第4話 ーーーどうしてこうなった?ーーー
王女視点からとシロウ視点からの話が混在します。読みにくいと思いますが
お付き合いくだされば嬉しいです。
私は、アンリエット=ムサシ=ミリエナ、17歳。二年ほど前に成人したミリエナ国第一王女よ。1000年以上昔から続くミリエナ国は「勇者」と呼ばれる人が作ったの。
この世界は、1000年前、人族と魔族との大きな争いがあったわ。獣人族や森の貴人エルフ達、龍人達との多民族連合で魔族を撃ち払い、魔王を倒したわ。その時に、遠い世界から来られて、この世界を救ってくださった人、そう「勇者」と呼ばれるお方が、私のご先祖なの。
あれから、長い年月が経っても色焦る事なく語り継がれているわ。
それからの、この世界は、国同士の争いはあるものの人種にかかかわらず、割と平和の時を過ごしてきたわ。でも、100年前の王家の争いは身内の恥だけど、とても、ひどかったそうよ。跡目争いなんて、欲に支配された者だけと思っていたけど、誇りや尊厳をかけたものもあるなんて初めて勉強して知ったわ。まぁ、貴族は、己の誇りのために生きているもの。仕方なかった事なのかもしれないわね。
「アンリエット様、アンリエット様 どうかしましたか?」
「えっ、何? どうしたの? ソランジュ」
「いいえ、先程からお声をお掛けしているのですが、ご返事がなかったものですから、お加減がお悪いのかと心配しておりました。そのご様子では、私の杞憂だったと安心致しました」
「そうなの、心配かけたわね。ソランジュ」
「いいえ。とんでも御座いません。ところで、何かお考えになられていたのですか? もしかして、お見合い相手の事でございましょうか? 」
「ち、ちがわよ。街の様子を見ていただけよ」
「そうでしたか。ここからは、街の民の様子が良くわかりますからね。私はてっきり、来月行われるアンリエット様のお見合いの件でお悩みになられていたのかと思いました」
「サラマー国の第二王子とは、面識がありませんからどの様な方か存じませんし、噂では、とても精悍でお強い方と聞いています。私としては、お強い方よりも優しくて、守ってあげたくなるような華奢な殿方の方が好みなのですが……」
「サラマー国の第一王子は、そのような方とお聞きしてますが、ご病気で伏せっておられるご様子ですし、そういえば、第一王子とはご面識がお有りだったとお聞きしましたが……」
「ソランジュが、侍女に就任する前に、一度お見かけしただけですよ。それも子供の頃の話ですから」
「私と致しましては、姫様がお幸せになっていただければ、どのような方でも、嬉しく思います」
「ありがとう。ソラン。でも、私、まだ、結婚とかそのような事、ピンっとこないのよ。きっと、私には、殿方と縁がないんだわ」
「姫様が、王立魔法学院に入学される前までは、公爵家のバラモント様と良く一緒におられたではないですか?」
「バランは、小さい頃は可愛かったのよ。でも、今は……」
「胸毛でございますね」
「そう!大きくなったら、毛深くなっちゃったじゃない。獣人ならいいのよ。可愛いと思えるから。でも、バランは、いつも、胸の空いた服を着て胸毛を見せびらかしているじゃない。正直言って、気持ち悪いわ」
「そうですね。あれには、私も抵抗があります。それに、ナルシストですし自分しか見てない感じも腹が立ちます」
「あーーあー、どこかに、華奢で可愛い感じの殿方がおりませんでしょうか?勇者様のような……」
「勇者様ですか。アンリエット様は、勇者様の大ファンですものね。私も、そのような方がおられたら、お会いしとうございます」
私は、街に行き交う人々を見ながら、大きなため息をついた。お見合いなんてしたくない。ゴツい感じの人は、生理的に受け付けないのに……
その事を知りながらお父様は、こんな話を持ち込んで来るんだもん。ため息しか出てこないわ……
「アンリエット様、お茶をお持ちしました」
「ありがとう。ソラン」
すると、ソランジュが差し出したお茶が、アンリエットの服にかかってしまった。
「申し訳ありません。すぐに着替えをご用意します!」
「大丈夫よ。ソラン。たいしたことはないわ」
ソランジュは、自分が犯した粗相を悔やみ、慌てて着替えを隣の部屋に取りに行った。
私は、濡れた服を脱ぐ。今日は、妹のカトリーヌが北の遺跡から帰って来る日だ。
太古の宝物を発見したと連絡係の役人から聞いた。今晩はその慰労会が開かれる。
……慰労会もあることだし、この際、下着も取り替えてしまいましょう……
私は、下着を脱いで裸になった。すると、ドアが開き、今、起こっている状況が理解できなかった。てっきりソランが服を持って着たものだと思ったからだ。
でも、現実は違った。そこには、珍妙な格好をした見知らぬ男がいたのだ。
「わぁーー!すみません。すみません」
その男は、慌てたように謝りだす。相手も、何が起きたのかわからない様子だ。私は思わず、しゃがみこんで自分の身体を隠すように小さくなった。そして、勇気を振り絞って、大きな声を上げた。
「キャッーー!!」
……見られた。見られた。誰にも見せたことのないこの身体を、見知らぬ男に……
私の声を聞きつけて、侍女のソランジュを始め多くの衛兵が集まって来た。私は脱いだ服で身体を隠し、そのまま動けないでいた。
その見知らぬ男は、衛兵たちに捕まり、連れていかれてしまった。私は、今起きたでき事が信じられないでいた。
◆◆◆
俺は、捕まって牢屋に入れられた。今だに何が起こったのかわからない。
マイルームから、はじめての異世界へ旅立つところだった。ドアを開けると裸の女性と目が合ってしまった。
……これ、どういう状況?……
俺は、思考が一時的に止まっていた。頭が働いたのは、その裸の子が涙目になってたのを見た時だった。俺は、すぐに謝って出て行こうとしたが、ドアを開けてもマイルームに繋がらない。女の子の悲鳴に多くの兵隊らしき人がゾロゾロ来る。
怖い目つきをしたメイド服の女性もいた。俺は、剣を突き立てられ、この牢屋の放り込まれたのだった。
俺がいる牢屋に入れ替わり立ち替わり色々な人が来た。首に鎖をつけられ、手と足はきつく縛られた。
ローブを羽織った偉そうな年寄りが、縛ってある手にガラス玉のような球体を無理やり押し付けてきた。熱くなったが、痛みはない。
兵隊らしき人物が、色々な質問をして来る。時には、暴力を受けた。
俺は、「家のドアを開けて出ようとしたら、ここにいた」としか言えなかった。
詳しい話はできない。女神との約束があるからだ……
荷物も全部取り上げられた。着ている服さえも……
代わりに汚い布地を渡された。俺は、身体を動かし下半身を覆うように被せた。
あの事が起きてだいぶ時間が経ったような気がする。ここは、地下牢らしく陽が入らず、昼だか夜だかわからない。もう日が開けるとすれば、今日は、俺の誕生日のはずだ。15歳の誕生日を牢屋で過ごすなんて、誰が予想できただろうか?
俺は、寒さに震えながら、スキルを試した。「鑑定」「全マップ探索」は使えるが、「マイルーム」だけは、エラーが出る。ヘルプ機能を使うと
……女神エリーゼの干渉によりドア1を一ヶ月間封鎖しています……
と、表示される。
「あの女神、プリン買ったのに!ドアを封鎖するなんて聞いてないよ……」
すると、強面の兵士が牢屋の外から杖のような長い棒状のようなもので、思い切り腹を突かれた。その痛みで俺は、気を失ってしまった。
◆◆◆
王宮では、今回の珍騒動に大慌てだ。まず、警備責任者が呼ばれて、不審者を王宮に入れた事を叱責されていた。警備責任者は「配下の者に聞きましたがそのような事実はない」と、顔を赤くして怒っていた。
次は、不審者が持ち込んだ荷物と服だ。見たことのない物がゾロゾロ出てくる。危険なものがないか、王宮に併設されている研究所に持ち込んで、今、鑑定の最中だ。
侍女のソランジュは、自分を責めていた。
……私が、お茶をこぼさなければ……
……もっと早くお着替えを用意できていればアンリエット様がこのような目に遭わずにすんだかもしれない……
……あの男め。アンリエット様を悲しませた罪を償わせてやる……と。
当事者であるアンリエットは、ショックを受けていたけれど、あの男が落としたと思われる綺麗なステッキに夢中になっていた。
衛兵たちが、部屋に押しかけて色々調査をしていたが、アンリエットは、そのステッキを隠してしまった。この世の物と思われない綺麗な作りに、目を奪われ、つい、手を出してしまったのだ。後ろめたい気持ちよりも好奇心が勝っていた。
◇◇◇
王宮での不審者騒動も落ち着きを見せ始めた頃、妹のカトリーヌが私の所にやってきた。古代遺跡の調査から戻ったみたいだ。
「アンリ姉様、暴漢に襲われたんですって?」
「カトリーヌ、お帰りなさい。偉業を達成されたそうね。おめでとう。それと、襲われたのではなく、着替えの最中に少しだけ覗かれただけですから」
……裸を見られたなんて、恥ずかしくて言えないわ……
「しかし、とんでもない奴だね。どうやって王宮に忍び込んだのかなぁ。結界があるし、警備も厳重だし、普通の人じゃ入れないよね」
「それは、私も落ち着いて考えたら不思議に思ったわ」
「まさか、失われた透明化魔法なんか使ったのかなぁ。そんな魔法使えるとしたら魔族の幹部クラスかなぁ?」
「そんな感じはしなかったわ。可愛い感じの男の子だったわよ」
「へーーアンリ姉様は、覗いた相手を可愛いなんて言うんだ〜〜」
「カトリーヌ、そう言う意味じゃありません。魔族かと言われたらとてもそんな感じの子じゃなかったわよ、と言う意味です」
「でも、その可愛い男の子も哀れだねーー。王宮に無断で忍び込んだだけでもタダじゃ済まないし、まして、姉様の着替えを覗いたとなると死罪確定だね」
「そんな事ないでしょう。きっと、鉱山あたりの強制労働ぐらいでしょう?」
「そんな事ないよ。王家の威信に関わる問題だから。死罪だよ」
「そうなるのかしら……あの子が可哀想な気がしてきたわ」
「姉様は、甘いんだから……でも、それが姉様の良いところだけどね」
「からかわないでよ、カトリーヌ」
「あはははは、でも、大事にならなくて、安心したよ。こっちも、大変だったけど、あとで話すね。汚れちゃったから、湯浴みをしてくるよ」
「カトリーヌは相変わらずね。きっと無茶したんじゃないの?」
「ちょっとね。騎士隊長に怒られちゃった。エヘッ」
「もう、ほんと、男の子みたいなんだから……慰労会で武勇伝を聞けるのを楽しみにしてるわ」
「アンリ姉様の期待に応えられるよう、たくさん用意してあるよ」
「期待してるわ。慰労会でまた会いましょう」
「じゃあね」
妹のカトリーヌ=ムサシ=ミリエナは、今年で15歳。小さい頃から活発で剣術や格闘技に優れている自慢の妹。今回、本人たっての希望で、北の山脈に新たに発見された古代遺跡の調査団の一員として加わった。
周りの人達は、危険だからと参加の辞退を促したのだが、本人は行く気満々で、お父様を説得して無理矢理参加を了承させたのだった。
さっき、カトリーヌが言ってた刑罰の事が気になる。死罪なんて可哀想……
こんな風に思うのは、王女として失格なのかしら……
◇◇◇
王宮の会議室では、不審者、シロウの事で話し合いがなされていた。
「警備の点では抜かりがなかったと言うのですな」
詰め寄ったのは、王家事務官筆頭のドリトス=クラームスだった。
「王宮に貼ってある結界は正常ですし、警備もいつも通り厳重に行われております。蟻の子一匹入れません。未知な魔法でも魔力を感知すれば気付けます」
応対したのは警備責任者のニール=レズモンドだった。
「確かに、通常であれば誰かが侵入する事は不可能でしょう。ですが、警備兵の気の緩みもあったのではないですか?」
「私の部下に、気の緩みなどありません。各々、仕事に誇りを持っておりますので!」
「まぁーー、待たれよ。不審者がアンリエット様の私室にいた事は事実じゃ。方法は、わからんがな。しかし、奇妙な持ち物じゃあ。これらに何らかの魔術の細工はないんじゃな。シルベルよ」
魔法術師最高位の導師の位を持つグラハムが研究所所長のシルベルに問いかけた。
テーブルの上には、シロウが持ち込んだ荷物と服が並べてある。
「は〜〜い。この中に魔道具と呼ばれるものは一つもありませ〜ん。魔力のまの字も確認できませ〜〜んでした」
「不思議じゃのーーう。あの者は……身分を証明する物も持って無かった。魔力測定でも、平均以下じゃ。レベル2の平民じゃしな」
「とすると、魔族という線は消えますね。手引きした者でも王宮内にいるのでしょうか?」
事務官筆頭のドリトスも首を傾げながら話す。
「王宮に忍び込んでアンリエット様の着替えを覗くために、そんな大掛かりの事をする馬鹿者は、この国にはおらんじゃろう。暗殺者として考えても、あの不審者の様相を見ると合点がいかぬわ」
「本来なら、死罪が適当ですが、背後の存在も考えて市中を曳き回して、様子を見るというのはどうでしょう。あわよく関係者が出てくれば、一網打尽にできますし」
「そうじゃのう。様子を見るか……」
「納得できません。即刻、死罪にするべきです!」
「警備責任者の立場もわかるが、この奇妙な品々、不可解な侵入、何かの意図があったとして、それを見逃したら、後々影響を及ぼしかねん。市中に晒して、反応の見るのが、得策じゃと思えるのだが、納得してくれんかのう、ニールよ」
「導師様にそのように言われてしまいましたら、引き下がるしかありません」
「其方の責任感の強さは、この国の誇りじゃな」
「お褒め頂き、ありがとうございます」
「では、そのように取り計らいます。明朝からお触れを出し、市中曳き回し、そして、王城前広場にて張り付けといたします」
「ネズミがかかってくれれば良いがのうーー」
「その可能性は、あると思います。では、そのように。シルベル様には引き続き不審者が持ち込んだ品々の検証をお願いします」
「わかりまーーした。今日は、カトリーヌ様が持ち込んだ古代遺跡の遺物の調査もありまーーすし、腕がなりまーーす」
「それから、慰労会には、出席願います。シルベル様の見解を陛下もお聞きしたいと思いますので」
「わかりまーーした」
その後、王宮内では第二王女カトリーヌと調査団の慰労会が開かれた。王宮内は何時もの様子を取り戻した。
◇◇◇
俺が目を覚ましたのは、周りの罵声が俺に向けて飛び交っている時だった。
「ここ、どこ? 何でこんなことになってるの?」
俺は、いつも間にか馬車の荷台に括り付けられている木に縛り付けられていた。周りには、たくさんの人がいた。
……身動きができない。さっきまで牢屋にいたと思ったんだけど、何で?……
普通なら、寝ててもちょっと身体を動かされれば眼を覚ますはずなのに、薬物?いや、魔法か……俺は、魔法で眠らされてたんだ……
俺は、自分の状態を観察してみた。相変わらず、スキル マイルームは封鎖されている。困った事は、この格好だ。身体に巻き付けてある布地が取れそうだ。
俺の事は、王宮からの噂が漏れ出し、もう、町のみんなの知るところとなっている。
……この国、SNSでもあるのか? 情報伝わるの早すぎだろう! ……
すると、強い風が吹いてきた。俺の身体に巻き付いていた布地は空高く舞い上がった。
「キャーー!!」
周囲から悲鳴や罵声が聞こえる。俺は、この理不尽に耐えられなかった。
すぐさま、剣を突きつけていた、兵士が俺に別の布を荒々しく巻き付けた。そして、広場に兵士と共に放置された。
「露出プレイの後は、放置プレイかよ。俺が何したっていうんだ」
俺の周りには、多くの屈強な兵士が取り囲んでいる。広場にいた人々は、飽きたのか、点在する程度になった。
「15歳の誕生日の日に俺はここで死ぬのか……」
半ば諦めモードだった俺は、この世界の様子を見ていた。街には獣人や人々が行き交っている。文明程度は、ヨーロッパ中世頃の感じだ。異世界もののアニメやラノベの定番である。
「獣人だけでも見れて良かった。できれば、耳とか尻尾とか触りたかったなぁ」
諦めと慣れの狭間で、欲が出てくる。
「あの子に悪いことしたなぁ。トラウマになってなければ良いが……」
俺は、裸の女の子の事を思い出していた。どの様な立場の人か理解してないがきっと、偉い貴族か何かだろうということは予想できた。
「こんなことになってなかったら、この世界は楽しそうだ。二次元要素が溢れてる。馴染んだら、好きになれそうだったのに……」
そんな事を思っていると甲冑の騎士に囲まれて女の人がこちらに歩いてくる。よく見ると、昨日の裸の子と目つきの鋭いメイドさん、それと、ショートカットの女の子だった。
女の子達は、周りの騎士らしい人や兵士に止められながらもこっちにむかって来た。
昨日の裸の子が俺に何かを言っているみたいだが、周りの兵士の声で聞こえない。俺は、その子にだけはきちんと謝らなければと思い、大きな声で
「昨日は、ごめんなさーーい!」
と、叫んだ。相手の子も気づき少しだけ笑顔を覗かせた。
その時、大きな地響きが鳴り渡った。
「何?どうしたの?」
俺は、身動きがができないので様子がわからないが、目の前の人達が慌てている事から、何か起きたのだと悟った。
すると、大きな爆発音と共に、城に併殺されていた建物が吹き飛んだ。
禍々しい黒煙の柱が一瞬で雲を突き抜けた。
人々の悲鳴が鳴り響く。空から降って来た建物の残骸が辺りを覆ったのだった。




