第82話 ーーー海底宮殿ではーーー
『みなさ〜〜ん。おはようございま〜〜す。今日と明日、この1号車の担当の馬須賀 伊都で〜〜す。よろしくねーー!みなさんが行くのは日光国立公園です。
山あり湖あり滝ありの何でもありありの場所で〜〜す。それに、歴史的にも有名な場所なんですよ〜〜。徳川家康ゆかりの日光東照宮は有名ですよねーー」
睦美のクラスのバスガイドさんは、明るい性格らしい。20代前半のようだが、子供達からみると、煩いおばさんに見えるのか、突っかかる子供達もいた。
「海ないじゃん!何でもありありじゃあないじゃんか〜〜!」
「君ーー!良いこと言うね〜〜!おねーーちゃん気に入ったぞ〜〜!海は無いけど、何と不思議なことに山奥なのに人魚伝説もある不思議なところなのだ〜〜。
みんなで、いろんな不思議を探しのも楽しいかもしれませんね〜〜。では、出発しますよ〜〜!」
バスが発車し、狭い通りから大きな通りへと走って行く。これから、高速道路に乗る予定だ。
「睦美ちゃん。あのバスガイドさん、テンション高くない?聞いてると疲れるわ」
睦美の隣の同級生は、眉間に皺を寄せながらバスガイドの話し方にうんざりしていた。
「そうだねーーあとでお菓子食べよう。私、結構、持ってきたんだ」
「500円までじゃないの? 」
「うん。でも、誤魔化しちゃって、たくさんお兄に買わせちゃった」
「やる〜〜あとでちょうだい」
「わかった」
お菓子の誘惑には勝てなかったらしく、バスに揺られ睦美達は、食欲も増したようだ……。
◆◆◆
一方、シロウ達は、レヴィアタンのヒレに捕まり入江から海の中の入っていった。
「わぁ、息が……」
息ができない……これ、マズい……加護、効いてないじゃん……
『シロウ様、水を飲むと楽になりますよ』
アンリエット王者から念話だ。見ると、みんなは平気な様子だ。
俺は言われた通り水を飲んでみた……肺に水が満たされると、呼吸ができるようなった。
一体、どう言う理屈なんだ。水中の酸素を取り入れてるのか?魚みたいに……
『アンリエット様、ありがとう。楽になりました。どうしてわかったのですか?』
『昨夜、みんなで浴場で練習しましたのよ』
『そうだったんですか……助かりました』
『お役に立てて嬉しいですわ』
ズボンが水を吸って重くなっている。これでは動きずらい。
水着持ってきてないし……
俺は、仕方なくズボンを脱いでパンツになる。ボクサーパンツなので水着に見えなくもない。
結構、深い場所に来たけど、地上と同じように動ける……これが加護の力か……
『シロウお兄ちゃんは、ダメダメなのでちゅう』
そんな俺を見ていたミミーから念話がきたが、ダメ出しされただけだった。でも話しかけてくれるのは嬉しい……
『ミミー、あとでくすぐりの刑に処するから覚悟しとけよ〜〜』
『へへ〜〜ン、ミミーは、もう、そんな事ではやられてあげないのでちゅう』
『もうすぐ着くわい。ほれ、見てみい〜〜あれが海底宮殿じゃあ』
レヴィアタンからの念話が届いた。海中では念話でしか話せない。でも、ここにいるみんなは、加護のお陰で全員念話ができる。
それは、海底奥深くにあるまさに宮殿という作りだった。ところどころ崩れており、岩の外壁には、貝やら藻がついている。だが、何年もの間、海底に放置されていた建築物には見えない。誰かが管理していたようだ。
図体のでかいレヴィアタンには、入るのは無理だろう。まるでおもちゃのように見えるに違いない。
『儂が行けるのはここまでじゃあ。あとは頼んだぞ』
レヴィアタンの合図で俺達は、掴まってたヒレを離し宮殿に向かって泳ぎだした。
すると、周りからサメのような獰猛そうな魚が襲ってきた。
『魔魚のサーメンじゃ。儂が相手しておくからお主達は、あの入り口から入るがよい』
俺達は、レヴィアタンが誘導してくれた入り口から宮殿に入り込んだ。
◇◇◇
宮殿に入ると、そこは上から見るより大きな建築物だった。岩を加工して上手く組み合わせて作られている。ところどころから魚が顔を出し泳いでいった。
まさに、天然の水族館のようだ。
上を見るとレヴィアタンが優雅に漂っている。こうしてみると、かなりデカい。
魔魚サーメンなど、シラスのようだ。
『みんな、こっちから中に入れそうだよーー』
カトリーヌ王女からの念話だ。一斉通信なんて俺でもしたことない。
俺も試してみようとして、みんなに念話する。
『セイレーンっていう怪物がいるらしいんだ。みんな気をつけてくれ』
みんなが頷いている。割と簡単にできるじゃないか……すると、
『シロウ、何か言った?』
リーナからだ……。もしかして、リーナにまで伝わったのか?……
『今、ミミー達と海底宮殿に来てるんだ。念話を一斉通信したのだけどリーナにまで、伝わってしまったんだ』
『そうだったの……ミミーをお願いね』
『わかった』
……[念話終]……
すると、今度は……
『シロウ兄、何か言った?』
『シロウ君、私に何か用?』
『シロウはシロウで何してる?』
サツキ、スズネ、シアンにまで念話が通じてしまったようだ。
『ごめん、間違えただけ……』
そう言ってみんなには、誤魔化しておいた。そうしないとあとで何言われるか、わかったものじゃない。
俺は、全マップ探索を展開しておく。ここのデーターが無いのか、地図は表示されないが、怪物のセイレーンは、表示されていた。
な、なんだ……この数は……奥にかたまっているみたいだが……
近くには、セイレーンはいなかった。俺は、みんなに注意を促した。
◇◇◇
全マップ探索で確認すると、セイレーン達は、奥の広間で集まり何かをしているようだ。その数、約300魔、レベルは、20〜30ぐらいだ。
俺達の侵入には、まだ、気づいていないようで目立った動きは、見られない。でも、油断はできない。敵はセイレーンだけではない……。
『カトリーヌ様、そっちにーー』
『わかってるよ〜〜』
魔魚サーメンが数匹、王女達の方に行った。2人の王女が剣を振る前にメイド1、2号達が、襲いかかってきたサーメンを切り裂いた。
あのメイド達、こんなに強いの?……
『シロウ様!後ろです!』
アンリエット王女の呼びかけに後ろを向いたら、サーメンが大きな口を開いていた。剣を取り出す暇はない。俺は、そのサーメンを思いっきり殴った。
そのサーメンは、泡をたてて遥か向こうに吹き飛んでいった。
マップ展開してたのに……戦い慣れてないせいだ……
自分を恥じていると、ミミーがこちらをみて『プイ』っとまた、顔をそらした。
その様子だと、俺の事を心配して見てたようだ。
幼女に心配されるなんて……情けない……
以前、リーナが言ってたっけ……
強くなるには日々の鍛錬だと……
俺に備わった加護は、死なない為の保険だと……
「俺は、毎日、家事しかしてないしなぁ〜〜」
周りのみんなが強すぎるので、いつも俺の出番はない。
これじゃ〜〜ミミーに嫌われるわけだ……
毎日、腹筋とか腕立てとかしようかなぁ……
周囲を注意深く警戒し、建物の内部に入ってみると、魔法の仕掛けなのか、天井を覆っている苔のようなものが発光し内部は明るかった。
建物の内部を進んで行くと、迷路のようになっていた。迷ったら大変だ。一度でも通れば、マップに反映される。もし、今、セイレーンに襲われたらこの場所では不利だ。相手は地の利を活かせる。
すると、今度は、デカい海蛇のような怪物が襲ってきた。マップで事前にわかっていたが、実物をみると、かなり強そうだ。レベル45もある。
だが、ミミーがその怪物に向かって泳ぎだすとあっという間に斬り裂いてしまった。それも、一瞬でだ。
『ミミーちゃん!やる〜〜』
カトリーヌ王女の掛け声に気分を良くしたのかミミーが先に突っ走ってしまった。
『ミミー、ダメだーー!この先には、セイレーンの群れがいるぞーー!』
俺の念話もお構いなしに、ミミーは物凄いスピードで泳ぎ去って行く。
「速い……追いつけない……」
俺はミミーの跡を追うがその速さに、ついて行けなかった。先程の海蛇の騒ぎで偵察隊らしいセイレーンが脇の通路からこちらに向かってくる。
「げっ!あれがセイレーンなのか……口裂け女の人魚バージョンじゃないか……ちょー怖い顔なんですけどーー!」
偵察隊らしいセイレーンが俺達を見つけた。口から何か吐き出した。
海水の渦巻き状の波紋が広がる。音波攻撃のようだ……
『敵の攻撃です!防いで下さい!』
俺は、聖剣を盾にして防ぐ。アンリエット王女達は、メイド1号のシールドが張られていて無事だった。
俺がセイレーンを攻撃しようとしたら、カトリーヌ王女が一瞬でセイレーンの背後に回り、後ろから斬り裂いた。カトリーヌ王女のスキル、瞬間移動だろう。
マップをみると、ミミーがセイレーンの群れの中を突き進んでいる。こちらにも数十匹向かって来ていた。
『アンリエット王女、俺はミミーを追います。皆さんは、ロリンジュさんの幻術で通路を塞いで隠れていてくれませんか? 数が多いので俺達の方が不利です』
『いいえ、私も戦いますわ』
『アンリエット様、様子を見るのも作戦のうちです。ここは、ゴミ虫の言う通りにしましょう。あとで私が応援に駆けつけますから……』
アンリエット王女は、メイド1号の真剣な眼差しを酌み取り、メイド2号の幻術によって脇の通路の中に避難した。
俺は、ミミーの跡を追う。もう、ミミーは戦いの最中だ。
半分ぐらいのセイレーンが、斬り裂かれている。しかし、敵も数では負けていない。
『ミミー、一旦、体制を整えるぞーー!』
『大丈夫!殺す!』
ミミーの様子がおかしい……幼児言葉がなくなってる……
俺は、ミミーの背後を襲おうとしていたセイレーンを叩っ斬った。
血飛沫が海水に飛散する。
『殺す、殺す、殺す、殺す、殺す……』
ミミーの思念が伝わって来た。明らかにいつものミミーじゃない。
「そうかーー、瘴気か……」
ミミーは、暴走しかけているんだ。何故気付かなかった……
最初に会った時も、アザゼルの時もミミーは、身体が小さいから少しの瘴気で暴走しだすって、リーナが言ってたのに……
「リーナが心配してたのは、妹のように小さくて可愛いからじゃない。暴走するかもしれない事を気にしてたんだ……」
今頃、気付くなんて……俺は、なんてバカなんだ。最低だ!
『ミミー! 気をしっかり持つんだーー!暴走しちゃダメだーー!』
『殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、皆殺しだーー!』
ミミーの身体から黒い瘴気が溢れ出した。
周りのセイレーンや魚が、毒でも吸い込んだように死んで浮かんでいる。
『ミミー!ダメだーー!』
黒い瘴気は、もう、ミミーを包み込んでいた……。




