第92話 ーーー吸血鬼達の初体験ーーー
吸血鬼達の事を詳しく知ろうとした俺は、ドラ子に会いに冥府に来ていた。引きこもり吸血鬼達は、サラマー国の部屋に置いてきている。疲れたらしく、ドラ太郎とドラ代は、ベッドに布団を被って、ドラ次郎は、ベッド脇の小さな隙間で寝ていた。
「ドラ子さんは、すぐ来ると思います。シロウ様も大変ですね」
「思ったより、吸血鬼達の心の問題が大きすぎたんで、ドラ子なら詳しく知ってると思って……」
俺は、居間でクルミと話しながらドラ子の到着を待っていた。すると、
「シロウ様、こんにちは。」
「ドラ子、忙しい時に悪いな」
「大丈夫です。弟達の事ですよね」
「そうなんだ。思ったより心に抱えている問題が大きそうで困ってたんだ」
「では、お茶を頂きながらお話ししましょう」
ドラ子が言うには、吸血鬼達は、血の繋がった本当の弟妹ではなく、ドラキュラ伯爵の血を分けて吸血鬼になったもの達である。ドラ子は、一番初めに血を分けてもらった吸血鬼だと言う。
元は、ドラ子はサキュバスの血を受け継ぐ一族の悪魔だったらしいので、吸血行為の時、催淫効果も出るという。他の兄妹達は、その効果は発生しないらしい。
というか、他の弟妹達は、人間の血を直接吸った事がまだ、一度もないらしい。血を分けてもらい、冥府で暮らしていたが、冥府にいる他の悪魔達から名前の件でからかわれ、遂に引きこもってしまったという。もう、数千年前の事だそうだ。それでも、食事を取らないわけにはいかないので、ドラキュラ伯爵が、定期的に血の入った器を柩の前に用意していたそうだ。それを、数千年も続けているというから驚きだ。
ドラキュラ伯爵は、血の入った器とともに、手紙も添えていたらしい。
ドラ子の場合は『元気にしてるか?』 とか 『儂はお前を信じているから』とか、書かれてあったそうだ。他の兄妹も同じだと思う、という。
「ドラキュラ伯爵、めっちゃいい悪魔じゃん。俺、泣けて来たよ」
「今、思えば自分がつけた名前のせいだと責任を感じていたのかもしれません」
「ドラ子は、どうやって立ち直ったの?」
「私の場合は、寝てばかりだとつまらないのでちょくちょく抜け出して散歩してましたから、そんなに違和感なかったんですよ」
「やはり、時間が必要なのかな?」
「そうですね。基本、吸血鬼は死なないですから、時間がありあまっているんです。長い年月といっても時間の感覚は、人のそれとは違います。ですので、時間ではなく、自身がつけば大丈夫だと思います。それと、吸血行為をできるようにしてあげてくれませんか? あの子達も、自分で食事ができれば自身もつくと思います」
「吸血行為か……」
……俺が実験台になるしかないよねーーこの場合……
「わかった。助かったよ」
「いいえ、こちらこそ。あの子達をよろしくお願いします」
ドラ子の話が聞けて良かった。最初にやるべきは吸血行為だ。
でも、俺、大丈夫か? 相手は、3魔だぞ。血は足りるのか?……
血液を吸われすぎて、ヨロヨロになっている自分が容易に想像できた。
◇◇◇
サラマー国に戻った俺は、みんなを起こして吸血行為の練習をさせる事にした。吸血鬼達は直接血を吸うのは初体験、もちろん、俺が実験台だ。
「じゃあ、ゼロワンからやってみようか? 」
「血、血をち、直接吸うなんて……無理です!」
「目をつぶって、最初は一滴でもいいからやってみようよ」
「目を瞑ってていいんですか? 」
「そうだよ。慣れれば、ちゃんとできるようになるし、でも、あまり吸わないでね。ゼロツー、ゼロスリーもいるから〜〜」
「わ、わかりました。ご、ご命令とあらば、仕方あ、ありません」
「うん、そんなに緊張しなくても大丈夫だから、気楽にね」
「は、はい。では、いきまーーす! カプッ」
ドラ太郎こと、ゼロワンは、俺の左首筋に牙をたて血を吸っていた。不思議な事だが、痛みは全く感じない。ただ、何か妙な気持ちになる……
俺の血を吸い終わったゼロワンは……
「lt tastes great! 君、生血は美味しいものだねーー。ありがとーーう」
……どうしちゃったの? いきなり英語? それにキャラ変わってるし……
「ゼロワン大丈夫? 」
「何がだい。私は、全然問題ないよ。心配してくれてありがとう。キラッ」
……わぁ〜〜なんだ。この爽やかさは〜〜、牙がキラッって光ったぞ……
「眩しい……爽やかすぎて、直視できない……」
「何を言ってるんだい。それに、弟達も血を吸ってみれば良い。きっと、新しい自分を発見できるよ。キラッ、キラッ! 」
「ドラ太郎兄さんが、眩しい〜〜爽やかすぎる〜〜」
「ダメ、直視できないよ。イケメンすぎるよ〜〜」
他の吸血鬼達もドラ太郎の変貌に驚いたようだ。
「何を言ってるんだい。私が爽やかなのは昔から………ブルブル」
「ゼロワン、どうしたの? 急に震え出して?」
「め、目が、眼鏡をく、ください。は、早く、お、お願いし、します……」
ドラ太郎は、先程の爽やかキャラから一転して、元のドラ太郎に戻ってしまった。
「何が起きたんだ……?」
俺は、ドラ太郎にサングラスをかけさせ、布団を被せた。すると少し落ち着いたようだ。
……考えるのは、後にしよう…
「じゃあ、今度はゼロツー、やってみようか? 」
「はい、頑張ります……カプッ」
ドラ次郎ことゼロツーは、俺の右首筋に牙をたてた。ドラ太郎の時と同じように痛みは無いが、妙な気分になってくる……
……これ、マズいかも……俺、ノーマルなはずなのに……
俺の血を吸い終わったゼロツーは……
「お兄さーーん。血をありがとーーう。僕、ドラ次郎。宜しくねーー! 」
……また、変貌してる……
「どう? うまく吸えた? 」
「血は美味しかったよーー。ニコッ!」
ドラ次郎は、その場所でいきなりクルッって回って、こちらにあどけない笑みを投げかけた。
「うっ、すごい笑顔攻撃だ。可愛らしくって、直視できない!」
そして、ドラ次郎は、その場でバク転をし、俺達に最高の笑顔を振りまいた。
「ドラ次郎が、可愛いすぎるーー!」
「キャーー! ドラ次郎が可愛いーー!」
……半ズボンを履かせて、ローラースケート履いたら完璧だ……
「君達ーー、僕が可愛いのは当たり前だよーーニコッ………………ブルブル」
ドラ次郎もまた、震え出して元に戻ってしまった。俺は、脱ぎ捨てられたマスクを被させサングラスをつけて布団を被させた。
どういう事なんだ? 血を吸った後は2人ともあんなに陽気になるのに、だいたい3分で元に戻ってしまう……
……ウルトラ◯ンかっ! ……
「最後にゼロスリー、やってみようか? 」
「はい……あの〜〜初めてなので痛くしないで下さい……」
……変な事言うなっ! ……
「では……カプッ」
ゼロスリーこと、ドラ代は、俺の左首筋に牙をたてた。すると……
「わぁ〜〜美味しい〜〜」
……ドラ代は、大丈夫そうか? ……
「お兄ちゃん、血をありがとう。キュン! 出席番号3番のドラ代で〜〜す。ゼロスリーって呼んでね〜〜。キュン、キュン! 」
……出席番号って何だよ! 俺は9番だよ!……
「ゼロスリー、大丈夫か? 」
「全然だいじょぶで〜〜す。今日は、私のコンサートに来てくれてありがとーーう! みんなーー! 大好きだよーー!」
……コンサートって何だよ! ……アイドルかっ! ……
そして、ドラ代は、いきなり踊り出した。その可愛らしさはハンパじゃない。
「わぁ〜〜生アイドルだよーー」
「ドラ代は、引きこもってた間、いろんな音楽を聞いていましたから……」
「♪ あなたのハートに、ズッキュン! 私のハートは、バッキュン! 」
……今度は、いきなり歌いだしたぞーー。しかも、歌上手いし……
……そうだ。こいつらをアイドルにさせれば、大儲けできるかも……
「あぁ〜〜♪ 恋は、鯉こく、味噌大事!イエッ! ………ブルブル」
ダメだ。また、元に戻ってしまった……
3分しか持たないアイドルって、きっと売れないよね……
◇◇◇
吸血鬼達は、血を吸うと一定の効果が出るのがわかった。
……3分間だけだけど……
俺は、今、ライン王との夕食会に招かれている。吸血鬼達は、血を吸った為、お腹が一杯ということで、また、部屋で寝ている。
「シロウ殿、少し顔が青いようですが、具合が悪いのですか? 」
「いいえ。大丈夫です。少し低血圧なのでそう見えるのでしょう」
「それなら良いが……たくさん食べてくれ」
「はい。どの料理も美味しそうです」
俺は、血液を吸われすぎて少しフラフラしていた。肉を食べて、元気をつけないと、これから大変だ。
出された料理はどれも美味しく、俺は夢中で食べまくっていた。すると、
「シロウ殿の食べっぷりは見ていて気持ちいいなぁ」
「すみません。美味しくて夢中になってしまって……」
「気にすることはない。喜んで頂いて私も嬉しい」
「ありがとう御座います。それで、三国会談とは、具体的に何をするのですか?」
「特に何をするということはないが、友好国が集まって親交を深めるというのが目的だ。でも、私たちサラマー国は、さらなる援助を申し出るつもりなのだが、上手くいくかどうか……」
「援助というと、資金面の事ですか? 」
「それもあるが、資金援助は、一定期間しか効果がない。それでは、また、直ぐにこの国も困窮してしまう。できれば、継続的な資金調達ができるような事を考えているのだが、良い案が見つからなくてね、困っているんだ」
「継続的ですか……サラマー国の特産物は何かありますか? 」
「ミリエナ国の比べれば、特産という目面しい物は無いんだ。ただ……」
「ただ? 」
「昔は、鍛治職人がたくさんいたのだよ。サラマー国の北部に山脈があって、そこから鉱物が取れたんだ。それで、武器や防具などを作る職人がたくさんいてね、サラマー国はそれで成り立っていたんだ。でも、今は……」
「北の山脈にキメラの巣があって誰も近づけなくなってしまった。討伐隊を組んで退治しようとしたのだが、逆にやられてしまってね、今は、相当数も増えている事だろう」
「ギルドとかに討伐依頼は出してないのですか? 」
「キメラ一体で一個中隊がやられてしまったんだ。冒険者では、無理だろう。依頼は、かなり昔から出されているようだが、誰も見向きもしないだろうね」
「そうだったんですか……そのキメラの巣が無くなれば、また、以前のようにサラマー国も潤いますか? 」
「出て行った鍛治職人達が戻って来ればそうなるだろうが、彼らドワーフ達は、気難しいので、無理かもしれない。せめてエルフの力を借りればドワーフ達も言うことを聞いてくれるのだが……」
「エルフはドワーフ達と仲が良いのですか? 」
「良いというか主従の関係に等しいと思うよ。ドワーフ達は、以前、エルフ達に命を救われたからね」
「そんな事があったのですか……」
「でも、それも無理だろうね。エルフ達は、人間を毛嫌いしているし、今は、何処にいるのかさへわからないから」
「わかりました。できるかどうかわかりませんが、考えがあります。ミリエナ国への出発はいつですか? 」
「5の月の1日にここを出発しようと思う」
……まだ、一週間ある……
「わかりました。では、その時、また、伺います」
「えっ! シロウ殿、ここにいてくれるのではないのか? 」
「エルフに知り合いがいます。できれば話をつけてこようと思っています」
「シロウ殿は、エルフに知り合いがいるのか? 」
「はい。でも、キメラを倒さないとダメなんですよね。何とかしてみます」
「相手は、キメラだぞ。シロウ殿の命が危ない! 」
「危険な真似はしません。もし、危なければ逃げてきます。逃げ足だけは早いので」
「シロウ殿、あまり無茶はしないでおくれ。シロウ殿には、これ以上、迷惑をかけられない……」
「そんな事はありませんよ。それに、無茶はしません。私も命は惜しいですから」
「それなら良いが……」
……キメラ退治にエルフとドアーフか……できるのか?……
俺は、サツキにも念話で知らせて手伝ってもらおうと思った。
サツキは、今頃、何してんだ?
◇
「モモリーちゃん、こっちもゴシゴシ綺麗にしましょうね〜〜」
「サツキ様、前は自分で洗えます。ダメですーー。あっ!」
「ホーホーホーケキョ! クシュン……」




