第54話 ーーールシファー探索隊結成ーーー
リーナの就任式が全て滞りなく終わったので、俺達は、応接室でお茶をご馳走になっていた。
今度のお茶は、ハーブティーみたいだ。ミントの香りがする。
「このお茶美味しいね」
「サツキもそう思うか。俺も美味しいって思ってたんだ」
お茶を入れてくれたのは、あの、少し緊張してる鬼っ娘だった。
「お口に合って、良かったです」
「これは、ハーブティーですよね」
「はい。マンドレイクの根を乾燥させ煎じた物です。神経毒がありますが、それが、このお茶のアクセントになっております」
『はい?』
……スーッとするのは毒のせいなの? 俺もサツキも加護があるから大丈夫だけど、普通の人間が飲んだら死んじゃうんじゃないの?……
「そ、そうですか……絶妙なお手前で……」
「あ、ありがとう御座います」
……綺麗なお辞儀だ。あのメイド1号に見せてあげたい……
「シロウ、今日はありがとう。来てくれて嬉しかった……」
「リーナのお祝いなんだから、当たり前だろう」
「それでも、嬉しい……」
「だから、私が言ったのであります。ボンクラのシロウ様でもリーナ様の為なら、絶対、来てくれますと」
……ソラス!ボンクラで悪かったな!……
「ミミーもシロウお兄ちゃんにあいたかったのでちゅうーー」
「俺もミミーに会いたかったよ」
「私にも会いたかったのよネ〜〜」
「もちろんだよ。アザゼルにも会いたかったよ。お酒も持ってきてるし……」
「あら〜〜ん。嬉しいわ〜〜ん」
「しかし、シロウ様は不思議な方ですね。これだけの悪魔、しかも幹部達に普通に接しておられる」
「普通かどうかわからないけど……ドラ子さんだって、幹部なんでしょう?」
「はい。主に、事務を担当しております」
「そうなんですか? きっと、頭がキレるんですね。事務なんてすごいです」
「そ、それほどでもありませんが〜〜」
「ソラスは、ここでどういう役割なの?」
「私でございますか? 私は、作戦参謀であります」
「そうなんだ。物知りだもんね」
「私にかかれば、どんな事でもチョチョイのチョイっとかたずけてみせましょう」
「ミミーは?」
「ミミーはね〜〜お勉強ちてるでちゅう〜〜」
「そうなんだ。偉い、偉い」
「べへへへへ」
「じゃあ、ここにいるみんな幹部なの?」
「そう。でも、アザゼルとルシファーは客人扱い。元、天使だから」
「他は、あの壇上にいた悪魔達なのか?」
「そう。私の配下に13魔いる。上級精霊族のルキフゲ、死の穢れを司るドゥルジ、知識を司るダンタリオン、錬金術の巧みなハーゲンティ、邪眼を持つバロール、体臭のキツいアスタロス、剣術の達人のバアル、覗き魔のベルフェゴール、それと、ミミー、ソラス、アザゼル、ルシファー、ドラ子。以上が今の冥府の幹部達」
「壇上の席が空いていたのはルシファーだったんだ」
「そう。ルシファーは気分屋。昔から、我儘で誰も相手にしない残念ボッチ」
「それ、幹部でいいの?」
「強さは本物。悪魔の世界は強ければ良い。それに元天使。邪険にできない」
「アザゼルも強いもんね」
「あら〜〜ん。ヤダ〜〜。私はか弱い乙女よん」
……誰がじゃい! まったく、この悪魔はーー!……
「だから、ルシファーを連れてくるんだよね。俺が行っても平気な相手なの?」
「ルシファーは、怠惰の業を背負ってる。面倒くさがりの部分がシロウに似てる」
「リーナ、本当の事言うのはやめてよ」
「シロウの事は何でも知ってる」
「ねぇ、ねぇ、あの光、何なの? 窓から見えるんだけど……」
「サツキ様、あれは悪魔召喚の光であります。何処ぞの誰かが悪魔を呼び出そうと儀式を行ったみたいでありますなぁーー。しかし、今、冥府は、封鎖されております。いくら、召喚の儀式を行っても、それに答えられる悪魔はおりません。だってここから出ていけないのですから……」
「それにしてもリーナ様が来られてから、2回目ですね。しかも、大量の純潔の乙女の血が使われております」
「ドラ子さん、この距離からそんな事もわかるの?」
「血に関しては、この冥界で私に及ぶものはおりません」
「すごいですねーー」
「何だか、シロウ様に褒められると気分が良いですわ」
「乙女の血って事はもしかしたら、誰かが殺されたって事なの?」
「サツキ様の言う通りであります。あれだけの召喚の光、一人や二人では無いでしょう。それに、あの術式は、シロウ様のおられる世界のものと思われます」
「えっ!それ、本当?ソラス」
「本当です。誰かが強い悪魔を求めているのでしょう」
「大変だよ。シロウ兄!何とかしなくっちゃ!」
「わかってるよ。サツキ」
……俺達のいる世界なら何とかして、こんな馬鹿らしい事、止めないと……
「今は、冥界は封鎖されているけど、ルシファーが戻って、結界に穴が開けば召喚に応える悪魔も出てくるはず。今の、冥界は、まだ、魂の循環が上手くできてないから、飢えてる悪魔はたくさんいる。そうすれば、犠牲になるのは人族達」
「リーナ、魂の循環って?」
「悪人の魂は冥界に落ちてくる。悪魔達は、その魂を喰らう。でも、全部が悪に染まってるわけではない。その部品は取り込まない決まりなので魂の残りカスは天に昇る。
それを、神族が魂の記憶や善行の部分を吸収する。何もなくなった抜け殻の魂は、新しい命として、地上に戻される。
しかし、冥界は封鎖されている為、落ちてくる悪人の魂も限りがある。それに、神族が欲しがる善行の部分は天に帰れないでここで、消滅してしまうだけ。すると、地上の人口は少なくなる。いわゆる悪循環に陥っている。
だから、神族は、定期的に人口の多い世界から少ない世界に転生させようとする。その一人がシロウだった」
「そういう事だったんだ……」
「だから、ルシファーが必要。冥界の封鎖が一部でも解除されれば、魂の循環が良くなり飢えに苦しむ悪魔も減る」
「わかったよ。ルシファーを連れてくるよ」
「私も一緒に行ければ良いんだけど……」
「リーナ様はダメです。就任式が済んだとはいえ、冥界は今が大事な時なのですから」
ドラ子は、リーナに真剣に進言する。
「じゃあ、じゃあ、ミミーがいっちょに行くでちゅうーー」
「ダメで御座います。ミミー様は、ベルゼブブ家の最後の血筋です。それにまた幼児言葉を喋りましたね。今日は、この後、お勉強してもらいます。公爵家としての教養を1日でも早く学んで頂かないと困ります」
ミミーの執事なのだろう。ヤギの顔をしたお爺さんがミミーに話す。
「お勉強ばかりでつまらないのでちゅうーー!」
「ミミー様!」
「私は嫌よ〜〜ん。ルシファー、キモいから〜〜」
……あんたも負けてないよっ!……
「わ、私がお供致します!」
突然、あのお茶を出してくれた鬼っ娘メイドが声をあげた。
「うん。じゃあ、お願い。クルミ、シロウについていてあげて」
「あ、ありがとう御座います。サリーナ様」
「クルミだけじゃ心配だから私も行くわ」
「いいの? ドラ子」
「良いわよ。シロウを守れば良いんでしょう。たまに血を吸わせてもらうけど」
「問題ない」
……血を吸うの? ……俺の意思は?……
「うぉほほほ、どうやら段取りはできたようじゃな」
「ドラキュラ伯爵!何処のいたんですか?」
「霧になって、お主達を見ておった。これからは、若い世代の時代だからのう」
「相変わらず、悪趣味ね〜〜ん。モテないわよ」
「アザゼル、この歳では、もう役に立たんわい」
「まぁあ、エッチね〜〜ん」
……オエーーッ!この会話、気持ち悪い……
「では、シロウのお供にドラ子、クルミお願いね」
「わかったわ」
「サリーナ様、精一杯、勤めさせて頂きます」
こうして、ルシファー探索隊が結成されたのだった。
◆◆◆
俺とサツキそれにソラス、ドラ子、クルミの悪魔達は、一旦、日本のリーナの家に戻った。
ドラ子とクルミは、この世界の言語を話せないのでリーナが魔法で習得させた。
俺達は、リーナの部屋で今後の事をお茶を飲みながら話していると、急に玄関のドアを叩く音がした。
……誰なの? チャイムあるのに……
出てみると、シアンとエリックだった。シアンは、片目を抑えている。
「シロウ、何があったの? すごい悪魔の気配を感じたわ!」
……あ〜〜それで〜〜……
「実は、ソラス達が来たんだよ。そうだ。ローマ聖教にも手伝ってもらいたい事があるんだ。中に入って……」
俺は、シアンとエリックを招き入れた。シアンは、目に痛みを感じてるらしい。俺は、薄めたフェニックスの涙をシアンに飲ませた。
「もう、妖精の眼は痛くない?」
「うん。大丈夫」
「シロウ、その薬やはりすごいデス。聖水の効き目より断然上デス」
「シロウ様、こちらの方々は誰なのですか?」
「ドラ子、この人達は、エリックさんとシアン。ローマ聖教という教会の悪魔祓いの人達だよ」
「あ〜〜教会の浄化屋さんね」
「シロウ、どういう事、ソラスはわかるけど、この悪魔達は誰なの? 妖精の眼でもよく見えないわ」
「事情があって連れてきたんだ。こちらが、ドラ子さん。ドラキュラ伯爵の跡を継いだ吸血鬼だよ。そして、こちらが、クルミさん。鬼族の方だよ」
「最上級吸血鬼と鬼族ですってーー!シロウ、貴方は、この世界を壊したいの?」
「違うよ。役目があって、手伝ってくれることになったんだ。今、説明するから」
俺は、冥府での事を二人に話した……
「話はわかったわ。シロウは、この二人を連れて、あの堕天使ルシファーを探しに異世界に行くのね。私も行くわ。シロウが心配。連れてって!」
「シアン、僕達には他にやる事があるみたいだよ。悪魔召喚で罪の無い女性達が犠牲になっているのデスから……」
「そうだけど、それは、エリックがやって!私はシロウと一緒に行くわ!」
「シアン……君がそんな風に言うなんて余程の事なんだね。小さい頃から知ってるから、よくわかるよ……」
「じゃあ、私が、ソラスと一緒にエリックさんを手伝うよ。もともと、そのつもりだったし……」
「サツキ、それは危ないよ。お兄ちゃんは許しませんよ」
「そんな事、言ってる場合じゃ無いと思う。もし、先にお兄がルシファーを冥府の連れて行って封印を解いたら、この世界に悪魔が召喚されるんだよ。制御の効かない悪魔が来たらどれだけ被害が出るかわかってるの?」
「それはそうだけど……妹を危険な目に合わすのは兄として許可できません!」
「でも、私、シロウ兄より強いと思うよ。レベルも上だし……」
……ガ〜〜ン!そうだった……サツキの方がいろいろ適性が高い……
「そ、それは、そうだけど〜〜」
「シロウ様、私、ソラスがサツキ様についている限り、怪我ひとつさせないと、ここに誓いましょう。それで、納得して頂けますかな?」
「ソラスの事は信用してるけど……相手がどんな奴かわからない以上、心配は心配なんだ……」
「シロウ、悪魔召喚を行えるのは限られている。調べてみないとわからないが黒十字教の奴らだと思う。悪魔崇拝のイカれた教団」
「ローマ聖教のコネがあれば、探すのは容易いだろうけど………わかったよ。サツキは、相手を見つけるまでなら……その後は、エリックさんや地元警察に任せるんだぞ」
「わかったよ。無茶はしないって約束するよ」
……いつも無茶ばかりしてるから心配なんだよ!……
「あっちも行きたーーい!サツキと一緒に行きたーーい」
「アスカ、急に出てくるなよ。ビックリするだろう?」
「ホォーー元気にしておりましたかな?アスカよ」
「ソラス、おひさ〜〜!あっちは、いつも元気だぜ!」
「いい色に魂が穢れて来ましたね。その調子です。アスカ」
「エヘヘへ、照れるじゃね〜〜かよ。ソラスってば!」
「これは、霊体ですか? こんなにはっきりした霊体は見たことありません」
「アスカは、リーナの黒炎の一部を魂の強化に使ってるんです。そのせいかと思います」
「リーナ様の黒炎をですか……それは、凄い事です」
ドラ子は、興味深そうにアスカをジロジロ見ていた。
「シアンは、どうしても異世界に行くの?」
「そのつもり……こんな上級悪魔達に囲まれていては、シロウが心配。何されるかわかったものではない」
「わ、私は、シロウ様に危害を加えるつもりは毛頭ありません。私は、鬼族と人間のハーフです。人間を傷つけた事は一度もありません」
「クルミは、ハーフだったんだ。リーナと同じなんだね。もしかすると、その角、取れるの?」
「これは、サリーナ様のように取り外しはできませんが、見えなくする事は出来ます」
「そうなんだ。本物なんだね」
「はい。鬼族にとって角は、命の次に大事なものですから……」
「もう、みんな話が長いわね〜〜。じゃあ、シロウ様と私とクルミそして、その人族の浄化屋さんがルシファーを探しに行くのね。
サツキ様とソラス、幽体のアスカでしたっけ?それと、男の浄化屋さんが悪魔召喚者を見つけに行く、それでいいの?」
ドラ子の言葉に皆、頷いた。俺達は、この世界と、異世界でそれぞれ行動する事になった。




