第34話 ーーーリーナがいない日はーーー
ミリエナ国は、北にそびえ立つ山脈を抱え。東は草原と森林、南は穀倉地帯、西は湖のある草原と森林が広がっている。
今回、ワイバーンが巣を作ったのは、北の山脈であり、王都からは半日の行程だ。
また、北の山脈には、迷宮や古代遺跡もあり、山の麓には、迷宮都市ルーンがあり、冒険者達が勤しんでレベル上げをしている。
俺達は、神屋代が異世界をよく見てみたいと言う事で、乗合い馬車で向かっている。リーナとミミーは、馬車なんて面倒という事でフォルネウスに逢いに行っている。何でも用事があると呼び出されてたみたいだ。ソラスは、サツキの肩にフクロウとしてじっとしていた。
「北には迷宮があるんだね」
「私、レベル上げしたい」
「そうだよね。こっちに来たらレベル上げたいよね」
「私もーー」
「サツキはレベル上げしたでしょう。リーナに連れられて」
「今度は、自分でやりたいんだよ」
「サツキちゃんはレベル幾つなの?」
「今、21だよ」
「シロウ君は?」
「……8」
「えっ?何?聞こえなかった……」
「レベル8だよ」
「サツキちゃんのが高いんだーー」
「俺だって頑張ってるんだけど、アザゼルの時だって、倒してないからレベル1しか上がらないし……」
「前から、こっちに来てたんでしょう。何してたの?」
「…………」
「シロウ兄も色々あるんだよ。きっと……」
「そうだよね。うん。シロウ君も頑張ってたんだよね」
……慰められる程、落ち込むのは何故だろう?……
すると、乗合い馬車に乗っていた、商人らしき中年の男の人が
「君達は、冒険者かい?」
「はい。そうです」
「私は、商人のガゼルというものです。もし冒険者なら素材を買い取らせてもらいたいですが」
「素材ですか?」
「はい。ルーンの街には、ギルドがありませんし、迷宮で取れた素材は、私ら商人が買い取るシステムになっているんですよ」
「ギルドがないんですか?」
「はい。ルーンの街は王都から直接来ないと入れませんし、もし、お付き合いのある商人がいたら別ですが、もし、決まっていらしゃなかったら是非とも私に買い取らせて下さい」
「特に決まった商人はいませんけど……」
「この間まで隣国のサラマー国で戦争があったでしょう。それで、武器や防具となる素材が不足してるんです」
「でも、俺達、迷宮に行く前に、ギルドの仕事をこなさなければならないのでその、後でしたらお声かけします」
「そうでしたか。わかりました。私は、紅葉亭という宿屋にいます。この宿屋は、美味しい料理が自慢なので宿泊の予定が決まってなかったらどうですか?素材の買取りの時はお声がけ下されば、すぐ、対応できますし……」
「そうですね。料理が美味しいのは好都合です。わかりました」
迷宮都市ルーンの街は、両側に切り立った崖があり奥は山脈に続く道のりが伸びている。確かに王都から、直接来るしか来れない街だ。
俺達は、商人が紹介してくれた宿屋紅葉亭に宿を取る。一部屋しか空きが無かったが、マイルームがあるので、リーナ達が合流しても大丈夫そうだ。
「スイスみたいなところね」
「神屋代は、スイスに行ったことあるの?」
「ないわよ。写真で見ただけ」
「俺達もないけど、ここは、綺麗なとこだね。ワイバーンが巣を作っているところは、山の上らしいから、いろいろ用意しないと……」
「買い物ね。王都で済ませれば良かったのに……」
「こっちでも揃うって、ギルドの受付の人が言ってたじゃないか」
「シロウ兄は段取りが悪いんだから〜〜」
……みんな、言いたいことばかり言って……
ブツブツ言いながら買い物を済ませ、宿に戻る頃には、夕飯の時間になった。リーナ達が帰って来ないので念話してみると、
『リーナ。もう、ご飯の時間になるよ』
『面倒なのに捕まった。しばらく帰れない』
『ご飯どうするの?』
『適当に食べるから大丈夫』
『面倒な奴って?』
『もうろく爺さん』
『それって、悪魔?』
『そう』
『わかった』
「リーナ達はしばらく帰れないみたいだ」
「どうかしたの?」
「何でも、悪魔のお爺さんに捕まったんだって」
「ホーホーそれは、下手すると数日帰れないかもしれませんね」
「ソラちゃん、知ってるの?」
「はい。話が長くて困った爺さんです」
「悪魔でも、話好きなのもいるんだね〜〜」
「シロウ君、あっち見てっ!」
「何?」
「ほらっ。あそこ、温泉があるみたいだよ」
『何ですとーー!』
「シロウ兄、そんなに温泉入りたかったの?」
「まぁね。でも、赤くてブツブツ泡が出てるやつじゃないだろうね〜〜」
「そんな温泉あるの?」
「普通はないですよね〜〜」
「シロウ兄、なんかキモい」
というわけで、ここには、温泉施設がある。公衆浴場だがもちろん人間用だ。俺達は、夕食前に温泉に浸かりに行くのだった。
◇◇◇
「ふぅ〜〜生きかえる〜〜」
異世界に来て、初めてまともな生活をしている気がする。
この後は、宿屋の美味しいと評判の食事。明日は、冒険者としての真っ当な仕事。これが、普通の異世界ライフだとシミジミ思う。
「少し、熱めだけど、これはこれで……」
温泉も気持ちいい。
「あ〜〜極楽。極楽」
「随分、気持ち良さそうでありますね」
「ソラスか。入らないのか?」
「羽根が濡れるのは、ちょっと……」
「ふふ〜〜ん。そうか。そうか」
「やめて下さい。お湯をかけるのは!」
「前、家で飼ってた文鳥は水浴び好きだったぞ」
「そんな、下等な生き物と一緒にしては困るであります!!」
「まぁ、好きにしたらいいさ。ここは、気持ちいいな。いつ死んでもいいくらいだ」
「シロウ殿は、フラグを建てるのが好きみたいでありますな。ほらっ」
ソラスが空を見上げて、そして飛び立つ。空から何か大きな物が落ちてきた。
『バッシャーーン!』
「わーー、何これっ!くっさーー!」
「それは、ワイバーンの糞ですな」
「マジかよーー!お湯まで臭いよ〜〜」
「よくお似合いであります。ホーホーホケキョ」
「ソラスーー!」
「こらっ!あんた、何やったんだーー!」
公衆浴場を管理しているガタイのいいおじさんが怒鳴り込んできた。
「俺、何もしてないよ。空から……」
「うるさい!湯船の中で〇〇〇する馬鹿どこにいるーー!!」
「俺じゃない。だから、空から……」
「きさまーー!!」
「違う。違うって言うのに……」
俺は、そのおじさんに殴られた。そして、この後、掃除させられたのだった。
◇
「ソラちゃんシロウ兄は?」
「さぁーー?」
「そう言えばさっき、すごい音したよね」
「ビックリしたわねーー。でも、良いお湯だったね」
「うん」
「シロウ兄遅いから、先に宿に戻ってようか?」
「そうね。のんびりしたいのかもね」
女性二人は良い温泉だったみたいだ。
◇◇◇
次の日
「ほらっ!サツキ、神屋代も遅いぞ!」
「何、張り切ってるんだろうね」
「多分、昨日言ってた事じゃない。ワイバーンの〇〇〇の件」
「そうかもね。シロウ兄、結構、根に持つし……」
「そこっ。無駄口話さない!」
『は〜〜い』
あれから、俺は、温泉を掃除させられ、挙句の果てに食事の時間に遅れ、食べ損ねていた。温泉の件は、誤解は解けたものの何かムシャクシャする。
「シロウ兄、あれがワイバーンの巣じゃない?」
崖に横穴が空いており、木の枝や〇〇〇らしきものまで見える。
「憎っくきワイバーンめ!昨日の恨みはらしてやるーー!」
俺は、黒翼のマントでその穴めがけて突っ込んだ。
「ワイバーンといえども、相手は魔獣。もう少し冷静な行動が必要であります」
ソラスの言う通り、突っ込んだと思ったらワイバーンも外に出るところだったらしく、思い切り正面衝突してしまった。俺は、その反動で吹き飛ばされてしまった。
「あ〜〜あ」
「シロウ兄ーー……」
「だから、言わんこっちゃないであります……」
「シロウ君平気かな?」
「わかんない……」
「随分先に吹き飛んでいったね」
「あの森のあたりかな?」
「死んでなきゃ良いけど……」
「加護があるから大丈夫であります……多分……」
「私達は、ワイバーン倒しちゃおう」
「そうだね」
◇
俺は、崖の中腹に広がる森の中にいた。目の前には俺を見下ろす少女がいる。
「あの〜〜大丈夫ですか?」
「はぁーー大丈夫だと思います……」
「急に空から落ちてきたんでビックリしました」
「俺もです。落ちた先に、こんな美しい女性がいるなんて……」
その子の耳は、横に突き出ていた。
……この方は、フャンタジー世界の王道、エルフ様だ……
「あの〜〜頭打ちました?」
「はい。少々」
……エルフっ子は、三次元じゃない。リアルな二次元と一緒だ、と俺は思う……
「もしよかったら、起きてもらっても良いですか?」
「はい。喜んで」
「あ〜〜良かった。薬草が無事だったわ」
「えっ?」
「あなたが寝転んでいるとこに薬草があったの。無事でよかったわ」
「俺の事を心配してくれたんじゃ……」
そのエルフっ子は、俺を退かし少し萎れた薬草を採取して
「では、御機嫌よう」
と、にこやかな笑顔で足早に去っていった。
「えっ?どういうこと?」
森の中には、爽やかな風がふいていた。
◇◇◇
俺が、ワイバーンの巣に戻ると、もう、サツキ達が討伐した後だった。
「シロウ兄、何やってんの?」
「何って、ワイバーン討伐ですけど、何か?」
「もう、とっくに終わったよ。討伐部位も改修したし、素材も必要になるか
もって、アイテムボックスに入れたよ」
「シロウ君、怪我してない?」
「怪我などしてませんが、何か?」
「どうやら、頭を打ったようでありますね」
「違うよ。いつも、シロウ兄はひねくれるんだよ。さぁ行くよ」
俺は、また、レベルの一つも上がらなかった。




