第45話 ーーー誘拐しましょうーーー
「シロウさんに、お聞きしたいことがあります」
俺とアスカは、カトリーヌ第二王女に呼び出され、また、あの応接室のソファーに腰掛けている。そして、目に前にいるカトリーヌ王女は俺にそう切り出した。
「はい。何でしょうか?」
……いろいろ、隠してるしもしかして、何かバレたのか?……
カトリーヌ王女の隣にいるメイド2号が俺を睨んでいた。
「実は……シロウさんは好きな女性はおられますか?」
「はい? 好きな女性ですか……」
……好きな女性は、二次元にいます……なんて言えないし……
「いいえ。生憎、そのような女性とは縁がないみたいで……」
「それは、好きな女性はいないという事でいいんですね?」
「はい……」
……何、何、どういうこと?……
「では、お姉様の事はどう思いますか?」
「アンリエット王女様ですか?とても、綺麗な方で、まるで天使のような人だと思ってます」
「そうですか……良かった……」
……何なの? もしかして、マズい事になるんじゃ……
「あの〜〜何故、そのような事をお聞きするのですか?」
「カトリーヌ様に質問など無礼極まる所業です。この蛆虫!」
「ロリンジュさん、それ、言い過ぎだと思いますけど……」
「まだ、私の名前を覚えていたのですか!さっさと忘れなさい!」
「ロリン、良いのよ。私もいろいろシロウさんとお話がしたいし……」
「ですが……カトリーヌ様がそうおっしゃるなら……」
「シロウさんは今、好きな人がいないとおっしゃいました。そこで、本題なのですが……お姉様とお付き合いして下さい」
「えっ……!」
「好きな人がいないなら問題無いはずです」
「俺、平民ですよ。無理でしょう。現実的ではないですって……」
「シロウさんは、先の魔人襲来の時、爵位を授与されるはずがお断りになったそうですね。平民とはいえその事は周囲もご存知のはず。お付き合いくだされば、その時、授与予定だった爵位を、また授ける事など、何も問題ありません」
……怖い……メイド2号の目が怖い……
「あまりにも、突然でしたのでどう答えれば良いのか迷っています。でもアンリエット様は、この事をご存知なのですか?」
「姉様には、言っておりません」
「アンリエット様の気持ちもある事ですし、私のようなものが……」
「そんな事ありません。いつも、姉様を見ていればわかります。姉様はシロウさんの事を……」
「俺の事を……?」
「好きなのだとわかるんです!」
「なっ……!?」
「そうでなければ、このような事をシロウさんにお願いしたりしません。どうか姉様と結婚を前提としたお付き合いをして下さい」
「結婚前提ですかーー!」
「はい。王族のものが軽はずみなお付き合いはできませんので……」
……これは、困った。結婚などしたら更に自分の時間が持てなくなる……
「ご意向はわかりました。ですが、私の国では、男子は18歳にならないと結婚できない決まりなんです。お気持ちは嬉しいのですが、私は、15歳になったばかりです。結婚できる年になるまでアンリエット様をお待たせするわけにはいきません」
「シロウさんは、東方の島国のご出身だそうですね。ミリエナ国では、15歳になれば、成人し結婚できます。一度、お姉様をシロウさんの国に連れて行ってもらえないでしょうか?そしたら、当国の理由をシロウさんのご家族にきちんとお話し致しますので……」
……更に、面倒になったぞ。日本に連れて行けるわけないじゃないか……
「カトリーヌ様のお考えはわかりました。少し、時間を頂けませんか?前向きに善処します」
……政治家がよく使ってる言葉だが、これ程曖昧な言葉はない。善処した結果、ダメだったっと理由がつけられる……
「そうですか。ありがとうございます」
……えっ? もしかして、通じてない? 意味わかってないの?……
「シロウ、結婚するんだーー」
「何、言ってんだよ。アスカーー。そんな事できるわけないじゃないか……」
「だって、見てみなよ。あの子、えらい喜んでるじゃねーーの」
「えっ?」
「じゃあ、シロウさん日取りはいつにしましょう?」
「はい?」
「日取りです。姉様がシロウ様の国に行く日取りです」
「えっ!ちょっと待って下さい。俺、まだ、時間をくださいと言っただけで具体的には何も言ってませんけど……」
「でも、先程、前向きにお考えになるとおっしゃいました」
……それっ!断るつもりの時間かぜぎですからっ!……
「それは……」
「一度口にした事を違えるのか!このゴミ虫め!!」
……何でこうなるの?……
「旅支度もありますので、一週間程、お時間下さい。私達も付いていきますから」
……何ですとーー!!……早く、誤解を解かないと……
「では、ゴミ虫!いや、シロウさん。一週間後、王宮にお越し下さい。まさか逃げたりしませんよねーー!!」
……これ、パワハラだよね。こんな状況で断れる人いるの?……
◇◇◇
「断れるよーー!」
今、マイルームで会議中だ。あれから、俺とアスカは、王宮を出てリーナ達と合流し、マイルームにサツキとソラスを呼んで話し合っている。
「俺だって、断るつもりで、前向きに善処しますって言ったんだ」
「そんな、政治家のおじさんじゃあるまいし、曖昧な言葉でお茶を濁すからダメなんだよ。イエスかノーで答えれば、済む話じゃん!」
「はっきり言える状況じゃなかったんだよ」
「そうなの、アスカちゃん?」
「そんな事ねーーっつーーの。ふつーーに断れる状況だぜ」
「ほっ、シロウ兄が悪いんじゃない。それにしても、アスカちゃん、雰囲気変わったね?」
「ホホー、これは、きっとリーナ様の黒炎の影響かと、魂が闇に強化されています」
「そうなんだ。でも、楽しそうだから、それもアリよ」
「サツキ、ダメだよ。睦美と同じぐらいなのに不良っぽくなっちゃうなんて」
「そうかな?私は、素直で良いと思うけど……女の子は心に闇ぐらい誰でも抱えてるんだから」
「えっ、そうなの?」
「そうよ。でも、困ったわね〜〜。お兄にはリーナさんてステキな人がいるのに」
「人間同士の乳繰り合いなど、私達には関係ない。シロウと私は魂で結ばれているから問題無い」
「そういうものなの?」
「人間には理解し難いかもしれませんね。ホホーケキョ」
「リーナさん達が良いなら私は口を挟めないけど、妹として言わせてもらえば、シロウ兄は、優柔不断のダメ男です!この件、ちゃんとしなさいよね。女の子の気持ちが関わってるんだから……曖昧な態度じゃみんな傷つくよ。シロウ兄、ちゃんと考えて答えを出してね!」
……正論を言われるほど、逃げ場が無くなり追い込まれるのはなぜ?……
「わかったよ。ちゃんと考えるよ。でも、一度は、日本に連れて来ないといけない状況になったらどうするんだ?全部バラすのか?」
「私は、正直に話した方が良いと思うけど……」
「リーナ達の事もか? 王都で暴れたんだぞ。アザゼルなんか戦争までしたんだぞ。言えるのか?」
「そ、それは、隠すしかないんじゃない」
「リーナ達の事は何と説明すれば良いんだ。俺達は、一緒にいなければいけないんだぞ。俺が死ぬまで……そんな状況で、結婚なんて無理だろう?」
「そうだけど……やはり、正直に話した方が良いよ。リーナさん達の事も」
「さっきと意見が違うじゃないか?」
「私だって、考えたけどそれが一番だと思ったのよ」
「正直に話した後、王都の件や戦争の件で弁償とかなったらどうするんだ?」
「働いて、お金を返すしかないと思う」
「死罪になったら?」
「それは……きちんと話せばわかってくれるよ」
「サツキは、甘いよ。俺が、異世界でどんな目にあったか知らないんだ。こっちの言う事なんか聞いちゃくれない。裸同然で地下牢に入れられたりしたんだぞ」
「でも、一生懸命話せば、きっとわかってくれるよ。あのお姫様だもの」
「あの姫様なら、そうかもしれないけど……」
「事前に、あのお姫様にだけ話をしておけば?……日本に連れてきてきちんと話をすれば、大掛かりな人数で東国の島国に行く必要ないじゃない?」
「事前に……か?」
「そう、あのアンリエット王女に事前に全てを知ってもらうの。あの人ならちゃんとわかってくれるはずよ」
「それしかないか……」
「決まったようでありますな。ホホーケキョ」
「リーナ達もそれで良い?」
「問題無い」
「平気なのでちゅう」
「致し方ありませんな。ホホー」
「あっちもいいぜーー!」
俺達の話し合いで、アンリエット王女に日本に来てもらって全てを知ってもらう事にした。
◇◇◇
「アンリエット王女日本にGOって言うのはどう?」
「なんか変だよ」
「王女様誘拐大作戦っていうのはどうでありましょうか?」
「ソラス、それ、犯罪だから……」
「アンリエット様をお・も・て・な・しって言うのは?」
「う〜〜む。パクリだし……」
会議の内容は、アンリエット王女を日本に連れてくるための作戦名に変更になっていた。
「あっちはまず、諜報活動が必要だと思うっつーーの」
「諜報活動ね。よくそんな難しい言葉知ってたね。アスカ?」
「テレビでやってたじゃん。シロウ、知らねーーーの?」
「悪い。俺、アスカの生きてた時代、まだ、産まれてないから……」
「じゃあ、仮面の忍者 赤◯は?知ってるでしょう?有名だし」
「ごめん。聞いたことすらないよ」
「マジっ?」
「マジです!」
「じゃあ、見てみなよ。カッコいいんだから〜〜。シロウは、どっちかというと青◯の方だけど。鼻に親指を当てて手を開くんだよ。
そして『大丈夫』って、そうそう」
「もう、アスカ。話が前に進まないだろうーー!」
「私達は日本の家で待ってる」
「俺、一人でやる訳?」
「そう。私達には用事がある」
「リーナの用事って?」
「テレビ見なくちゃいけない」
「テレビって……また、ドラマ?」
「そう。今日の夜は、医療もの。天才医師とやらが奮闘してる」
「そうなんだ……わかったよ。でも、いつにしよう。昼間はあのメイド1号がくっついてるし……」
「犯罪は夜、人目のない時間が安全」
「犯罪じゃないからっ!ちょっと、連れてきて話を聞いてもらうだけだから」
「犯人はみんなそう言う」
「リーナはドラマの見過ぎだよ。でも、夜の方が良いよね。わかった。今からアンリエット王女を連れてくるから、みんなそのつもりでお願いね」
『は〜〜い』
俺は、とうとう『誘拐犯……』って、違うから。
でも、良くないよね。こんなやり方……
◇◇◇
俺は、一人でミリエナ国王都に来ている。お腹が空いたので近くにある食堂で作戦を考えている。
王宮には結界があるし、前に忍び込んだ時も反応しちゃったし……う〜〜む。
警備が、強化されるとメイド1号が夜もつきっきりになるかも……う〜〜む。
王宮では顔バレしてるし、正面からというのは無理そうだし……う〜〜む。
ダメだ!良いアイデアが浮かばない……
すると、隣の席から男達から、気になる単語が聞こえて来た。
………
「どうなんだ!あの件は?」
「へい。旦那。周辺の住民は何とかなりそうなんですが、孤児院どもの奴らが面倒でして……」
「下の奴らがやられたそうだな」
「おかしな奴らがついているみたいで……それに、金もどこから手に入れたかわかんね〜〜けど、持ってるみたいでして……」
「何やってるんだ。子供1人拐って言う事を聞かせればよいだろう」
「それも、考えております。旦那の返事次第ですぜ」
「今は、王宮内で少し騒がしい。何でも、王女が東国に旅行されるそうだ。あの王女は、孤児院に対して、特別に気にかけている様子だ。留守の間がいいだろう」
「わかりやした。そのように取り計らいます」
「頼んだぞ」
………
こいつら、孤児院に金を貸した地上げゴロの関係者だ。1人は貴族みたいだし、黒幕か……
俺は、この2人をチェックしといた。ステータスを覗くと、
……………………
ジャルバン=ギミスト(48歳) ミリエナ国 男爵
……………………
ドロンガ(50歳) 商人 ドロンガ商会 代表
……………………
アンリエット王女が留守の間に決行するみたいだ。まだ、一週間ある。
俺は、王宮に忍び込んだ際に、事務筆頭のドリトスさんにでも、この件の手紙を渡しておこうと思った。事前に耳に入れておけば、気にかけるだろう。
さて、名前をなんてしよう。もちろん、本名は書けない。まるっきり意味ない名前なら捨てられる可能生もある。そうだ……あれにしよう。魔法巻毛少女に出てくる、ぱっつんの魔法のお師匠さん『大和 武蔵』に……
ムサシと言う名は、王家に連なる名前だ。無視はできないだろう……
◇◇◇
俺は、良いアイデアが浮かばなかったので、前と同じ、黒翼のマントを羽織り、姿&気配を消して上空から侵入した。
予想通り、結界が反応したらしく警備が兵の動きが慌ただしい。俺はまず、事務官のドリトスの部屋に行き、さっき食堂で聞いた話を記入した手紙を机の上に置いておく。
そして、アンリエット王女の部屋に行くのだった。
「こんばんは……お邪魔します……」
小さな声で部屋のドアを開ける。中にはアンリエット王女だけしかいないのはチェック済みだ。
アンリエット王女はベッドに入り、寝ているようだ。
俺は、ベッドの脇で考えていた。
犯罪じゃないって思おうとしてたけど、どう考えても犯罪だよね……
このまま寝かせたまま、連れて行くか……途中で目を覚ましたら、びっくりして騒ぎそうだし……
あっ!ヤバい。メイド1号が来る……
メイド1号がアンリエット王女の寝室に入ってきた。きっと、警備のものから結界の異常を聞きつけたのだろう。
メイド1号は、アンリエット王女の側に来て寝ている姿を確認し、そのまま、アンリエット王女の寝顔を見続けていた……
そして、その顔は、とても嬉しそうだった……よだれ出てるし……
「う〜〜ん」アンリエット王女は人の気配で目を覚ましたようだ。
「あら、ソランジュいらしたの?」
「はい。警備のものから報告がありまして、結界に異常が見受けられたとそれで、アンリエット様のご様子を……と思いまして」
「そうだったの。私は大丈夫ですよ。ソランありがとう」
「もったいないお言葉です。では、私は行くとします。何かあれば大きな声をお上げ下さい。すぐに駆けつけますので……」
「わかったわ」
メイド1号が向きを変え部屋を出て行こうとした時、俺の黒翼のマントを踏踏みつけた。
俺の気配は、一瞬、解かれる……
「むっ!誰かいるのか?何者だーー!」
……マズい。大声を出されると警備兵が来ちゃうよ……
慌てた俺は、メイド1号の腹に一撃を入れ気絶させてしまった。
「ソランジュ!どうしたの?ソランジューー!」
仕方がない……
「アンリエット様、シロウです。どうしてもお話ししたい事がありましていけないとは思いましたが、無断で部屋に入らせてもらいました」
「シロウさん……!?」
「アンリエット様に私の全てを知ってもらおうと思ってここに参りました。私と一緒に来て下さい」
「でも……ソランジュが……」
「わかりました。ソランジュ様もご一緒にどうぞ」
「でも、どこに行かれるのですか?」
「それは……俺の国です。見てて下さい……スキル、ドア1オープン」
亜空間から、ドアが開いた。そして、俺は、メイド1号を抱え、アンリエット王女を部屋に招き入れた。




