第63話 ーーー部活勧誘とエルフの郷ではーーー
鬼族の娘、クルミは、リーナのいた家に住むことになった。この世界の道具や常識を覚えるのに苦労していたが、いろいろな経験をすればきっと慣れるだろう。生活費の工面は、俺の金貨を換金して使っていた。慣れたら、働きたいと本人も言っているが、見た目が俺と同じ年くらいなのでアルバイトなら大丈夫そうだ。
朝、学校に行こうとすると、妹の睦美が、今、人気のゲームソフトが欲しいと言い出した。今月下旬の修学旅行に持っていくつもりらしい。
「ゲーム持っていくのは禁止じゃないの?」
「みんな、隠れて持っていくって言ってるよ」
これは、どうするべきか? 親なら、ゲームなんて必要ないって言えるけど、俺達、学生にとっては、ゲームひとつでも仲間外れになる可能性がある。
子供にとっては重要な案件だ。
「よしっ!今度の土曜日に買いに行こう!」
「えっ!いいの? シロウお兄ちゃん」
女の子達の仲間意識はシビアなとこがある。睦美の為にも、これは必要経費だ。
俺も、欲しいものがあるしね……
土曜日は、睦美とアキバに行くことになった。それまでは、お預けだ。
学校に行く途中、シアンと出会った。同じ団地に住んでいるから、あっても不思議じゃないのだが、なんだか、考え事をしてるようだ。
「シアン、おはよう。これ、お弁当」
「うん……ありがとう」
「どうかした?」
「シロウ、また、エルフの郷に連れてってくれない?」
「いいけど……あの事?」
「そう……」
お爺さんのエリックを気にしてるようだ。それは、俺も同じだった。それに、マイルームの件だが、思いだ当たる事がある。時間経過した時には、マイルームを経由せず、ドアを展開して、そのまま、現地に行った事だ。部屋に入らなければ、リアルタイムで移動できるのだろう、と考えていた。
「放課後でいい?」
「わかった。学校終わったらクルミさんのところで……」
俺達は、学校が終わったら、エルフの郷に行くことになった。できれば俺もこのモヤモヤをスッキリさせたい。
今日から、授業が始まる。久々に鞄が重かった……
◇◇◇
『シロウ様、シロウ様』
これは、アンリエット王女からの念話だ。授業中だが、仕方がない。
『どうかしましたか?』
『シロウ様は、いつこちらにお見えになるのですか?』
『今日の夕方にでも行こうと思っていました』
『まぁ、そうですの〜〜。王宮に来て頂けますか?』
『えっ〜〜と、ちょっと用がありまして……』
『こちらには、お寄りできませんか?』
『わかりました。時間を作って王宮に伺います』
『嬉しいですわ。お待ちしておりますね』
……[念話終]……
また、やってしまった……何で用があるって断れないんだろう?……
リーナやサツキの言う通り、本当に優柔不断なんだろう……
あぁ〜〜ダメな俺……。
お昼になり、シアンとスズネと一緒にお弁当を食べながら、シアンにさっきの件を伝えた。
「シアン、悪いんだけど、エルフの郷まで送って行くから、その後、俺、用事を済ませてしまいたいんだけど……」
「用事って?」
「さっき、アンリエット王女に呼び出されてしまったんだよ」
「別に構わない。私が行きたいのはペリンのとこだから、シロウは好きにして良い」
「すまない……」
その会話を聞いていたスズネが、
「今日、あっちに行くの?」
「うん。用事があって……スズネも行く?」
「うん。できれば行ってレベルを上げたい」
「今日は、レベル上げは無理そうだけど、それでも良いなら学校終わったらクルミのとこに来てくれる?」
「わかった。楽しみ〜〜」
スズネは、異世界に行けるのが楽しみらしい。俺は、あのメイド1号に合わなけれならないと思うと気が重い……
シアンは、今日は物思いに耽っている。当然だろう、何もわからないのだから……
すると、この間と同じ視線を感じた。あの上級生の女子高生だ。
「また、覗いてるね〜〜」
スズネも気がついたらしい。俺は、別に構わなかったが、スズネは気になるみたいで、その先輩の女子高生のところに話を聞きに行ってしまった。
ここから見ていると、相手の女性が随分とオドオドしている。端から見ると、スズネが上級生をカツアゲしているように見える。
そして、スズネが、その上級生を連れてここまで来た。少し暗そうな眼鏡っ娘だ。
「私、2年の高志間 章 と言います。貴方達は幽霊が見えますね!」
何かヤバそうな雰囲気の人だ……
「高志間先輩は、部活の勧誘をしたかったんだって」
「はい。私が所属する不思議研究倶楽部、F・K・Cに入部しましょう!はい。こちらが、入部届けね。ここに、学年とクラスと名前を書いてね」
「ちょ、ちょっと待ってください。その〜何ですか? 不思議研究倶楽部って?」
「えっーー!そこからーー?」
……この先輩、少し病んでるのか?……
「まだ、何も聞いてないんですけど……」
「そうでした。私、うっかりしてました。不思議研究倶楽部とは、なんと!不思議を研究する倶楽部です」
「そんなドヤ顏されても……つっーーかそのまんまじゃんか!」
「良いですね〜〜あなたは、お笑いツッコミ担当で入部を許可します」
「不思議を研究する倶楽部なんでしょう? お笑い関係ないじゃないですか」
「いいえ。関係あります。幽霊がボケた時にツッコミを入れることによって、その幽霊が怯みます。その隙に、逃げるのです」
「それ、幽霊がボケる事、前提ですよねーー」
「もちろんです。そして、そこの彼女。貴女が幽霊をボケさせるのです」
いきなりの指名に、スズネも困惑する。
「私がですか? 」
「そうです。貴女がセクシーポーズを披露して、幽霊を油断させボケを誘うのです」
「そんな事、できません!」
「じゃあ、そこの留学生の方でも良いです。とにかく、入部して下さい。そうじゃないと、廃部になってしまうのですーー!」
……廃部になった方が良いのでは? ……
「部活紹介の時、そんな倶楽部無かったわよね」
「俺も見てない……シアンは?」
「私は、初めから聞いてない……」
「そ、それはですね〜〜悲しくも長い話になります……」
「長いならけっこうです」
「ガ〜〜ン!きました。結構、良いパンチでした。グッジョブです!」
……この人、話し伝わんない系だ……
「去年まで正式な部活動だったんですけど、先輩、3人卒業しちゃって、今は2人だけなんです。今は、同好会扱いになってしまいました。それこそ、不思議です」
生徒手帳をみると、部活動は5人からと記載されている。
「先輩、部活は5人からって書いてありますよ。それ、不思議じゃなくて当然じゃないんですか?」
「貴方は、頭もキレるようだ。当クラブの幹部候補に抜擢しましょう。ですから、入部してくださ〜〜い」
「先輩、制服掴んで、引っ張らないでください!買ったばかりなんですから〜〜伸びちゃいますから〜〜」
「わかりました。そこまで、言うなら、貴方達が何故、この部活に入らないといけないか、説明させて頂きます。まず、鈴風 四郎君、3年の鈴風 三季さんの弟ですね。家では、家事をこなし、お弁当男子として注目を集めています。授業中に何やら独ごとをつぶやいてますね。如何にも、そこに誰かいるような感じで……。
次に、神屋代 鈴音さん。お父さんは、区役所の職員ですが、代々続く退魔師も家系でもあります。貴女もその素質を受け継いでますね。
最後に、シアン チャーミヤさん。イタリアからの留学生です。教会のシスターの資格を持っていますね。浄化もできるともっぱらの噂です。
どうです。もう、このクラブに入るしかないでしょう!」
「どうしてそこまで知ってるんですか?」
「決まっています。皆さんの後をつけて調べたのです!」
……おまわりさ〜〜ん。ストーカーが、ここにいますよ〜〜!……
「それ、一歩間違えば、犯罪ですから!」
「不思議研究倶楽部には、当たり前の事です。これは、調査の一環なのですから」
「シロウ君、先輩がそこまで言うんだから一回、見学してみようか?」
「マジですか? 」
「私も、部活選ぶの面倒いから何処でも良い」
「シアンまで……」
「わかりました。一回、見学させて下さい。決めるのはそのあとでもいいんですよね?」
「もちろんです。いつにしますか?今日ですか?」
「今日は、予定があるので明日なら大丈夫です」
俺達は、何か変な倶楽部には勧誘されてしまった。イヤな予感しかしないのだが……
◇◇◇
学校が終わり、クルミのところに集まった俺達は、ドアを開きエルフの郷に行く。族長の家のデッキにドアを開くと、数人のエルフ達が集まっていた。
急にやってきた俺達を見て、エルフ達は驚き、攻撃態勢に入っていたが、族長がやって来て
「やめーーっ!この者達は、儂の知り合いじゃあ。それに、あのルシファーを連れて行ってくれた者達じゃ。武器を下げろ!」
その言葉に、エルフ達は、安堵したのか、大きなため息をつく者もいた。
「族長、何かあったのですか?」
「実は……ペリンの父親が亡くなりおった……」
「えっ………」
「お主達が帰った直ぐあとじゃ。眠るように旅立ったとぺリンが言っておった……」
「俺達が帰ったあとですか……」
「あぁ……まるで、お主達が来るのをわかってたようにのう……」
「シロウ君、どういう事なの?」
「その者は、初めて見る顏じゃのう?」
「スズネ。私の友人……」
「そうか……シアンの友人なら歓迎しよう。これから、ペリンのとこで最期の見送りじゃあ。お主達もくるがよい」
族長の後に続いて、俺達は、ペリンの自宅に向かった。シアンの肩が震えている……
どういう事なんだ?……あの爺さんがエリックなら、この世界にどうやってきたんだ。もしかすると、俺が連れてきてしまったのか?……そして、置き去りにしたのか……でも……覚えが無い……じゃあ、誰が?……どうやって?……
それとも、この世界に転生したのか?……とすれば……元の世界でエリックさんは、死ぬことになるのでは?……
頭をどう巡らしても、スッキリした答えが導き出せない。
『シロウ様、シロウ様』
これは、アンリエット王女からの念話だ。今日は、行けそうもない。
『アンリエット様、すみません。今、ルアンダ国の森の外れなのですが、知り合いが亡くなりまして、今日は、その……そちらに行けそうもないのですが……」
『それは、大変ではありませんか、こちらの事は構いません。残念ですが、またの機会にいたしましょう。その方の、ご冥福をお祈りいたします……』
『お気遣いありがとうございます。この埋め合わせはきっと、致しますので……』
『はい』
……[念話終]……
ペリンの自宅には、多くのエルフ達が集まっていた。皆んな、神妙な面持ちだ。
族長と共に家に入ると、ペリンが真っ赤な目をしてこちらを見る。俺達に気づいたようだ。
「皆さん、よく来てくれました。連絡が取れないのでどうしようかと思ってました」
「ペリン、お父さんは?」
「こちらです。是非とも、顔を見てやってください……」
シアンは、急いでペリンの後をついていく。俺達もその後に続いた。
そこには、昨日、会ったエリックと思われるお爺さんが安らから顔をして横になっていた。
シアンは、妖精の眼で見ているのだろうか。その場に、立ちすくみ、涙を浮かべていた。
◇◇◇
ペリンのお父さんは、ペリン母親が眠るエルフの共同墓地に埋葬された。
俺達も列席していたが、こういう雰囲気は正直苦手だ。亡くなった俺のお祖父さんを思い出す。
時間の流れがゆっくりに感じる。木々も別れを惜しむように葉を散らしていた。
その時、視線を感じた。前にも感じた視線だ。俺は、全マップ探索を展開して周囲を警戒したが、不審な者はいなかった……
全てが終わり、ペリンの自宅に戻ると、ペリンは、
「実は、お父さんに頼まれてた事があるんです。私が死んだら遺体は妻の隣に埋葬しこれは、王都近くの別荘にある、私の友人の墓に埋めてくれと言っていたんです」
ペリンが手に持っていたのは、ロザリオだった。それを見たシアンは、泣き崩れてしまった……
俺には理由はわからないが、あれは、ローマ聖教の証ではないかと思っていた。
「王都近くの別荘って、どこら辺なんですか?」
「はい。王都の西にある湖のほとりです」
「湖のほとり……あっつ!」
俺はある重要な事を思い出した。以前、家を買おうと見学に行った家の前の持ち主が、錬金術師のダミー=スミスであった事を……
「俺、その別荘知ってます。以前、家を買おうとして見に行った家です」
「そうだったのですか……お父さんは、あの家を気に入っていたんですが、もう、歳で、住むにはいろいろと大変で、こちらに越してきたんですよ。もう、かなり前になりますけど……」
こんなとこで繋がった……そして、その名前は、王宮でも聞いた事がある……
アンリエット王女に1000年前の戦争の歴史を聞いた時だ。
「もしかして、お父さんは、勇者と一緒に戦った方ですか?」
「はい。シロウさんよくご存知で……」
「前に、この世界の歴史を学んだものですから……」
「父は、どういうわけかエルフと勘違いされていたのです。人族なのにおかしいですよね……」
「でも、人族としては、長命ですよね……」
「何でも、以前、薬を飲んで命を助けられた事があったそうなんですが、その薬に老化遅滞の効果があったらしく、エルフ並みの長命だと言ってました」
「あっ………」
お、俺が飲ませたフェニックスの薬のせいだ……シアンにも同じ老化遅滞の効果がある……
俺は、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。
俺のせいだ。俺のせいだ。俺のせいだ……。
なんで、こんな事に……なんで、なんで、なんで……。
「シロウ様、大丈夫ですか?」
「シロウ君、どうしたの?」
俺は、シアンを見た。シアンも考え込んでいる……
クルミとスズネは、訳が分からず、ただ、俺達を見て心配していた。
◇◇◇
俺達は、ペリンと一緒に、そのロザリオを埋葬しに王都西の別荘に向かう事になった。
人族と関係を絶っているエルフのペリンだけでは、不安だからだ。そして、俺とシオンは、知らなければならなかった。エリックが、この世界に何故存在していたのかを……
その謎を解く鍵が、その友人のお墓なんじゃないかと……
俺は、一度訪れていたのでその別荘にドアを開く。
それは、新たな謎の始まりでもあった……。




