第40話 ーーー家に帰るとーーー
俺達がリーナの家に戻ると、サツキが駆け込んできた。
「シロウ兄、シロウ兄。大変、大変!」
「何かあったのか? こっちは、終わったぞ」
「おこ……」
「おこ……?」
「お米がなくなっちゃったのーー!」
「何ですとーー!」
……この間、10キロ買ったばかりだぞ……なんで…?あっ!
リーナ達を見渡して、納得した。今、うちはエンゲルさんの係数が異常に高い事を……
「シロウ兄どうするの? あのお米屋さん、もう閉まってるよ」
「米だけは、あそこの米じゃないと美味しくないし……う〜〜む」
「サツキ達は、もう食べたのか?」
「うん。最後のお米でおにぎりと卵焼きで済ませたよ。シロウ兄いなかったし」
……これは、困った。リーナ達にも食べさせないといけないし……
「あっ、確か小麦粉あったよね。焼きそばも」
「うん、冷蔵庫に入ってるよ」
「じゃあ、今日は、お好み焼きだーー!」
「そうか。お好み焼きなら私も食べる」
「サツキはもう、食べたんでしょう?」
「それはそれ、これはこれだよ」
「じゃあ、作りますか〜〜」
リーナの家で今、俺はお好み焼きを作っている。家にいる三季姉や睦美の分まで作り、サツキに持って行ってもらった。
「シロウ、これはおいしい」
「おいちいのでちゅう」
「お酒に合うわね〜〜」
「変わった味ですが、これはこれで……」
「シロウ君、料理上手なんだね」
「これは初めて食べました。日本は変わった食べ物があります」
「シロウは、料理人のシロウ?」
神屋代やエクソシスト達を交えて、お好み焼きパーティーが開かれている。俺は作る専門で、一口も食べられない。
すると、リーナがフォークに刺して持ってきてくれた。空きっ腹に染みる味だ。
「リーナありがとう。次も焼けるよ」
「うん」
そう言って、リーナが戻ろうとすると背中に女の子がのぞいてた。
「リーナ。リーナ。背中に女の子がいるよ」
「あっ!忘れてた」
リーナが自分の影に入れといた吸血鬼に捕まっていた少女の幽霊を引っ張りだした。幽霊は、その反動で、床にうつ伏せ状態だ。
「あっ、その子、あのお屋敷で私に一生懸命逃げろって言ってた子だ」
女の子の幽霊は、口を動かして何かを懸命に喋っているが、みんな聴こえていない。女の子の幽霊はショボくれて、肩をがっくし落としてる。
「何か言いたいのかしら……」
「私が浄化しましょうか?」
「シアンさん、ちょっと待って……。リーナ、何か方法ない?」
「喋れるようにすればいいの?」
「うん。未練が残ってるのかもしれないし、可哀想だろ」
「わかった」
リーナは、その女の子を黒い影で包み込んで解いた。するとその女の子の幽霊は……
「わーー何、これーー?」
「女の子の声が聞こえるよ。リーナ、すごい!」
「そう?もっと、誉めてくれても構わない」
「みんな、私の声聞こえるの?」
『うん、うん』
「お姉さん、ありがとう」
「シロウがそうしろって言ったからそうしただけ」
「でも、嬉しいよ。私の事、見える人に初めて会ったのに話す事も出来るなんて」
「話すだけではない。私の黒い炎をちょっと分けた。物も掴めるし食べる事も出来るはず」
「えっ。ほんとう?」
「これ、食べてみる」
「ありがとう。お兄さん。わーーお好み焼きだーー」
「えーーとこれは、どういう事なんだ?俺はまだ、夢の中なのか?」
「シロウ、どういう事?なんで、その悪魔はそんな事できるの?」
「俺にもわからないよ。エクソシストなら、そういうの知ってんじゃないの?」
「聞いたことも見たこともないわ」
「そうなんだ。リーナどういう事?」
「魂を強化しただけ。それと、分けた黒の炎で必要な部分を補っただけ」
「俺達に見えるって事は、他の誰でも見られるって事?」
「それは違う。この子が慣れれば自分で操作できる」
「って、ことは、消えたり見えたり自由にできるって事?」
「そう。でも、練習が必要」
「えっ、そうなの。私、練習します。それで……」
『それで……?』
「美味しいものたくさん食べたいです!」
……あーーこの子も食いしん坊だ……
「でも、不思議。あの家から出られなかったのに……」
「それは、地縛霊って事?あの家で亡くなったの?」
「はい。小さい頃から病弱で外もほとんど出た事ありませんでした」
「そうなの……だから、私を助けようとしてくれたんだね。お父さんお母さんは?」
「お父さん、お母さんもいたようなのですが、記憶も曖昧で……」
「長い間彷徨うと、記憶も薄れる」
「それって、自分の記憶も?」
「そう。忘れる。ただ、彷徨うだけの存在になる」
「そうなんだ。君は名前を覚えてる?」
「はい。蓮乗寺 明日花と言います。確か、明日も花が咲くように希望を持って生きてけるようにとつけてくれたのだと聞いたことがあります」
「優しいお父さん、お母さんだったんだね……」
ここにいる人間達は、少女の言葉に感傷的になっている。シアンとエリックは、目に涙を浮かべてる。
一方、悪魔達は、
「小さな女の子の魂は美味しくないのよね〜〜もっと、汚れてないと……」
「純粋すぎて不味い」
「ミミーもチュキじゃないのでちゅう」
「癖のある味と申しましょうか。苦味も慣れれば美味しくなるものであります」
人間達は、ドン引だった……
「私を食べるの?」
「不味いものは食べたくない」
「ふぅーー良かった……」
「明日花ちゃんはどうしたいの?この人は、浄化できるよ」
「私、ここにいたい。そして、いろんなところ行ってみたい。それから食べられなかった美味しいもの食べたい」
「これは、名前のせいか希望あふれる言葉でありますなぁ」
「俺は、構わないけど、平気なのか?」
「問題ない。でも、悪食の悪魔に食べられないように注意が必要」
「それなら、明日花ちゃん。俺は、鈴風四郎 シロウでいいよ」
「私は、神屋代 鈴音 。あの時はありがとう」
「私は、ローマからきましたエリックです。よろしく。可愛いbabyちゃん」
「私は、シアン。浄化されたい時は言って。協力するわ」
「皆さんありがとうございます。こんなにステキな事は産まれてからも死んでからも初めてです」
『うん、うん……』
人間達は、その言葉が胸に突き刺さり、涙が溢れる。
「浄化された方が楽よ〜〜。世界は厳しいんだから〜〜」
「世知辛い世の中」
「ミミーはたのちいでちゅう」
「いろんな経験をする事は良い事であります。辛い目に会えば魂も汚れるでしょう」
悪魔達の現実感はハンパなかった……
◇◇◇
「そうだ。神屋代、お母さんからうちに電話があったみたいだぞ」
「シロウ君んちに?」
「あーー、帰らなくていいのか?」
夜の10時を回ったところだ。二日続けて夜更かししてたら、あの親父さんに殺されかねない。
「ほんとだ。スマホに連絡いっぱいきてるよ」
「スズネ。私達も行きます。一緒に帰りましょう」
「スズネのお母さん心配してた」
「そうするよ。シロウ君、みんな、今日はありがとう」
「いいよ。早く帰りな」
スズネとエクソシスト達は家に帰っていった。ソラスとアザゼルはお酒を飲んでる。リーナとミミー、そして幽霊のアスカはケーキを食べていた。
「みんな。吸血鬼閉じ込めたままなんだけど、どうしたらいいと思う?」
「ほっとけばいい」
「あら〜〜生意気だけど、面白いわよ。あの雑魚」
「ミミーはちらないでちゅう」
「いろいろ事情を聞いた方がよろしいかと存じます」
……ソラスの言う通りだ。この世界であの騒ぎを起こしたのはおかしすぎる……
「じゃあ、吸血鬼出すから、事情を聞くまで殺さないでね」
『は〜〜い』
俺は、ドア2を開け、吸血鬼を部屋から引き出した。まだ、アザゼルの封印がかかっているみたいで、動くことも話すこともできない。
引っ張り出された吸血鬼は、ここにいる面々を見てビビりっぱなしだ。
「あれ、この吸血鬼、話せないの?」
「そうだった。忘れてたわ〜〜ん」
アザゼルが、指をパチンとと鳴らすと、封印が解けたようで吸血鬼マリーンは、大きなため息をついてた。
「あの〜〜吸血鬼さん。なんであんな事したんですか?」
「なに、ここ?みんな悪魔達じゃない。それも、上級の……」
「貴女、結構、面白かったわよ〜〜ん」
「アザゼル……。面白いも何もないわよ。先に名のってよ!」
「ホーホーこれが逆ギレというものですか。面白いであります」
「どうせ、あたいを殺すんでしょ。じゃあ、私にもお酒ちょうだい!」
「ねっ、面白いでしょう〜〜」
「はい、はい。お酒ですね。飲んだら話して下さい」
「あんた、人間でしょう。物分かりが良いわね〜〜」
「慣れてますんで……。俺は、スズカゼ シロウと言います。貴女は?」
「私は、マリーン=クラリネットよ。聞いたことあるでしょう?」
「いや、全然……」
「私も、まだまだね……これ、私がプロデュースしたバッグ。見たことない?」
「すみません。俺、そういうの疎くて……」
「はぁーーこれだから、ファッションセンスのない人は……」
「貴女が、バックとか作ってる人だとは理解しましたけど、何で今日みたいな事したんですか?」
「マラレスに負けたくなかったのよ。彼奴は、私の居場所をどんどん奪っていくから……」
「マラレス?」
「いたでしょう。建物の中に吸血鬼が。彼奴のことよ。あいつ、いないわね。逃げたのかしら……」
「うっかりして殺した」
「えっ……マラレスを……やったーー!これで、あいつに取られたヨーロッパは、私のものよーー!」
「あの〜〜それで、マラレスという吸血鬼は、何でこんな事したんですか?」
「お酒おかわり頂戴。ストレートでいいわ」
「あんまり飲むと、酔いますよ……」
「平気よ。これくらい……」
……困った。話が進まない……
吸血鬼は、一気に3杯飲み干した。そして……
「だから〜〜あたい言ったのよ〜〜。そんな、得体の知れない奴の話にのらない方がいいって……。シロウ、これ、美味しいわね〜〜。おかわり〜〜!」
「はい、はい」
「バンピーゼ様に話しても、お前達の好きにしろって言うから〜〜。チーズが欲しいわ。シロウ、チーズをお願い〜〜」
「はい、はい」
「冥府の姫が来てるって言うじゃない。だから、きっと、この世界を支配しに来たんだって言うのよ〜〜。それなら、私も暴れようかしらって思ったのよ〜」
……リーナ達が来たせいで暴れたのか?って事は、これ、俺のせいでもある?……
「マラレスはいいのよ。死んでよかったわよ。上から目線だし……キモいし……シロウ。お酒おかわり……」
「はい、はい」
「全く馬鹿よね〜〜マラレスも……あの魔術師リーゼとかいう奴の言葉にのせられて〜〜」
「リーゼ?」
「そう。リーゼよ。薄気味悪い奴だったわ〜〜」
……リーゼ、確か、リーナの姉さんの名前だったよな……
「リーゼはどこにいる?」
「知らないわよ〜〜さっさとどこか行っちゃたわ〜〜」
「ほんとうの事言わないと殺す!」
リーナが黒炎を纏い出した。
「ひっーー!ほんとよ。話すだけ話して行っちゃたのよ。行き先は知らないわ」
「リーナ、落ち着いて……家が壊れる」
「そう。そうだった……」
……今回の件、リーナの姉さんが糸を引いていたのか?……でも、何故?……
「リーナ、この件に、あとでちゃんと考えよう。俺も協力するから」
「わかった」
「しかし、黒炎の姫の姉君がこの件に関わっていたとは、思いもよらなかったであります」
「姉妹喧嘩かしら〜〜ん。血を分けたものの喧嘩は、泥沼になるのよね〜〜ん」
「ミミーあのおねーちゃん嫌いでちゅう」
「あの〜〜シロウ、お酒おかわり頂戴〜〜」
「はい、はい」
……これじゃあ、今日も受験勉強できそうもない……




