第93話 ーーーキメラの巣ではーーー
三国会談にサラマー国のライン王が出発する日は、まだ、一週間先なので、その間にキメラの件を何とかしようと思っていた。
サツキと合流する為、ルアンダ国のルアンの森の里にドアを開いて訪れた。すると、ドラ代ことゼロスリーが、いきなりの場面転換でパニクったのか、頭痛を訴えうずくまってしまった。
「ゼロスリー、大丈夫? 薬あるけど飲む? 」
「だ、大丈夫です。こうしていればすぐ治りますから……」
事前にこういう場所だと伝えてあったのだが、ダメだったみたいだ。
ドラ太郎、ドラ次郎は、こうした移動は、大丈夫そうに見えるが、内心ではいろいろな葛藤があるのだろう。
「シロウ兄ーー! 」
「シロウ様、ようこそルアンの森へ」
「ホーホーホケキョ」
サツキとソラス、それとモモリー姫が一緒にこちらに来た。そして、
「モモリー様、こんにちは。ちょっと、サツキと話があって寄らせてもらいました」
「構いませんが、そちらの方々は、どこか具合がお悪いのですか? 」
「少し……そうだ。紹介しますね。背の高い男性がゼロワンです。そして、この可愛らしい男の子がゼロツーです。うずくまっている女の子がゼロスリーです」
「ハイカラで素敵なお名前ですね。どうぞ、中でお茶でも」
「ありがとうございます」
「シロウ兄、ちょっと……何、ゼロワンとかツーとか、どうしたの? 」
「ドラ子の弟と妹何だが、名前のせいで長い間引きこもっていて、少し、精神的に弱っているんだよ」
「そうだったんだ〜〜わかった。私も協力するね」
「まぁ、頼むよ。難しいと思うけど……」
「シロウ兄よりは、他人の気持ちを理解できると思うよ」
「それは認めるけど、そんな風に言わなくてもいいだろう? 」
「はい、はい」
……サツキの奴〜〜本当、生意気なんだから……
「これは吸血鬼達ではありませんか? 外界に出てきたのは何千年ぶりでしょうか。ホーホー」
吸血鬼達もソラスがいたので少し安心しているようだ。
◇
「キメラ退治ですか? 」
俺達は、モモリー姫の誘いで、王城の中の応接室で話あっていた。
「サラマー国の北部にある山脈にキメラの巣があるらしく、その為に、財源となる鉱物が取れないらしいのです」
「それは、前から話を聞いてましたから知っていますが、キメラは獰猛な魔獣です。退治するなんて危険です。お考えを改めて下さい」
モモリー姫は真剣に俺達に話す。本当に心配しているらしい。
「ライン王にも言われましたが、無理はしないつもりです。危なければすぐ逃げようと思ってます」
「決心はお固いようですね。では、私も参ります」
「えっ、モモリー様、それはおやめ下さい。危ないですよ! 」
「シロウ様は、私が危ないと言っていたのに、行くとおっしゃいました。私が行くというと何故、止めるのですか? 」
「そ、それは……」
……理にかなっていて反論できない……
「モモリーちゃん。ここにいてね。それに、モモリーちゃんは、この国のお姫様なんだから、隣の国の問題に手を貸したら後で面倒くさいわよ〜〜」
「サツキ様、それはそうですが、それでも私は……」
「ダメです。モモリーちゃんは、帰りを待っててね」
「サツキ様……」
サツキの言葉でモモリー姫も納得したようだ。
……もう、サツキが主人公でいいんじゃないの? その方が、面白そうだし……
俺は、兄の威厳を保てるのだろうか?
◇◇◇
ソラスの転移により、俺達はサラマー国の北部の山脈に来ていた。
ドラ代は、サツキに言われたのか、目を閉じている。そして、時間をかけてその場で少しづつ目を開けさせた。
「そうそう、すごいわ。ゼロスリー」
「本当です。頭が痛くなりません……お腹も大丈夫そうです」
人間ならこんなに上手くいかないのだろうが、流石、悪魔達である。大分、いろいろな状況に慣れてきたようだ。
……でも、まだ、サングラスとマスクは外せないみたいだけど……
俺は、マップでキメラを探した。いたことはいたのだが、巣がある割には数が少ない。
「この先の、山の中腹にある洞窟に巣があるみたいだ。数は3匹しかいないけど、レベルは、80前後もある。気をつけないと……」
ソラスを先頭に俺とサツキ、後ろには吸血鬼達が、並んで歩いている。端から見たら冒険者というより、旅する大道芸人に見えるだろう。
洞窟の入り口に着くと、中から咆哮のようなものすごい音が聞こえる。風が洞窟内に吹き込んで、このような現象を起こしているようだ。
「その角を曲がったとこにいるから気をつけて……」
みんなに注意を促すと、みんなも気配を察知してたようで軽く頷く。
洞窟内では、吸血鬼達も安心するのサングラスを外していた。ドラ次郎ことゼロツーは、マスクまで外している。
「ここは、僕がやりたい!」
ドラ次郎の突然の討伐宣言だ。悪魔としての本能が騒ぐのか、戦いたくてうずうずしている様子だ。
「そうですね。あの数ならドラ次郎だけで余裕でしょう。ホーホー」
ソラスがそう言うので、ドラ次郎は、意気盛んにキメラ三体めがけて飛び込んで行った。ドラ次郎の武器は、鋼の手甲だ。物凄い速さで、キメラの前に立ちその顔をブン殴っていた。
キメラ達は何が起きたかわからない様子で、突然の敵襲に戸惑っている様子だ。そして、大きな声を上げ、口から辺り構わず火炎を放っていた。その威力は、岩を溶かすほどのものだった。まともに喰らっていたら、ただでは済まないだろう。
しかし、ドラ次郎は、それをあっさり避け、宙に舞い、綺麗なムーンサルトを決めて、火炎を放っていたキメラにドロップキックを喰らわした。残りは、後一体だ。時間的余裕があったのかそのキメラは堂々としていた。レベルを覗くと、89もある。この三体の中で親玉クラスだ。口から火炎、尻尾を左右に振り、土埃をたててあたりを見えずらくさせていた。そして、立ち上がり、大きな爪のある手でドラ次郎を襲った。
しかし、ドラ次郎は、霧化し、キメラの攻撃は宙を切り裂くだけたった。そして、ドラ次郎は、キメラの頭上に現れ、そのまま手甲を付けた手でキメラを思い切り殴り飛ばした。
「す、すごい……」
「本当、すごいね。あれじゃあ、シロウ兄の出番はないね」
サツキが俺に話しかけている間に、ドラ次郎の戦闘は終わったようだった。
こちらに息ひとつ乱れないで向かって歩いてくるドラ次郎。その姿は、アイドル主演のアクション映画を見ているようだった。
「ねえ、ドラ次郎じゃない、ゼロツーってあんな可愛い顔してたの? お持ち帰りしたくなってきたよ」
サツキがそういうのも当然だ。俺も、そう思っていたから……
……俺はノーマルだからね。でも、これで自信がついてくれれば良いけど……
ドラ太郎、ドラ代は、当たり前のようにドラ次郎を迎えた。褒めるわけでもなく、貶すわけでもない。ただ、当たり前のように……
……ドラ子も強いけど、この吸血鬼達も相当強いんだ……
「ゼロツー、凄かったよ。動きが見えないくらい早いし、それに圧倒的な強さだ」
「これくらい、何でもありません。冥界には、これ以上のものがたくさんいましたから。これでも、柩に引きこもる前までは、すごく活躍してたんですよ」
「ドラ次郎は、堪え性がないですから、すぐ、特攻を仕掛けます。成り行きをみて動けば良いのですが……」
「ドラ太郎兄さんだって、堪え性ないじゃんか。あの時だって、俺より先に攻撃してたよ」
「兄達は、戦闘バカですから、私には理解できません」
「何を言ってるの? この中で一番最悪なのがドラ代だよ。ドラ代が戦闘を始めたら、誰が止めるの? 僕、やだよ。誰彼構わず、切り裂き出すから……」
吸血鬼達の会話を聞いていると、物凄い強そうな事がわかる。こいつら、もう、冥界に返して良いんじゃないの? 病気も治っているみたいだし……
俺は、その後、キメラの遺体を亜空間バックにしまい、この洞窟を後にするのだった。
……キメラって、この三体だけだったのか? ……
少し腑に落ちない事もあったが、俺達は、ルアンの森の里に向かった。
◇◇◇
ソラスの転移にも慣れたのか、ドラ代は、自分なりの落ち着き方を学んだようだ。流石、悪魔達である。立ち直るのも早い……って思っていたが、里に着くなり、いきなりサングラスをかけ、ドラ次郎はマスクを被った。
……さっきまでの君達は何処にいったの?……
吸血鬼達は、また、前と同じに戻ってしまった。どうやら、人や獣人に慣れていないのが原因らしい。これでは、血を吸うという食事が心配だ。
俺は、どうすれば、吸血鬼達が人慣れするのだろうか、と悩んでいた。




