第56話 ーーールシファーを探そう(2)ーーー
俺達は、ドラ子の転移魔法で獣人の国ルアンダ国に転移した。いきなり、里の中に現れるのは無理があるので、今は、ルアンの森の里の近くの森林にいる。
俺達は、転移してすぐに、ブラックウルフという魔物に囲まれてしまった。
「いきなり、戦闘ですか〜〜?」
俺は、フェニックスがくれた勇者の遺品から、片手剣を取り出し構えた。
すると、何故かみんなが笑い出した。
「シロウ様、わはははは、お尻突き出して〜〜何ですか? その格好〜〜」
「シロウ様は、ブフッ!さ、下がっていてくださぃ〜〜」
「シロウの戦闘力が今、わかった……もう、ダメーー!おかしぃ〜〜」
「みんなひどいよ!俺、そんなに変?」
『はい……ギャハハハ〜〜』
と、みんなが笑っているうちに、ブラックウルフが飛びかかってきた。
敵も、弱い相手がわかるらしく、標的は俺になっている。
「わぁーー!」
襲いかかったブラックウルフを避けると俺は、剣を落としてしまった。
次の攻撃が来る。俺は、みんなを見ると、お腹を抱えて笑っており、頼りになりそうもない。
仕方なく、拳で魔物を殴り飛ばす。すると、魔物は遥か遠くに飛んで消えて行った。俺は、次々と襲いかかって来るブラックウルフを殴り飛ばした。
シアン達も笑いながら、自分に襲いかかって来るウルフと戦っている。誰もが簡単にウルフをやっつけていた。
意外だったのはシアンだ。身のこなしが早い。
すると、
【ポミャン……レベルが10に上がりました……うふふふ】
……おい!脳内アナウンスまで、笑う事ないだろう!……
「何なんだよーーもう〜〜」
そうこうしているうちに、ブラックウルフの群れを討伐した。俺は、レベルが久々に2つも上がったのが嬉しかった……けど、
「何なんですか? シロウ様は……私達を笑い殺しにするつもりなのですか?」
「シロウ様は、きっと、練習すればできる子になります……ブフッ」
「シロウはシロウで、お尻合い?」
……俺が剣を構えるだけで、何でそんなにおかしいの? シアンの思考は意味不明だし、理解できないよ……
「さぁーー、もう、行くよ!」
そう言って、ルアンの里に向かおうとした時、奇妙な視線を感じた。俺は、直ぐに全マップ探索で確認したが、近くには誰もいなかった。
「気のせいか……」
俺は、みんなの笑い声を背に、ルアンの里を目指した。
◇◇◇
ルアンの里に着くと、門兵が俺の事を覚えていたらしく、いきなり握手を求めてきた。そして、門の休憩所に通され、少し待っててくれと言われた。
10分ぐらいだろうか……休憩所でお茶をご馳走になっていると、あのシロクマ耳の獣っ子、モモリー姫が現れた。
「サツキ様のお兄様のシロウ様ですよね。お、お久しぶりです。どうして、すぐに来て下さらなかったのですか? サツキ様はお元気ですか? シロウ様は?」
矢継ぎ早の質問に戸惑いながらも、俺は、そのシロクマ耳に目が離せなかった。
「ご無沙汰しております。モモリー様。今日は、お聞きしたいことがありまして、この里に寄らせてもらいました」
「シロウ、こ、こ、この可愛い耳……シロクマ耳さんは誰なの?」
……そうだった……シアンは可愛いものが好きだったんだ……
「こちらは、この国の王女様のモモリー姫様だよ」
「名前まで可愛い……」
シアンは、モモリーに夢中になっていた。
「シロウ様、ここでは英雄様に失礼です。どうぞ王宮までお越しください」
『英雄様ーー!』
「シロウ様が〜〜あのお尻で〜〜?」
「シロウ様は、できる子にだったんですね〜〜あのお尻で〜〜」
「シロウ、この国ではお尻を突き出す事が英雄の証なのか?」
「みんな、言い方ってもんがあるでしょう? とにかく説明はあとで!」
「皆さんも、どうぞご一緒いらして下さい」
モモリー姫の好意で俺達は城に案内されるのだった。
◇◇◇
ルアンの里の城は、前にも来たが、ここは、上質な木で作られており、居心地が良い。
「木の香りが、気持ちを落ち着かせてくれるよ。ここは〜〜」
「何かあったのですか?シロウ様がみえる前に森が騒がしかったですけど……」
「この里の近くに転移したんだけど、すぐにブラックウルフの群れに襲われて」
「だ、大丈夫だったのですか……ブラックウルフは、知能も高く群れで行動しますから、討伐も厄介なんですよ」
「そ、それは、何とかなりました……けど」
「けど?」
連れの女性陣達は、思い出したのか、また、笑い出した。
……どんなけ、ツボってんだよ!……
「い、いいえ。何でもないです!」
「そうですか……それならよろしいのですが……?」
……マジで、剣術の練習しないと、また、笑われそうだ。
……誰かに教えてもらいたいけど……
……今いる女性達は?……笑われるから、嫌だ!
……他には……サツキは論外。兄の面目が丸潰れだ。
……スズネは……平気で無茶しそうで、怖い……
……そうだ。アンリエット王女なら、スキル、モーションコピーがあるから、剣術も達人並みだし、あの人は、人を笑うなんてしないだろう。でも、ついてくるよね〜〜メイド1号が……却下!
……あ〜〜誰か!無茶しないで、優しくて、それに笑わない剣の師匠がいたら教えてくれ〜〜……
「こちらで、お休み下さい。今、お父様をお呼び致します」
モモリー姫はそう言って、お付きの獣人に言付けを頼んだ。
白熊王と会わなければならないらしい……
……白熊王は、怖いんだよなぁ〜〜身体もでかいし、声もでかい……
「やぁーーシロウ殿ーー!やっと、英雄様が登場したかーー!」
「ご無沙汰してます。白熊王」
「本当だぞ。あれから、すぐ来てくれるものだと思っていたからな。モモリーなんか『いつ来るの?」ってうるさかったくらいだ」
「お父様、やめて下さい。恥ずかしいです……」
「わっははは〜〜、今日は、ゆっくりしていけるんだろう?」
「実は、エルフの郷を探してまして、ルアンの方なら何か知ってるかと思ってここに寄ったのです」
「エルフの郷か……」
「ご存知なのですか?」
「知ってはいるが、我らとエルフ族の間には盟約があってな〜〜場所を教えられないんだ」
「盟約ですか……それなら、仕方ないですね……」
「すまんな……いくら英雄様といえども約束を違える事は出来ぬ。今回は、力になれない」
「いいえ。こちらで探しますから」
「だが、エルフ族は……いや、まぁ良い。南の方を探すと良いかもな〜〜。これは、独り言だ〜〜」
「はい。ありがとうございます」
「今宵は、宴じゃーー!みんなもゆっくり過ごしてくれーー!ワーハハハ」
……方角さえわかれば気配感知で何とかなりそうだ……
「シロウ様、サツキ様はどうされているのですか?」
「サツキは別件で動いています。元気ですよ」
「そうなのですか……お会いしたかったです……」
「伝えておきますよ。サツキもきっと喜びます」
「はい、ありがとうございます」
◇
ルアンの森の里で、夜の宴が始まった。ここの料理は、新鮮でとても美味しい。
「シアンは、モモリー姫と話し込んでる。余程、気に入ったんだな」
シアンは、モモリー姫の側を離れない。クルミは、出てくる料理の話を熱心に聞いていた。
「シロウ様、ちょっと良いですか?」
「何、ドラ子」
「血を吸わせてもらいたいんですけど……」
「そうか……良いよ。どこでしようか?」
「あの、家屋の裏なら目立たないと思います」
俺とドラ子は、家の裏手に移動した。全マップ探索で一応確認する。
「良いよ。今なら大丈夫だ」
「ありがとうございます。ご馳走が並んでたので、私もお腹が空いてきました」
「普通の食事も食べるよね。それでも、血は必要なの?」
「はい。吸血鬼にとって血は、身体維持に欠かせないものです」
「痛くしないでね……」
そういう間も無く、首を噛まれた。痛くない……けど……なに、これ……
すごく気持ち良いんですけど……
ドラ子の良い香りが、俺の一部分を隆起させた。
……マズい……俺、どうにかなってしまいそうだ〜〜……
「ドラ子、ドラ子!」
「はい、美味しかったです。久しぶりの人間の血でした……」
「そうじゃなくて〜〜その……」
「あ〜〜、成る程〜〜、吸血鬼に血をすわれると催淫効果があります。私が処理しましょうか?」
「えっ!?だ、大丈夫だから〜〜そのうち、治るから〜〜」
「そんな事、言わないでも大丈夫です。すぐ、すみますから〜〜」
俺の隆起した一部分をドラ子に噛まれた? いや、これは、アレだ……
確かにすぐにすんだ……
「シロウ様、こちらも美味しかったです。また、お願いします」
「は〜〜い。こ、こちらこそ〜〜」
ドラ子は、宴会に戻って行った。
……悪魔って、こういう事、平気でできるの? 恥ずかしくないの?……
俺は、一皮剥けた大人になった気分だった。その後、顔を赤くしながら宴会に戻る。その後の事はよく覚えてなかった。
◇◇◇
次の日、俺達は、ルアンの森の里を後にした。シアンは、名残惜しそうだ。
モモリー姫達も寂しそうに見送ってくれた。
南に進路をとり、森の中を進む。全マップ探索で確認したが、エルフの郷は確認できなかった。
「気配探知でも、こちらの方面にあるのはわかるのですが、場所の特定まではできません」
「ドラ子の気配探知でもダメなら地道に探すしかなさそうだ」
「森の民は、特殊な魔法を使うことができます。きっと、そのせいで気配を感知できないのでしょう」
「さすが、エルフって事だね。この世界に来てもエルフを見かけたのは一度だけだったし、隠れる必要があるのかもしれないね」
「あそこの開けた場所で休みませんか? 獣人達に教わって携帯の食事も用意してきましたので……」
「ありがとう。クルミ。何から何まで……」
「いいえ。それが私の仕事ですから」
……この鬼っ娘、良い子だわ〜〜、ずっと、そばに置いときたい……
「シアン、ちょうどいいわ。ここで魔法を教えてあげる」
「本当? ありがとうドラ子さん」
「悪魔は、約束を違えないわ」
「俺にも教えてくれる?」
「シロウ様もですか? 構いませんけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫です! 火魔法や回復魔法なら何とか使えるんだから〜〜」
「わかりました」
ドラ子の教え方が上手かったのか、シアンはみるみる魔法を習得していく。特に風魔法が得意なようだ。
「シアンは、妖精の加護があるから魔法を使う度に妖精が喜んでいるわ」
「ドラ子さんにも見えるんですか?」
「もちろんよ。吸血鬼だし……」
「そうなんです。魔法の発動の手助けをしてくれてます。風の妖精が一番相性がいいみたいです」
「私は、悪魔だから光魔法は使えないけど、そこにいるのは光の妖精でしょう?シアンは、教会の人間だからきっと光魔法の方が適性高いわよ」
「そうでしょうか? 」
「うん、絶対!でも、それは他の人に教わってね。私達とは相性悪いから」
「はい。わかりました」
シアンは、魔法が使えて喜んでいる。
「シロウ様は、何でもできそうね。その中でも、闇魔法が得意そうだわ。リーナ様やミミー様と契約してるからだと思うけど」
「闇魔法にはどんな使い方があるの?」
「例えば、アンデットを呼び出すとか、相手の意思を思い通りに動かすとかよ」
「死霊系は、アスカだけで十分だよ。これ以上アスカみたいなのが増えたら、素敵な装飾を施したバイクの集団で町中を走り回りそうだ。相手の意思をどうにかするっていうのも気がすすまないなぁ〜〜」
「じゃあ、相手を一時的に暗闇の中に閉じ込める『ブラックシャドウ』なんかどうかしら。戦闘力を奪えるわよ」
「それ、面白そうだ。教えてくれる?」
「いいわ。まず、イメージして……相手の視界、聴覚、臭覚を奪う黒い影を……」
「うん、わかった」
「イメージできたら、ブラックシャドウって唱えるだけよ。呪文は必要ないわ」
「やってみるよ」
【ブラックシャドウ!】
俺は、目の前にある木に向かって暗闇を想像した。すると、その木は黒い影に覆われる。
「そうそう、初めてにしては上出来だわ。リーナ様と契約してるだけはあるわね」
「初めてドラ子に褒められた気がするよ」
「昨夜は、シロウ様を美味しく頂いたしね」
「食事の用意ができましたよ〜〜」
クルミの声が聞こえたと思ったらシアンが詰め寄ってきた。
「シロウ、何? どういう事」
「どうしたの?シアン」
「さっき、ドラ子さんが昨夜は、とか言ってた」
「あ〜〜それは、血を提供したんだよ……」
「それだけ?」
「そ、そうだけど……」
「いいえ、あと、シロウ様の……」
「ドラ子、それ、言わないでーー!」
「怪しい……正直に話しなさい!話さないとーー」
「話さないと?」
【トルネード!】
そう、シアンが叫びと、風が吹き荒れ竜巻が発生した。俺と隷属状態にある為、魔力が高い。
俺は、竜巻に巻き込まれ、空へと吹き飛ばされてしまった。
みんなは、口をポカンって開けて俺を見ていた。
「また、こんな展開かーー!!」
◇◇◇
俺は、吹き飛ばされた森の中で目を覚ます。気がつくとそこには、エルフの女の子がいた。
「大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。美しい貴女に会えて幸せです」
「あの〜〜頭打ちました?」
「はい。少々……」
「すみません。起きてもらえますか?」
「はい。貴女の為なら……」
「良かったわ。薬草が無事で〜〜」
……あれっ?この会話、前に一度……
「それでは、御機嫌よう」
エルフっ娘は立ち去ろうとする。俺は、王都北の迷宮都市での事を思い出した。
「あーー!貴女は、前に一度会いましたよね。北の迷宮都市の森の中で〜〜」
「そういえばそういう事もありましたけど、あの時の方ですか?」
「そうです。そうです。また、貴女に助けられました」
「私は、薬草を撮りにきただけですけど……」
「いいえ!貴女がいたから目覚めたのです!これ、本当です!」
「そんな事言われても、困ります。私達は人族の方と関わらない決まりなので」
「そんな事、言わないで下さい。是非ともお友達、いや、お知り合いになりましょう!」
「何を言ってるのかわかりません。手を離してくれませんか!」
「お願いします。私はシロウです。どうしてもエルフの郷に行かねばならんのです」
「郷にですか? 無理です。人族の方は入れません!」
「そこを何とか、後生です。後生ですから〜〜!」
「貴方のような頭のおかしい人は、ごめんです。私、急ぎますからーー」
「どうしても、貴女の郷にいるルシファーを連れて帰らないといけないんです」
「えっ?それっ!本当ですか? あのキモい奴を連れて行ってくれるんですか?」
「はい。その為に来ました」
「少し、考えさせて下さい」
エルフっ娘は、何やら思案中だ。俺は、この隙にシアンと念話をし、この場所を伝えた。すると、あっという間に、シアン達はここに転移して来た。
「貴女たちは何者ですか?転移魔法使えるなんて……」
「俺達は、ルシファー探索隊です」
「はい?」
森の中には爽やかな風が吹いていた……




