第37話 ーーー荒れそうな夜ーーー
いつも読んで頂いたいる皆様ありがとうございます。
今回は、シロウとスズネとの視点が混在します。
読みにくいと思いますが、ご勘弁下さい。
俺達が生活するこの世界は、複雑だ。圧倒的な強さを持っていても世界のトップに立てるわけではない。否、ある意味可能かもしれないが、それは、今、この世界を構成する全ての歯車を破壊し、自分に都合よく再構築しなければならない。
どれだけの人間を犠牲にし、どれだけ環境に被害を及ぼすのか想像もつかない。
そんな世界で、力は一つの手段に過ぎず、その他にも権力や資金、人間関係、必要となるものはたくさんある。とりわけ情報はその使い方によって、剣にも盾にもなる、知性ある人間が長い年月をかけて学び掴んだものだ。
今、俺の前にいる二人の外国人は、力、権力、資金、情報、どの手段も選べる人達である。
……これ、無理じゃね。俺、中学生だし……
「シロウ、どうしましたか?」
「あの……質問を質問で返すのは愚かな事だと認識しています。ですが、どうして、その脅しのような形の話し方をするのでしょうか?」
「ワハハハハ。シロウはそうとりましたか。いや、そんなつもりはなかったのデスよ。少しだけですが……」
「俺は、ローマ聖教というものがよくわかりませんが、凄い組織である事は理解できました。でも、俺は俺です。家族や友人達は関係ない事です。もっと、普通に話してくれたら、印象も良くなって普通に話せたかもしれません」
「私は、前から言ってる。シロウはシロウ?って」
「そうですね。シアンさんの事、誤解してました。凄い人なんですね」
「誉められて嬉しいけど、シロウ、ちゃんと答えて」
「俺は、普通に暮らしたいんです。ただ、それだけです」
「まだ、時間が必要なようですネ」
「シロウはシロウのままでいて……」
「言葉の意味が深過ぎて理解が及びませんが、俺は俺です」
「そう」
「はい」
このあと、どうやって家に帰ったのか良く覚えてなかった。
◇◇◇
「シロウはどうでしたか?」
「まだ、子供。だが、エリックの言動から脅されていると悟った。あの年齢からすれば異常に聡い」
「そうですね。幼さの中に大人顔負けの賢さも兼ね備えている。でも、どうやって、シロウが最上級の悪魔達と契約する事が出来たのでしょう。謎です……」
「シロウは幼い。けど、何度も死線を乗り越えてる。そんな眼をしてる」
「シアンが言うのでしたら、本当の事でしょう。ですが、この平和ボケしてる日本でそのような事、できるはずもないのですが……」
「事実は事実。それに、シロウ達がこの地にいる為、多くの悪魔達が引き寄せられているのも事実」
「私達は、監視と調査が主な使命ですが、寄ってくる悪魔を野放しにはできません」
「倒す。そうしないとこの世界が闇に呑まれる」
「はい。ですが、元凶のシロウはどうしましょう?始末すれば契約悪魔がどのような行動に出るのか想像がつきません」
「今は、様子をみる。それに、弱みは握っている。下手な動きはできないはず。それに、もう少し話したい」
「おや、随分シロウにご執心ですね」
「ただ、興味があるだけ」
「シアンの口から興味ですか……これも謎ですネ」
◇◇◇
俺は家に着く頃、隼人から連絡があった。俺は、帰りに隼人の家に行き大きなダンボール箱を受け取った。もちろん、中身はアレだ。
これらを飾って眺めて、癒されたいが、今はそんな気分になれない。
俺は、ドアを安全に開けるリーナの家に寄った。すると、
「おなかちゅいたでちゅう」
「シロウ、お腹空いた」
「少しアルコール度数の高い酒が飲みたいであります」
「私も飲んじゃおうかしら……お仕事面倒いし……」
ここは、いつもと変わり無かった。俺はマイルームドア2を開こうとしたが、ボケていたのかいつもの部屋ドア1を開いてしまった。仕方なく、大きなダンボール箱は部屋の隅に置いておいた。
みんなの食事をマイルームで用意しながらいると、リーナが
「シロウ、何かあった?」
「う〜〜ん。あったといえばあったかな?」
「はっきりしない……わかった」
「記憶を覗いたのか?」
「ローマ聖教という奴らに脅された?」
「具体的にではないけど、マズいかも……」
「そいつら殺す?」
「相手は組織だから、そいつらを殺しても次から次へと出てくるよ。それに物騒な事はしたくない」
「そう。どうしたら、シロウは元気になる?」
「それは、決まってるであります。思春期の男子は女性の裸で元気になるのであります」
「わかった」
すると、リーナは服を脱ぎ出した。
「リーナ。違うから。ソラスの言う事を間に受けちゃダメだよ」
「脱がなくていいの?」
「あーー脱がなくていいよ。リーナはそのままで良いから」
「わかった……」
リーナのモジモジが始まったみたいだ……
「ローマ聖教ってあれでしょう?さっきの世界の宗教でしょう?」
「そうだよ。詳しい事はわからないけど、随分大きな組織みたいだ。俺がリーナやミミーと契約してる事も知っているらしい」
「きっと、神託を受ける巫女でもいるんじゃないの〜〜」
「信仰する神様から聞いたのか……」
「ここにくる女神に言って、神託を変えてもらえばいいんじゃない?」
「多分、無理だと思う。この世界は、人間的な事情が絡んでるから」
「面倒くさいわね。でも、聞くだけ聞いてみれば?」
「そうだね。アザゼルみたいに理解してくれるかもしれないし」
「私は、特別に物分かりがいいのよ〜〜ん」
俺は、女神エリーゼにあったら聞いてみようと思っていた。
◇◇◇
神父エリックとシスターシアンがシロウと別れ、神屋代の家に戻ってみると、スズネが出かける用意をして、母親と口論していた。
「スズネ。昨日の今日で、出かけるなんてお母さん許しませんよ」
「そんな事言ってる場合じゃないんだって。いろいろな気配がするの」
「あんたは、小さい時からそんな事ばかり言って、どれだけお父さんとお母さんに迷惑かけたか忘れたの?」
「それは、悪いと思ってるけど、これは、私の使命なの。お母さんでも邪魔するなら許さないから」
「親に向かって、そんな事言うもんじゃありません!」
「まぁまぁ。私達がご一緒しますデス。それに、早めに帰ります」
「心配いらない。私達がいます」
「そうですか……でも……」
「お母さん、大丈夫だって。行ってくるね」
「スズネーー」
……今日は、妙な胸騒ぎがするわ。スズネに何かあったら……そうだ。あの男の子。シロウ君に電話してみようかしら。もしかしたら、スズネを止めてくれるかも……
◇
「今夜は荒れそう……」
「シアン、何か見えたのか?」
「うん。でも、はっきりしない」
「スズネは、なんて足が速いんだ。どこ行くかわかるか?」
「多分、町外れの古い建物」
「そこにいると……」
「スズネもそう感じてる」
「シアン、急ごう」
「うん」
◆◆◆
ここは、都内の中でもまだ、自然が残っており大きな公園がある。そこの、奥には古い洋館があるが、今は、立ち入り禁止のプレートが門のところに下がっていた。
「ここから、不気味な気配を感じるわ。あれっ。エリックさん達おいてきちゃったかな?」
スズネが門をくぐると、生暖かい風が吹いてきた。草木が揺れると人影のようなものも揺れていた。
普通の人には見えないが、スズネには、見えていた。それは、白いワンピースを着た女の子の幽霊だ。
……この幽霊、悪い感じがしないわ。でも、何か変ね。私を追い出そうとしてる……
すると、「…逃げて…」そう聞こえた。幽霊が言葉を聞き取れるように話すのは異常な事だ。殆どの幽霊は声を出さない。声帯を持ってないからだ。話す事ができるのは、念話を使えるか、魔物の類である。
私は、悪寒が走った。「これは、マズいかも……」と本能が警鐘を鳴らしていた。
……シロウ君がいればなぁ……ううん。今まで一人でやってきたんだ。頼っちゃダメだ……
教会の扉は錠前付きの鎖で固く閉じられていた。あたりは薄暗い。もう陽も沈んだ頃だ。さっきから、女の子の幽霊がスズネを追い出そうと必死になっている。
それは、この中に、きっと、私を逃したくなる程、不気味な存在がいるからだ。
スズネは、こういうことには慣れているつもりだった。でも、今回はいつもと違う。
スズネは、落ちている大きめな石を拾い、錠前に打ち込んだ。異世界でレベルが上がったお陰で簡単に錠前と鎖は鈍い音を立てながら下に落ちた。
ドアに手をかけ、ゆっくり開けた。錆びついた鋼が軋む音がする。
三歩程、部屋に立ち入るとそれはいた。不気味にニコニコ笑っている。黒い神父服を着込んだ、まがい物の存在。口には大きな牙が生えていた。
「こんなとこにいたのね。吸血鬼」
「これは、人の住まいに土足で入り込む貴女はどなたですかな?」
「私は、退魔師よ」
「退魔師? あーー400年程前、東洋の島国で会った事があります。そういえば、ここがそうでしたね」
「吸血鬼。貴方は相当高ランクの魔物ね」
「わははは……そんな言われ方をしたのは初めてです。エクソシストどもは貴族と言ってましたけど……。私は、どれも好きではありません。せめて支配者様と言われた方が気分が良いです」
「せいぜい語ってればいいわ。吸血鬼!」
【臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前】
スズネは、網状に横縦と交互に指を宙に切り、早九字の護身法を吸血鬼めがけて放った。
護身法とはいえ、弱い魔であれば滅ぼす事もできる法だが、力のある者には一時的に動きを止める程度しか効かない。
スズネは、一時的に動きを止めたところを破魔の剣で斬り裂こうと思っていた。しかし、その吸血鬼は、
「ほう、これは以前くらった事があります。今でも、この法を使える者がいるとは、驚きです。私には、痒みぐらいの効き目しかありませんが……」
……あとは不動金縛の術で動きを止めるしかないが、印を組む時間が必要だ……
「おや、お仲間ですかな?二人こちらに来たようですよ」
……エリックとシアンだろう。もし、時間が稼げれば金縛をかける事ができる……
「お客様様には、それなりの接待をしなければなりませんね。エクソシストと戦うのも久しぶりですし……」
吸血鬼が指を鳴らすと地中から動く屍が這い出てきた。
「死体も操れるの?」
「貴女も仲間になれますよ。すぐに……」
……数が多すぎる。一体何体いるの?……
「今まで、私が殺した者達です。強者もいましたので結構楽しめますよ」
その吸血鬼はニタニタ笑いながら話す。見てるとムカつく顔だ。
「この者達を倒したら相手になってあげますよ。倒せたらね」
長い夜になりそうだわ……
◆◆◆
マイルームで食事をしていると、サツキから念話が入った。
……[念話中]……
『シロウ兄、今どこ?』
『リーナの家からドアを開いてマイルームにいるよ』
『さっき、神屋代さんのお母さんから電話があって、今日も出かけちゃ
ったらしいんだよ』
『またか……一人じゃ危険なのに……』
『心配して、電話があったんだ』
『サツキはどこにいる?』
『今、家だよ』
『じゃあ、戻るよ』
……[念話終]……
「神屋代が今日も吸血鬼探しに行ってるらしい。今、サツキから念話があった」
「それはマズいわね〜〜。最近、強いのが来てるみたいなの〜〜」
「強いって?」
「雑魚は雑魚。でも、スズネひとりじゃ束になった相手には難しい」
「そうか。今日も行くようかな?」
「私も行く」
「リーナもか。良いのか?」
「うん。シロウが心配」
「わかった。心強いよ」
俺は、全マップ探索で神屋代のいる場所を見つけた。
でも、それは、とても危険な状況だった。
「大変だ。神屋代が数百の大群と交戦中だ。エクソシスト達もいるが押され気味だ」
「そう。ここでは私の気配感知も効かない。部屋を出よう」
「私も行こうかしら〜〜ん。最近太り気味だし〜〜」
「ミミーも行くでちゅう」
「私も空を飛びたいと思っていたところでした」
俺はマイルームのドアを開けた。




