなればの、やって見せろ、だ。」



 俺「えっ?俺の勘て……。

そんなこと言われても、どうやったら出来るのか分かんないよ。俺の話を信じてくれたのは嬉しいけどさ。」

なぜかこの人に認められた気がして、少しだけ高揚した。



 母さん「そうそ、お父さんの勘て凄いのよね!

この間のお父さんへの誕生日プレゼントも、開ける前に、これはアレキサンダーのネックレスだな?とか、ズバリ当てちゃうし。

あたしが新しい下着をおろした日だって、まだ見せてないのに、色の波動からして、紫だな。とか、」



 父さん「(たえ)。その話、今じゃなくて良い。」



 母さんは紗綾の方をチラリ

「そ、そうみたいね。オホホ、ごめんなさい。」



 父さん、ありがとう。



 紗綾「えー、やるのー?!わたしも固まってみたーい!

お兄ちゃん、やってみてやってみてー!もしホントならスゴいじゃーん!」プリン片手に、嬉々と帰ってきた。



 俺「待て待て!ホント夢かも分かんねーし!大体、能力とか……。父さん真面目な顔して何言ってんの?」

そうだよ、45歳のオッサンが何言ってんだよ。



 父さん「どうやるか、か。そうだな。皆が固まったのには、何かきっかけがあったはずだ。

そして解除されたのにもな。


 先ずもって考えられるのは、真田さんからの気功の洗礼だ。だが、これは違うと思う。」


 いつもの事だが、俺の意見は空気になったようだ。



 俺「気功波で、その能力?が目覚めた訳じゃないってことかな?」



 父さん「あぁ。気功の波動を浴びて飛ばされた、なるほど超自然的事象だ。

が、それなら恋も、門下生達もお前と同じく、人を固める能力を発現していないとおかしい。」



 俺はハッとし

「な、なるほど!飛ばされ役の人、毎回違うしね。

表の看板も、真田流固める空手になってないとおかしいよね。」

父さんの空想話の分析に微妙に付き合った。



 父さんはニコリともせず

「次の可能性だが、お前の首の後ろに木の杭が刺さり、白いインパクトが目に抜けた、の(くだり)だな。


 或いは、これと真田さんの気とが合間って能力を開花させたのかもな。


 ちょうど木の杭が強烈なツボ押しの様な形になり、お前が受けた真田さんの気を体内で増幅、活性化させた、か。うんうん……。


 そうとなれば妙子。」



 母さん「はい!アイスピック!」



 俺「おーい!!何考えてんだよ!つーか何?その見事な夫婦のコンビネーション!


 て、え?もしかして、あるかどうかも分からない、人を固める能力を見たいってだけで、息子の頸椎に一刺いこうっての?」

俺はアイスピックから目が離せない。

 


 父さんは目を細め、冷厳と言う。

「お前。気は、確かか?」



 俺「いやいや!それこっちの台詞!」



 父さんは、出来の悪い生徒に、我慢しいしい説明する教師ような口調で

「まぁ聞け。50人を越える人間を一瞬で無力化させる能力だぞ?

もしそれが本物なら、金等には代えられん凄まじい能力だ。


 応用次第では、潜入捜査から軍事目的まで、幾らでも利用可能だ。


 うん、もしかしたら限度は50人等ではなく、居合わせた人間を全て固められる、としたら。


 フン。そうなれば、お前の名前は裏世界の名鑑に載るだろう。

うん、これは間違いない。」


 

 いや、そんなのに載りたくねぇ!



 俺の隣、母さんも何度も頷きながら、無言でアイスピックの先を、丹念に焼酎で消毒し始めた。



 俺「おーい!ちょっと待てよ!

あんた達完全に頭おかしいって!!

俺、あんた達の息子だよ?大事な独り息子!」

俺は当たり前の事を喚き散らした。



 紗綾が床に伸ばした俺の両足首を押さえ込む。

「お兄ちゃん。わたし信じてる!絶対生きて帰って来て!


 後、お兄ちゃんの部屋、物置にしてもいい?」



 俺「おい!!お前それ信じてないだろ!つーか止めろ!冗談じゃねーよ!

あんなの首に刺されたら死ぬか、良くて半身不随じゃねーか!!

あんた達みんな狂ってるよ!!」

 

 ジタバタする俺の脚に、手では足りないと見たか、ちんまりとしたパジャマの尻を載せ、床に固定する紗綾の背中を見ながらつい叫んだ。



 父さんがぬうっと立ち上がり、綺麗な顔で俺を見下ろした。


        「翔。」



 死刑執行官とか、屠殺場の人とか見たことないけど、有事にはきっとこんな冷たい氷の眼をしているのだろうな、と勝手かつ、失礼なことを思った。


 首筋に冷や汗が一筋流れる。



 俺は「なっ、何?!」

母さんの気配が直ぐ後ろに感じられた。



 父さんがポツリ。

 「冗談、だ。」



 はえっ?!


 それを聞き、意味を悟ると、俺は一気に脱力した。


 

 「はぁー?!何だよそれー!はぁ~!ビックリしたぁー!!」


 俺は早鐘のように鳴り打つ心臓を押さえながら、多分コレ、父さんにしたら半分以上冗談じゃなかったな、と思っていた。



 父さんは、餌を投げてやったのに芸をしない犬を見るような目で

「流石に傷害、致死では役員を降ろされるだろうな。」



 いやそこかよ!!



 父さん「その後、白いインパクトの後、お前、何か変わった事をしなかったか?」

再びソファーに戻る。



 俺はのどの渇きを覚え、新しいビールを開け

「えっ?!その後?うーん。後はもうみんな固まってたよ。


 うーん、特には……あっ!」

俺は脛の上にまだ居座る、紗綾の背を押しながら父さんを見上げた。


 

 父さん「何だ?」



 俺「首の後ろに穴が空いてないかスゴく集中した。でもそんなことで?

うーん、これじゃないなぁ、多分。


 でも後はみんなが固まってたし。んー……。ヤッパリ、分かんないよ。」

俺は首の後ろに手を回し、首を傾げた。

そこには今も勿論、穴など空いてはいない。


 次いで試しに、意識をそこに、ムン!と集中してみる。

が、何かが変わったような気はしない。



 父さんは困ったような顔でソファーに沈んだ。 

何か申し訳ないような気がするけど、俺にはどうしようもないんだ。



 母さんはアイスピックの先を摘まみ、黙ったままだ。

  

 紗綾も小さな顎に右の人指し指を載せ、天井を仰いでいる。



 俺「ま、能力能力って、中二病の小説じゃねーんだから。ヤッパリ夢だよ、夢。


 もう遅いし俺、寝るよ。」

酔いも回り、ヨロヨロと立ち上がる。



 俺「紗綾も明日、普通に学校だろ?早く寝ろよ?


 父さん、あんま面白くない結末で何かゴメンね。


 今度は父さんも気功で飛んでみたら面白いんじゃないかな?」



  

  俺はその時、全身が総毛立った。



 何て表現して良いか分からないけど、三人を見下ろしたとき、人の死体なんか見たことはないけれど、それを目の当たりにしたような、茂みから蛇がズルッと出たのを見たときの様な、何か気味の悪さ、いや嫌悪感のような。


 なんと言うか……そう!戦慄した!



 俺は最初にキューっとし、その後ドロドロカッカッとする、熱い心臓を押さえながら、恐る恐る、初めは父さん、そして母さん、そして紗綾。

それぞれの顔の前で手を振ってみる。


 

    ダメだ!!道場と同じだ!



 はっ!正か、家族一同で俺をかつごうとしてるのか?

父さんと母さんの、無駄なコンビネーションの良さはさっき見た。


 うん、コレはやりかねない。



 だが、この違和感は何かが違う!と、直感的に感じ、俺はキョロキョロした。

この周りのハッキリとした見え方は断じて夢じゃない!



 俺は狼狽し、しばらく立ち尽くしていたが、恐怖しながらもあることを思い付いた。



 俺は独り頷き、決意を固め、紗綾の前にしゃがむ。


 そして左の手で紗綾の小さな鼻をつまみ上げ、右の掌でその下、口を押さえてみる。

こいつがとっさに、父さん達に合わせての演技をしているのなら、こうして息を止められたらどうだ?

 

 俺も同時に息を止める。



 部屋に時計はない。60を数えた辺りで俺はギブアップ。


 息を荒げながらも、手は妹から離さない。

押さえている俺の方が震えて来た。


 紗綾!芝居なら止めろ!し、死ぬぞ?!


 178、179、180、俺は堪えきれず、恐いものから逃げるようにパッと手を放す。

 

 紗綾は、ぷはー!どころか、瞬きすらしない……。



 昼間のアレは夢じゃなかった……。

こ、こいつは、本物だ!


 

 そう、俺の家族は固まってしまったのだ!

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