第8話 ーーー冥府の黒炎サリーナ=アスモ=サタンーーー
俺は、スズカゼ シロウ。15歳。つい先日、誕生日を迎えたばかりです。
今は、草原を走ってます。風が直に皮膚に当たる感覚。自転車やバイクで風を切ると気持ち良いと言われてますが、それは、快適な体感温度、適度なスピードがもたらしてくれるものです。
『ギャッーー!速い!痛い!苦しいーー!』
皆さんは、気絶した事がありますか? 体の不調、病気や体質など、また、部活動や理不尽な他人による行為、大人達がお酒で酔っ払ってそうなるケースがあると聞いています。しかし、俺は、日本での生活でその様な経験がありませんでした。日本では……
『うぉーーもうダメ。もう限界。止めてくれーー!』
俺は、異世界で、また、気絶してしまった。
それは……
◇◇◇
「リーナ。俺、そろそろ街に戻って薬草をギルドに届けなくてはいけないんだ。詳しい事はまた今度でいいか?」
「わかった。私も行く」
「イヤイヤ、リーナは、起きたばかりだろう。ここで、ゆっくりしてていいよ。じゃあ!!」
「シロウ。美味しいもの食べさせてくれると約束した」
「今度、買ってくるよ。時間がないから行くね」
「時間があれば、美味しいもの食べさせてくれるの?」
「…………」
「じゃないとシロウの魂食べる」
「わかった。わかった。部屋を出て一緒に行こう」
「初めからそう言えばいい」
「じゃあ、リーナ行こうか」
俺達はドア2を開け草原に出る。風が吹き抜け気持ち良い。
「街はどっち?」
「向こうの方角だよ」
「わかった」
リーナから伸びた黒い影が、俺を拘束する。そして、信じられないスピードで走り出したのだった。HPやMPがいくら高くたって、俺の精神までは強化されていない。俺は意識を失い、目が覚めた頃には、王都の城門が見え始めてきたところだった。
「リーナ!ストップ!止めてくれーー!」
俺の叫びに、やっとリーナが反応してくれて止まった。先が思いやられる。
「どうしたのシロウ?」
「ふぅーふぅーちょっとまってて、息を落ち着かせるから……」
「シロウは、軟弱。それでは私の契約者として失格」
「無理もないだろう。この間まで普通に暮らしてたんだから」
「早くレベル上げて強くなった方がいい」
「わかってるけど、順序ってもんがあるんだよ。いきなりは、普通の人間には無謀だよ」
「わかった。順序を守って強くする」
「そうそう、そういう事」
「そういえば、リーナはこの街で暴れたの覚えているの?」
「よく覚えてない。ただいきなり起こされて……お腹が空いてた」
……腹が減っただけであの暴れようかよーーどんなけ食いしん坊なんだ……
「そうなんだ。リーナは、この街で大暴れしたんだよ。だから、その格好じゃマズイかもしれない。街で獣人は見かけたけど、今のリーナは、魔人みたいな格好だし、目立つから弱ったなぁーー」
「じゃあ、ツノ取る」
「えっ!それ、取れるの?」
「うん。取れる。強そうに見えるから着けてるだけ」
……取り外し可能かよ!どこかのアニメで見た設定だ……
「じゃあ、ツノ取ってもらって、羽根は消せる?」
「消せる。人間のようになればいいの?」
「そうそう、目立たないように」
「わかった」
そう言って、リーナは黒い影を纏い人間らしい格好の服に着替えた。
「その黒いの便利だね」
「うん。何でもできる」
「そうなんだ……」
俺達は、冒険者ギルドに寄り薬草採取の仕事を終え、報酬に銀貨5枚を手に入れた。
リーナと一緒にいる事でギルド長に迷惑がかかると思い俺は、せっかくの宿泊の約束を丁重にお断りして、街の宿屋に泊まることにした。途中で、リーナと俺の服や日用品を買い揃え、ギルド長から紹介された宿屋銀杏亭に向かう。
フード付きのコートを買ったお陰か俺に対する中傷は向けられずに済んだがリーナが別の意味で目立っていた。
「おい、あの銀髪の子すげーーかわいいなぁ」
「あぁーー滅多にいないぜ。あんな美人」
「なんだ横の連れ。ひ弱そうなあんな奴に……羨ましすぎるぜ!」
という街の声が俺達に向けられた。誹謗、中傷より良いがあんまり目立ちたくない。リーナが王都を震撼させた人物とバレたらえらいことだ。
◇◇◇
俺達は、銀杏亭という宿屋に着き、部屋を取る。二部屋取ろうとしたのだが、リーナを一人にしておくのは心配なので、一部屋大銀貨2枚で泊まる事にした。
因みに、こちらの貨幣価値は、銀貨一枚が1000円大銀貨一枚が10000円、金貨一枚が10万円ぐらいで、100円に相当するのは銅貨一枚だった。
「この部屋で2万円かーー高いなーー」
「シロウの国の価値?」
「何で知ってるの?」
「契約したから、シロウが日本という国から来たこともわかる」
「そうなんだ。俺の心の中覗いたの?」
「覗こうとすれば覗けるけど、今は、まだいい。それより、お腹がすいた」
「普通の食事でいいんだよね?」
「そう。いつも魂ばかり食べてるわけじゃない。魔力とか人間の食事も食べる」
「それなら良かった。そうだ、リーナ。一つ約束してくれ」
「なーーに?」
「許可なく他人の魂を食べない事。それに、自分の正体をバラさない事」
「約束が一つじゃない」
「じゃあ、二つだ」
「必要に迫られた時は?シロウがいない時、危険が迫るかもしれない」
「そうだった。そこは、リーナの判断に任せる」
「それなら、いい」
「じゃあ、食事に行こうか?」
宿屋銀杏亭の一階部分は、食堂になっている。俺達は好きな物を頼み、各々満足するまで食べた。リーナの食欲は凄まじいもので、食堂の女将さんが驚いていたが、美味しく食べてる様子を見て嬉しそうだった。
俺達は部屋に戻り、リーナが危険な存在なのか確かめなくてはと思い、少し話をする事にした。
「リーナは何で急にここに現れたんだ?」
「わからない。山の麓の洞窟で封印されたのは覚えている」
「言いたくなければ、話さなくてもいいけど、なぜリーナがなぜ封印されなければならなかったんだ」
「昔、魔の者と人間達との争いがあった。きっかけは詳しく知らない。魔王の父は、勇者達のパーティに殺された」
「勇者がいたんだ……」
「多分、シロウと同じ国の人」
「えっ、そうなんだ……」
……勇者召喚でもされたのか?……
「私も、勇者達に封印された」
「リーナは殺されなかったんだね」
「殺されなかったんじゃない。殺せなかったんだと思う。だから、封印された」
「リーナが強いから?」
「父の方が強かった。でも、勇者が聖剣を持ってたから……」
「聖剣だと殺せるんだ」
「あれには、神の力が宿ってる。勇者が父との戦いで聖剣が折れた。だから私は封印された」
「聖剣が無かったから殺せずに封印されたんだ……。確かに、リーナが纏う黒炎は、無敵だもんね」
「あの黒炎は、王の証し。父と私しか纏えない」
「そんな、すごいものだったんだ……」
「シロウ、もっと褒めるといい」
「わかった。リーナは凄いよ」
「うん。気持ちいい……」
「じゃあ、リーナは冥府の王なんじゃないの?黒炎を纏えているし」
「今の冥界がどうなっているのかは知らない。でも、きっとリーゼが王になっていると思う」
「リーゼって?」
「私の姉さん」
「そう言えば、リーナは第二子女だったね」
「そう、リーゼは父を殺し私を封印した人物」
「えっ……」
「勇者パーティーの魔法使いとして潜り込んでいた。私達を殺すために……」
「何でそんな事するの?」
「わからない。でも、リーゼは黒炎を纏えなかったことを悔やんでいた」
「黒炎を纏えなかったから黒炎を纏えるリーナが邪魔だったのか。何て身勝手な奴なんだ」
「詳しい理由はわからない。でも、それが事実」
「わかったよ。リーナ。辛いこと思い出させてしまって悪かった」
「大丈夫。シロウは契約者だし」
「リーナは今後どうしたいんだい?仇を取るつもり?」
「うーーん。面倒くさい。私は、シロウのもの。シロウの好きにすれば良い」
「丸投げされても……。俺は、この世界の人間じゃないし、すぐに、元の世界に戻らなくっちゃいけない。リーナはどうする?」
「契約者はいつも一緒にいなければならない。シロウについていく」
……面倒な事になった。一年に一回会うとかじゃダメなのかなぁ……
「シロウ、今、面倒って思った?」
……近い、近い。それに目が恐い……
「そういう意味じゃないんだよ。向こうの世界の俺ん家、すごく狭いんだ。だから、リーナが来ても居心地悪いんじゃないかと思ったんだ」
「私は、狭くても大丈夫。封印されてたパンドラの箱よりずっといい」
「リーナが封印されてたのは、パンドラの箱なの?」
「そう。神の力が宿ってる。さっきシロウと一緒にいた部屋と同じ」
「そうだよなぁ。リーナほどの強い奴を封印できるなんて、普通はいないよね……」
「シロウは私を部屋に閉じ込めたくせに……」
「あれは、仕方なかったんだよ。じゃないと俺は死んでたよ」
「そういえば、リーナはステッキ持ってなかったな。どこいったんだ?」
「ステッキってあのキラキラした奴。あれ、ほしい」
「マイルーム2には、無かったし……」
「多分、女神が持ってった」
「えっ!リーナは女神と会ったの?あの部屋で?」
「そう。女神は、私を浄化しようとしてた。でも、面倒くさがって帰って行った」
「そうか。だから、魔力暴走してたリーナの黒炎が無かったのか……」
「女神は嫌い。あいつら、横暴だし、わがままだし……」
「まぁ女神と悪魔じゃ水と油だよね」
「冥府の者は、横暴じゃない。約束を違えない。でも、女神達は、すぐに約束を破る。調子こいてる」
「わかった。わかった。俺として、争い事は好きじゃないし、できれば穏便にしてもらいたいけど、俺の力、スキルも女神から授かったものだし」
「シロウが言うならそうする。でも、女神しだい」
……あのステッキ女神が持っていったんだ。今、あれは売ってないのに……
「わかったよ。リーナ。今日はもう寝ようか。リーナは、そのベッドで休んで、俺は、リーナがいた亜空間の部屋に行くから」
「ダメ。契約者はいつも一緒。シロウもここで寝る」
「イヤイヤ、それは、まずいでしょう」
「何が?」
「何がって、そのーー俺男だし……」
「関係ない。契約者はいつも一緒」
俺は、無理矢理ベッドに寝かされた。これじゃあ、いろいろ眠れない。
リーナは、横になると、すぐに寝息をたてる。
……どんなけ、寝つきがいいんだよ〜〜リーナは、年格好も妹の皐月に似ている。皐月と思えばきっと大丈夫だ……
今夜は、自分の心と葛藤する夜を過ごしそうだ……




