第95話 ーーーそれぞれの思いーーー
エルフのペリンさんは、人族が苦手だ。しかし、それではこの先、あの湖の家を直して、また、引きこもってしまう可能性がある。それに、よく考えれば、事情があるにせよ、エルフの民、全てが、現在、引きこもり状態である。鎖国状態が100年も続いている。
「困った……」
「何が困ったのですか? それと、シロウさん、人族の方がいます。獣人の国だと言ってましたよねーー! 」
……サツキや吸血鬼達の事か? ……
今、ドアを開いて、ルアンの森の里に来ている。ペリンさんは、サツキ達を見て、怯えるというより、俺に怒りを向けていた。
……引きこもりのタイプにもいろいろあるものだ……
「紹介しますね。こちらはゼロワン、ゼロツー、ゼロスリーです。知人に頼まれて一緒に旅をしています。因みに……種族は言えませんが、人族ではありません。これ、内緒ですよ……それと、こいつは、俺の妹のサツキです。ペリンさんに会うのは初めてでしたよね」
「サツキです。兄、兄、エルフさんだよ。おっぱいデカいよ。綺麗だよ」
「ニイニイ言うなっ! もう、いつからサツキはおっさんみたいになったんだよ」
「だって、綺麗なんだもん。美人は、保護しないとダメなんだよ」
「珍獣かっ! もう、お兄ちゃん、どっと疲れたよ〜〜」
「エヘヘヘヘ」
「仲がよろしいのですね。サツキちゃん、エルフのペリンです。シロウさんの妹さんなら大丈夫です。私……」
……何が、基準なんだ!? ……
俺は、みんなに事情を説明して北の迷宮都市に行く事になった。吸血鬼達は、少なからず同じような悩みを抱えた仲間が増えた事で、安心しているようだ。
……これから、どうなる事やら……
俺は、先行きが不安で一杯だった。
◇◇◇
モモリー姫も行きたいと駄々をこねるので、シロクマ王に相談したら
「連れてってやってくれ」
と、あっさり許可が出てしまったので、今度は、一緒に行く事にした。
迷宮都市ルーンに向けてドアを開く。マップで人がいない事は確認済みだ。
ペリンは、人族に見られるのが嫌みたいなので、サツキが持ってきた帽子を被り、俺の後ろから離れないようにくっついて歩いていた。その後ろには、黒ずくめの吸血鬼達がいる。これで、目立たないはずはない……。
「人がいます。怖いです……」
ペリンさんは、本当に怖がっていた。よく薬草を採りにこんなところまで、1人で来られたものだ。
「大丈夫ですよ。ほら、後ろのゼロ達も平気そうでしょう」
そう言ったのだが、ゼロワンは、目を瞑っているのかあちこちにぶつかりながらフラフラ歩いており、ゼロツーは、両手で頭を抱えて視界を遮っている。そして、ゼロスリーは、お腹が痛いようだ。さっきから、お腹を押さえてフラフラしてる。
「ねっ、って、あちゃー、サツキーー、ゼロ達をお願い」
先にソラスを肩に乗せてモモリー姫と並んで歩いていたサツキ達だが、俺が声をかけて気づいたようで、ゼロ達のところに行き、世話をしていた。俺が、すれば問題ないのだが、ペリンさんが、俺の後ろから服を掴んで離さない。
これでは、身動きが取れない……。
「シロウ兄、何処か休める場所探した方がいいよーー」
「そうだな。宿屋にいこうか? 」
俺は、前に泊まった事のある宿屋紅葉亭に行き、部屋を取った。最上階の3部屋だ。モモリー姫がいるので、少し無理をして、高い部屋を借りる。このフロアーには、俺達だけしかいないので安心だ。
一部屋が、広く、VlP専用の部屋みたいだ。贅沢な作りに驚いていると、サツキが部屋割りを提案した。
「モモリーちゃんとゼロスリーさん、それとペリンさんは私と一緒ね。男性達はシロウ兄と一緒。ソラスもね。これでいいでしょう? 」
「良いけど、一部屋余るよ」
「それは、いざという時の為にとっておくのよ」
「いざってなんだよ! 」
「それは、秘密よ」
……わけがわからない……
俺の部屋にいる吸血鬼達は、部屋に入ってすぐに布団を被ってしまった。
「大丈夫か? 」
「は、はい……こうしていれば、平気です……」
良くなってきたかと思えば、また、悪化しているようだ。でも、前よりは良いのかもしれない……。
これでは、ドアーフ達に会えないまま引き返す事もあり得る。ペリンさんも様子がおかしいし……どうしたら……。
そう考えていると、アンリエット王女から念話が入った。
『シロウ様、シロウ様』
『どうかされましたか? 』
『今、どちらにいらっしゃるのですか? 』
『迷宮都市のルーンです。ドアーフ達に用があってここにいます』
『そうでしたか……先程、事務官のドリトスから、シロウ様が、サラマー国の賓客として三国会談に来られるみたいだと、言っておりましたが、本当なのですか? 』
『はい。ギルド長の依頼内容がその件だったんです。ライン王の警備役として、雇われました』
『そうでしたの……今、時間ありますか? 私のところに来て下さい。お願いします』
『今、ですか』
『はい、お待ちしております。ガチャ』
……[念話終]……
急いでたけど、何のようなんだ? ……
俺は、前のすぐ向かったのが裏目に出たので、サツキにこの件を伝え少し、時間をあけてから、アンリエット王女の部屋にドアを開いた。
◇◇◇
「ぬけぬけと懲りずに来おって! このゴミ虫がっ! 」
ドアを開けた途端、いきなり罵声を浴びせられた。そこには、メイド1号が仁王立ちしていた。
……いきなり、これはキツいわ〜〜……
「王女様から用があると伺ったので参りました。ところで王女様は? 」
「今、用があっておりません。このまま、お引き取りを……」
「あの〜〜アンリエット様から呼び出されたのですけど……」
「何度も言いますが、アンリエット様は、今、留守です。お引き取り願います。このゴミ虫め! 」
……もう、このメイド1号、どうにかしてよ〜〜……
俺は、アンリエット王女に念話を入れた。
『アンリエット様、今、部屋に着いたのですが、何かご用事ですか? 』
『すぐ戻りますから、そのままそこにいらして下さい』
『でも……ソランジュさんが帰れって言ってますけど……』
『大丈夫ですわ。そのままお待ち下さい』
……[念話終]……
「あの〜〜アンリエット様が、少し待っててくれって言ってますけど……」
「チェッ! 念話をしおったか! 無礼者」
……舌打ちするなって! もう、このメイドは……
すると、アンリエット王女が戻ってきて、
「さぁ、シロウ様、行きましょう」
「えっ!? どこにですか? 」
「もちろん、迷宮都市ルーンですわ」
「えっ、今、アンリエット様、忙しいんじゃないですか? 」
「もう、私の仕事は済みました。いなくても問題ありません」
「そうは言っても、いないとすぐバレますよ」
「今、ロリンジュに幻術を頼んできました。さぁ、行きましょう」
……それで、いなかったのか……
「良いのですか? もしかしたら、一日か二日かかりますよ」
「平気ですわ」
俺は、仕方なく王女とメイド1号を連れて迷宮都市の宿屋にドアを開いた。
……一体、どうしちゃったの? ……
俺は空いてる部屋を王女達に使ってもらおうと思い部屋を開けると、そこには、着替えをしているペリンさんがいた。
もちろん、見てません……少ししか……
◇◇◇
「もーーう、シロウ兄は、部屋に入る時はノックするって知らないの? 」
かれこれ30分正座されられている。ペリンさんは、端っこでうずくまっていた。
「すみません……」
……俺の家では、個室がないからそんな習慣ないんだよ! サツキだってそうだろうがっ! ……
「私がシロウ様を急にお誘いしたせいですわ」
「いいえ。このゴミ虫は、何処でも同じ事をするクズ野郎です。そんな甘い事を言っておりましたら、被害者が増えるばかりであります」
「そうなのですか? 」
……違うわっ! ……被害者って何だよ〜〜、俺の方が被害者だ……
「ところで、アンリエット様、どうしてここに? 」
「サツキさん、ちょっと息抜きをシロウ様にお願いしたのですわ」
「そうだったのですか 。せっかくだから、みんなを紹介しますね。こちらの可愛いシロクマ耳の方はモモリー姫です。ルアンダ国の王女様ですよ。そして、あちらにいる黒ずくめの人達は、端から、ゼロワン、ゼロツー、ゼロスリーです。シロウ兄と一緒に行動しているお仲間です。それと、私の肩に止まっているのは、ソラスです。それから、さっきからあそこでうずくまっているのは、エルフのペリンさんです」
「モモリー姫様ですか? 三国会談でお会いする予定でした。こんな、可愛らしい方なんてどうしましょう。お持ち帰りしたいですわ。それに、エルフの方もいらっしゃるのですね。すごい。すごいですわ。私、ミリエナ国第一王女のアンリエット=ムサシ=ミリエナです。仲良くしてくださいませ」
「私は、アンリエット様にお使いするソランジュです。どうぞお見知り置きを」
「人族は怖い……」
ペリンさんの声だ。俺は、ペリンさんを連れて部屋を出て、俺の部屋に連れて行った。肩が震えている。
「どうされたのででしょうか……」
アンリエット王女は、ペリンの様子がおかしかったので心配していた。
◇◇◇
引きこもり吸血鬼達とペリンは俺の部屋で、うずくまっていた。
今は、そっとしておいた方が良さそうだ……
俺は、事情を説明する為、アンリエット王女を訪ねた。
「先程の、エルフの方の具合は如何でしょうか? 」
「実は、気持ちが不安定でありまして……」
俺は、エルフの民の事やペリンの父親がつい先日亡くなった事を大まかに話した。すると、アンリエット王女は、
「そうでしたか……エルフの方々は、未だ引きずってらっしゃるのですね」
「100年前の事は詳しくは知りません。でも、人族が不当にエルフ達を追いやった事については聞いています」
「王家の跡目争いに巻き込まれたのですわ。100年前、王家を継ぐ予定の王子が妻にエルフの娘をという話があり、その第2王子をはじめとするその忠臣達が、エルフを追い詰めてしまったのです。責任を取って王子は王位継承権を放棄したのですが、その……エルフの娘を殺されてしまって、その仇打ちの争いになりました。第2王子は敗れ、第1王子は、そのエルフの娘の跡を追いました。王家は、末娘の子に引き継がれ、その方は、私のお祖母様ですけど、今の王家があります」
「そうだったのですか……エルフの族長からもだいたい同じような話伺いました」
「シロウ様、エルフの族長を知ってらっしゃのですか? 」
「はい。ペリンの事もその族長からも外に出してやってくれと頼まれたのです」
「私、エルフの族長にお会いしたいですわ。是非とも、仲を取り持って頂けませんか? 」
「アンリエット様、いけません! エルフの民は、私達を恨んで隠れて生活されているのです。王家の人間であるアンリエット様がお会いになれば、殺されかねません」
「そうですね。ソランジュさんの意見も正しいと思います。遺恨はすぐには解決できないと私も思います。ですが、このままで良いという風には思えません。いつか解決しなければならないのなら、俺は、アンリエット様が適任だと思っております」
「シロウ様、私なんて、そんな力ありませんわ」
「いいえ。アンリエット様のお優しい気持ちは絶対、エルフの民にも届くはずです。ですが、今は三国会談も控えておりますし、王家の意向もあるでしょう。一存で動かれるのは早計かと思います」
「そうですわね。私1人で騒いでも他の者が敵対心を持っていれば、同じ事の繰り返しになりますね。もし、良かったら、三国会談にエルフのペリンさんをお招きしたいのですがどうでしょうか? 私達の意向をきちんとお伝えしたいですし……」
「聞いてみますが、今は何とも返事のしようがありません。でも、そうなると良いのはわかっています」
「シロウ様、私をすぐ王宮に戻して下さい。是非とも、皆の意見をまとめて上手く立ち回ってみせますわ」
「わかりました。では、お送り致します」
俺は、アンリエット王女の部屋にドアを開き送っていった。
できれば、エルフの民と人族が仲良くなってもらいたい。
できるのか?
そう思いながら、俺はペリンさんに話をしようと決心した。




