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異世界で引きこもりたいけど周りの女性が許してくれない件について  作者: 涼月風
第3章

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第70話 ーーー強欲の悪魔マンモンの非道ーーー

 




 王女達と睦美をスズネに任せて、俺は、人気のない路地裏で黒翼のマントを羽織り、エリックさんとクルミを抱えて、マンモンがいるビルの屋上まで飛んで行った。


 目的の悪魔、マンモンは、俺達が来るのを知っていたのか落ち着いた様子で下界を眺めていた。一見普通のサラリーマンだ。ネクタイを締め背広を着ている。しかし、その身体から放つ禍々しいオーラは、人間の持つものではない。


 クルミは、金棒を取り出し、エリックさんは、人形達を展開させていた。手には黄金に輝く弓を持っている。


「この世界は、他に類を見ないほど素晴らしい。虫どもが山ほどいる。それに虫どもに宿る魂も穢れきっている……」


 誰に話しているというわけでもなくマンモンは独り言のように語り出した。


「力を使い切ってまで、この世界に来た甲斐がありましたよ。そう思うでしょう。鬼娘も……」

「私は、サリーナ様の命により、シロウ様の御付きとしてここにおります。マンモン様のように己の欲からではありません」

「サリーナ……あの娘には、ガッカリでした……今の冥界で唯一黒炎を纏う事ができる存在ですのに、虫と契約するとは……嘆かわしい……哀れな小娘です」


「マンモンさんですよね。俺とは、2回目ですね。会うのは……」

「私は、虫と話をするつもりはありませんが、貴方は特別です。話ぐらい聞いてあげましょう」

「どうして、この世界に来たんですか?」

「もちろん、貴方を殺して、冥界を元の姿に戻す為でしたが……この世界の虫共は、悪意に満ちているので、少々考えが変わりました。私が、この世界を支配するのも面白いのではないかとね……」


 ……話しがわかるタイプではなさそうだ……


 俺は、マンモンのステータスを表示させた。


 ……………………

 東内木(となぎ) 慎一郎(しんいちろう) (38歳) 東内木投資コンサルタント社長

 Lv1

 HP 180

 MP 38

 ………

 ……………………


 どういう事だ?……この人だろうと思われる人物のものしか表示しかされない。


「ほぉ〜〜鑑定を使いましたね。虫の癖にそのような能力を持っていますか?」

「何故……マンモン本来のものが表示されないんだ?」

「ここに来るのに、何も考えないで来ると思ったのですか?やはり、虫の知能しか無いのですね……。貴方を(おび)()せるのに、少し解除しましたが……ね」


 ……誘われたのか?……これは、マズいかもしれない……


 その時、エリックさんが構えていた弓を放った。矢は真っ直ぐ、マンモンに向かって突き進む。そして、その矢は、マンモンの心臓に突き刺さった。


 矢が刺さった部分から蒸気が出ている。聖水を内包した矢だったらしい。


「この液体は、何でしょうか? この世界の退魔水でしょうか?少しくすぐったいですね……」

「なっ、何て事デス……心臓に刺さったはずなのに……」

「その虫が傷つけたのは、私ではありません。この虫の身体です。そろそろ話も飽きました…皆さんそれでは、またお会いしましょう……生きてればの話ですが」


 マンモンの姿が消えたと思ったら、この場所に多くの人が現れた。みんな人間だ。ネクタイを締めたサラリーマンや事務服を着たOL達だった。


「シロウ様、この者達は、マンモンに操られております。お下がり下さい」

「この人達、全部が……」


 操られている人達は、手にそれぞれ包丁や棒など武器を持ち、シロウ達に向かってきた。クルミは、金棒で押さえつけている。エリックさんは、展開した人形達が人達の事行動を阻んでいる。しかし、時間の問題だ。相手を傷つけないで、ここを脱出するには、俺達が逃げるしかない。


「シロウ、脱出しよう。相手の人数が多すぎるデス」

「わかりました」


 俺は、黒翼のマントに魔力を通し、クルミとエリックさんを抱え、気配を消して空に飛びたった……でも、それは、間違いだった。


 マンモンに操られた人達は、次々と柵を乗り越え地上に落下し始めた……


 俺達は、その光景を見て言葉を失った……。



 ◇◇◇



『臨時ニュースをお伝えします。先程、東京都千代田区〇〇のビル屋上から人が飛び降りる事件が発生しました。40人程が、ビルから飛び降りたとの情報です。現在、身元を確認中ですが、東内木投資コンサルタントの社員ではないかと言う事です。連絡が取れない社長の東内木 慎一郎の行方を捜しています……』


「何だろうね〜〜」

「まぁ〜〜大変じゃない。うちのお客さんもいるかも……」

「二葉姉のところから近いの?」

「割と近いわよ〜〜そう言えばサツキ、シロウは?」

「アキバに行くって……スズネさん達と」

「それって、この場所の近くでしょう?シロウ、大丈夫かしら……」

「二葉姉は、シロウ兄に甘いんだよ。最近、周りに綺麗な女の子侍らせてデレデレしてるし、家の事、サボってばかりなんだから〜〜」

「そうよね〜〜これは、説教だな!」


 二葉は、最近入ってきた新人に馴染み客を取られてイライラしていた。




 ◇◇◇



 俺達は、近くの公園に降り、黒翼のマントをしまった。

 先程の、光景が目に焼き付き、誰も言葉を忘れていた。


 すると、サツキから念話が入った。


『シロウ兄、今、ニュースでビルから人がたくさん飛び降りたんだって言ってたよ。シロウ兄は大丈夫?』

『あ……俺は大丈夫だよ……』

『なんか元気ないよ〜〜』

『うん、またな……』

……[念話終]……


 俺のせいなのか……

 俺があの時、みんなと帰ってれば、こんな事にならなかったのか……

 なんで……

 なんで……

 なんで……


 あんな多くの人達が……


 俺は、思考が追いつかずただ頭を抱えてそこに佇んでいた。

 どれくらいの時間が経ったであろう。周りから、救急車やパトカーのサイレンが鳴り響いている。


「シロウ、ここでは、対策も取れません。一度、家に戻りましょう」

「シロウ様……」


 エリックさんとクルミの声が聞こえた。

俺は、ドアを展開してリーナの家に戻った。



 ◇◇◇



「この状況からしますと、マンモン達は、気配を察知されない何らかの魔具を用意しているのでありましょう」

「ソラス、それってどういう物なの?」

「身に付けるアクセサリーのような小さな物で十分でしょう」

「シロウ様の前の現れたって事は、やはり標的はシロウ様なのでしょうか?」


「ドラ子さん、そうとも限りません。マンモンの話を聞いた限りでは、それはきっかけに過ぎなかったようデス。今は、この世界の支配者になると言ってました……」


「性格が歪んでるやつよね〜〜、自分の力だけで戦えばいいじゃないの?」

「アザゼル、それも戦術の一つであります」

「そうなの〜〜ソラスの言う事は難しいわ〜〜ん」


「しかし、今回の件でわかった事は、人を盾に取られると厄介デス。手の出しようがありません……」

「今度は、私の睡眠魔法で眠らせましょう。人の動きを封じれば、手はあるはずです」


「そして、もう一つ、シロウ様が標的から外れたとしたら、奴らが何処に現れるか、という問題です」

「ドラ子様、シロウ様が標的から外れたというのは、まだ、わかりません。マンモンが勝手に言っているだけかもしれませんから……」

「そうね。クルミの言う通りだわ。ところで、シロウ様はどう?」

「先程から、トイレに入ったきり、出てきません」

「でかい、う◯こ、してるのかしら〜〜ん」

「アザゼル、違うと思います……きっと……」


 アザゼル以外の者たちは、シロウの内面の葛藤を察していた。




 ◇◇◇




「シロウどうしたの?帰ってくるなり布団被って寝ちゃって……」


 二葉は、シロウに文句を言うつもりだったが、血の気のないシロウの顔を見て、心配になった。


「さっき、クルミさんに聞いたけどいろいろあったみたいよ」

「そう……」


 ……シロウ、きっと振られたのね……誰もが通る道よ。頑張りなさい……


 二葉は、そう思い込み、シロウの代わりに買物に出かけた。



 ◇



 俺は、何も考えられない状態だった。そこにスズネから念話が入る……


『シロウ君、シロウ君』

『……何?』

『どうしちゃったの……あれから、みんな心配してたんだから……』

『……すまない』

『王女様達も心配してるよ』

『……そうか……』


 ……王女達を元の世界に送らないと危険だ……


『わかった。王女様達を元の世界に返さないと……』

『うん、待ってるから』

……[念話終]……


 俺は、布団から出て、リーナの家に行った。まだ、みんなは、話し合っている。

 シアンも加わったみたいだ。それに、サツキやアスカもいる。


「シロウ兄、起きたの?」

「サツキか……王女達を元の世界に返してくる……ここは、危険だから……」

「そうよね……」


 俺は、ドアを開けスズネの家に行った。そして、王女達を連れて異世界に送っていった。


 アンリエット王女やカトリーヌ王女は、血の気のない俺の顔を見て心配していたが、俺は、何も答えずただ、義務感で王女達を送り届けた。そして、今は、マイルームのベッドの上に寝転がっていた……


 ここなら、誰の邪魔も入らない……そう思っていたら、浴室から女神エリーゼがバスタオルを巻いて出てきたのだ。


「シ、シロウ、いたのですか?何、してるのですか、私の憩いの場所でーー!」

「…………」


 俺は、返事をする元気がなかった……


「シロウ、何かあったのですね。貴方のそういう姿は初めて見ました。何があったか大体の予想は付きますが、ここで、休んでいて良いのですか?」


「…………」


「私は、女神ですから、いろいろな人の感情を理解できます。自分の想像を絶する出来事が起きた場合、人は、いろいろな行動を取ります。

 一つ目は、その場から逃げてしまう。二つ目は、他人のせいにし、問題の核心をすり替える。三つ目は、その出来事に正面から向き合う。だいたい、こんな具合でしょう。しかし、どの行動をとっても起きた事実は変わらず、結果は、同じ事なんですよ。それを踏まえて前に進むしかありません」


「さすが、女神様ですね……全てを理解しています……でも、俺は、身体が動かないんですよ!どんなに前に進もうと思ってもいう事聞いてくれないんです……」


「前に進むためには、エネルギーが必要です。身体と心が一致してない状態では動けませんよね。その為には、人は時間が必要だったり、その間支えてくれる人間が必要だったりします。シロウは、今、それが必要なのですか?」


「わかりません……どうしたら良いか、全く見当がつきません……」


「この部屋は、時間がありません。納得いくまでここにいても良いですよ。仕方ありませんから、しばらくシロウに貸してあげましょう」


「ここは、俺の部屋です……」


「まぁ、今日は良いでしょう。シロウ少し目をつぶってくれませんか?着替えたいので……」


 俺は、言われるまま目を閉じた。逆立っていた神経が落ちついたのだろうか、眠気が襲ってくる。俺は、身をまかせるように眠りに落ちた。


 ……………


 あたりは薄暗く、何もない場所

 多くの人達が、俺の後を追いかけてくる

 俺は逃げた。一目散に逃げた……

 視界が開けてきた……

 そこには、沢山の死体が転がっていた……


 ……………


『わぁーーー!』


 ゆ、夢か……俺は、いつの間にか寝てしまったのか?

 ここは、どこ?

 あっ、マイルームの中だ……

 そういえば女神様がいたけど……


 今まで何とかなってきたのは、リーナ達のお陰だった……

 俺自身の力で何かを成してたわけじゃないんだ……

 エリックさんやシアンは、こういう経験をして生きてきたの?

 俺もそうやって生きていくの?


逃げても向き合っても結果が同じなら、俺はどうする?


一歩踏み出せるのか?……踏み出そう……無理……踏み出そう……無理

踏み出せ!……無理……踏み出すんだ……無理……じゃあどうする?

逃げよう……ダメだ……逃げたい……無理だ……逃げれば楽に……ならない

踏み出せ……怖い……踏み出すんだ……怖い……もう、どうにでもなれっ!



『踏み出してしまえっ!』



 俺は、起き上がった。そして、ドアを開いた。





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