第65話 ーーー剣の師匠はーーー
俺とクルミは、冥府のリーナの居室にドアを開いた。そして……
「なんじゃ、こりゃあーー!」
「こ、これは、ひどいですね……」
服は脱ぎっぱなし……ゴミは、落ちてるし……ベッドは、ぐしゃぐしゃ……
リーナの部屋は、完全に汚部屋に様変わりしていた。
「シロウ、遅い」
「リーナさん、これ、どうしたの?」
「何が?」
「部屋です!これっ!ゴミっ!これは、ゴミ箱に捨てるの!それに、服は脱いだら洗濯するんだよ」
「そうなの?」
そうだった……リーナは、日本にいた時も、こんな感じだった……
「今まで、綺麗にしてたじゃないか?急に、どうしたの?」
「何時も、クルミがしてくれた」
そうかっ!クルミが俺のとこに来たから、リーナの身の回りの事が出来なかったのか……
「サリーナ様。私がお片づけ致します」
クルミは、慣れているのか、せっせと片ずけ始めた。俺も、仕方なく掃除を手伝う事になった。
「リーナ、まさか、部屋が汚れたから俺達を呼び出したの?」
「そう……違う。2人には、注意してもらいたい事があった」
「今、そう、って言ったよね〜〜。リーナ、俺の目をよく見てごらん〜〜」
「わかった……ちょっとは、そう思った。けど、伝える事もあるのは事実」
リーナのオドオドした目が可愛いが、これは別だ。
「リーナも一緒に片そうね。綺麗になったら、ケーキ、一緒に食べよう」
「ケーキ……わかった。仕方がない」
この部屋、無駄に広いんだよなぁ……俺のスキルを使っても、片付けが終わるまで1時間程かかった。
◇◇◇
「クルミの入れてくれたお茶は美味しい」
「私も、サリーナ様に給仕をさせて頂けるのは幸せな事です」
綺麗になったリーナの部屋で今は、ティータイムだ。リーナは、美味しそうにケーキを頬張っている。
「リーナ。クルミは、リーナのとこにいた方が良いんじゃないか?」
「私も、そう思います」
クルミの目がキラキラしてる。リーナは、お茶を飲みながら……
「私には、クルミが必要。でも、今はそうも言ってられない」
「そう言えば、俺に伝えたい事があるって言ってたね。何なの?」
「冥府から、4魔いなくなった」
「そうなんだ……で?」
「シロウ達の世界に行ったらしい」
「何だ、そんな事か……って!それっ!大変じゃないかーー!」
「だから、そう言っている」
……相変わらず、リーナは、こういう事には動じないんだから……
「シロウがルシファーを連れて来てくれたお陰で、冥府だけは、結界が外れた。冥府に落ちてくる魂も桁違いに多くなった。でも、その隙に、以前、召喚があった術式を解読してシロウ達の世界に行ったようだ」
「前、ここに来た時、悪魔召喚の光が結界に当たったあの術式を解読したの?」
「そう」
という事は、あの東南アジアの島の半壊事件は、冥府の悪魔が引き起こした事になる。
「どんな悪魔なの?」
「私が人間と契約してる事を快く思わなかった奴。強欲を司るマンモン、淫魔のサキュバス、地獄の伯爵ハルファス、地獄の大公爵アガレスの4魔」
「皆さん。上級悪魔達ではありませんか……」
「そう、だからクルミはシロウのとこにいて」
「わかりました。シロウ様をお守り致します」
「ありがとう」
「それって、ヤバい奴らだよね。俺達の世界、滅ぶくらいの……」
「そう。力を使えばそうなる。でも、時空移動で、殆ど力を使い果たしたはず。直ぐには回復しない」
「どのくらいの期間は、大丈夫そうなの?」
「半年……いや、場合によっては1ヶ月もあれば回復すると思う」
「1ヶ月か……」
「人を大量に殺せば、一週間で回復する」
「大量って……?」
「1魔、約1億人、合計で4億人」
「なっ…………!」
「シロウがいる世界を選んだのは、シロウを殺す為でもある。そうすれば、私との契約が破棄され、奴らも喜ぶ」
「それは、リーナと俺が契約してるから?」
「そう。奴らは、人間との契約など悪魔の尊厳に関わると再三言っていた。つまり人間は、餌。餌と契約する悪魔など以ての外という考え」
……マンモンって、確か、リーナの就任式で俺を睨んでた奴だ……
「奴らが回復したらクルミだけでは勝てない。だから、応援を要請した」
「応援って?」
リーナの部屋をノックする音がした。そして……
「どうも〜〜。あら〜〜んシロウちゃんじゃない。元気してたぁ〜〜?」
「シロウ様。先日ぶりです。また、血を頂きに参りました」
堕天使アザゼルと吸血鬼のドラ子だった。
「この2魔を、シロウの側に置く。それに、そっちにはソラスもいるはず。これでシロウも大丈夫」
「リーナは、相変わらず忙しいのか?」
「うん。今度は、冥界北西部の邪龍族のところに行かないとならない。あっちで友好条約の調印式がある。現地でドラキュラ伯爵、ルシファーと合流する予定」
「そうなんだ……リーナしかできない仕事だ。頑張れよ」
「うん。そのつもり……」
また、リーナがモジモジし出した……リーナがいてくれたら心強いが……
「でも、アザゼルが暴れたら俺がいる世界、壊れちゃうと思うんだけど……」
「やだぁ〜〜シロウちゃんは〜〜、私、そんな凶暴じゃないわよ〜〜ん」
……いいえ!あんたが一番危ないですからっ!……
「アザゼルには、力を自重してもらう。そういう約束」
「それなら、大丈夫か……」
……心配だ……危険な感じしかしない……
「でも、もし戦闘になったら相手をやっつけてもいいの?一応、リーナの配下なんでしょう?」
「シロウを狙った時点で、極刑!これ、冥府の常識」
「リーナの常識でしょう?」
「そうとも言う……」
……リーナのモジモジが激しい……
あの世界で悪魔達が暴れたらどれ程の犠牲者が出ることやら……
これは、緊急事態かもしれない……
◇◇◇
俺は、アザゼル、ドラ子、クルミを連れてリーナの家に戻った。アザゼルは、着いた早々、酒を飲み出した。ワイン頂戴だの、ウォッカをくれだの……ウザい。
俺は、冥府で聞いた事を、シアン、スズネにも念話で連絡を入れといた。2人とも、驚いていたが、ある程度、あの島が半壊した事で予想してたみたいだ。
そして、俺は、何故かミリエナ国、王宮の応接室にいる。あの後、直ぐに、アンリエット王女から呼び出されたのだ。
「シロウ様にお願いがあるのです」
「何でしょうか?」
「あの〜〜その〜〜」
……メイド1号の目付きが相変わらず怖い……
「以前、シロウ様がお持ちだった魔法のステッキが欲しいですの!」
……あぁ……あのステッキ、女神が持ち逃げしたんだよなぁ……
「あのステッキは女神様が持ってるみたいなんですが、返してくれないんです。他ので良かったら買ってお持ちしますけど……」
「他にも、あの様な綺麗なステッキが売ってるんですか?」
「はい。アキバに行けば売ってると思います」
「私も一緒に買いに行きます!」
「えっーー!」
というわけで、今度の土曜日に買いに行く事になった。睦美との約束もあるのでちょうど良いかもしれない。
……でも、メイド1号もくるよねーー憂鬱……
「それと、シロウ様には、私の剣を見てもらいたかったんです。あれから、練習して、随分、上達したんですわよ」
「それは、俺も見てみたいです。というか、教えてもらいたいくらいです」
「シロウ様にですか?」
「はい……実は……私、剣が下手で、剣を構えるだけでみんなが笑うものですから……」
「わかりました。私、一生懸命お教え致しますわ」
◇◇◇
王宮の裏庭では、剣を撃ち合う音がする。もちろん、俺とアンリエット王女だ。
「シロウ様、腰が引けてますわよ。もっと、背筋をお延ばしになって……」
「こうですか?」
「それでは、手が明後日の方角を向いてしまいますわ」
「こうですか?」
「シロウ様、顎を引いて下さい。顎で攻撃するつもりですか?」
アンリエット王女の指導に、俺も夢中で剣を振る。そして、
「最後の振りは良かったですわ」
「あ、ありがとうございます〜〜はぁ〜〜はぁ〜〜」
かれこれ、1時間、剣を振っていた。少しはまともな形になってきたらしい。
「ゴミは、やはりゴミですね」
と、メイド1号の言葉が何よりも攻撃力が高かったけど……。
「私は、女神様の加護でこのように剣を振る事が出来ましたけど、以前はシロウ様と同じでしたわ。そんな私が、シロウ様に剣の指導をする日が来るなんて……」
アンリエット王女は、俺の剣を見て思うところがあったらしい。その姿を見たメイド1号は、
「アンリエット様に何をしたーー!この糞転がしめーー!」
持っていた短剣で俺を攻撃し始めた。
……このメイド1号、二刀流なんだ……
剣は早く、避けるので精一杯だ。すると、アンリエット王女が
「シロウ様。ソランジュの攻撃を避けれるのですね。凄いですわ。ソランジュの二刀流は、誰も避けれないほど、早いのですから……」
確かに、このメイド1号の剣は早いけど、俺には、スローモーションのように見える。これって、悪魔達の加護のお陰かもしれない……。
「ちょこざいなゴミ虫め!避けずに、剣の餌食になりなさい!」
「当たったら、死にますよーー!」
「死ねば良いのです。ゴミは、息などしないのですからーー!」
メイド1号の剣がさらに早くなる。これは、これで凄い腕だ。
そして、いきなりメイド1号が消えた。すると俺の背後の影から急に現れた。
メイド1号は「ニタ」っとしてる。俺は、すかさず後ろ蹴りを食らわした。
そうしないと、斬られていたからだ。どうやらメイド1号の腹にヒットしてしまったらしい。お腹を抱えてメイド1号は、苦しがっていた。
……あれが、女神から授かった影渡か……凄い、能力だ……
「そこまでですわ。ソランジュもシロウ様もとても素晴らしかったですわ」
アンリエット王女の拍手に、救われたのだろう。そうじゃないと、きっと俺はあの後、メイド1号に殺されてたかもしれない。
だって……目付きが……これまで見たこともないくらい殺気を込めてたから……
俺は、回復薬をメイド1号に渡して、飲ませた。そうしないと、内臓を傷つけているかもしれない。
その後、お茶を頂き、俺は、元の世界に戻った。




