第27話 ーーー堕天使アザゼルとの交戦ーーー
国境を流れる川を渡ると、そこは、開けた草原だった。ところどころ草が踏みしめられ、茶色い土がのぞいている。
少し行くと。兵士達が陣を組みながら綺麗に整列している。その数。数千の兵士達だ。その奥には騎士なのだろうか。甲冑を着込んだ者達がある人物を取り囲むように整列していた。そして、そのある者をこそ第二王子でありアザゼルでもある。
「まず、兵士達をどうにかしないと、打ち合わせ通りに頼む。ソラス」
「僭越ながら、私の腕をお見せいたしましょう」
そう言うと、そらすは空高く舞い上がり回転を始めた。そして、
「地べたを這いずり回る虫ケラどもよ、我が、睡眠魔法の餌食となれ!大回転、羽毛フラッシューー!!」
ソラスの羽根から数えきれない羽毛が発射された。勢いよく舞い上がった羽毛は、雪のように空から降ってくる。それに、触れた兵士達は次々と羽毛布団に包まれたように深く暖かな眠りに落ちた。
……凄い、というかあんなに羽毛使って、ハゲないのか?……
お陰で、兵士達は草原でお昼寝してしまったのだ。
俺と、リーナは、寝ている兵士を横に、駆け足でアザゼルのもとに向かう。
しかし、甲冑を着込んだ兵士達には、ソラスの攻撃が効かなかったようだ。俺とリーナの前に立ち塞がった。その数、30人程だ。
ここまでくると、アザゼル本人からかそれとも戦場にいる兵士達からか瘴気が濃くなっている。素人の俺でさえわかるのだから、リーナは大変だろう。
「リーナ大丈夫か。瘴気がすごいけど……」
「問題ない。お腹が空いてたからちょうどいい」
……そうだった。リーナにしたら瘴気はご飯と一緒だ……
「あんまり食べすぎるなよ。いつものリーナじゃなければ、俺、困るから」
「私がいないとシロウは困るんだ〜〜」
……モジモジしてる。俺、何か言ったか?……
そんな事をしてると、騎士達が襲いかかってきた。俺は、リーナの黒炎に包まれた。
騎士達は、黒炎に触れると、甲冑だけが消えてなくなった。リーナは、手加減してくれたようだ。
俺は、ソラスに念話を入れる。もう一度、睡眠魔法を頼んだ。
「わかりましたであります。第二回転、羽毛フラッシュ!!」
……ソラスが、ハゲタカになってなければいいけど……
甲冑が脱げた兵士達は羽毛に包まれ、また、草原のお昼寝仲間が増えた。
もう、俺達の前には、第二王子ことアザゼルしか起きてなかった。
◇◇◇
『黒炎の姫か……? ソラスも一緒のようだな』
その声は、地の底に響き渡るような低い声だった。
「アザゼル。何してる?」
『もちろん、戦争である。姫こそ何用でここに……?」
「うん。何でだっけ?シロウ」
……リーナの様子がおかしい。瘴気を食べ過ぎたのか……
「あの〜〜アザゼルさんですか?」
『なんだ。この貧弱なミミズはーー!」
「シロウは私の契約者。バカにしたらダメ!」
『冥府を治める黒炎の姫に似つかわしくない言葉ですな。こんな、ミミズと契約?笑ってしまいそうです。わはははは』
……もう、笑ってるよね。突っ込んだ方がいいのか……
「俺は、スズカゼ シロウだ。即刻、戦争を止めてもらいたい」
「そう。戦争を止めに来た」
『何を言ってるのだ。黒炎の姫よ。我らにとって、争いは食事と同じ。それを止めろというのか?』
「そう」
『封印されて、黒炎の姫はどうかしてしまったようだ。ミミズと契約はするし、先代の黒炎の王が聞いたら、嘆き哀しむであろうに……』
「冥界は、神々によって封鎖されている。帰れない」
『そのようですな。だが、我は力を取り戻した。この力があれば冥界への道を再び繋ぐことができるでしょう』
「そのために、戦争を?」
『それもある。だが、我の戦いは、これからだ。力をつけ天界へと殴り込み、我を追放した神族の奴らに戦いを挑む。これこそ、我が願い』
……天界から追放されたんだっけ。恨むのも当たり前だが……
『姫よ。あなたは、期待はずれだ。もう、用はない。私が、あなたに変わって、冥府を治めましょう。そして、冥府を復活させ、天界へと戦いを挑む。ここで、死んでもらいましょう。黒炎の王もその方が喜ぶでしょう』
あたりの空気が冷え込んだ。リーナが暴走してた時と同じだ。第二王子ことアザゼルを中心に衝撃波が走る。俺はリーナの黒炎で包まれていたから無事だったが、草原でお昼寝してた兵士達は空に吹き飛んだ。
……ヤバイ。こいつは。本当にヤバイ!……
第二王子の身体が引き裂かれ中から、その本体が出てきた。最後の魂を喰らったのだ。
……なんて事を……
黒い羽根に耳の上に生える山羊の角。そして、ガタイの良い身体。アザゼルは、その本来の姿に戻った。
◇◇◇
「シロウ、少し離れてて。庇ってる余裕無い」
「わかった。無理するなよ」
俺は、黒翼のマントを羽織りリーナから距離をとった。すると、俺めがけて黒い砲弾が飛んできた。脇腹を掠め服がその部分だけ剥ぎ取られていた。
リーナが纏った黒炎から一瞬で細い無数の槍のような黒い炎がアザゼルに向けて放たれた。
しかし、その黒い槍もアザゼルの前で止まっている。その、衝撃で空気が振動する。
それでも、リーナは、黒炎の攻撃をやめない。アザゼルに攻撃をさせないようにしているようだ。
……俺か……俺に被害が出ないようにしてくれてるのか……
アザゼルも無数の槍に手こずっているようだ。攻撃が届かないとしても手を抜けないらしい。
すると、アザゼルは、姿を消した。リーナの黒い炎の槍が地面に突き刺さる。もの凄い爆発音が辺りに轟く。その音を聞いたのかサツキから念話が入った。
……[念話中]……
『シロウ兄大丈夫?凄い音がしたけど……』
『あーー、リーナがアザゼルと交戦している』
『吹き飛んできた兵士達は、回収して一箇所にまとめて寝かせてあるよ』
『悪い。サツキ。今、念話できない……』
目の前に、アザゼルがいた。瞬間移動したらしい。
俺は、アザゼルの繰り出すパンチをモロに食らってしまった。
俺は、あっという間に吹き飛んだ。数百メートルはあるだろうか?突き出た岩に俺の身体が背中からめり込んだ。
「ぐふっ……」
リーナ達の契約と悪魔達の加護があるせいか、死んではいないが、身体中に痛みが走る。
俺は、小瓶に入れといたフェニックスの涙を飲む。壊れていただろう内臓が回復し出した。口には、込み上げてきた血の塊が溢れて出していた。
リーナは、黒い炎を大きく広げアザゼルを包みこもうとしていた。しかし、アザゼルの素早い移動でそれも無駄に終わった。
回復してきた俺は、アザゼルの弱点を探るべくステータスを表示させる。
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アザゼル=ゴート(1870歳) 堕天使
Lv 930
HP 194809/195000
MP 241890/242000
SKILL
終焉の搾取
古代魔法
攻撃魔法(闇・火・水・風・土)特大
防御魔法 特大
回復治癒魔法 特大
自動回復 治癒特性
魔法無効化 特大
物理攻撃無効化 特大
身体 ・精神異常耐性 特大
気配察知 大
【称号】 神界より追放されし者 武器譲渡 色香譲渡 疾風の走者
絶対強者 ドS 封印されし者 覚醒者
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「凄い……リーナよりレベルも体力も上だ……それに、弱点らしいものが無い」
リーナとアザゼルの戦いは熾烈を極めている。どちらも、攻撃の手を緩めない。すると、飛ばされた俺のところにソラスがやってきた。
「大丈夫でありますか?サツキ様が心配されてるので見に来ました」
「死ぬかと思ったけど、回復薬を飲んだから、もう動けるよ」
「始まってしまいましたな」
「あーー、始めは話し合いができたんだ。そのまま、上手く誤魔化して戦争を辞めさせるつもりだったけど、ダメだった……」
「あのアザゼルに、通じる話などありません」
「今は、リーナと互角みたいだけど……」
「このままだと、難しいでしょうね」
「あーーリーナは被害が出ないよにアザゼルの攻撃を黒炎で吸収しているがアザゼルにその意識は無い。周りなど、意にも関せずといったところだ。これでは、アザゼルの方が有利だ」
「困りましたな。このままだと、しまいには周囲が吹き飛び、瘴気が充満します」
「あーーわかってる。ソラスは、俺を転移させることができるか?」
「そんな簡単な事、欠伸しててもできますぞ」
「俺が合図したら、アザゼルの頭上に転移させてくれる?」
「死に場所を見つけたのですな。サツキ様が悲しみますが致し方ありません」
「運が良かったら、また、会えるよ」
「その覚悟立派で御座います」
……そこまでの覚悟はないんだけど……
「じゃあ、頼むね。ソラス」
「はい。かしこまりました」
俺は、アザゼルの持つ称号の一つに賭けた。
……[念話中]……
『リーナ。一瞬でいい。アザゼルの動きを封じられるか?』
『無理』
『他の援護があればどうだ?』
『それなら、大丈夫』
『わかった………サツキ、サツキ!』
『シロウ兄大丈夫?』
『あーーお前の全方位型天空弾、女神メサイヤから貰った加護があるだろう』
『うん』
『それを、アザゼルにぶち込んでくれ』
『わかった。やってみる』
『リーナ。今、サツキが天空弾をアザゼルに打ち込む。その隙に動きを封じてくれ』
『わかった。シロウ何するつもり?』
『俺に出来る事は、これしか無い』
【マイルーム ドア2オープン!】
俺は、亜空間から出てきたドアを担ぐ。
『では、みんな頼む!』
『わかったーー!』
……また、これかよ。今度こそ、ドアを担いだまま死ぬかも……
その時、アザゼルの頭上から無数の光の砲弾が降ってきた。
「サツキだ。そろそろだ。ソラス頼み」
「はい。ご武運を」
アザゼルが頭上を一瞬気にした隙にリーナの黒い炎がアザゼルを包む。
【転移!】
「何?」
アザゼルの声が聞こえた。
今、俺はアザゼルの頭上にいた。ドアを開けそのままアザゼルめがけて落ちる。
「うわぁーー!!!」
俺は、絶叫とともに開いたドアをアザゼルに被せた。一瞬、アザゼルの攻撃があった。その攻撃は、俺の左足を吹き飛ばした。
◇◇◇
俺は、草原で横になっていた。目を開けるとリーナ、ミミー、サツキ、ソラスがいた。身体が優しい温もりで包まれている。特に頭の下が気持ちいい。
「シロウ兄ーー!」
「シロウおにいちゃーーん」
サツキとミミーが俺の胸にすがって泣き出した。ソラスは、俺達の周りをクルクル飛び回った。
リーナは……なんと。どうも気持ちいいと思ったら俺は、リーナに膝枕されていた。
「そうだ。アザゼルは?」
「シロウがやった」
「えっ?」
「シロウが部屋に閉じ込めた」
……あーーそうだった。アザゼルの称号 「封印されし者」を見て、リーナと同じように封印はできるのでは?とドアを持ち出したんだった。成功したのか?……
「そういえば、俺の足は?」
「くっつけた」
「はい?」
「元に戻った。心配無い」
「そうか……」
俺は、また、気を失っていたのだろう。その隙のリーナ達が俺を回復してくれたんだ。
「ありがとう。みんな」
そう言いながら、俺はフィギュアを飾る部屋が無くなってしまった……と思っていた。




